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雷鳴のラストピース  作者: 雨車狸
第三章 『白薔薇のレクイエム』
99/102

第三章14 『女の敵』

 7月5日・土曜日。

 零凰学園の合宿も、いよいよ三日目に突入していた。


 五種目の一つである海中索敵訓練(シー・トレース)は、広い海域に散らばった“発光石”を探し出す個人戦。

 感知系や妨害系、索敵系の能力者が圧倒的に有利とされるこの競技で、推薦生・鳴神翔太郎は例によって注目の的──いや、標的だった。


「あれが例の推薦生だってよ」


「十傑と組んでたチーム戦ならまだしも、個人戦なら何とかなるんじゃないか?」


「おい、高城さんからの命令だ。奴には点を取らせるな」


 そんな声が、海風に混じって聞こえた気がした。


 開始早々、翔太郎は妨害の集中砲火を浴びる。

 視界を曇らせる幻霧、索敵を乱す音波、足元の流れを逆転させる水流操作。

 まるで全員が敵に回ったかのようだった。


「分かってはいたけど、これだけ妨害されてると、目視で探すのは正直キツイか……!」


 水中に潜ったところで、視界が機能していないのであれば意味はない。


「試してみたい能力もあったし、丁度良いか」


 翔太郎は掌を海面にかざす。

 次の瞬間、海の底で“砂鉄”がざわめいた。

 砂浜から海中へと続く鉄分を帯びた粒子が磁場に引かれ、波のように広がる。


磁牢(じろう)!」


 ゼクスとの戦いから数ヶ月、翔太郎が雷の異能力と合わせて練習していた磁力操作である。


 潮の流れを読むように、砂鉄が海底を辿る。

 やがて、かすかな反応が返ってきた瞬間、翔太郎の目が鋭く光る。


「──見つけた」


 発光石と思わしき物体を砂鉄が感知した瞬間に、翔太郎の身体が雷閃に包まれ、妨害していた生徒が瞬きする間に海を裂いて潜る。


 ──雷閃が海面を貫く。

 眩い閃光が弾け、次の瞬間には発光石を手に海から浮上していた。


 他の生徒たちが唖然と見守る中、翔太郎は軽く水を払って息をつく。


「よーし、妨害されてる状態でも砂鉄は操れるようになったし、ゼクスと戦った時に比べても、だいぶ精度が上がってきたな」


 その表情は妨害を跳ね除けたことに勝ち誇るでもなく、ただ静かに自身の成長を感じ取っていた。

 こうして翔太郎は、数的不利の課題だった海中探索訓練(シー・トレース)を難なく突破したのだった。




 ♢




「あちー……」


 昼過ぎ。

 午前中に課題を終えた翔太郎は、砂浜のパラソルの下に寝転んでいた。

 赤いパラソルの影の中、ブルーシートの上に寝そべり、ペットボトルを枕代わりに空を仰ぐ。


 頬を撫でる潮風と、波の音。

 それだけで眠れそうな午後だった。


「心音、ボール高すぎ。反則スレスレ」


「ふっふっふ、甘いよアリシア! このぐらい反応できなきゃだよねぇ、玲奈?」


「心音の言う通りです。連続で落とした人は、かき氷奢りですからね」


 目の前では、玲奈・アリシア・心音の三人が水着姿でビーチバレーに興じていた。


 玲奈は日差しを受けて輝く黒髪を揺らし、アリシアは無駄のないフォームで静かにトスを上げる。

 そして心音は笑顔で飛び跳ね、まるで夏そのもののように眩しい。


 砂を蹴り上げ、ボールが弧を描き、三人の笑い声が波の音に混じって弾ける。

 それは、ついさっきまで緊迫していた訓練の空気が嘘のような、穏やかな時間だった。


(……可愛い)


 普段は友人として接している分、あまり意識してなかったが、十傑の女子たちはみんな容姿端麗である。

 彼女たちの楽しそうな姿を見た翔太郎は腕を額にかざし、ふっと息を漏らした。


 目の前の光景は、まさに目の保養そのもの。

 疲れ切った脳に、三人の水着姿がまぶしすぎて正直ちょっと刺激が強い。


「なんか馬鹿みたいなこと考えてるぞ、俺……」


 夏のテンションに当てられて、彼女たちに邪な考えを抱き始めてしまった。


「鳴神くーん!」


 砂浜の向こうから、心音がぱたぱたと手を振りながら駆けてくる。

 太陽に照らされるその姿は、まさに夏の絵画から飛び出したようだった。


 健康的に焼けた肌、白と薄緑のストライプのビキニ。

 水しぶきを弾かせながら走ってくるたび、彼女の豊満な胸元が弾み、思わず翔太郎は視線のやり場に困る。


(──でっっっっっっっ!?)


