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10-12 dreams dreams

 ――誰もいない校舎の屋上での告白

 それは、恋の告白ではなく、

 贖罪。


(お母さんを、殺した)


 ……クリスタルレイクから今日まで、沢山の時間はあった。だからメディの過去について、全く何も考えなかった訳じゃない。

 恋人がいただとか、俺と同じ転生者だとか、そして、

 ――罪を犯したという可能性も

 ……その罪に、誰かを殺めたかもしれないというのも想像してたし、だとしても、それを受け入れられるよう、心の中で覚悟をしていた。

 だけど、自分のお母さんを殺した?

 そこには流石に動揺は覚えた、顔は一瞬で強ばった。

 ――だけど

 ……俺はすぐその表情を、微笑みに変えた。

 無言で、メディの告白の続きを促すように。

 すると彼女はまた口を開く。


「物心ついた時には、私は母親と二人、人も誰もいない山の中で暮らしていました。……いえそもそも彼女が、血の繋がった本当の母親かも解らない。彼女は私を育てると同時に、沢山のことを、……人の殺し方を、教えました」


 そこから語られるメディの過去は、凄惨というしかない。

 人はどこを刺せば即死し、どこを刺せば死なせてくれと叫ばせられるか、

 3日間起き続けることを強制され、1週間何も無い場所で狂わずにいられるよう訓練され、

 母親が仕事(殺し)の時は、鎖で繋がれ、何も飲まず食わずで耐えることを教えられて。

 ――5歳の時に目覚めた【紫電】スキルを

 より速く、より強く、人を殺傷する為の手段に変えられていって。

 生まれたときからの当たり前、それはメディにとっての日常、だけど、


「辛かったし、苦しかったです、何度も泣いて、何度も嫌だと言いました、だけど私の母親は」


 そこでメディは、かたかたと震えて、


「優しく笑って、こう言うんです」


 嗚咽するように、語る。


「――私の為にやってることって」


 ……ああそれは、違う、絶対に、違う。

 今の俺ならわかる、そんなのは、


「――ご主人様の母親と同じ」


 そんなのは、


「彼女は、私を自分の理想の道具にしてただけ」


 ……そんなのは、親の都合だ。


「……私は母に従順な(良い子の)振りをしました、そうしないと、生きられないから、だけど私はその内、母に隠れて自分の(【紫電】)を、誰かを傷つけるばかりのこの力を――」


 メディは、自分の手に、パチリと紫色の雷を一瞬纏わせて、


「誰かを癒やすための力にする練習を、はじめた」


 ……それは、


「今思えば、早すぎる反抗期です、表では良い子の振りをして、裏では悪い子で」

「そんなことないよ、メディは、優しかったから」


 そう、優しい。

 ただ親に盲目的に、従い続けた俺とは全く違う。

 彼女は、彼女の意思で、自分の境遇に立ち向かおうとしていた。

 それが悪い訳なんてあるはずがないから、そう伝えたつもりだった。

 だけど、


「――私は優しくなんかありません」


 メディは、


「……私が10歳の頃、母が仕事から帰ってきました、だけど彼女は――満身創痍だった」


 語る。


「息も絶え絶えで、そのままベッドに転がれば、シーツはみるみる内に血に沈んでいく、大丈夫だから、寝れば治るからなんてうわごとのように呟いてたけど、そんなのは有り得ないことは、今まで親から教わったことから解りました」


 この時のメディの目は、俺をみつめてなかった。

 過去という、過ぎ去ったはずのものが、彼女の目の前にあるのは確かだった。

 だけど彼女は、震えながらも、それを恐れながらも、

 立ち向かうように、


「私には、親に隠れて培った、癒やしの力があった、それを使えば、母を助けられるかもしれない」


 告げながら、


「だけど私はこの時、こう思ってしまった」


 ――メディは


「このまま何もしなければ、母は死ぬと」


 告白、した。

 ……、

 ……長い、長い、沈黙が流れる。

 だけど俺は何も言わない、言えないじゃなくて、言わない。

 彼女が、再び語り出すのをじっと待っている。

 すると彼女は、ずっと貼り付けたように浮かべていた笑顔を、とうとう無表情、いや、苦しむようにして、


「――その後のことははっきりと覚えてません」


 語り出す。


「いつのまにか、……母の血の跡でも追ってきたか、ひとりの冒険者と、そして、それに付き従うメイド長に助けられて、私はそのままメイドの里で育てられることになりました。メイド長からは、沢山のことを、そして、沢山の優しさをいただきました、……本当に、沢山を」


