ラウンド2:バーデン家との関係
(ライトがわずかに暗くなり、背景のスクリーンにはドイツの地図が映る。
ニュルンベルク、そしてバーデン大公国の位置が光で強調される)
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あすか(ゆっくりと語る)
「さて、次なるラウンドは――『バーデン家との関係』。
カスパー・ハウザーをめぐる最大の謎の一つ。
彼は王家の子供だったのか? それとも、王家を騙った詐欺だったのか?
今日も世界中で、この問いに答えを出せた者はいません。」
(モニターには、バーデン大公カールとその皇位継承問題に関する系譜図が映し出される)
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あすか
「バーデン大公カールの正妻には子供がなく、王位継承をめぐって複雑な動きがありました。
その最中に、幼くして亡くなったはずの“皇太子カール・ルートヴィヒ”という子がいた――
そして、その“死”が不自然だったと囁かれるようになったんです。
さて、対談者の皆さん。カスパー・ハウザーが“その皇太子だった”という説、あなたはどう思いますか?」
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ポアロ(口元に手を当てて静かに)
「ムッシュー・カスパーの出生に関する噂が後を絶たないのは、それだけ“人々が真実を信じたがっている”証拠でもあります。
確かに、王家にとって“都合の悪い子供”がいたとしたら――それを隠したくなる動機は十分です。」
ホームズ(即答)
「根拠が乏しい。
この“皇太子すり替え説”は、死の真相を曖昧にし、民衆の興味を引くにはうってつけだ。
だが実際には、王族の遺児であったことを証明する直接的証拠は一つもない。」
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明智
「それは、“証拠がないから否定する”という、極めて西洋的な立場ですね。
日本では、“意図的に消された記憶”にこそ、もっとも危険な真実が潜んでいると考えます。」
ナンシー
「でも、カスパーって、手のひらが柔らかすぎて“労働経験がない”って当時から言われてたんですよね?
庶民の子供だったら、あんな手じゃいられないんじゃないかな?」
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あすか(補足しながら)
「実際、当時の報告では、“姿勢がよすぎる”“高貴な雰囲気がある”という証言もあります。
カスパー本人も、“自分は王子だった”とほのめかすような言動を見せていました。」
ホームズ
「子供の“記憶”ほど、曖昧で信頼ならないものはない。
しかも彼の記憶は、明らかに植え付けられたか、夢想の中で作られた類のものだ。」
明智(穏やかに)
「でも、“そう思い込ませた誰か”がいた可能性は否定できませんよね?
つまり、彼自身が騙されていたとすれば?」
ポアロ(頷きながら)
「まさに、そこがこの事件の悲劇性です。
彼は“王子であることを信じ込まされた”、あるいは“信じなければ、生きられなかった”。
――真実ではなく、必要に迫られた幻想。」
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あすか
「では、ここでポアロさんが申請された“証拠品”を見てみましょう。」
(スクリーンに、くすんだ羊皮紙と封蝋が映る)
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あすか
「これは、バーデン家の側近が残したとされる未公開の系譜手紙。
内容は、『正式な皇位継承権は他にあり、現王は王族ではない可能性がある』というもの。
この手紙、どう思われますか?」
ポアロ(やや誇らしげに)
「信憑性は未知数ですが、筆跡鑑定と時代考証から、少なくとも“当時のバーデン宮廷内部で疑念が渦巻いていた”という証拠になります。」
ホームズ(皮肉っぽく)
「曖昧な文章だ。
“可能性がある”などという表現は、真実を語る者の言葉ではない。
これは――“騒ぎたい者”の文章だ。」
ナンシー(言葉を探すように)
「でも……本当のことを言っちゃいけないときって、あるじゃないですか。
それでも、誰かに気づいてほしくて、ぎりぎりの言葉を残すとき……そういう“告発の形”って、私、すごく分かる気がする。」
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明智
「ナンシーさんの視点は貴重ですね。
文章の信憑性よりも、その“書かれた背景”を読む――
まさにそれが探偵の仕事です。」
ホームズ
「感情論だな。」
明智
「でも、ホームズさん。“動機”のない犯罪は存在しない。
それと同じように、“動機”のない偽装王子も、私は信じませんよ。」
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あすか(テーブルを見渡して)
「なるほど……皆さんの中でも、少しずつ立場が見えてきましたね。
カスパーが王家の子だったとしたら、それを隠そうとした“誰か”がいる。
逆に、そうでないなら――なぜ彼は王子にならなければならなかったのか。
この問いの先に、私たちが本当に見つけなければならない“謎の核心”があるのかもしれません。」
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ナンシー(真剣な表情で)
「私、思うんです。
彼の中に“本物の記憶”がどれくらいあったかなんて、もう分からないかもしれない。
でも、誰かがそれを利用してたとしたら、それってすごく――ひどいことですよね。」
ポアロ(静かに)
「ええ、マドモワゼル。
“王子”であるかどうかより、“彼がどう扱われたか”の方が、ずっと大事なことです。」
ホームズ
「扱われ方よりも、“事実”が重要だ。
私はそれを掘り起こし、証明する。」
明智
「それぞれの正義が見えてきましたね。
では、次は――その“最期”に迫りましょう。」
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あすか(微笑みつつ)
「ラウンド3、『死の真相』。
カスパー・ハウザーの人生は、なぜあんな形で幕を閉じたのか――
探偵たちは、真相を見抜けるのでしょうか?」
(照明が落ち、スタジオは新たな緊張に包まれる)