9-12 熱とぬくもり
――クリスタルレイクの辺にて
メディと入れ替われるように現れた、エルフリダ様から投げ寄越されたものは、
「こ、これが七大スライムの、{ディペンデンス}!?」
だった。
正確にはゲーム機! けれどこれはスライムの擬態、アイテム化したもの!
でも本当にこれが、ワクモフサンをニートにしちゃってたボススライム? そ、そんなわけ――いや、本当だ、じっと眺めていると【○○】が浮かんできそうになってる!?
「え、一体、どうやって!? ワクモフサンは引きこもってるから、部屋に入れるのは優勝者のメイドだけじゃ!?」
俺が思わずそう聞いたら、
「戯け、カバンの【収納】スキル、〈スル|ーフォーディメンション《入り口は出口》ョン〉で侵入なぞ朝飯前どころか夜食前よ」
「それはただの夕食でございます」
そ、そっか、その方法が、
――あれでもそれって
「あ、あのエルフリダ様」
「ああ、貴様がスライムを無害化させる手段は、聖女から聞き及んでいる」
「い、いえ、そうじゃなくて!」
そもそも、エルフリダ様がメディをさらった理由は、ワクモフサンに直接対面するには、メイドの優勝者が必要だったからと思っていた。だけど、カバンさんのスキルがあるのなら、
「――メディをさらう必要なんて無かったんじゃ」
……そこまで言って、俺は気づく。
今回の誘拐劇ってもしかして、
「俺とメディの為に?」
……エルフリダ様は、メディを脅してここまで連れてきた。それはとてもひどい事に思えるけど、
メディの過去が、誰かに利用される前に、
俺へ告白するように、仕向けたとも言える。
もしそうなら、エルフリダ様は――
俺が自ら出した答えに、
「くだらぬ!」
「ええ!?」
と、エルフリダ様は一喝した。
「全く貴様はどこまで人が良い? 俺様が、この騒動にかこつけて、貴様からあのメイドを奪おうとした――とは微塵も思わぬのか?」
「え、えっ!?」
「全く、頭の中でガーデニングでもしておるのか、善良も過ぎれば毒、いい加減それに気づけ」
「は、はぁ、ごめんなさい……」
つまり、エルフリダ様的には、ただただ純粋に俺からメディを奪い取ろうとしただけと。
ほ、本当にそうなのだろうか、やっぱり気遣いなんじゃないだろうか、とか思っていたけど、
「何をぼさっとしている、早くそのスライムを無害化せよ」
「あ、す、すみません」
そう、思考を許さず行動を促してくる。
「全く、あの男は何故お前のような者に気を配るか」
あの男――ああ、前も言ってたけど、エンリ様のことか。
聖女、皇帝、そして森の王、
……改めて俺は、とんでもない人間関係を築いているんだろうなと思いながら、
手の中のゲーム機を、じっとみつめた、
――次の瞬間
《外に遊びに行きたい?》
景色がモノクロームになり、
《勉強は?》
時が止まる中で、俺のトラウマが、再生される。
アパートの入り口に立つ、母親の影は、俺に語る。
《外に出るなんて許さない、遊ぶなんて許さない、私の下から離れるなんて許さない》
……メディが言ったとおり、母が、目の前で自ら死んだことで、
《それが貴方の為なのだから》
永遠に更新されない、ずっとずっと同じ姿をした、俺の記憶、
……確かに、転生は呪いなのかもしれない。
例え俺が、どれだけ平和な世界に行ったって、
この記憶と、ずっと生きていかなければならないのだから、
――それでも
「ごめん、母さん」
過去はけして消せなくても、乗り越えなきゃいけないものだから、俺は、
――ゲーム機から浮かび上がった【○○】に
願いを込めた。
【自由】
その瞬間、世界のモノクロームは解除され、クリスタルレイクの彩りの輝きの中、エルフリダ様達の目の前で、
俺の手の中の、スライムが化けたゲーム機は、
――運動靴へと変わった
「ほう」
「これは」
この異世界では見かけたことがない、歩き、走ることに特化したシューズ。
これを履けば、どこにでも行けそうな――
「……うん」
そんな、有り得なかった夢を見る、テンラ様曰く、欲望というにはささやかな願い。
俺にとっては、とても果てしない夢のはずなんだけど。
ともかく、スライムは無害化された。俺はシューズを片手でぶらさげるように持って、
「ありがとうございました、エルフリダ様」
と、感謝の言葉を伝えれば、
「礼を言うのであれば」
エルフリダ様は、こう言った。
「――抱かせよ」
「はい?」
抱かせろ?
え、ちょっと待って、どういう意味?
……え、ちょ、ちょっと、近づいてくる、歩み寄ってくる!?
抱くってまさか、
「ちょ、ちょっと待って、ダメです!」
「ダメとは何か?」
「いやその、色々と問題が!」
具体的には言えないけど、このままだとともかくまずい! けれどエルフリダ様は、体を揺らして近づいてくる。
「本当にダメです、なんか、メディに悪いです!」
「うむ? ……ああ、そうか」
そこでエルフリダ様は、立ち止まって、
――パチンと指を鳴らし
女性から男性へと肉体を変えた。
「これなら抱いてもよかろう」
「よくないです!?」
いやいや、セクシーからカッケーに変わってもやること同じ、待って、近づいて、顔良っ!? そのまま白魚のような指を俺に伸ばして、わ、わわわっ!?
――ギュッって
……エルフリダ様は、俺を正面から抱きしめた。
「エ、エルフリダ様?」
……予想とは違った抱く行為に、俺は混乱する、戸惑う、だけど、
なんだかあったかいような――
……そういえばこうやって、
誰かに、抱きしめられたことって、あったっけ。
俺が安らぎすら、覚え始めた時、
「以上!」
「うわっ!?」
そう耳元で叫んで、エルフリダ様は俺から磁石が反発するように離れた。
「なるほどな、そうか、まぁ、予想通りと予想外のその狭間ではあるな」
「い、いや、なんだったんですか今の?」
「バカめ、貴様に語る気なぞ無いわ、さぁ帰るぞカバン!」
そう言ってエルフリダ様は踵を返した。その後にカバンさんも、俺に一礼をしたあと去って行った。
ほ、本当になんだったんだ今の? けど似たようなこと、前にもされたような。
「――あっ」
スメルフだ。
抱きつきこそはしなかったけど、スメルフはあの時、かなり俺に密着して、俺の魂の匂いを嗅いだ。
エルフリダ様も、今の行為で、俺の中の何かを探ろうとしたんだろうか。
「……考えても、解らないか」
ともかく、俺もそろそろメディの所に行って、帰り支度を手伝おう、
と、思った時に、
――テロピロリン♪
……ん? あれ、なんだっけこの音。
あ、そうだ、スキルのシステムの呼び出しだ。
「……そういえば俺、今回、スキルからの試験のお題、失敗してるんだよな」
尻王様の尻を取る為のしりとりお題、でも、結果的にそれを放置した。
もしかして、LV3からLV2へダウンしてるのだろうか。それとも、試験は継続してるのだろうか。
俺は恐る恐るメニューを開き、スキル欄を展開した。
「え?」
――そこにあったのは
「ええええ!?」
・更新情報
毎朝7:00に投稿させていただきます!
ネオページ様の方で最新話を先行公開中! よろしくお願い致します!
https://www.neopage.com/book/32218968911106300