 本気でびっくりした。

 普段、それほど気にしたことは無かったが、露出の多い水着だと注目せざるを得なかった。

 正直、翔太郎にとっては先程の課題よりも集中力が試されている。


 周囲の男子たちも既にに気付いていた。

 十傑の女子三人が並んでビーチバレーに興じているというだけで、先ほどから、砂浜の視線はほぼ彼女たちに釘付けだ。

 そんな中で、先陣を切ってこっちに向かってくる心音は、まるで夏の主役みたいだった。


「鳴神くんはこっちに混ざらないの?」


「今は日向ぼっこ中。午前中に結構泳いでて、身体中疲労まみれっていうか……」


「えぇ〜? せっかく海来たのにもったいないって!」


「合宿自体はあと七日間もあるし、明日も課題あるから、今は抑えてんの」


「そっかー……でもさ、せっかくみんな集まってるんだし──」


 心音が少し唇を尖らせる。

 そこに、砂浜の奥から玲奈とアリシアもゆっくり歩いてくる。


 玲奈は黒いパレオを腰に巻き、長い黒髪を指で払いながら言った。


「翔太郎も結構休憩して時間経ってますし、こっちで一緒にバレーしませんか?」


 黒地に深い紺のラインが走る、シンプルで落ち着いたビキニ。露出は控えめだが、彼女の整った体のラインを逆に引き立てている。


 雪のように白い肌と、陽の光を反射する濡れた髪。

 まさに凛とした美しさ。

 他の誰よりも静かに、けれど圧倒的に目を引いた。


 その隣でアリシアが軽く腕を組む。


「てか今すぐ混ざってくれないと、このままだと私が連続で落としてかき氷奢る羽目になる。命令、翔太郎もバレーに混ざって」


 アリシアは対照的に、ピンクのフリル付きビキニ。

 小柄な体に似合う可愛らしいデザインで、どこかあどけなさすら感じさせる。

 引き締まった上半身に乗る柔らかな布地、その絶妙なバランスが目の毒だ。

 身長が低いのもあって、見た目だけなら中学生くらいにも見えてしまうが、その静かで紅い瞳が年齢を感じさせない。


「うーん……ちょっと考えさせて」


 翔太郎は困ったように笑った。

 正直、今の状態でバレーに混ざったら、集中力を欠いてボールを落とし、彼女たちにかき氷を奢る羽目になりそうだ。


 太陽の下で光る汗の粒、そして一歩進むたびに揺れる胸元。

 浜辺の男子たちの視線が、自然と彼女たち三人へと吸い寄せられていった。


 ──そんな中、翔太郎がぼんやりと三人を見つめていたことに、彼女たちはすぐ気付く。


「……え、翔太郎。なんかこっちをじっと見てませんか?」


「……いつもと違って、視線がなんかやらしい」


「……もしかしてアレじゃない? 私たち、水着だから鳴神くんも意識せざるを得ないとか?」


 玲奈が眉をひそめ、アリシアが目を細めていると、心音が軽いノリで爆弾を投下した。


「「……えっ!?」」


 玲奈とアリシアの頬が同時に真っ赤に染まる。

 一気に空気がぐらりと揺れた。


 三人は慌てて集まり、砂浜の隅っこでヒソヒソ会議を始める。


「ちょっと心音。今の聞かれたらどうするの」


「だって事実じゃん? ほら、私たちが鳴神くんの前で水着になるのって今回が初めてだし」


「で、でも、あの翔太郎ですよ? 普段そんなこと気にするような人じゃ……」


「それが落とし穴なんだって。玲奈は気づいてないけど、鳴神くんってギャップに弱いタイプかもしれないじゃん?」


「ギャップ……ですか?」


「普段、玲奈みたいにクールで綺麗な子が可愛い水着とか着たら、そりゃ男子は見ちゃうって! ね、アリシア?」


「な、なんで私に振るの……っ」


 わちゃわちゃしてるうちに、玲奈がぽつりと呟いた。


「……でも私、昨日は一応、翔太郎と一緒にビーチバレーしたはずなんですが、水着の感想は一言も言われませんでした」


「「あー……」」


 アリシアと心音が気の毒そうに玲奈を見つめた。

 無論、翔太郎も気にはしていたが、それ以上に玲奈の様子がおかしかったのもあって、ビーチバレーの試合前は談笑する雰囲気では無かったのだ。


「タイミングじゃない? ほら、昨日は課題始めで、鳴神くんもそこまで余裕無かったとか?」


「……別に気にしていませんが」


 玲奈はそう言いつつも、かなり不満げな様子だった。


「ねぇ、どうする? 鳴神くんに聞いてみる?」


「私はやめといた方が良いと思う」


「なぁに、アリシアもしかしてビビってんの?」


