第94話 ラビィが本当に空を飛んだ
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キートォを警備隊に引き渡した数日後、俺とラビィはセカルドの街の近くの森にある湖の畔に来ている。シャルとファングも一緒だ。ファングにはシャルの護衛と荷車の引き手の役割があるからだ。モモは一人別行動をして魔物の討伐クエストを受けている。
昨晩、警備隊によるキートォの尋問の結果をアエズに聞かせてもらった。モモ達は屍食鬼の第一発見者であり、キートォから襲撃された被害者であり、キートォが犯人であると突き止めた当事者であるから聞く権利はある訳だ。
キートォは屍食鬼を死体から作れる能力者だった。そして屍食鬼を自由に操作することができる。ただし視界に入れておく必要があった。
キートォが作った屍食鬼は、食事を与えれば屍食鬼で在り続けられるらしい。屍食鬼の素となる死体の状態にも依るが食事を与えずに放置すると約一週間で死体に戻り、二度と屍食鬼にすることができなくなるとの事だった。
孤児院の院長として生きてきたキートォは、ずっとその屍食鬼を作り出せる能力を使ってこなかった。使う動機も使う必要も無かったのだ。
それが何故今回の様な事になったのか……。
「親父ぃ~。 見ててくれよ!」
岸から離れた湖の上に浮かんだボートの上に立ち、ラビィが手を振って言った。俺はシャルの肩に止まって両羽を広げて合図した。
キートォが行動を起こしたのは、孤児院に努めていた十代後半の少年、アイガンの死が原因だった。アイガンは主に屋外の雑務を行っていたが、山羊の小屋で水桶に頭を突っ込んだ状態で死んでいたところを発見された。その死因は溺死なのだが、どうしてそうなったのかは不明なままだ。
キートォはアイガンを溺愛していたらしい。その死体すらも対象にできたという事だ。
まぁ、俺にはその気持は分からんがそう言う事も有るのだろう。
キートォはアイガンを屍食鬼にして自室に隠した。屍食鬼はなぜか腐臭はしないし、動くなと指示すれば鼓動も呼吸もしないのだから気配も無くなる。ただアイガンに与える食事、つまり死体をどう与えるかが問題だった。
だが、教会の下部組織である孤児院にはその手の情報には事欠かなかった。キートォは度々、アイガンと共に新鮮な遺体を掘り起こす遠出をしていたのだ。棺桶にアイガンを隠して運び、あるいはアイガンに目深かなフードを着せて歩かせもした。力仕事である墓掘りは屍食鬼のアイガンに任せた。
働かざる者食うべからず……、かな?
「うわっとっとっと」
ラビィがボートの約1メートル上に浮いている。両足のブーツの底では絶え間なく小さな爆発が連発していた。マフラーが壊れた原付バイクの様な音がこっちにも聞こえる。ラビィは両腕を前後左右に振って、バランスを崩さない様にしていた。
あの時、モモは食事中の屍食鬼アイガンを討伐してしまったのだ。キートォはアイガンの敵を確認するために姿を現した。その時からモモは何度も屍食鬼に襲われる様になったと言うのが顛末だ。そして、投獄されたキートォの処分はこれから決まるらしい……。
「ノズル付きのブーツの調子も良い様だな」
「当然なのです」
俺はシャルにそう言い残すと、その肩を離れラビィに向かって飛び立った。
ラビィはバランスが上手く取れ始めている。足もうまく使いながら姿勢を制御し始めていた。
「あ、親父――」
俺が側に飛んでくるのを確認した瞬間に、バランスを崩す。
「うわっとっと」
後方に倒れるのを止めようとして、右脚を後ろに向け爆発の推進力を増す。左右のバランスがずれ身体を軸に緩やかに回転しはじめた。
「こっちを見てる暇なんかないだろ! 集中しろよ!」
ひっきりなしに続く爆音がうるさいので、俺はラビィの周りを飛びながら大声を出した。
左右の脚の向きを入れ替え、回転の速度を落とすラビィ。
「これで、っと、どうだい?!」
バランスを取り戻したラビィがこっちを見て笑いかけてくる。ラビィも声を張っている。
「たくさん飛んで慣れることだ! 此処だと人の目も無いし、墜落しても水があるから良いだろ!」
「ずいぶん慣れてきたぞ! 足の裏に地面を作るイメージで爆発を起こせば良いんだ! 体勢を制御する場合は坂をイメージしてそこに脚を乗せる要領だな!」
「そ、そうだな!」
オウムである俺の飛び方は、爆破による推進飛行じゃないから、その辺りは良く分からん。だが、本人がそう言うのだからそうなのだろう。
「そして高度を上げる場合は、その地面が突き上げてくるイメージで爆破の威力を増せば――」
ラビィが急に数メートル上昇した。
「こうなる! すごい、すごい! すごいなボクの能力!」
丈夫なノズル付きのブーツを作ったシャルの協力も必要だったがな……。
そしておよそ一時間後、ラビィは湖の上空を自由に飛び回っていた。




