第92話 孤児院でキートォに会った
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キートォが屍食鬼を作り出す能力者であるとシャルが推理した翌日の早朝、モモと俺が宿を出ると、そこにはいつもの荷車を引いたファングとシャルが待っていた。シャルは荷車には乗っておらずファングの横に付き添っていた。荷車の荷台に樽や藁などが満載しているから、いつもの様に乗れないのだ。
「何を積んでるんだ?」
俺はシャルの肩に飛び乗って聞いた。
「差し入れですよ。孤児院に入り込む言い訳が必要ですからね」
「四の五の言わず、強襲すればいいのよ」
物騒なことを言うモモ。
「モモ、キートォが屍食鬼を操作する能力者だと確実に分かってからにして欲しいのです」
「分かったわ」
モモとシャルが並んで歩き、ファングを先導する。俺は時折上空を飛び目指す孤児院への道を確認した。
「そう言えば、この街にアエズが来てるわよ」
移動の間、暇な様子のモモが肩に止まっている俺に話しかけてきた。
「ああ、宿場町に駐屯していた警備隊員か」
「昨日、エコーが転送して居なくなった後の話なんだけど、宿に帰る途中に警備隊の基地に寄ったのよ。ほら、クロスボウで私を撃ってきた小さい屍食鬼ともう一体の屍食鬼の素性が判明したかどうかを確認するためにね。そこにアエズが居たのよ」
「なるほど、それで? 何か新しい情報は得られたのか?」
「それだけよ」
「……」
それ以上何も話さないモモ。
「なぁ、シャル。お前も一緒に行ったのか?」
「一緒だったのです。警備隊員の屍食鬼の素性は判明していなかったのです。アエズとは屍食鬼に関する情報を交換しましたが、あちら側は新しい情報は持ってませんでした。こちら側は宿場町を出てから襲われた状況を提示しましたよ」
「なるほど、それで?」
「それ以外は特に新しい情報を持ってなかったですね」
「……そうか」
俺とシャルの会話を聞いていたモモが俺を睨んできた。
「なんだ?」
「私の話を信用しないのね」
「まぁ何だ、その……」
「ふん、覚えてなさいよ」
「……」
暫くすると孤児院が見えてきた。
「襲ってくるかも知れないからシャルは荷車の後ろに下がっていて」
モモがシャルに言った。
「誰がキートォと話すんだ?」
「私じゃない?」
俺の問いにモモが答える。
「そりゃ、話にならんだろう」
「どういう事!?」
「そのまんまだ」
「アタシが話しますよ。何かあったらすぐにモモの後ろに隠れるから心配無いです」
シャルが割って入って来たので、モモが俺に文句を言う機会を逸してしまった。
孤児院は周囲を簡単な塀で囲まれていた。塀の内側の入り口近くには畑が広がっており疎らに作物が育っている。収穫後に次の植物を植えるために耕されたばかりの所もちらほらと見受けられた。
ふくれっ面をしていたモモは、孤児院のその敷地に入ると、
「キートォは居る!?」
と大声で叫んだ。
すると建物の一つから神父らしき服装の男が出てくる。キートォだ。やつは俺たち一行を見た直後、驚きの表情を浮かべた。
「ラビィに合図を送るのです」
シャルが小声で俺に指示した。
「わかった。シェルオープン」
予めシャルと打ち合わせていた通り、俺は巻き貝の魔法装備でラビィを呼び出した。
「ラビィ、今キートォはこっちに気を取られている」
「分かった親父、今から部屋に忍び込むよ」
合図をした後の行動を指示していたのでラビィも要領を得ている。一方、驚きの表情を隠したキートォは何食わぬ顔をして襟を緩めながらこちらの方に向かってきた。
「来たわよ」
モモがつぶやく。ファングはそっと荷車を引く軛から離れシャルの後ろに付いていた。
「ああ、あなた方は私を助けてくれた冒険者の方々ですね?」
キートォがモモ一行の面々を確認しながら言った。その顔には作った様な笑顔が浮かんでいる。
「ええ」「そうです」
モモとシャルの応えが重なった。
「こちらの孤児院に何か御用でしょうか?」
「用事があるのです。何だか分かりますか?」
シャルはキートォの質問に対して、もったいぶるように質問で返した。
「寄付……、していだけるとか?」
ちらりと荷車の荷台を見て応えるキートォ。
「ええ、それも考えているのですが、別件も有るのです」
「別件ですか?」
「警備隊から話しを聞いているのですが、こちらの孤児が行方不明になっていると聞いてるのです」
「え? ああ、そうです。捜索依頼を出しているのですが、心配で心配で……。あなた方は捜索のクエストでも請けられたのですか?」
「数日前から一人、そして昨日は更に二人が行方不明と聞いているのですが、本当ですか?」
キートォの質問を無視してシャルは問うた。
「ええ、そうなのです」
困った様な顔をしながらキートォが応える。
その時、ラビィからの通信が入った。
「親父! 有ったぞ! 今行くからちょっと待っててくれ」
その声がオウムである俺から聞こえてきたので、俺を不思議そうな顔で見ているキートォ。
「ところで、キートォさん。あなた最初に会った時に屍食鬼に襲われていましたね」
「え? ええ」
キートォは視線を俺からシャルに移した。
「その時、何をしてたのですか?」
「何を? ああ、身元不明の死体を運んでたのですよ」
「何処から何処にですか?」
「それは……、連絡を受けて、この孤児院に埋葬するために運んでいたのです」
「そこを屍食鬼に襲われたのですね? 街道ではなく道から外れた森の広場で」
「え、ええ。ちょっと休憩を……」
「屍食鬼は死体を食べていた。そこが少し分からないのですが、大切な屍食鬼を生かし続けるには食事が必要なのですか?」
「な?!」
「あの屍食鬼があなたにとって特別だったのは想像できるのです。他の屍食鬼は使い捨ての様ですからね」
「……」
「きっとあなたは、あの屍食鬼を殺したモモを許せないのですね?」
「……そんな」
俯いているキートォは両手をきつく握り、小刻みに震えていた。
「おーい親父! これだよ」
建物の陰から姿を現したラビィは右手に掴んだ布状の物を振りながらこっちに向かってきていた。
その布はローブだった。最初の屍食鬼を倒した時に一緒に埋めたローブだ。つまりそれは、モモが埋めたはずの屍食鬼を掘り起こしに行った時に屍食鬼と共に無くなっていたローブだ。
「見て下さい、あれは最初の屍食鬼と一緒に埋めたローブです。何故あなたが持っているのですか、キートォさん?」
「……」
黙ったままのキートォ。
「あなたは屍食鬼を死体から作って操れますね? そしてその屍食鬼が農民一家を殺害したのです。それに孤児院の子供を素材にして屍食鬼を作りましたね? 孤児の行方不明の一人は警備隊で保管している屍食鬼の死体なのです。……恐らく、生きていると屍食鬼にできないですから、屍食鬼にするためにあなたは――」
その時近くの畑が急に盛り上がった。そこには畑に隠れていた土まみれの小型の屍食鬼が二匹いた。そして何の警告もなく、こちらに向けたクロスボウに番えていた矢を放った。
「死ね!」
怒りで顔を歪ませたキートォが叫んだ