「そ、そういうわけじゃ──」


「大丈夫だって。アリシアが聞きづらそうにしてるから、私が鳴神くんにバッチリ聞いてあげるね」


「別に頼んでないんだけど……」


 そして数秒後。


「むふふ……」


 心音がにやりと笑いながら、アリシアの肩をポンッと押し出した。


「ねぇ鳴神くん、今日のアリシアの水着どーお?」


「──なっ!?」


 その瞬間、アリシアの表情が理解に追いつく前に、まず顔だけが真っ赤に爆発した。


「ちょ、心音っ!? いきなり何言って──!」


 声は裏返り、胸元を押さえながら肩は跳ね、普段の無表情な彼女とは似ても似つかない動揺ぶりだ。


 玲奈はといえば、わずかに目を伏せて砂浜へ顔を向ける。

 視線を逸らす仕草は淡々としているのに、雰囲気だけは、妙に刺さすような冷たさがあった。


 一方、心音だけは満面の笑顔。

 罪悪感ゼロの天真爛漫でアリシアを追い詰める。


「ほらぁ、鳴神くんが答えないと、アリシアが一番気にしてるみたいに見えるよ〜?」


「見えるんじゃなくて、そうさせてるのは心音でしょ……!」


 わちゃわちゃと押し問答が続く中、翔太郎は突然、心音の視線が自分に向けられていることに気づいた。


 ──やばい。

 これ、完全にコメントを求められてる流れだ。


「え、あ、俺……?」


 言葉が喉の奥でひっかかる。

 頭の中では、猛烈な速度で思考が回り始めた。


(どう答えるのが正解だ……?正直に似合ってるとか言ったらキャラが違うって思われそうだし、黙ってたらそれはそれで空気読めない奴だ。でも微妙なんて言ったら普通に最低だし)


 焦るほど、言葉は出てこない。


 言えば地雷。黙っても地雷。

 地獄の選択肢しかない。


 横を見ると、玲奈が静かに彼を見る。

 声はないのに「逃げるなよ」と言われた気がした。


(まずい、時間切れだ)


 翔太郎は観念して、苦し紛れに言葉を吐き出した。


 翔太郎は、一瞬だけ息を整えた。

 そして気づいたら、言葉が口から溢れていた。


「似合ってると思うよ。いや、すごく可愛い」


 アリシアの動きがぴたりと止まる。


 翔太郎は続ける。

 普段通りの表情のまま、丁寧に。


「綺麗な金髪と明るいピンク色の水着の組み合わせが綺麗だと思う。それでいて、表情とか仕草は、いつものアリシアでさ。それが可愛いというか。ギャップって言うのか? なんか、うまく言えないけど」


 一言一句聞き逃さなかったアリシアの肩が震えた。


 真っ赤だった顔が、さらに赤くなる。

 赤色の概念が更新されたんじゃないかというくらい。


「っ……〜〜〜〜っ!!?」


 まるで限界を突破したみたいに、アリシアは反転し、砂を蹴って海へと全力ダッシュした。


「アリシア!? ちょっと、待ってよー!」


 心音が慌てて追いかけていく。

 二人の足跡が砂浜に残り、波がそれを少しずつ消していく。


 取り残された翔太郎は、ぽかんと口を開けた。


(……感想聞かれたから答えただけなのに)


「……」


「うわっ、ビックリした!?」


 気が付けば、玲奈がすぐ横に座っていた。

 足音も気配もなかったのに、まるで最初からそこにいたように静かだ。


 彼女は海を見つめたまま、微動だにしない。

 潮風が玲奈の髪を揺らし、波音だけが二人の間を満たしていた。


 ──なのに。

 その沈黙は、なぜか冷たく感じる。


「……玲奈?」


 恐る恐る呼びかける。

 玲奈が、ゆっくり視線だけをこちらへ向けた。


 その蒼い瞳は、いつもより深くて暗い。

 怒ってるというより、どこか拗ねた子供のような湿った影。


「……翔太郎って」


「う、うん?」


「女の子を褒める時、あんなに饒舌になるんですね」


「はい……?」


 落ち着いた声なのに、何故かこちらを刺してくるような雰囲気を帯びていた。


「側から見たら、アリシアを口説いてるようにしか見えませんでした」


「いや、口説くって……。あれは、なんか勢いで言っちゃったっていうか。心音がアリシアの水着がどうのって聞いてきたから……」


「へぇ……。勢い、ですか」


 勢いとは、どういうことなのか。

 タイミングさえ合えば、彼は誰彼構わず、似たような台詞を吐いて相手を混乱させてしまうのか。


 それは、それで見過ごすのが嫌だった。


(……なんか、玲奈の機嫌悪い? いや、なんで?)


