10-4 そんなこと
「うわぁ」
花火玉作りを中断してから、ライジに連れられてきたこの場所は、学園のいくつもある校舎のひとつ、その屋上。
ちょうど、大和の祭りと花火大会が行われるグラウンドを見晴らせる、展望素晴らしき場所だった。
「どうよ、大将! 花火を見るにゃあ最高のスポットだろ!」
「そ、そうだね、……でも問題はさ」
こんな絶景ビューなポイントの問題点、それは、
「思いっきり隠しルートを通ってきたことだけど」
そう、ここに訪れてこれたのは、階段でもなくハシゴでもない――第三校舎の廊下の壁に飾られている第四代皇帝の肖像画に、人差し指をさして特定の動きをこなしたあと、バッ!って唱えた途端に発動する、移動呪文で来られた場所だ。
「どうやら、|魔法院所属のトベッキー《【転移】スキル持ち》が、学園のあちこちに仕込んでいるものらしいぜ」
「学園に有事があった時の緊急避難用とかかな」
つまり、本来は気軽に訪れちゃいけないはずの場所、俺にとっては居心地の悪さが多少あるけれど、
「おお、俺達の屋台もよくみえるぜ」
ギャンブライジは気にしてない様子、……まぁライジって、スキルからしてアウトローな感じがあるし。
とりあえず、
「あの、ライジは」
聞かなくちゃ。
「なんで俺をここに?」
花火客のVIP席として、ここを使おうとかそういう提案だろうか。俺がそんな風に思った時、
「花火大会の夜、メディはここにいる」
「――えっ」
「花火を、私と見るか、セイカ様と見るか、決めてほしいってよ」
――その言葉は
「え、え、えっ」
俺に動揺を生むのに十分で、
「ええ!?」
「おお、想像通りのリアクションだな、大将、おもしれ~」
「おもしれ~、じゃなくて、メディが!?」
なんでそんなことに、と聞こうとしたら、
「俺と話してる内に、そういうことになったんだよ」
「ライジと、話?」
「ああ、見た目ともかく、中身じゃ色々悩んでるっぽかったからなぁ」
そこでライジはニカッと笑って、ポケットから何かを取り出して、
「腹の内を聞かせろやって、こいつで勝負してな」
ギャンブライジは、サイコロを三つ取り出した。それは掌の上にある時点で、全て、1の目で揃っている。
――ギャンブライジの【賽子】スキル
その能力は、サイコロを三つ振ってピンゾロの目が出た時、言ったことを実現するという、"事象確定"だなんてとんでもないもの。
ただ、これが本当なのか、ただのハッタリなのかは、クラスメイトはもちろん、スキル看破能力の【眼聖】スキル持ちのドロウマナコ先輩すら見抜けていない。
ただ、どちらにしろ、ライジは必ずサイコロで111を出し、そして言ったことをかなえてきた。
つまり、
「メディは、自分から話したかったってこと?」
「かもしれねぇな」
ギャンブルに負けたからしょうがない、そんなあからさまな建前がほしくて。
ただ、ひとつ気になることがあった。だけれども、
「まぁ本来なら、大将には俺からじゃなく、メディに直接言わした方がよかったんだろうが――」
気になってたことを、すぐにライジは補足する。そして、理由を言った。
「俺もちょいと、大将と話したかったからな」
「俺と?」
「ああ、色々とな」
そこでライジはふっと笑って、
「まともに考えりゃ、大将はセイカ様と付き合うべきだろうよ、聖女とメイドじゃ格が違う。断ったら、Fクラスどころか、学園、いや、帝国にどんな迷惑がかかるかわかんねぇ、下手すりゃ戦争がおきっかもな」
「せ、戦争って」
なんてこと言い出すんだと、思ったけど、
「――それでもよ」
ギャンブライジは、
「それでも俺は、人生を賭けるなら、メディだと思うぜ、大将」
「――ライジ」
それが、ライジが言いたかったこと。
……セイカ様とデートをして、セイカ様の思いに応えるか、
それを途中で切り上げて、この場所のメディへ赴くか。
|どちらを選ぶかその二択《ハーレム物は許されない》。
改めて今の状況を、まるで俺の為のように整理してくれたライジが、口を開く。
「まぁ、決めんのは大将だ、俺の話はこれで終わりだ」
そう言って、ライジは手の中のサイコロを、一度頭上を越えるほどに放り投げて、落ちてくるそれを横からかっさらうように握りしめる。
その姿に、俺は、
「ライジはいつもそうやって、俺達の為に動いてくれるよね」
そう、思わず笑顔とともにたずねていた。
「ん、なんのことだよ?」
「クラスで悩んでいる人がいたら、サイコロを振って決めようぜって、背中を押してくれてるよね」
