11-5 復讐なんてくだらない
――過去が終わる
トラウマの再生、氾濫する川に溺れていく彼女の光景が消えて、そして、モノクロームで一時停止していた現実が、破壊された学園の光景が戻ってくる。
瓦礫だらけになった打ち上げ花火会場、夜の闇を照らすのは、爆弾によって燃え上がった校舎や木々。
「セイカ様を転生させたのって」
その中で俺は、
「テンラ様が?」
俺はセイカ様にそう尋ねる。
300年前、転生の女神が溺れ死にいくセイカ様を助けた――そう考えるのが自然、
その問いかけに対しては、
≪違いマス≫
――テンラ様本人が
今は、セイカ様の心の中にいる彼女が、
≪人の我が儘と、時代の風習、彼女はそれに殺されタ、きっと彼女が転生したのは、私とは違う転生の神様が手を差し伸べタ、そしてその神様が、【奇跡】の能力を彼女に与えタ≫
そう、答えて、そして、
«けれどそれは無責任デス»
言った。
「無責任、ほんまそう、無責任」
セイカ様が、懐かしむように、
「いきなりなんもわからへんまま、知らへん世界に放り出された、【奇跡】の力で生き抜いてたら、いきなり聖女様として担ぎ上げられた、客観的に見たら幸せな人生やったかもしれへんね、けど」
セイカ様は、言った。
「そんな【奇跡】じゃうちの心は満たされへんかったんよ」
自分を転生させた神を、恨むように。
«……その転生の神のしたことは、育児放棄デス»
テンラ様、
«チート能力での異世界転生、それで全ての人が幸せになれる訳ないデスのに»
確かに、それはそうかもしれない。
だからテンラ様は、16年間も俺の心の中で、セイントセイラ様と一緒にがんばってくれた。俺の願いを叶える為、付き添ってくれた。
呪いを祝福にしてくれた。
俺がそう改めて思うと、
「せやね、もしもテンラ様がうちを救ってくれてたなら」
セイカ様は、目を細めて、
「うちの心も、満たされていたかもしれへん」
そう、言った瞬間、
«今からでも遅くありまセン!»
テンラ様の言葉が弾け、そして、
«そうだよ、セイカちゃん!»
この世界の女神、セイントセイラ様も俺の心の中で叫んで。
«あなたの心は、今、よくないものに満ちてマス!»
«テンラおねえちゃん、それとたたかってたんだよね、でも、でも!»
«自分の心を救えるのは、自分自身デス!»
女神達の呼びかけに、聖女は、
「よう言うんよ、ふたりとも」
そう、笑って、
「うちがこの世界で、何をしてきたかもう知っとるんやろ?」
セイラ様は、語り出す。
「300年前にスライムを、【奇跡】の力で七大スライムにしたのはうち」
……え?
「200年間、そのスライムを操って、この世界そのものを壊してしまおうと、躍起になっていたのもうち」
聖女様が、スライムを?
この世界に、破壊しようと?