 先ほどから、彼女は驚くほど静かだ。

 翔太郎は心底困惑していたが、玲奈の胸の奥では違う感情が渦巻いていた。


「…………私には?」


 翔太郎には聞こえない声で呟く。


 どうして、彼はあんなに素直に誰かに可愛いと言えるのに、自分はまだ何も言ってもらえないのか。


 ──私の水着だって、昨日も今日も見てる筈なのに。

 ──今だって、誰よりも隣に座っているのに。


「……で?」


「えっ、え、何?」


「私の水着の感想です。まだ聞いていなかったので」


 言った瞬間、自分の言葉に玲奈自身が僅かに驚く。

 どうして、こんなことを言ってるんだろう。

 そんな戸惑いが目に滲む。


 だけど、あんな風に考え出したら、自分から話を切り出さずにはいられなかった。


 でも、それ以上に──彼に似合ってると言って欲しいという、どこか無自覚な気持ちが勝っていた。


「あ、あぁ……そうだな」


 翔太郎は視線を泳がせる。


 言葉が出てこない。

 アリシアを褒めた直後だからこそ、簡単に口にできない。

 もしも不用意な発言をしたら、玲奈を傷付けてしまうかもしれない。


(なんで、みんな俺に水着の感想求めてくるんだ……!?)


 玲奈はじっと、目を逸らさずに彼を見据えていた。

 視線を受け止めるたび、翔太郎の喉が鳴る。


 無言の時間がじわじわと伸びていく。

 潮風が玲奈の黒髪を撫で、光を受けて艶やかに揺れた。

 波の音だけが、二人の間の沈黙を埋めていた。


 十秒。

 その短い沈黙が、玲奈の胸にはひどく長く伸びて感じられた。


 翔太郎の答えは──来ない。


 彼は、何も言わない。

 期待して、期待して、また期待して。

 その繰り返しに、自分だけ疲れていくような気がした。

 胸の奥が縮まり、喉の奥が酷く空っぽになる。


 玲奈は小さく息を吐いた。


「……ごめんなさい。いきなりこんなこと聞いてしまって、迷惑でしたよね?」


 自分の声が思った以上に弱かった。

 まるで、さっきまで首まで満ちていた期待を、指先からぽとりと落としてしまったみたいだった。


 もういい。

 これ以上求めたら、彼に面倒がられるかもしれない。


 少し苦い笑みを浮かべて立ち上がり、砂を払う。

 その横顔には、にじむような寂しさが張り付いていた。


 その瞬間、翔太郎の胸の奥に危険信号が走る。

 玲奈の静かな諦念に、氷嶺家にいた頃の彼女の姿を見ている彼には敏感だった。

 数ヶ月の同居で、嫌でも分かってしまうようになった。


「ま、待って玲奈!」


 声が出るより先に、体が動いていた。

 玲奈の足がぴたりと止まる。


 彼女の複雑そうな表情に胸が痛んで、翔太郎は慌てて言葉を重ねる。


「昨日のビーチバレーの時は、恥ずかしくて言えなかったけど……二年生の中で一番、玲奈が水着似合ってるよ」


 一瞬。

 玲奈の思考が、本当に止まった。


「……え?」


 波の音さえ、遠くなった気がした。


 胸の奥で、何かが跳ねる。

 酸素がうまく吸えない。


「本当ですか?」


 声が震えたのは、もう隠しきれない。


「うん。一番、似合ってる」


 その一番という単語が、玲奈の心臓に直接触れた。

 ほんの一秒前まで、アリシアの影に押しつぶされそうになっていた思考が、一気に色を取り戻す。


「私が一番……?」


 アリシアよりも?

 本当に……?


 胸が忙しなく跳ね続ける。

 苦しいのに、止められない。


「似合ってるっていうのは……その、可愛いって意味ですか?」


「まぁ……そんな感じ」


 一拍置いて、胸の奥が急激に熱くなる。


「そんな感じって何ですか、それ……もっとちゃんと……」


 声が掠れ、視線が泳ぐ。

 心臓がうるさくて、言葉が追いつかない。


 翔太郎は、観念したように息を吐いた。


「……横から見たラインがすごく綺麗でさ。肩から腰にかけての感じが、普段よりずっと大人っぽく見える。並んで歩かれると、俺が子供っぽく見えるっていうか……」


「ぅ、あ……!」


 玲奈の喉がひくりと震えた。


(……そんな具体的に……言われたら……)


 足元が少しふらつくほどの衝撃。

 胸の奥で困惑と歓喜が混ざり合って、呼吸の仕方を忘れそうになる。


 翔太郎は続ける。


「普段の玲奈って、クールなイメージあるけど。今日の水着はちょっとだけ無防備で、でもちゃんと似合ってて、そのギャップにびびったんだよ。なんか見た瞬間に目が止まった」


 玲奈の思考が、また止まる。


(見た瞬間に……? 目が……止まった……? 私の……水着に……?)