そう、それは何度も繰り返して見た光景だ。
昼食を何にするかとかのような些細な問題から、故郷に帰るかという重大な決断、授業や冒険で戦っている時、危機に追い込まれた状況とかでも、ライジは、
「サイコロを振って――困難を乗り越える為の切っ掛けをくれた」
「そりゃあ買いかぶりすぎだろ大将、俺は博打をする理由が欲しいだけだ」
「そ、そんなことないよ、ほら、2ヶ月前だって、ダークエルフの闇カジノへ殴り込んだ時」
「ああ、大将達が調子にのって素寒貧になった時か! ありゃあ笑った!」
あれは本当にやばかった、森王様の依頼でエルフの秘宝を取り戻す為、メディを初めとしたクラスの女子達半分くらいと、それに平和の守護者のアンナさんが、バニーになって先に潜入して、俺とライジがギャンブルで爆勝ちして、って作戦だったけど、ライジの言うとおり、俺がギャンブルで負けてしまって、あやうく熱い鉄板の上で土下座させられるところだった。
「傍から見てりゃ、人間ってこんな簡単に人生が壊れんだなぁって、懐かしくなっちまったよ」
「――懐かしく」
あの姿を懐かしく覚えるって、ライジはどんな人生を送ってきたんだろう、と思いつつも、
「と、ともかく、俺はやっぱり大将の器じゃない、ライジの方がクラスのリーダーに相応しいよ」
そう、素直な感想を伝えると、
「そんなことねぇだろ、お前がいっから俺達はひとつにまとまってんだぜ」
「どうして」
「決まってらぁ」
そこでライジは、また、歯を見せて笑って、
「大将は、優しいじゃねぇか」
「優しい?」
「ダンジョンレースの時に、自分だけじゃなく、俺達の為に怒ってくれただろうが」
――それは
フィアがSクラスの人間に責められた時、Fクラスをバカにするようなことを言ったのを聞いて、
確かに、それで怒った、俺以外の皆じゃなくて、俺を含めた皆って気持ちで。
「あの時決めたんだ、俺は大将に賭けようって」
「い、いやそんなことくらいで」
「"そんなこと"が泣くほど嬉しかったんだよ」
そう言って、ライジは、
「命"賭"けで、ここまでやってきた俺にはな」
また笑う。
……そうだ、Fクラスに集まった人達は、いろんな過去を背負っている。
ライジが今まで生きてきた世界は、俺の前世なんかと比較にならないくらい、ひどいものだったのかもしれない。
「ライジ、あのさ」
そのことを、流れのままに聞こうとしたけれど、
「さぁてと! じゃあ俺はそろそろ行くぜ!」
その流れを絶つように、ライジは声をあげて、そして伸びをした。
「大将も適当に戻れよ」
「あ、うん」
「もう一度言うが、俺が賭けるならメディだ、けど決めるのは大将だ」
ライジは、
「悩むことを楽しめよ」
――メディと同じことを
悩むことを、肯定するようなことを、
「それが青春ってやつだろ、きっと」
そう言って、次の瞬間、シュンッと消えた。
「……ライジ」
去って行った、俺のクラスメイト、
……俺はもう一度、グラウンドの方を見る。そして、
「――【眼精】スキル」
【花火】スキルを上書きする形で、Sランクの【眼聖】スキルの下位版である、それでも、ひたすらに目の力が強化されるAランクのスキルを、俺は使う。そして、グラウンドへと更に目をこなして、
メディの顔を、見た。
その笑顔は笑っている、だけど、
――その奥に秘めているものは、きっと
……あまりじろじろと見続けるのは失礼だから、ただそれを確認した後、俺はもう一度、1週間のインターバルが経っている【花火】スキルをセットした。
まぶたを閉じて思い浮かべるのは、セイカ様と、メディの笑顔。
……悩むのを、楽しめ。
それが、青春。
ライジの言葉を噛みしめながら、青空を仰ぐ。
確かにこの悩みは、けっして、俺を不幸にするものじゃない。
――思わず微笑みを浮かべるのだ
そして俺は、
思うのだ。
「――こっからどうやって帰ればいいの」
何故俺は、何も考えず【花火】スキルを再装填してしまったのだと思ったが、後の祭り。
花火玉作りを考えれば、【花火】スキルを【脱出】スキルにする訳にもいかず、俺が屋上からグラウンドへと戻れたのは、それから2時間後のことだった。
ミラドちゃーん! と、心の中で叫ばなきゃいけないとか、どんな仕掛けなのトベッキーさん。
・更新情報
毎朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
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