ExtraSide三人称視点 円卓帝国学園東側屋外
――爆撃機
高所という手出し出来ずの上空から、ひたすらに爆弾をばら撒き、全てを破壊する無慈悲の破壊装置。
この世界において、火薬というものはスキルで代用が効くから、余り馴染みのない技術、それゆえに、
爆ぜる熱と、鼓膜を破り、肋骨を折るほどの音は、余りにもこの世界の人達にとって未知であり、
そして知らずは、
「な、なんだよ、なんなんだよこれ!?」
「あのでっかい鳥みたいなのから、ば、爆弾が降ってくる!」
「逃げろ、ともかく逃げろ!」
恐怖となって襲いかかる上に、その破壊の後からは、
「あ、ああ、モンスターだぁ!」
「なんで学園にぃ!?」
あらゆる魔物達が溢れだし、人々を襲わんと飛びかかる。
平和の守護者や、戦闘力のある生徒達は応戦するものの、全てに手が回る訳じゃない。実際ほら、泣きわめく子供を抱えて必死に逃げる母親が――瓦礫につまずく。
「ああっ!」
かろうじて体を捻り、どうにか、子供を自分の体で押し潰すことは無かった。当然、体は痛むけど、子のことを思えば立ち上がらなければならないと、顔をあげた時、
――スケルトンが
肉無しの魔物が、骸骨が、手にもった剣で、母子ともまとめて斬ろうとその刃を振り下ろそうとした、
その時、
「【夢想】スキル!」
凜とした、女性の強い声のあと、
「〈|ナイツオブファンタズム《リソウの騎士》!〉」
陽炎のように現れた、朧気な輪郭をもった騎士がその剣で、骸骨の刃よりも早くスケルトンの首を落とした。
そして、儚き騎士はそのまま消え、代わりに駆け寄ってきたのは、
「大丈夫でございますか!」
〔夢見る令嬢ロマンシア〕――彼女は、倒れている母子へと駆け寄って、
「あちらへお向かいくださいまし! 平和の守護者の皆様が、避難誘導をしていますわ!」
そう、呼びかけながら、手を差し伸べた時、
――殺気というものを
科学的には説明がつかない、けれど、少なくともこの世界では確実にあるものを覚えた彼女は、
そちらの方を向いたなら、
「えっ」
首を切ったスケルトンが、
その骸骨の頭だけで、
彼女を噛み砕かんと飛びかかる。
――次の瞬間
「ガルオオゥ!」
巨躯の狼が、その頭骨を噛み砕いた。
四本足で着地した、緑毛混じりの黒い狼は、すぐさま、二本足の人型へと代わる。
「スメルフ様!」
「油断、するな、ロマンシア」
スメルフとロマンシア、朝より学園祭を巡っている最中に起きたこの非常事態に、二人はともかく対応していた。助けられた母子は、何度も二人にお礼を言ってから、入り口へ向かって走り出した。
「一体、何が起きているんですの」
今のロマンシアは、頭の中が混乱でいっぱいだ。
問いかけている時間すらないのが解っていても、そうせずにはいられない。空からの爆弾、そこから溢れる魔物、これが悪意のある攻撃であるならば、一体誰が、何の為、
考えてもどうしようもないことばかりが、頭の中に駆け巡る。
そしてそれは、スメルフも同じだった。寡黙なだけで、気持ちとしては、彼女と変わらない。
それでも、
「行く、ぞ」
やらなければならないことは解ってるから、スメルフは、
ロマンシアを背に乗せる為、再び獣に身を変えようとした、
その時、
声がした。
「――【支配】スキル」
その声は、
「〈キングズオーダー〉」
瞬時、二人を地面へと縛り付けた。
「がっ!?」
「ぐっ!?」
体が重い、のではない、筋肉の硬直、まるで体に針金が入ったように、二人は地面へと這い蹲ることを強制された。
「な、な、なんですの!? 体が!?」
「これ、は!」
二人の顔に、脂汗が滲む中で、
「ほう、そこな女ならともかく、俺の支配が効くか、獣よ」
男の、朗々と良く通る声がして、
「獣人とは孤高の存在と思っていたが、いや、見識を改めねばならぬ」
現れたのは、
「群れてこそ、圧倒的強者に仕えてこその獣よのう」
――森王エルフリダ