 もう無理だ。

 頬が焼けるほど熱くなる。


「……学年で一番?」


「うん。誰よりも綺麗だと思う」


 玲奈の胸がまた跳ねる。

 さっきより、もっと強く。


「本当の本当に?」


「本当だってば。その、普通に恥ずかしいし、あんまり深掘りしないでもらえると助かるんだけど」


 その一言で、玲奈の感情が一気に溶けた。

 胸の奥で膨らんでいた黒い霧が、乾いて崩れ落ちていく。


「ふ、ふぅん……。そうですか。へぇ……学年で私が一番、ですか……」


 声は完全に上ずっていた。

 自分でも理解できないくらい、感情が暴れ回っている。


 アリシアと同じで、ちょっと褒められただけ。

 ただそれだけのはずだ。


 なのに――胸の奥で、熱が一気に膨らむ。

 さっきまで胸を締めつけていた重さが、一瞬でほどけていく。

 代わりに、期待がどんどん湧き上がる。


(……どうして? どうして翔太郎に言われると、こんなに……)


 理由も分からない。

 ただ、翔太郎の視線と関心が、自分だけに向けられていることがたまらなく嬉しい。


 もっと欲しい。

 もっと、聞きたい。


 玲奈は唇の端を上げる。

 求める気持ちが、抑えきれずに滲み出た笑みだった。


「……どこが翔太郎のお気に入りですか? 具体的に、言って欲しいです」


「え?」


「適当に言っていないのであれば、答えられるはずです」


「っ……!」


 玲奈の挑発的な瞳に、翔太郎は観念したように息を吐き出した。


「……個人的には、その黒の紐のやつ。玲奈の肌の色と合ってて、思った以上に綺麗だった」


 言われた瞬間、玲奈の身体の奥に、火花が散ったように熱が走った。


「っ……」


 胸の奥が一気に熱を帯び、耳までカッと赤くなる。

 まさか、そんな感じで来るとは思わなかった。


 嬉しい。

 でも、恥ずかしい。

 でも、やっぱり嬉しい。

 その全部が一気に押し寄せて、玲奈は視線を逸らしながら呟いた。


「……変態」


「そっちが言えって言ったのに!?!?」


 翔太郎の全力のツッコミが海に響く。


「そういう感じで来るとは思わなかったんです」


 玲奈は頬を手の甲で隠しながら、まだ耳まで赤いままだった。

 胸の鼓動がぜんぜん落ち着かない。


 翔太郎が必死に続ける。


「まぁ、いつもと雰囲気違くて、びっくりしてるっていうか。ちゃんと言葉にするの難しいんだけど、今日の玲奈、普通に可愛いからさ」


「普段の私が可愛くない、という意味ですか?」


「そ、そうは言ってないだろ」


「ふふっ……確かにそうかもしれませんね?」


 玲奈の声は笑っているのに、心の奥ではもっと別の鼓動が鳴っていた。


 胸の奥は甘い熱で満たされていく。

 先程までの寂しさや不安は、跡形もなく消えていた。


「……なるほど。翔太郎なりに、ちゃんと色々言葉を選んでくれたみたいで嬉しいです」


 玲奈の表情は、さっきまでの曇りが嘘のよう。

 頬に宿る赤みはまだ消えず、どこか照れて、それでいて嬉しそうだった。


 玲奈はそっと、翔太郎に近づいた。

 ほんの数十センチ。

 お尻一つ分──普段の玲奈なら決して縮めない距離。


 潮風では隠しきれない、ほの甘いシャンプーの香りが漂う。


 翔太郎は息を呑む。


「玲奈……?」


「いえ。なんでもないです」


 玲奈は微笑みながら視線を伏せる。

 胸の奥はまだ騒がしい。

 その忙しさはもう不安ではなく、ただの甘い熱だ。


「……ありがとうございます。翔太郎」


 小さく、でも確かに震える声。

 そして、合宿中で一番柔らかい笑顔。


 視線が自然と、翔太郎の肩に吸い寄せられる。

 彼の横顔はよく見慣れているはずなのに、今日はやけに近くて、息が触れそうで、胸が跳ねる。


 そんな甘い空気が二人の間に広がっていた、その時だった。


「おやぁ〜? お二人さん、なんだか良い雰囲気じゃない?」


「リルカちゃん、こういう時はそっとしてあげないとダメなんですよぉ?」


 突然、背後から声が降ってきた。


 玲奈と同時に振り向くと、天童リルカと水橋美波が、水着姿で立っていた。


 リルカは紫髪のツインテールを揺らして、いかにも面白いものを見たと言わんばかりの笑顔。

 胸元は心音に匹敵するほど大きく、太陽の光を反射して眩しいくらいだ。


 一方の水橋は、群青色のゆるふわウェーブ髪を潮風になびかせながら、のんびりとした表情。

 その抜けるような間のある微笑みは、玲奈とは正反対のタイプだ。


「珍しい組み合わせだな。涼介とか影山は?」


 翔太郎がそう尋ねると、リルカはツインテールを指先でくるりと回しながら答えた。


「え〜? あたし、鳴神くんにさっき露骨に話そらされたんだけど〜? まぁいっか。うちの涼介は、今課題中。あと二十分くらいで戻ってくると思うニャ〜?」


「龍樹も課題中ですよぉ。なんだか高城くん達に絡まれてて、心配でしたぁ……」


 水橋はゆっくり瞬きをしながら、ほんわかした声で言う。


 どうやら二人とも、それぞれ頑張っているらしい。


「でで? ナニナニ? お二人さん、とうとうデキちゃったの〜? 特に鳴神くんなんて、昨日まで二股疑惑があったのに」


「それは御手洗が勝手にかけてただけだ」


「そ、そうですっ! 私たちは、健全なパートナー同士なんですから。日常会話くらい普通ですっ!」


 玲奈は胸を張るが、言ってる途中で声がどんどん細くなる。


「へぇ〜? 思いっきり鳴神くんに水着褒められて、ほっぺ真っ赤にしてたクセに〜?」


「どこから見て──!?」


 リルカの指摘に、玲奈の肩が跳ねた。

 翔太郎から見ても分かるくらい、耳まで真っ赤に染まっている。


 玲奈は、正直リルカが少し苦手だった。

 テンションが違うというのもあるし、言葉の一つひとつが容赦なく核心を突いてくる。


 けれど、否定できない自分がまた苦しい。


「で、二人は今何やってたのぉ?」


 水橋が海の家のアイスキャンディーを食べながら、ふわふわした声で尋ねてくる。


「今は日向ぼっこ中。午前中に泳ぎまくって疲れたからな。玲奈たちはさっきまでビーチバレーしてたな」


「ビーチバレー? あぁ、そういえば昨日お二人さんが一番最初に課題で満点取ったんだっけ?」


 玲奈の凄まじいプレーは、もはや学年中に広まっており、さすがにリルカにも知られているようだった。


「知ってるのか?」


「知ってるの何も、あたしあの時試合見てたもん。玲奈ちゃんも、め〜っちゃキレのあるレシーブしてたくせに、鳴神くんの隣戻ってきた瞬間テンション違くない? ギャップが凄くて可愛すぎ〜!」