――その事実に言葉を失う俺に
「そんなことをするうちを100年前、今更のこのこ出てきて止めに来た転生の神を」
セイカ様は、
「倒したんも知ってるやろ?」
更に、そう言った。
それに対して女神達は、
≪エッ……≫
≪へ?≫
驚きの声をあげて。
「あれ、セイラ様はともかくテンラ様は知らんかったん? うちの心にいたのに」
≪ひ、人が神を、いやそもそも、神に死という概念はアリマセン!≫
≪そ、それに、てんせいのかみさまを、ころしたならセイカちゃんがてんせいしつづけてるのもおかしい!≫
もっともな疑問に対しセイカ様は、
「うち、奇跡やから」
あっさりと言ってのけた。
「まぁ実際は、うちを転生させた神様は、殺されたふりして逃げたんか、死んだけど転生しつづけるって呪いだけが残ったんかどっちかなんちゃう? 知らんけど」
セイカ様はそう、そんなことなんてどうでもいいように、
「ねぇ、アル君」
俺に、呼びかける。
「この世界に転生したばかりのうちは、恨み辛み、憎しみでいっぱいやった。ただうちをこの世界に、親無しで放り出した無責任な神も、昔からの決まりやからってうちを聖女として祭り上げるこの世界の人達も、みんなみんな嫌いやった」
「――祭り上げる」
「この世界の人達も、うちのことを道具としてしかみーひんかったんよ」
――それは
「そんなん、生け贄と変わらへんよ」
……それは、セイカ様にとっては、そうかもしれない。
荒れ狂う川を治める為の生け贄という、神秘として扱われた彼女なら、そう思っても仕方ないかもしれない。
「だから、スライム達を使って世界を壊そうとしたんですか?」
「そう――この世界の最強のスライムを、七大スライムにして、この世界を目茶苦茶にしようとして」
余りにも驚愕の過去を、あっさりと語る彼女、そして、
「その果てに、まがりなりにも神様を殺したうちに残ったんはなんやったと思う?」
セイカ様は、はっきりと言った。
「なぁんも、残らへんかった」
――セイカ様にとって復讐は
「復讐は、なんも生み出さへん、すくなくとも、うちの趣味やない」
「――趣味」
「こんなことしても楽しくないって気づいた」
セイカ様は、
「破壊の後に何も作れへんのやったら、それはただのチンピラよ」
そう、語る。
……ああそうか、セイカ様はその時、200年間ずっと、
友達が、いなかったんだ。
――聖女様として崇められるばかりで
……せめて、もしも復讐を終えた後に、破壊の跡に、
誰かがいたなら、戻る場所があるのなら、
ひとりぼっちじゃないのなら――
……つまりそれが、
それが、
「俺?」
そのことに気づいた時、
「……ああ」
セイカ様の閉じられた左目が、
「ああ《♡》あ《♡》あ《♡》あ《♡》あ《♡》あ《♡》あ《♡》あ《♡》あ《♡》あ《♡》あ《♡》あ《♡》あ《♡》あ《♡》!!!」
再び、開かれた。
「ほうよ♡ 前世に生贄として殺されて♡ 300年前からは聖女として生きてきて♡! からっぽの心で虚しいままに生きてきたうちを、あの日、助けてくれた運命の人♡!」
白い肌を紅潮させ、全身から思いを溢れ出させて、
「塔から身投げするうちを、君が抱きかかえてくれた瞬間に運命を感じた!♡ あとでそれは確信にかわった!♡ 同じ転生者、同じからっぽ!♡ ああ、うちはこの人に出会う為に生まれてきたんやって!♡」
「せ、セイカ様」
その熱は、その圧力は、
俺を慕うその心が――
「そう、復讐なんてくだらへん!♡ からっぽな心を満たすんは!♡」
頂点に達し、
「愛よ♡!」
爆発した。
――彼女の体から再び魔物達が溢れだし
その魔物達が、一直線に俺へと向かうから、
「【神造】スキル!」
Sランクの力を――俺の心のままに作り出し、
「〈ヘパイストスワークス〉!」
一瞬であらゆる武器を、剣を、槍を、槌を、弓を、あらゆる得物を作り出し、
「【分神】スキル――〈ミーミーミー〉!」
自分自身を13人まで増やし、
――あの夜の再現
かつて、アンナさんを英雄にする為にやったこと、
「〈フェイクオブラウンド〉!」
13人の騎士もどきになって、俺は魔物達に向かっていけば、
「大丈夫、大丈夫よ!♡」
セイカ様は、
「今のアル君を、全部否定してあげる!♡ 全部からっぽにしてあげるから!♡」
叫ぶ。
「うちと、ひとつになろう!♡」
そこに全く悪意は無く、ただただ俺を愛していることが、俺を救おうとしていることが、
俺にはとても、怖かった。
・更新情報
毎朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
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