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ラウンド4:利用された存在

(静かな音楽が流れる。照明が落ち、背景にはカスパーが微笑みながら大人たちに囲まれている絵画が映し出される。しかしその目線はどこか空虚で、誰も見ていない)



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あすか(静かに語る)

「カスパー・ハウザーの短くも鮮烈な人生には、いつも“誰か”がいました。

最初に彼を発見し、保護した人々。

教育を与え、世話をし、あるいは“物語”として語りたがった大人たち。

――そして、彼が死んだあと、彼を“伝説”に仕立てようとした者たち。

今回のラウンドでは、その“大人たちの思惑”に焦点を当てます。

彼は本当に守られていたのか? それとも、利用されていたのか?

探偵たちの鋭い視線が、今、その背後に迫ります。」



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ポアロ(両手を組み、静かに語る)

「まず申し上げたいのは、カスパー・ハウザーという存在は――“彼自身の意志”とは別に、多くの者の手で定義されてきたということです。

人々は彼を“奇跡の子”と称え、そして同時に“詐欺師”と呼びました。

そのどちらも、彼を“語りたい者たち”の都合によって生まれたラベルです。」


明智(頷きながら)

「つまり、彼の“真実”は、“他人の物語”に埋もれてしまったと?」


ポアロ

「その通りです。彼の周囲にいた者たちは、それぞれに違う目的を持っていました。

ある者は“世間の注目を集めるため”、ある者は“政治的利益のため”、ある者は“理想を体現する偶像”として。

そして彼自身は――その“像”の中で、ただ息をしていた。」



---


ナンシー(やや憤りを込めて)

「それって……彼は“人間扱い”されてなかったってことですよね?

おかしい。

彼の話を信じてくれるって思ってた大人たちまで、結局は自分のために使ってたって……なんか、すごく悔しい。」


ホームズ(冷静に)

「利用価値がある者は、常に利用される。それが現実だ。

“謎の少年”という存在は、当時の社会にとって格好の材料だった。」



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あすか

「その“材料”として最も大きな影響を与えたのが、“フォン・フィーアバッハ”という人物です。

彼はカスパーを保護し、教育し、後に彼の死を“国家的陰謀”と断じる文書を発表しました。

――今回は、明智さんが申請してくださった“証拠品”をご紹介しましょう。」


(スクリーンに、古びた紙に記された筆跡と、いくつかの追記が映し出される)



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あすか

「これは、フィーアバッハが記した“カスパーの日記”の一部です。

その中には、彼がカスパーの行動や言動を“詳細に記録し、整理し、分析していた”様子が記されています。」


明智

「注目すべきは、“教育”の名のもとに彼の“自由な言語”や“自発的な行動”を制限していた形跡があることです。

つまり、保護者でありながら――彼は、カスパーを“思い通りに制御できる存在”として見ていた。」


ホームズ

「加えて、彼がその死後に出版した書簡の内容も問題だ。

あれは、まるで“彼の死がなければ自分の主張は証明されなかった”かのような論調だった。」


ナンシー

「え、それって……死んだことで“都合が良くなった”ってこと?」


ポアロ(穏やかに)

「そう。彼にとっては、カスパーが生き続けるよりも、“伝説”となる方が都合が良かった。」



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あすか

「では、彼を支援した“もう一人”の重要人物――ビーバーバッハ婦人についても触れておきましょう。

彼女は慈善家としてカスパーに金銭的援助を与えていましたが、彼の死の直前、援助を打ち切っています。」


ホームズ

「それも興味深い点だ。

カスパーが“神秘性”を失ってきた段階で、彼を支援していた者たちが手を引き始めた。

つまり――“彼が魅力を失ったから切り捨てられた”という解釈が成り立つ。」



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明智うなずく

「つまり、“奇跡の子”という看板がなくなった瞬間、彼は“ただの若者”になってしまったと。

……それは、彼自身にとって最も残酷な変化だったのではないでしょうか?」


ナンシー(ぽつりと)

「なんか……ずっと、愛されたことがなかったみたい……」


ポアロ(目を閉じて)

「彼にとって、愛とは“役割の対価”でしかなかったのでしょう。

その役割――つまり“謎の少年”を演じることに疲れた時、彼はもう、誰にも居場所を与えられなかった。」



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あすか

「皆さんの意見を聞いていて、ひとつ思うことがあります。

それは――彼の“意思”はどこにあったのか?ということです。

彼はただ操られる存在だったのか、それとも、何かを選んでいたのか。

……この問いに、皆さんはどう答えますか?」



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ホームズ(短く)

「彼は“選ぶほどの自由”を持っていなかった。よって“操られていた”と断じるべきだ。」


ポアロ(ゆっくりと)

「わたしは、ほんのわずかでも“選ぼうとした痕跡”があったと信じたい。

それが、彼が最後まで“自分の名”を語り続けた理由ではないでしょうか。」


明智(優しく)

「“操られることを選ぶ”――そんな悲しい選択もあるのかもしれません。

孤独で、依存しか道がなかったとしたら。」


ナンシー(目を伏せて)

「……でも、彼が死んだあとも、誰かが“彼のことを話してる”ってことが……

少しだけ、救いかもしれないですね。」



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あすか(しみじみと)

「彼の人生は、たくさんの“大人たちの物語”に利用された。

でも、こうして今、名探偵たちが彼の“意志”を探ろうとしてくれている――

それもまた、ひとつの“居場所”になっているのかもしれませんね。」



---


あすか(視線を前に向けて)

「――次はいよいよ最終ラウンドです。

名探偵たちがたどり着く、“カスパー・ハウザーの真実”とは?

一人の少年の謎が、いま終わりに近づこうとしています。」


(静かな照明のもと、スクリーンが暗転し、「ラウンド5:カスパー・ハウザーの真実」の文字が浮かび上がる)

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