「み、見てたんですか!?」


「そりゃ見るでしょ〜、特に玲奈ちゃんみたいな美人のバレーは絵になるしねぇ?」


 玲奈はますます真っ赤になり、とうとう翔太郎の肩に視線を落とした。


「てかビーチバレーさ! あたしも混ざりたいんだけど?」


「え〜、リルカちゃんやるのぉ〜?」


「やるやる。だって涼介、全然戻ってこないし〜暇すぎるんだよね。……で、水橋っちも来るよね?」


「私は……龍樹の様子見ながらですけど、やってもいいですよぉ?」


「オッケー、なら決まり!」


 リルカは満足げに指を鳴らすと、ふっと翔太郎と玲奈を見た。


「で、あたしら今から心音っちとアリシアちゃんの方に行くけど──二人はどうするの?」


 突然の問いかけに、翔太郎と玲奈は同時に顔を見合わせる。

 玲奈は翔太郎を見つめ、彼も少し迷うようなそぶりを見せるだけで決められない。


 その優柔不断さが面白かったのか、リルカはケラケラ笑いながら手をひらひら振った。


「じゃー気が向いたら混ざんなよ! それまで、いちゃラブ日向ぼっこでも楽しんでてねぇ〜!」


「い、いちゃラブ!?」


 玲奈の声がひっくり返る。

 頬だけじゃなく、耳の先まで一気に赤くなる。


 翔太郎は咳払いで誤魔化しつつも、リルカの容赦の無さに呆れるしかなかった。


 そんなリルカ本人はお構いなしに、水橋の手をぐいっと引っ張って走り出す。


「ほら水橋っち、行くよ〜!」


「わわっ、ちょ、ちょっと待ってよぉ!」


 二人は砂浜を駆け、海辺で遊ぶ心音とアリシアの方へ一直線に向かっていった。

 紫のツインテールが跳ねるたびに、玲奈はさらに顔を赤くする。


 そして残されたのは──気まずくなった翔太郎と、真っ赤で固まる玲奈の二人だけ。


「……あー、その。どうする?」


 翔太郎がぽりぽり頬を掻きながら声をかける。


「ビーチバレー行く? それとも、いちゃラブ日向ぼっこ、続行するか?」


「し、ししししません!!」


 玲奈の顔が爆発みたいに赤くなり、そのまま勢いよく翔太郎の手をつかむ。


「い、行きます! ビーチバレー……行きますから!!」


「わっ、お、おう!?」


 手を引っ張られ、翔太郎はバランスを崩しながらも玲奈に連行される形になった。


 海風に揺れる玲奈のポニーテールは、怒っているのか照れているのか分からないくらい、ぶんぶん揺れていた。




 ♢




「それっ!」


 水橋の柔らかい声が海風に混じって響く。

 打ち上げられたボールはふわりと上昇し、弧を描きながらリルカの方へ落ちていく。


「甘い、甘い、甘すぎるって!」


 リルカはギャルらしい軽快さで水中を蹴り、指先ギリギリでボールを捉えた。

 風で軌道がブレているはずなのに、それを当然みたいに力強く返す。


 ボールが飛ぶ。

 きれいな放物線を描き、アリシアへ落ちる。


「やっ」


「それっ!」


 アリシアの軽い掛け声。

 そのボールを心音が追い、玲奈に向けて絶妙な角度で返す。


「はぁっ!!」


 玲奈はほとんど反射のように飛んだ。

 足が水面を蹴って跳ね、黒髪が大きく揺れる。


 空を切るように伸ばした腕でボールを叩きつける。

 音が水面に響き、衝撃が翔太郎の胸にも伝わった。


 何というか、一人だけ別格過ぎて気合の入り方が違う。

 異能力だけではなく、運動神経も抜群な玲奈は、能力を使うことを禁止した水中バレーでも大活躍である。


「はい、翔太郎が落としました」


「いや無理だって、水面に叩きつけレベルのスパイクは」


「ふふ、言い訳は無しですよ。次は翔太郎からです」


 翔太郎がトスを始めて、すぐに周りからの視線が気になった。


 注目を浴びているのである。

 というのも可愛い女子が一同に集まってバレーをしているのもそうだが、十傑を含んだ彼女たちが水着姿である。


 学園の生徒だけではなく、一般で海水浴場に遊びに来た老若男女も視線を向けてきた。


 しかし、六人で遊んでいるものの、男子は翔太郎ただ一人。

 明らかに浮いている存在である。


(ぐっ……俺だって分かってんだよ。女子ばっかと遊んでれば、そりゃ悪目立ちするって……!)


