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10-3 お兄ちゃんよ、聞け

 帝国歴1041年、10月21日。学園祭まで2週間を切った頃。

 ――俺がいるのは学園敷地の中央

 かつて入学式が行われ、そして、アンナさんの葬式も行われた開けた場所。その隅っこに俺は座り込み、様々な材料に囲まれながら、ある作業に没頭している。


 【花火】スキル Aランク

 スキル解説[ド―――(゜д゜)―――ン!と夜空に咲く花火玉を作れる]


 ……という訳で、望み通りのスキルを手に入れた俺は、ただひとり、今回の俺達の出し物(メイン)の、花火玉を作り上げていた。

 とはいえ、この花火玉は現実(前世)のに比べあまりにオリジナル(独自製法)、まず材料に、懸念されていた火薬は使わない。

 そのかわり、ドワモフ族のクリスタルケイブから、色とりどりの鉱石を取り寄せ、その砕いた物を、からっぽの玉の中にちりばめていき、そして中心に、点火系の魔法を火薬代わりに込める。

 こうしてできあがった花火玉は、魔力を込めてから空へ打ち上げれば、空に大輪の花を咲かせる"花火"になる。

 そしてもう一つの特徴として、普通の花火と違って、燃えカスが地上へ落ちることもない。


(先週、テストで打ち上げた時は、皆、凄い盛り上がってくれたな)


 取扱注意なのは間違いないけれど、本物の花火玉に比べれば危険性は低い、この世界ならではのオリジナルの花火玉を、俺は生産し続けていた。

 ――スマホの中じゃないリアルの花火を見る

 前世の今際の願い事を、今、この手で作り出している。

 だけど、


「お兄ちゃん」

「……」

「お兄ちゃんってば!」

「……」

「……チビ、やっちゃいなさい」

「ピキャー!」

「あいたっ!?」


 耳たぶを、チビ(ミニドラ)に噛まれなければならない程、俺の心は上の空。慌てて、チビを頭に乗せていないフィアに視線を向ける。


「ど、どうしたのフィア?」

「どうしたのじゃない、ちょっと休憩しなきゃ!」

「休憩?」

「……朝からずっと、花火玉を作りっぱなしじゃないお兄ちゃん、もうすぐお昼よ」

「ピキャー」


 あ、ああもう、そんだけ経っていたんだ。単純作業って時間を忘れさせて怖いな。……そんなことを思いながら、俺は周りを見渡して。


「にしても、私達の出し物が」


 そしてフィアは、自分の頭の上へとチビを呼び戻しながら、


「"花火大会と大和の祭り"になるなんてねぇ」


 そう言ったフィアの眺める先、つまり、催し広場の中央には、


「もっと柱は右に、そう、こうやって!」

「リンゴ飴だけじゃ寂しいし、ピーマン飴っての作らない?」

「射的って銃を撃つの!? 大和の祭りって怖くない!?」


 ……という会話が飛び交う中で、日本の夏祭り風の屋台が並び、そこで笑顔で、楽しそうに作業をするクラスメイト達がいた。

 そう、そしてこれは、セイカ様の要望だった。

 "ただ花火をあげるだけじゃ芸が無い、ついでに大和風の祭りを開くべきだ"、と。

 という訳で、俺達の出し物は、"学園祭"の中で”祭”をやるという、前代未聞のものになってしまった訳で。


「小規模とはいえ祭りは祭り、お姉様の平和の守護者の人達まで、協力してくれることになったし」


 そこでフィアは、また俺を見て、目を細めながら聞く。


「噂じゃこれって、皇帝エンリ様の為って聞いたんだけど」

「うん、セイカ様はそう言ってた」

「でも、大和の祭りを開くのが、なんでエンリ様の為?」

「セイカ様、こっそり学園祭に大和の国のセイリュウ様を呼んで、仲直りデートさせるつもりらしい」

「え、そ、そこまでのことするの!?」

「うん、……ああ、あとエルフリダ様もおしのび(身バレ禁止)でくるとか」

「あの金ビキニの尻出し王様が、おしのびとか出来るの!?」


 フィアとそんなやりとりをしている間も、青空の下、みんな楽しそうに作業をすすめていく。

 屋台は円形に展開して、その中心には、花火を打ち上げるスペースが用意されている。本来ならこんな至近距離でやるのは余りに危険だけど、さっきいったように花火玉自体の危険性の低さ、そして、ソーディアンナさんがバリア関係のスキルを持つ人達を手配してくれるとか。

