11-3 たったひとつの嘘
学園の催事場、破壊された祭りの後、
そこで、スライムを取り込んだセイカ様の手から俺の足下へ転がされたのは、
――現代兵器の手榴弾
「うわぁぁぁ!?」
実物でなく映像でしかみたことがないものに、俺はパニックになって、ともかく、テンラ様の言葉通りに逃げようとした。だが、
――視界の端に、倒れているアンナさんが見えた
手榴弾や地雷の爆発は、それそのものの威力もだけど、爆破されて飛び散る瓦礫にこそ殺傷力があるという。
前世、WeTubeで得た知識を瞬間で思い出した俺は、
「【硬化】スキル!」
スキルで自分の体をガチガチに固めて、俺は手榴弾に覆い被さる!
「〈ストマックウォールズ〉!」
次の瞬間、腹に凄まじい衝撃が生じて、
「うぐう!?」
当然、俺はいくらかの痛みと衝撃と共にふっとばされた。仰向けに転がった俺は、破れた制服姿のままに慌てて立ち上がる。
するとセイカ様は、左目に♡を浮かべたままに、俺をうっとりと眺めながら、
「ほんに、アル君は優しいねぇ♡ けど♡」
そう言って、倒れているアンナさんに近寄って、
「うち以外の子はみんといて♡」
そして指を鳴らせば――アンナさんの体は消えた。
「――えっ」
「安心しぃ、安全なところへテレポートさせたから♡」
そしてセイカ様は右手を突き出し、
「ほら、次♡」
その右手から次々と、ゴブリンが飛び出してきた。
(これって、ヴォイドの力!)
スライムが自分の体から魔物達を錬成している、そういう力だと納得がいく。
作られたゴブリンは、俺に向かって獰猛な視線を向けるけど、
――勝てない相手じゃない
最強クラスの存在ではある、だけど、Aランクのスキルを使ってうまく立ち回れば、
そう、思った時、
「はい♡」
ゴブリン達のそれぞれの頭上から、何かが落ちてきて、小鬼達はそれを受け取る。
――構えたそれを見て、驚愕する
「――マシンガン」
呟いた瞬間、銃弾が一斉に俺に浴びせられた。
「う、ぐううう!?」
こ、硬化で固めた肌が、軋む、削れる!? 何か他のスキルを使わなきゃ、耐えきれない!
でもこれ以上は――
≪おにいちゃん!≫
――この声は
≪わたし、セイラ! セイントセイラ!≫
「セ、セイラちゃん!?」
俺の心の中に住まうセイラちゃんの声が、心の外にまで飛び出して響き渡る。
≪テンラおねえちゃん、いま、あのセイカちゃんのこころのなかにいる!≫
「テンラ様が!?」
≪うん! だからさっき、こえがきこえた!≫
セイラ様の言葉に、俺は、エンリ様の裁判前日、夢の中の出来事を思い出す。
――いそがしくなるからしばらくあえないんだって!
う~ん、なんかたたかわなきゃいけないとかなんとか――
そして、セイカ様に初めて会った日の夜のことも。
――転生の女神様、おるやろ? しばらく、心の中で出会うのって難しくなるみたい
やるべき事が出来た、みたいな?――
それが意味するのは、きっと、
どちらから働きかけたかは解らないけど、何かと戦う為にセイカ様がテンラ様の心に入り込んだ。
そして結果、セイカ様が、
テンラ様の力を取り込んだ――
「そうじゃなけりゃ、現代の物をこの世界に持ってこられない!」
俺は銃弾を受けて、後ずさりしながら、推理を思わず叫ぶ。
≪うん、たぶん、きっとそう!≫
セイラ様もそれを肯定して、
≪テンラおねえちゃんは、せかいとせかいをつなぐちからがあるもの!≫
その理由も叫ぶ。
現代の道具を、こっちに持ってくるのは、テンラ様がもともともってた能力なのか、セイカ様がアレンジしたかは解らないけど、
どちらにしろ、このままじゃ負ける、
異世界のスキルが、現実の力に押し負ける――そう焦る俺の心の中で、
≪おにいちゃん!≫
――セイラ様が
≪Sランクスキルをつかえるようにする!≫
そうセイラ様が言った次の瞬間、
俺の心身に――力がみなぎる、湧き上がる、
≪こころとからだをこわさないよう、きをつけて!≫
万能感に細胞が沸騰し、ブワッ、と、体中の神経が跳ね上がるような感覚だ。
「う、うっぐっ!?」
その感覚に、意識をもっていかれそうになるけれど、なんとか抑え込んで、
「【炎聖】スキル!」
最も身近で見てきた、フィアのSランクスキルを模倣して、
「〈オーロラフレイム〉!」
目の前にゆらめく炎の壁を展開し、弾丸を全て燃やし尽くす! 同時に、炎で竜巻を作り出し、その上昇気流に飛び込んで、炎のオーロラを飛び越えて、ゴブリン達の頭上へと突っ込む。
(フィアが何度も見せていたように!)