 ただ、翔太郎の知り合いで仲が良い男友達は限られている。

 それこそ、二日前に初めて話した涼介が、男友達の中で一番親しいと言えるのではないかという状況だ。


 もう開き直って彼女たちとバレーに興じていると、近くにいた心音がこちらに寄って来た。


「ねぇねぇ、鳴神くん」


 心音だった。

 白いビキニの肩紐を軽く直しながら、にこっと笑う。


「なんか玲奈、凄いご機嫌だね」


「まぁ、そうだな。なんか昨日や一昨日に比べると元気だよな。なんかあったのか?」


「……」


 何故か、心音が馬鹿を見るような目でこちらを見てくる。


「ねぇ、本当に気付いてないの? 鈍感すぎるってのも考えものだと思うけど」


「な、何がだよ」


「玲奈が不憫だなって話。改めて見るとさ、玲奈ってやっぱり綺麗だよね。二年で一番なんじゃない?」


「かもな」


 それには同意するしかなかった。

 というのも、翔太郎は零凰学園に来てから、まだ彼女以上の容姿を持った存在に出会ったことが無いからだ。


 最近、ようやく翔太郎は理解したが、玲奈は自分が学園で目立つ存在であることを自覚している。

 故に、彼女は学園での立ち回りは全て計算されたものだろう。注目を浴びることもいつもの事なので気にしていないし、ある意味翔太郎を男避けにも使っている。


「そんな玲奈とパートナー組めるなんて、さすがに鳴神くんも色々我慢してんじゃないの?」


「我慢? 別に、玲奈に不満なんか無いけど」


「いや〜、そういう意味じゃなくてさ」


 心音はわざとらしく肩をすくめる。


「普通の男子ならさ。玲奈と試験でパートナーを組んだってだけで、あり得ないぐらい浮かれて、絶対そのまま手を出そうとするよ? えっちな意味で」


「……そんなこと、玲奈に出来るわけないだろ」


 自分でも驚くくらい、即答だった。

 心音も一瞬だけ驚いた顔をして、それから少し柔らかく微笑む。


 本当に出来る訳がないのだ。

 心音は知らなくて当然だが、二人は一緒に暮らしている。


 ただでさえ、玲奈は帰る場所が無いのだ。

 もし、翔太郎が気を狂わせて玲奈に欲情をしてしまったら、彼女はどこにも逃げ場が無くなってしまう。


「ま、鳴神くんなら何となく大丈夫そうだけどね」


「大丈夫そうって?」


「ほら、アリシアのことも助けてくれたし、玲奈を傷付けるような真似は絶対しないと思うからさ。学園でも敵が多いのに、凄いしっかりしてるし」


「まぁ、成り行きな部分は多少あったけどな」


「偶然でも成り行きでも、玲奈とアリシアの二人から信頼されてるのは事実でしょ? そんな男子って、この学園に鳴神くん以外居ないと思うし」


 玲奈とアリシアが信頼を寄せてくれてる。

 それが本当なら、こんなに嬉しいことはない。


「それなら、それで嬉しいかな。二人から最初は邪険にされてたぐらいだし」


「……そうだったね」


 四月はどちらもツンツンしていた。

 玲奈の言動や態度は冷たかったし、アリシアも無関心を貫いていたぐらいだ。


 あの時を二人で思い出して懐かしむ。


「でもほら、アリシアだってさ、玲奈に負けないぐらい可愛いでしょ? まぁ外国人だから、ちょっと気後れする感はあるかもだけど」


「そうだな。案外話してみると抜けてる部分も多いし、見た目とのギャップはあったかも」


 アリシアの男子人気は考えたことが無かった。

 というのも、彼女は外国人かつ推薦生だ。

 結構、近寄りがたいと考える生徒が多いのでは無いのだろうか。

 ある意味、玲奈以上に訳アリな存在でもある。


「まぁ、それでも……」


「ん? どうかした?」


 周囲の視線を感じつつも、心音を見つめる。

