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11-2 その奥にあるもの

 ――学園の広場

 ほんの十分くらい前まえは、祭りと花火大会だった場所。

 今は、全ての混乱と破壊の中心だけど、

 なんだ、これ。

 爆煙が晴れたかと思えば、そこには名付きのスライム(ヴォイド)に座り込む、聖女、セイントセイカ様がいる。

 彼女はにこにこと笑って、足を組み、俺へと視線を向けてくる。

 そんな彼女を見上げながら、


「せ、聖女様? 何故、貴方が」


 俺と同じように動揺してたアンナさんが、疑問をついに口に出したら、

 ――彼女が瞬間、吹き飛んだ


「え?」


 ……5メートル先に吹き飛ばされたアンナさんは、仰向けに転がり、その軽装の装備から、ぷすぷすと煙をたてている。

 もう一度、スライムの方へと向けば――そこにはさっきアンナさんが倒してのけたウィスプよりも、何倍も強い光を秘めた、同じモンスター(ウィスプ)がいて。


「ごめんねぇ、今、うちはアル君と話してるんよ」


 セイカ様は、両手を合わせて、


「そこでちょっと悶え苦しんどいて」


 と、悪びれた様子も無く、言った。

 ――スライムから魔物が生まれたんだ

 それを理解した上で、それに座り込むセイカ様に俺は、


「乗っ取られたんですか」


 当然に思った事を、


「スライムに、からっぽな心を!」


 そう、叫べば、


「ちゃうよ」


 セイカ様は、ひょいっとスライムから降りた。そして、そのまま俺へと近づいてくる。

 う、動けない、後ずさることも出来ない、

 ただ笑顔を浮かべているだけの彼女から、逃げられなくなっている。

 どうして――

 ……そして間近まで迫ったセイカ様は、俺の間近まで来て、

 こう言った。


「乗っ取られたんやなくて、乗っ取ったんよ」


 ――次の瞬間

 スライムから再び、あらゆるモンスターが溢れだした。

 最強(ラスボス)から生み出される準最強(中ボス)達は、また、学園へ散らばっていく。

 乗っ取られて無くて乗っ取った?

 もしそうだとしたら、セイカ様は、意図的にこんなことをしてる、


「な、なんで」


 俺は、


「なんで!?」


 ただ、叫べば、

 セイカ様は言った。


「アル君に、からっぽになってほしいんよ」


 ……え?

 え?


「力を得て、優しくて、みんなから慕われる、そんな英雄みたいな存在が今のアル君やけど」


 セイカ様は、


「ちゃうやろ?」


 淡々と、俺をまるで、優しく導くような口ぶりで、


「そんなんはアル君の偽物やろ?」


 俺にとって受け入れがたいことを、


「本当のアル君は」


 だけど同時に、


「――からっぽやろ」


 拒否も出来ない、ことを、


「なぁ、だから解って、本当のアル君を愛せるのは」


 セイカ様は、


「メディちゃんやのうて、うちだけやから」


 笑った。

 ――次の瞬間


「【英傑】スキルゥ!」


 アンナさんの声が響いて、


「〈|ピースメーカー《からっぽの手で掴むのは》!〉」


 重傷を負った体で、血を吐き出しながら、からっぽの手でセイカ様に飛びかかって、だけど、

 セイカ様はポケットに手にいれ、

 そこから取り出した物を無造作に手をアンナさんへと突き出して、

 ――バチンッ!


「ぐぎぃ!?」

「アンナさん!?」


 凄まじい音をたてた後、アンナさんの体は一瞬で硬直し、その場に崩れ落ちた。

 ――何が


「へぇ、凄い、一瞬で意識を奪えるんやねぇ」


 セイカ様の手に握られているのは、


「やっぱり(あっち)の技術って魔法以上なんね」


 ――スタンガン

 護身用で電流を流すもの、威力はピンキリだけど、一瞬で意識を失わせ、やり方によっては命すら奪うもの。

 なんでそれを、この世界のセイカ様が?

 疑問に覚えている俺に、


「――お空の飛行機も、うちが用意したんよ」


 セイカ様は、そう言って。

 つまり今の惨劇は、

 学園のみんなを、爆殺しようとしてるのはセイカ様――


「あ、でも、ちゃうんよ、けっして学園の人達を殺すようには使ってへん」

「……え?」

「エンリ君との約束やから、モンスターも、怪我はさせても命は奪わへんよう調整しとるし」


 ……つまり現状、この有様でも、今の学園には死者がいなくて、

 ただただ学園祭を無茶苦茶にするように、破壊してるだけ?

 なんだそれ、

 余計、意味がわからなくなる。

 ただただ混乱を巻き起こす意味は?

