11-8 命のリレー
景色が、流れていく。
爆撃とモンスターたちに破壊された学園祭の景色。
フィアに担がれて走る俺は、ただそれをみつめるだけしか無かったけど、
唐突に、その景色が滲んだ。
「ああ」
涙だ。
「ああ……」
【○○】スキルなんて力をもらって、しかも今はSランクのスキルまで使える状態で、けれどそれが、ただセイカ様にはかなわないという気持ちだけで使えなくなって、
自分自身というものが、
「――ああ」
どこまでも弱くて、情けなくて、役立たずで、
――何も無しだと気づいた時
「ピキャー!」
「うわっ!?」
俺の目じりにたまった涙を吹き飛ばすくらいの、チビの鳴き声が、鼓膜を痺れさせた。驚きで現実へと引き戻された俺に、
「大丈夫だから、お兄ちゃん!」
フィアは、そう言った。
「だって、お兄ちゃんにライジは賭けたんだ! お兄ちゃんさえ帝国の外へ逃がせば、なんとかなるって!」
「な、なんとかなるって、何が」
俺が何も考えずに聞いたことに、フィアは、
涙を堪えるようにして、
「何もかもが、なんとかなるって!」
そう、叫んだ。
「――ライジ」
……なんで、
なんでそこまで、俺を信じた。
スキルがどうとかの問題じゃない、どんな結果を決めようとも、
その為に、ライジは二つ名通りに命を賭けた。
それはフィアの今の態度からも、絶対だ。
――そこまでして俺を逃がして
なんで、なんで、
なんで。
「お兄ちゃんしっかりして!」
フィアが、そんな俺に呼びかけた時、
「学園の入り口見えてきたから! あそこを抜ければもう一直線で!」
その時、まるで、
ドドドドと、地面が揺れる音がして、担がれた俺がその音へと向けば、
「ゴ、ゴブリンの大群!?」
フィアの言う通り、ゴブリンたちが入り口に殺到して――フィアは俺を担ぎながらも身構えた、
だが、
「あ、あれ? あのゴブリン達――逃げてる?」
フィアの言う通り、ゴブリン達の形相は、俺達に襲い掛かるのでなくまるで何かに追い立てられるように、
何故そうなってるかの答えは、
「――【騎乗】スキル」
すぐにまた、学園の入り口に現れた。
「〈ジャトアウェイ〉!」
ハクバオージェが――白馬に乗って、
「〈ツインズターボ〉!」
人馬一体――二つの心を一つにするような走りで、ゴブリン達を吹き飛ばしながらこっちへ走ってくる! 沢山のゴブリンを蹴散らした後、オージェは俺達の前でターンして、すると俺達の前に、ピタリと何かが止まった。
木製の荷車――フィアが迷うことなく飛び乗って、俺をそこに、チビを頭へと座らせれば、
「いくよ、ガァル!」
オージェが白馬に――【人馬】スキルで美しい白馬となったウマーガァルに呼びかければ、彼女はひと際高く鳴いた後、再び、ゴブリンが群れる入口へと突っ込んでいった。木製の車輪が、石畳みと倒れたゴブリンを踏みつけるが、振動は最小限まで抑えられる。
人馬一体、何度も授業や冒険で見せてもらった|二人のスキルで運ばれながら、俺は、
「オ、オージェ」
荷車の縁を掴みながら、その背へと声をかければ、
「空を飛んでいた鉄の鳥はいなくなったけど」
オージェが語るのは、
「魔物達はより勢いを増している」
現状把握――言われて空を見上げれば、爆撃機はもう飛んでおらず、馬で跳ね飛ばしたゴブリン達も、呻き声をたてながらまた立ち上がろうとしている。
「何故こんなことが起きてるかわからない、わからないから混乱している」
オージェは、
「だけどこの最悪の中の最悪は、選ばないことだ」
そう言って、
「だから僕はライジと一緒に賭けた、いいや僕だけじゃなくてFクラスのみんなが」
「――みんなが」
「ああ、みんなが君のための道を作ってくれている」
道、という言葉に、俺は周囲を見渡す。
瓦礫になった街並みに、俺達の進路を阻もうとしてるモンスター達を防いでるのは、
「――ジョロウナ」
【蜘蛛】スキルの彼女が糸を張り巡らせ、
「ビ、ビルゲン、スルーラァ」
【大工】スキルの彼が瓦礫から壁を作って、その壁越しに【通過】スキルの彼女が蹴りを突き出して、
――そうやって、