 話に出ていた玲奈とアリシアの容姿が整っているのは今更だが、そんな二人と並んでみても心音は遜色無い。


 むしろ、バストサイズで言えば圧倒的に二人よりも上だし、人懐っこい性格や、男女問わずに名前呼びさせている距離感も相まって、おそらく十傑の女子人気は彼女が一番高いだろう。

 現に休み時間などに、男子たちの話題から心音の名前が出る回数は非常に多い。


「……思ったんだけど、心音も普通に可愛いよな」


「は、はぇ?」


 心音の耳まで真っ赤になった。

 さっきまで普通に会話していたのに、突然変なスイッチを押されたみたいに挙動不審になっている。


「前にもこんな話したと思うけど、やっぱり可愛いから男子からモテるでしょ? 結構アリシアから聞いた話では、校舎裏とか呼び出されてる回数多いみたいだし?」


「い、いや私なんて全然だよー。それに、そんな簡単に女の子に可愛いなんて言うもんじゃ──」


「さっき、アリシアの水着の感想を俺に答えさせたのは心音だろ。可愛いも、ほら……言い慣れてたりするんじゃないか? 実際、心音は可愛いし」


「ちょ、ちょっと待って。可愛い連呼しないでってば!」


 翔太郎としては、ほんの、ほんのちょっとだけ仕返しのつもりだ。

 アリシアの水着の感想を詰められた時の羞恥心を、せめて返してやりたかった。


 だからこそ、軽く煽るように付け足す。


「なに? もしかして照れてんの? だったら、もう一回言おうか? 心音は──」


「ま、待って待って待って! ここで言う!? みんな見てるからっ……!」


 声を裏返しながら慌てて距離を詰めてくる心音。

 その反応が面白くて、翔太郎はつい笑ってしまった。


 その瞬間だった。

 バシィンッッッ!!という轟音と共に、かなり強烈な勢いで翔太郎の正面にボールが飛んできた。


「ぶはっ!?」


 凄まじい水飛沫と衝撃波が上がり、心音と話しているのに夢中で全く構えて無かった翔太郎は直に浴びさせられる。


 水中に浮いてるボールがなんだか熱いし冷たい。


「いや、熱くて冷たいってどういうこと……?」


 疑問に思いながら、ボールが放たれた方向を見ると、玲奈とアリシアがほぼ同時に腕を振り下ろしていた。


 二人の水着姿が、妙に影を落として見える。

 玲奈が放つ冷気。アリシアが放つ熱気。

 それがきっちりボールの中で混ざり合い、カオスな温度になっていた。


「……みんなで遊んでいる最中に、心音を口説いてて、そんなに楽しかったんですか?」


「翔太郎、早くボールを返して。あと、心音も翔太郎と距離近い。もっと離れてくれないとバレーにならない」


 二人とも声のトーンは穏やかなのに、表情だけが一切笑っていない。

 沈黙の圧が水面を揺らしていた。


「は、はい」


 確かに遊んでる最中に、側から見れば口説いてるとしか思えない行動を仲間の一人が取っていたら不快かもしれない。


 翔太郎がそそくさとボールを拾い上げる横で、リルカと水橋が今のやり取りを見て、同時に悪い笑顔を作った。


「アハハッ、今の水飛沫マジウケるんだけど!」


「確かに氷嶺さんとアリシアさんのダブルショットは圧巻でしたねぇ。これが超次元バレーってやつですかぁ? 私、もう一回見たいですぅ」


 外野は外野で悪ノリに全振りしている。

 翔太郎は、玲奈とアリシアに刺激しないようにそろりとボールを投げ上げた。


 隣にいた心音が赤面し、両手で顔を押さえながらも指の隙間から翔太郎を睨んだ。


「鳴神くんはさぁ……。言動ちょっと気を付けないと、その内、女の敵になりそうだよね」


「男友達も少ないのに、勘弁してくれ」

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