艶然とした緑髪のエルフ、今は女性の姿となっている彼女は、白く美しい豊満な肢体を包む、右肩を露出した絹衣を揺らしながら、伏した二人へ近づいていく。
「き、さ、ま」
「とはいえ、叛逆の意思は有りと見える、俺様のスキルを跳ね返すのもあと少しか」
そう、犬歯を剥き出しにして、にらみ付けてくるスメルフを、花を選ぶかのよう品定めするエルフリダに、
「――とはいえ、手間は省けましたか」
再び、声がした。
スメルフとロマンシアは、どうにか首だけをそちらへ向ける。
そこに居たのは――大和の女王、199cmの長身を和装で纏い、水色の長髪をなびかせる姫サクラセイリュウ。しかし、
二人が驚きをあげたのは、彼女ではなく、その隣にいる少年、
「え、エンペリラ様?」
「皇帝、なぜ、ここに」
〔皇帝であれエンペリラ〕の姿――しかし少年はうつむくばかりで、スメルフとロマンシアの問いかけには答えようとしない。代わりとばかり、エルフリダが口を開き、
「どうにか説き伏せたか、大和の姫よ」
「はい、解っていただけました」
「そうか」
そこでエルフリダは目を細め、
「それでいいのだな、エンリよ?」
と、問いただす。
……相変わらず、エンペリラは何も答えずで、エルフリダはその様が気に入らないように、はん、っとバカにするような声をあげた。
「全くつまらん、余興とは、予想を裏切り期待を裏切らないものであるべきであろう」
そうエンリに話しかけるように吐き捨てれば、反応したのはセイリュウで、
「余興と言いますか、森の王よ」
「余興も余興、茶番もいいとこ、まぁそれでも、俺様にとってはどちらでも良い」
「――それはまた」
セイリュウは、
「あの方を、手に入れられるからですか?」
そう、冷たい目で問いかければ、
森王は、最初はくつくつと笑い、やがて体をくの字にして、ははは、と嗤った後は、
「はぁっはっは」
体を弓なり仰け反らせ、
「ははは、はぁっはっはっはっはっは!」
高笑いを炸裂させる――この状況で、爆弾が弾け、魔物が溢れ、人々が逃げ惑うこの場所で、
響き渡る笑い声の中で、ロマンシアはがたがたと震えながら、
「なんなんですの!?」
率直な言葉を、悲鳴のように叫んでいた。
「なぜ、なぜ森王様が、大和の姫が、そしてこの帝国の皇帝であるエンペリラ様がこの場所にいますの!? あなたたちはなんの為に私達を縛り付けて、なんの、なんの為!?」
それは癇癪のような衝動を、どうにか、現実逃避の真逆へと向ける為の言葉の奔流だった。けっして、スメルフが【支配】スキルから立ち上がる為の時間稼ぎとか、そんな思惑など何も無い。
それぞれ国を治める者達が、何故この混乱の中、悠然と構えているのか、
――何故、どうして
「ごめんねぇ」
その声は、
「エルフリダちゃん」
唐突に、響いた。
呼びかけはロマンシアではなくて、つまり、"彼女"はロマンシアの疑問に全く応じるつもりはなくて、
何一つ答えを与えないまま、
更なる混乱を巻き起こす。
「学園祭を二日間にしてもろうたのに、こうゆうことなって」
「構わぬ、それが貴様の、選択なのだろう」
現れたのは、
「聖女、セイントセイカよ」
制服に身を包んだままの、彼女の姿で。
いよいよロマンシアも、そしてスメルフも混乱する。
アルテナッシとデートをしていた彼女が、世界を奇跡で救う聖女という存在が、
何故この輪の中に、この状況を見殺しにする、非情非道の者達の中に加わるのか。
その疑問にも、やはり、答えを出す様子も無く、
「それで、首尾の方はどう?」
「万事抜かりなく、カバンがやってくれた」
「ほうか、せなら、もうはじめよっか」
彼女とやりとりをしていたエルフリダは、
「その様子なら、なったか、貴様」
こう言った。
「からっぽに」
……少しばかりの静寂の後、セイカは、
口を開く。
「うち、やっとわかったんよ」
そして彼女は、
「――からっぽの心を満たすのは」
ずっと閉じてた、
左目を開く。
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