【秋桜】スキルのコスモスが、【瓶詰】スキルのボトルジャックが、【四角】スキルのシカクムシカクが、
エンジェリィが、シーザァハンスが、ピーフォルズが、マッピィが、
……みんなが、みんながそうやって、
――32人のF組のクラスメイト達が
……俺を除いてみんなが、俺の為の逃げ道を作っている。
それでも俺はそのことに、感謝よりも、
「なんで」
そう、思うしかなかったのだけど、
「アニィツイン! オトォツイン! やれるか!」
オージェの言葉に前を向けば、
「あったりまえよ!」「任してください!」
双子の兄弟、アニィとオトォの後ろ姿と、
――それに立ちふさがるスケルトン
いや、それはスケルトンじゃなく、
「な、なにあれ、スケルトンの、ドラゴン!?」
フィアが言った通り骸骨の巨大なドラゴンだ、この世界では最弱のモンスターだが、最強クラスの骨格で作られたそれは、双子に向かって突進してくる。
そして、その血も肉も無い無慈悲な竜の牙が、二人へ向かって突き立てられようとした時、
「「【双子】スキル!」」
アニィとオトォの双子スキルは、思考も動きも完全に共有し、
兄の力と、弟の頭脳が合わさって、
「「〈ツインズスターダンス〉!」」
踊るような完璧な動きで、スケルトンドラゴンの関節を狙い撃ちして、その巨躯の骨をバラバラに崩して見せた。
オージェはその脇を駆け抜けた――俺は、双子の方を見る。
確かに倒してのけた骨のドラゴンだったが、
「あ、あいつ、再生してる!」
フィアが言ったとおり、骨をガタガタと震わせながら、再びドラゴンとして組みあがっていく。あれじゃけっしてキリが無い。
それでも双子達は笑って、俺の為に復活した骨のドラゴンへと立ち向かっていく。
ああ、ここまでしてくれてるのに、
本当は、こんなことを考えちゃいけないのに、
俺は、
「――なんで」
どうしても、そう思うことしかできなかった。
「……お兄ちゃん」
そんな俺を、フィアが、
両手を広げて、
抱きしめようとした時、
――俺とフィアの体が打ち上げられた
「えっ」
荷車が突然跳ね上がり、俺とフィアの体が宙に浮いたのだ。
空へ浮かびあがりながら、下を見る。
――白馬の前足を地面から飛び出した手が掴んでいる
オージェの体も馬から放り投げられて、ガァルはそのまま倒れ込んで、
――馬から人の姿に戻りながら
「ひひんっ!」
「うあっ?」
ガァルは倒れ、そしてオージェも彼女に寄り添うように、その隣へと落ちた。瞬間、馬の足を掴んだ手が、地面を掴んで、そこを支えにして何かが這い上がってくる。
――ゾンビだ
うめき声をあげながら、生きた死体はとうとう、手から足までその姿を地上へと晒した。一体が現れれば次々と、ゾンビ達が無数に這い上がってくる。
スケルトンと同じ、不死の屍、それが十を超えて、百にも達するように、あっというまに地上を埋め尽くしていく。
――絶望の光景
……だけどその絶望へ、
未だに浮かび上がった俺の体が、落ちてないのは、
「オージェえぇ!」
――【炎聖】スキルで炎の翼を生やしたフィアが
その燃え上がる翼で浮かびながら、俺の体を抱えていたから、だけどこの翼は長時間もたない。
だからフィアはオージェに呼びかけて、俺の体をオージェへと投げた。
そして、俺がオージェにキャッチされた瞬間、
「【炎聖】スキル!」
一度、自分の胸に腕をクロスさせて、
「〈セイントバーン〉!」
その両手を左右へと広げた瞬間、フィアの体から眩しく輝く炎が、周囲へ降り注いだ。
その炎は俺達を灼くことは無く――ゾンビの体だけを燃やしていく。激しい呻き声をあげながら、屍達は燃えたまま倒れて、そして消えていった。
訪れた静寂、その中で、
「はぁ、はぁ、……はぁっ」
フィアは笑い、そして、
「――あっ」
全てを燃やし尽くしたかのように、力尽きたかのように、
――背中の炎の翼が消えて落下する
そんな風に、
落ちていく彼女に、
「フィア!」
力を失っていたはずの俺の体は、
フィアへ向かって、走り出していた。
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