 その日々は、暖かなもののはずだったのに、語る彼女は苦しそうで、

 だけど俺はじっとみつめて、本当は、大丈夫? とか、無理しないで、とか、そんないたわりの言葉をグッと堪えて、

 ただ、告白を聞き続ける。


「だからあの日私は、今語ったことをメイド長に告白したのです」


 ――母殺しの罪


「……メイド長は、語り終えた私に、教えてくれました、とても大切なことを、今も胸に残る言葉を」


 

 ……メディは黙る、

 メディは、その、メイド長からの言葉を語らない。

 けど、やがて、


「……だけど」


 メディは、


「だけど!」


 叫んで、


「あの時私が欲しかったのは、言葉なんかじゃなくて! 私は!」


 ああ、メディの、

 涙ぐみながらの声を聞いた俺は、


「私はあの時!」


 ――衝動的に

 ……彼女を、

 抱きしめていた。


「……あっ」


 抱きしめる、

 震える彼女に、大丈夫だよと伝えるように。

 ……ああ、メディはこうしてほしかったんだ。

 どうかその時ばかりは、言葉よりも、ただ、抱きしめてほしかったんだ。

 ――彼女がメイドの里から逃げたというのは

 それを、どうしても伝えられなくて、

 それを、自分を助けてくれた恩人に秘めたまま、一緒にいることが出来なくなって。

 ……そう、思いを寄せていたら、


「……夢を、見てたんです」


 俺に抱きしめられたメディは、


「ご主人様と同じように……私も母の夢を、何度も見た、母は私に笑顔で、殺し方を教えてくる、"自分を殺したようにすればいい"って」


 その語りは、


「でも、でもね、ご主人様」


 いつのまにか、嬉しそうに、


「夢の中で、ご主人様が現れるようになった」


 ふるふる震えながら、俺を抱きしめ返して、


「ご主人様が、母から私を守ってくれるようになった」


 そう言った。


「そんなのは、私の妄想、ただの都合、望んではいけないもの、ご主人様が、私の罪を許すなんて、勝手に思ってるだなんておこがましい、そう、思ってました、だけどそれでも!」


 堰を切ったように彼女の声に、


「――夢じゃないよ」


 俺は告げる。

 ……ただその一言が、どうにも、メディは嬉しかったみたいで。ますます俺を抱きしめる力は強くなって、

 俺達は抱きしめ合って。

 ……どこまで、そうしていただろう。

 どちらともなく、腕を回しながらも、少し、体を離す。

 俺の目の前には、穏やかな彼女の笑顔があって、

 ――その瞬間


『ただいまよりぃぃぃ! Fクラス主催花火大会、開始ぃぃぃ!』


 ヴァイスさんの声が拡がって、


『まったくいくらエンリ様の頼みとはいえなぜ私がアナウンスを、ああいやいや、打ち上げるのだな花火というのをぉぉぉ! それでは一発目、開始ぃぃぃ!』


 彼女の【大声】のあと、それ以上の歓声があがる。

 今から、花火が空に、あの日見ることが出来なかった花火が、あがろうとしている。

 だけど俺は、


「ご主人様」


 その一言に、視線を戻せば、


「キス、してくれますか?」


 顔を赤くしながら、メディがいうものだから、

 その言葉に、高鳴りを、

 ……からっぽだった心が、満ちていくのを覚えながら、

 ――ひゅうん、っと

 ……音をたてて、夜空に一直線の、光の軌跡があがる中で、

 俺はメディへ、顔を近づけ、

 愛しさとともに、

 唇を、

 重ねようとした、

 その瞬間、

 ――凄まじい熱風が俺達の体を叩き

 その熱と、その風が、俺達二人の体を引き剥がした後、

 世界が壊れる音がした。

・更新情報

毎朝7:00に投稿させていただきます!

ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!

https://www.neopage.com/book/32218968911106300

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