頭の中でフィアの姿を再生しながら、俺は右手の指を銃のように構えて、その人差し指をゴブリン達に向けた。
「〈クリーンファイアー〉!」
人差し指から迸るのは、さながら火炎放射。ゴブリン達は燃え上がり、マシンガンを手元から落とした。そして、燃え尽きていく。
敵を一掃した後、俺は周囲を見渡して、
「セイカ様!」
彼女が再び、広場の中央にいるのを確認した。
すると彼女は、
「ああ♡」
俺を見て、また、
「♡♡♡♡♡♡♡|……」
あ、開けた左目だけじゃなく、自分の周囲まで♡マークで埋め尽くすように、俺を見て笑っている!?
得体の知れない怖さを感じながら、俺は、
「スライムだけでなく、テンラ様まで乗っ取ったんですか!」
そう叫べばセイカ様は、
――俺の目の前にいた
「え?」
そして次の瞬間、俺の左脇腹に凄まじい衝撃が奔って、
「ぐあぁぁ!?」
吹き飛ばされる、何かで思いっきり殴られた。転げながらもなんとか立ち上がり、セイカ様の方を見れば、
「バ、バールのようなもの?」
持ち手は銀色、浅く二つに割れていて少し内側に曲がっている先端は赤色、そんなものを聖女様は手にもって、にこりと笑い、
――今度は俺の背後に現れて殴りかかってきて
「〈フレイムスターター!〉」
俺は振り返りざまそのバールのようなものを、腰の刀を抜き、炎で燃える刃で斬った、バールのようなものは溶解しぼきりと折れた、だが、
――すぐにまた、セイカ様は新たなバールを出現させ握った
そしてまた殴りかかってくるから、俺はそれを刀の峰で防ぐ、
峰とバーツが交錯する向こう側で、
「♡《好き》♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡|!」
わ、笑ってる、俺に対して、なんの敵意もなく、
愛するように殺そうとしてくる!
俺がその圧に押され怯んだのを見透かしたかのように、セイカ様はバールをもったまましゃがみこみ、
「好きぃ!」
その鉄の尖りで、俺の鳩尾を抉るように突き刺した。
「がはっ!?」
せりあがる苦痛、呼吸することも縛られて、俺はそのまま跪いた。がたがたと震えながら、セイカ様を見上げる。
「もう、そないあぶないもん、振り回したらあかんよ♡」
そう言ってセイカ様は、俺の握ってた刀を取って、鞘へと入れた。
そして、くるりとまた、俺の前に移動する。
――Sランクスキルを使っても勝てない
相手は【奇跡】スキルだけじゃなく、スライムの力と、そして、あちらの道具を持ち込める存在、
それだけでもうチートなのに、
「ごめんねぇ、アル君、けど、わかってほしいんよ♡」
彼女の根本の強さは、
「アル君は、うちだけが幸せに出来るって♡」
――♡
「だから、なんもかんも奪ってあげる、強さも、名誉も、友達も、恋人も、そして♡」
この人が、
「命も♡」
……動かない、
Sランクのスキルの反動とかじゃない、ただただ、左目を開いて、俺への好意を全く隠すそうとしない彼女が怖い。
どうにか、息を整えて、俺に出来る事は、
「なんで」
もう何度聞いたか解らないことを、
「どうして」
ただ、疑問を繰り返すばかりで、
――その瞬間
世界が、白黒に変わった。
「……え?」
この現象は、覚えがある。
俺が相手のトラウマを、心の中を、除き垣間見る時の現象。フィア、ゴッドフット先輩、アンナさん、
ただひとつ、違ったのは、
「ごめんね」
全ての時が止まるはずの中で、
「うち、ひとつだけ嘘ついてた」
いつのまにか、左目を、閉じた彼女が、
まるで、俺の母のトラウマを、殴り飛ばしたテンラ様の用に自由に、
セイカ様は歩き、そして、
「うちは300年間この世界で転生しつづけたけど、それだけやのうて」
自分の、
「――異世界転生してた」
過去を、
「うちは、300年前は、アル君と同じ世界で生きていた」
トラウマを、
「300年前、うちは」
語る。
「生け贄になって殺された」
その言葉を語る時の右目は、
「江戸時代、近江の国伊香郡、荒れ狂う川を治める人身御供として殺された」
どこまでも、虚無をみつめていた。
・更新情報
毎朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