 ――なんの為にそんなこと


「決まってるやん」


 俺の心の中を読んだかのように、セイカ様は、


「アル君を、英雄で無くすため」


 あっさりと、言った。


「アル君から、余計なものを取っ払って、からっぽにしてあげる為なんよ」

「な、なんで、それって、意味が」

「うーん何度も言うてるけどねぇ、アル君」


 そこでセイカ様は、唇が触れそうなほどに、俺へと顔を近づけた。


「うちは君のことを愛してる」


 そして、


「だけどこのままやと、アル君は絶対に不幸になる」


 セイカ様は、


「うちはアル君を、救わへんとあかんから」


 こう言った。


「――転生という呪いから」


 それは、

 メディが言ってくれたことと、一緒だった。

 転生は呪い、ただの重荷、

 その言葉を聞いて俺は、


「メディを、どこにやったんですか?」


 そう、聞いた。

 だってもう、そうとしか思えない。

 ずっと傍にいると言ったメディが、何も残さず消えた理由。

 ……俺のその呟きを聞いた後、


「あはは」


 セイカ様は、俺から体を離し、


「あははははは!」


 高笑いをしはじめ、そして、


「あーはっはっはっはっはっは!」


 踊るように、体を震えさせる。

 俺はその光景を、絶望的にみつめている。

 背後では、相変わらず、スライムからモンスターがあふれ出す中、


「メディ、メディ、メディ! アル君の心の中は、メディちゃんでいっぱいやねぇ!」


 セイカ様は、


「確かにメディちゃんはええ子よ、けれど、あの子は嘘つきよ!」

「う、嘘つきって!」


 セイカ様の言葉に、俺は思わず叫ぶ。


「メディは、全部俺に、言ってくれました! 自分の過去も、罪も!」


 あの告白を、ないがしろにされた気がして、怒るように、けど、


「そういう問題ちゃうから!」


 そしてセイカ様は、笑ったまま、

 俺に言うのだ。


「メディちゃんが死んだら、また、君の心はからっぽになるやろ!」

「――え」


 ――それは


「今だって、"ずっと傍にいる"なんて、約束ひとつも守ってへん!」


 ……セイカ様の言葉は、


「そんな子にアル君を幸せにできるはずないんやもん!」


 どれだけ真実であろうとも、とても、理解したくないものだった。

 確かにそうだ正論だ。死別は極端な話にみえるけれど、本当は、常に覚悟しなきゃいけないこと。

 俺の母のように、人間なんて、いつ別れが訪れるかなんて解らない。メディが俺の傍からいなくなったら、この先、どう生きていけばいいか解らない。

 だけどそれを――俺から無理矢理奪おうとする人が、言うことなのか?

 俺が言葉を失う中で、セイカ様は、


「けど、うちなら大丈夫よ」


 こう言った。


「何度だって転生するんやから」


 ――永遠の愛を実現する能力(転生)

 ……、セイカ様の主張は、解って。

 有言実行する力がある、でも、

 それでも、


「ごめんなさい」


 俺は、謝ることしかできない。


「俺はメディが好きなんです」


 セイカ様の想いに、応えられない、


「――だから」


 そう、伝えようとした時、


「アル君がメディちゃんに、恋してるのはわかってる」


 セイカ様は言葉を遮りながら、両手を広げた。そして、

 そのセイカ様を目がけて、


「ねぇ、知ってる?」


 ――背後の巨躯のスライムが


「心をからっぽにする方法」


 セイカ様を、津波のように襲う。

 粘液状の肉体に囚われる彼女、だけど、


「――失恋よ」


 苦悶の表情は一切見せず、自分を覆うゼリー状のスライムを、まるで取り込むかのように、体の内へおさめはじめる。

 巨大なスライムの体全てが、

 彼女と一つとなった瞬間、

 ――一瞬の閃光


「うわっ!?」


 それに目を眩み、目を閉じる。

 ……そしてどうにか、眼を開けた時には、


「せやけど、そのからっぽになった心を満たすのは」


 ――{奇跡虚無セイントセイカヴォイド}

 その名付き(ネームド)を浮かべる、セイカ様は、

 ずっと閉じてた、左目を開いた。

 その目には、


「愛よ♡」


 ――ハートが

 漫画で見るような、恋や愛のシンボル、♡がそのまま浮かんでる。

 そして、ハートマークを浮かべる左目から、


≪――逃げてくだサイ≫


 声がした。

 その声は、


≪ここから逃げテ! アルテナッシ君!≫


 俺をこの世界に導いた、転生の女神、テンラ様のもので、

 ――そしてセイカ様は俺の足下に何かを転がした

 手榴弾だ。

・更新情報

毎朝7:00に投稿させていただきます!

ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!

https://www.neopage.com/book/32218968911106300

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