10-11 もう一つの告白
――トベッキーさんの隠しワープ
魔法院に所属している【転移】スキルの持ち主。帝国学園の授業初日、一年生達ををまるごとまとめて、炎の国ボルケノンドに転移させた、規格外の力の持ち主は、学園中にワープスポットを用意していた。
学園内に幾つもある校舎のひとつ――その廊下の壁に飾られている第四代皇帝の肖像画に、人差し指をさして特定の動きをこなしたあと、バッ!って唱えた途端に発動する、移動呪文。
【転移】スキルによる移動は、一瞬で、俺を目的の場所へ誘ってくれた。
――学校の屋上
……普通なら立ち入り禁止の場所にやってきた俺は、ここに来るまで足早だった速度を、一歩一歩に切り替える。
そこに、彼女がいたから。
俺は、声をかける。
「――メディ」
手すり近く、トワイライトの空を眺めていた彼女は、俺の言葉に振り返る。
「ご主人様」
振り返る彼女、こんな薄暗さの中でも、はっきりと彼女の微笑みが見えるのは、なんでだろう。
……俺はメディとの距離を近づけていく。笑顔は、より鮮やかになっていく。
ああもしかしてこれは、
好きだからかもしれない。
何の根拠もない理論だけど、そう思った。
……そして、互いの距離が、あと一歩踏み出せば、重なるくらいになって。
先に口を開いたのは、メディだった。
「先ほどまで、フィア様がいらしてました」
「え?」
「私に言いたいことがあると」
フィアが、ここに?
一体なんの用で――
「フィアは、何を話したの?」
「いえそれが、言いたいけど何も言えない様子でして」
「へ?」
なんだろう、どういうこと? 俺の頭の中が疑問だらけになったタイミングで、
「だから私は、どうぞお殴りくださいませ、と言ったのです」
「え、えええ!?」
いやいやいきなり何!? 言葉は無粋、拳で語れ!?
なんでそんな流れに!?
「え、そ、それでどうした、というかどうなったの?」
「ええ、フィア様に頬をはたかれました、……とても弱く、まるで撫でるように」
「撫でるように」
「――お兄ちゃんに告白する人に、ひどい顔はさせられないって言って」
そう言ってメディは、
「フィア様は本当に、お優しい方です」
叩かれたであろう、自分の頬を手で抑えた。
……そこまで言われて、どうにか俺にも、フィアの複雑な感情を理解した気がする。
フィアに直接言うと、そんな訳無いと怒られるかもしれないけど、
フィアは俺を、家族みたいに、思っていてくれるかもしれない。
……更に思い上がれば、恋してるとかも考えたけど、いやいや、流石にそれは無いと思う。
だから感情的には――兄を誰かにとられたくない妹、みたいなものだろうか。
その事に俺は、
「そっか」
と言って、
「……俺は、幸せだよ、メディ」
と、告げた。
その言葉に、何も疑問を覚えないように笑ったまま、メディは自分の頬から手を離す。
「はい、ご主人様は多くの方に慕われています」
そして、一度目を閉じた後に、また開き、
「けれどそれは相互作用、ご主人様も、皆様のために心を砕いたから」
「そう、かな」
「ええ、ご主人様は昔、自分は役立たずだったとおっしゃってました、力が無い思いに意味は無いと、けど」
そこでメディは、
「全ての始まりは、力がどうとか関係無い、あの時の言葉」
あの時とは、そう、
「"Fクラスの皆をバカにされたのが許せない"」
――ライジも言ってたあの言葉
ダンジョンレース、Sクラスの人が、フィアを脅しながら言ってたこと。それに、俺が憤ったこと。
その際の俺からの言葉が、メディの口からも語られて、
「みんな、とても嬉しかったんだと思います、自分達のために怒ってくれる人がいて」
「それは、特別じゃないよ、みんな、みんな優しいから」
「ええ、そうです、ただ何よりも一番に、ご主人様がそれを示した、誰もが望んでいた言葉を、最初に言ってくれた」
そしてメディはにこりと笑う。
「思えばあの日から、私はご主人様に、ときめきを覚えてたかもしれません」
「メディ……」
「これまでのご主人様との日々は、私にそれを気づかせていきました」
メディは、少しだけうつむいて、自分の胸を抑える。
「主従関係――従者が主人に想いを寄せるなど、恐れ多く、あってはならない。それを知らぬ身ではありません」
ああそうだ、それは貴族と庶民の交わり並に、この世界ではタブーとされている。
「だからただの友人であろうと思ってた、けれど、……それじゃもう足りなくなってる、心が満たされない私がいます」
――心のからっぽ
それを語るメディを、俺はただみつめる。
「だけどその気持ちを告げる前に、私は」
そしてメディは、
「告白を、します」
そこで言葉を終えた後、
――沈黙し、そして
少し、震えた。
……ああ、きっとメディのことだ。
すっと、語らなければならないことを、言うつもりだったんだろう。
――メイドの里から逃げた理由
クリスタルレイクで、いつかきっと語ると言っていた、メディの過去。
だけど人に、自分の秘密を語ることは、勇気がいくらあっても足りないのは、俺自身がそうだったから知っている。
だから、俺は急かさない。
ただ、静かにみつめる。
彼女自身が、語るまで。
……そしてメディは、一度深く息をして、そして、
俺をしっかりと見据えて、
こう言った。
「私は、母を殺しました」
その言葉は、
「私は、人を殺す道具として、育てられました」
――私の能力は本来、人を傷つけるばかりで
入学試験の時の、あの言葉を思い出させた。
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