 この会場にいる人達は、花火を下から眺められて、学園の屋上や、また、学園外からは、遠くから眺められるという趣向。

 そう、今からとても楽しみなことであるはず、なのだけど、

 今の俺の心を揺らすのは

 ――少しだけでええからうちのこと考えてて

 1週間前のセイカ様の言葉と、そして、


「――メディのことを考えてるでしょ」

「え?」


 フィアはそう、聞いてきて、


「な、なんで?」

「いやなんでって、この1週間、メディはいつも通りだけど、お兄ちゃんはギクシャクしてるじゃない」

「いやまぁそれは……」

「ていうか、メディはお兄ちゃんとセイカ様がデートすることを、どう言ってたのよ?」

「い、いやそれは」


 俺はそこで、視線を反らしながら、


「全力で楽しんできてください、って、笑顔で言ったよ」


 そう、俺はデートを受けたことを、下宿でメディに報告した。

 色々な反応を予想したけど、結果は、俺の言ったとおりだ。

 それは本来、メディらしい、素直な反応かもしれない。

 ――でも


「そん時、"ちょっとくらい嫉妬してくれてもいいのに"とか思ったでしょ」

「えっ」


 フィアに、心の中を覗かれたようなことを言われて、俺は目を見開く。


「い、いや、そんなことは、あるかも、だけど」

「それで、ショックを受けてると」

「い、いや、ショックっていうか……」


 慌ててごにょごにょしているだったが、


「お兄ちゃんよ、聞け!」

「ピキャー!」


 チ、チビと一緒に問答無用に黙らされる。炎がごうごう燃えている。


「メディの立場だったなら、そう言うしかなかっただけに決まってるでしょ! 内心、メディだって胸の中、お兄ちゃんと一緒でぐちゃぐちゃよ!」

「フィ、フィア」

「それでもメディが笑顔なのは――セイカ様のことを考えたから!」

「――あっ」


 ……そう、それは確信がある。

 だって、メディは、


「セイカ様の初めての恋、初めてのデート、……それを応援してあげたいんでしょ、メディは優しいから」


 そう、それが確かなこと。その事実をフィアは言った後、


「お兄ちゃんも優しいから、セイカ様の願いを断らなかったんでしょ」


 そう言った。

 ……確かに、俺がセイカ様へのお願いを断り切れなかったのは、セイカ様への好意の有無、濃淡、そんなパラメーターからによるものじゃなくて、もっと単純、

 異世界と同世界の違いはあれど、同じ転生者であること、そして、

 ずっと、やりたかったものが、夢があったこと。

 ――それを断るなんて出来やしない

 メディもきっと、そんな俺の気持ちに寄り添ってくれたのだろう、

 ……でも、

 それでも俺は、複雑な心のまま、

 祭り屋台設置作業を手伝ってる、メディの笑顔をみつめながら目を細めて――


「こぉら!」

「うわっ!?」


 その目がフィアの声で思いっきり開いた。フィ、フィア、なんか怒ってる。


「ああもう、なんで堂々とできないのよお兄ちゃんは! お兄ちゃんもメディも、何も悪いことしてないじゃない!」

「そ、それはそうなんだけど」


 うう、フィアが怒鳴る理由は、俺がうじうじしているからなのは凄い伝わった。

 確かに、情けない、もっとちゃんと構えていなきゃいけないのに。そう、反省していると、


「……はぁ、まぁ、でもその方がいいかもしれないわね」

「え?」


 そこでフィアは、俺に対して、


「だって施設じゃ、"そんなこと"で悩めなかったでしょ?」

「あっ」


 ――悩めなかった

 ……その言葉は、

 俺の胸の中に、ずっしりと来た。

 そんな呆然とする俺に、


「……うん、そうよ、お兄ちゃんは今のままでいい」


 フィアは、何か吹っ切れたように、


「そうやってデートの日まで、ずーっと腐ったようにうじうじしとけばいいんだわ、バーカ」


 そう言ったのだけど、その表情は、

 どこまでも優しい、微笑みだった。

 だから俺は、


「ありがとう、フィア」


 と、言えば、


「は、はぁ!? なんで馬鹿にしたのにお礼を言うのよお兄ちゃん!?」

「え、だって」

「あ、もういい! 絶対ろくでもないこと言うつもりでしょ、だから喋るな!」


 ろくでもないって、"フィアも優しいね”って言うだけなのに、あ、フィアが背中を向けて、


「もう、なんで私、間接的に敵に塩を送るような真似を、い、いや別に敵とかじゃないけど、お兄ちゃんがメディとセイカどっちともうまくいっても別になんとも思わないですけど」


 って、小声でブツブツ(聞こえない)言いながら去って行った、ていうか、メディとクラスメイトの輪のところまで移動した。

 ……俺はその様子を、相変わらずぼうっと眺める。

 もやもやを抱えて、うじうじと悩む。まさかそれを肯定されるとは思わなくて、


「……本当に、それでいいのかな」


 そう、思わず呟いて、

 本当にこんな中途半端な気持ちのまま、セイカ様とのデートに臨んでいいのだろうかって、そう、

 ――答えも用意しないままに

 そう、セイカ様の笑顔を頭の中に浮かべながら、

 現実では、メディの笑顔すらみつめて、

 その二つから目を反らすように、

 うつむこうとした、その時、

 バァンッ! っと、


「いって!?」


 せ、背中が爆発した!? なんか思いっきり叩かれた!?

 その痛みに喘ぐ俺が、振り向くより早く、


「よう、シケたツラをしやがって!」


 ――知ってるあの声が鳴り響く


「ちょっと俺に付き合えや、大将!」

「ギャ、ギャンブライジ!?」


 クラスで唯一、俺をそんな大げさな肩書きで呼ぶ、〔命賭けのギャンブライジ〕の姿がそこにあった。

・更新情報

毎朝7:00に投稿させていただきます!

ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!

https://www.neopage.com/book/32218968911106300

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