第84話 奇襲されたモモが倒れた
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セカルドの街門が見えてきた。日が大分傾いてきて、樹木や外壁の旗がその長い影を伸ばし始めている。
モモが一人でゴブリン討伐のクエストを完了させた帰り道、俺はモモの肩に止まっていた。そのクエストは、農地周辺に現れたゴブリンを討伐するために駐在している派遣隊の援護だったので、モモが一人で向かったのだ。
その間、シャルはファングを伴って鍛冶屋に行っていた。別の宿に泊まっているラビィも鍛冶屋に行っている。ラビィは事あるごとに巻き貝の魔法装備で通信してくるので、重要な事が起こったときだけにしておいてくれと言い聞かせてある。代わりに俺の頭を撫でさせる条件が付いたのだが。
「ねえエコー、さっきの私の火輪斬り、見事だったよね?」
「またその話しかよ」
動かずに抜刀と同時に相手を斬るだけの水輪斬りとは異なり、斬った後に移動ができるのが火輪斬りなのだが、ゴブリンを斬り伏せる際にモモは火輪斬りを試していた。
「何度話しても良いじゃない」
鉄を操る能力を上手く利用して、上手く火輪斬りを実現していたモモは大したものである。
しかしなぜモモは俺がでっち上げた火輪斬りの様な技を実現出来てしまうのだろう?
パイラの身体に憑依していれば、俺が火輪斬りを実現できる自信はある。どう言う仕組みか分からないが、それがバグ女神から貰った俺の剣聖の能力だから腑には落ちる。
だが、俺が考えた技を剣聖の能力者でもないモモが何故実現できるのか……。そこが疑問なのだ。
魔法の方の理解はパイラのお陰でだんだん理解できてきている。今後も新たな発見があるだろうが、恐らく驚くようなことは無いだろう。だが、ギフト能力は……、なんでも有りな感じがして――
「なにぼぅっとしてるのよ!」
突然モモからヘッドバッドを食らった。モモが肩に止まっている俺に向かって軽く首を横に傾けただけなのだが。
「ああ、お前はよく俺が伝授した技を使えてるなって感心してたんだ」
「え!? え? えへへへへ」
足元を見ながら照れるモモ。
その足元から街門まで長く伸びる石畳の道が続いている。両脇は踏み固められた土や、踏まれて長く伸びることが出来ない雑草が覆っていた。水たまりが貯まるのを防止するためなのか知れないが、新しく土をかぶせた様な場所が所々ある。その道の先、モモが向っている街門には、街に戻る人や街から出ていく農夫らしき人が数人見えた。
「ところでモモ――、後ろだ!!」
石畳の脇の土が急に盛り上がったと同時に、人影がモモに向かって来た。
モモが振り返ると同時に、屍食鬼の爪がモモを襲った。
それを体勢を崩しながら避けるモモ。俺はモモの邪魔にならないように既に飛び立っていた。
大きく前方にジャンプし、身体を捻ってハンドスプリングをしたモモは、屍食鬼の方を向いて片膝を付いた姿勢で右手を左腰のカタナの柄に手を置いていた。
「私の後ろから襲うなんて、やるじゃない」
モモがぼそりと嘯いた。
「土の下に隠れていた様だ。生きていないから窒息せずに潜伏できたんだろうな……」
俺はモモの周囲を旋回しながら言った。
それを聞いているのか聞いていないのか分からないが、両腕を大きく広げてモモを中心とした円弧上をゆっくりと移動する屍食鬼。
そいつは筋肉質の男のグールだった。上半身裸の左胸と右腹にバックリと傷が開いていたがそこから血は流れてはいなかった。
戦闘経験がある死体を使った屍食鬼か?!
剣聖の能力で、その力量をざっと見積もってみた。
生前は腕に覚えが有りそうな男だった屍食鬼:武器は持っていない
攻撃 6
技 5
速度 4
防御 6
回避 3
今までの屍食鬼とは素材が違うのだろうか、能力が高めだ。
「モモ、気をつけろ。攻撃力だけならお前と互角だ」
「了解」
対峙しているモモと屍食鬼に気付いた通行人が一人、驚きの声を上げ巻き込まれないようにかなり距離を取っていた。屍食鬼はそれを全く意に介さず、赤黒く光っている目をモモに向けていた。
屍食鬼は、足元の大きめ石を拾いモモに投げた。
なんだ!? なぜ突進せずに石を投げる?
小屋に火を放った屍食鬼や街道で農民一家を襲った屍食鬼とは違う感じがした。
モモに当たらない軌道で飛んでいった石に、モモは微動だにせずに居た。
モモが動かない様子に焦れた様子の屍食鬼は、威嚇しながらモモとの距離を保ったままウロウロしている。
モモが突然屍食鬼に突進した。まるで戦闘の素人の様にその変化に追いつけていない屍食鬼は、リアクションするまでに一呼吸分の遅れを取っていた。一瞬にして間を詰めるモモ。抜刀と同時に横一閃にカタナを薙いだ。
その攻撃を受けるにまかせ、両腕の爪をモモに振り下ろす屍食鬼。しかしそこにモモは居らず、カタナに引っ張られる様な移動を済ませた後だった。
火輪斬り、じゃないな!?
屍食鬼が狙った場所に見えた一閃。移動を済ませたモモは斬り上げ攻撃を繰り出していた。
両腕を振り下ろす屍食鬼の力とモモが斬り上げる力とが、屍食鬼の両手首とカタナの刃先でクロスした。
屍食鬼の手首が地面にぼとりと落ちる。
痛がる様子を見せない屍食鬼。だが、またしても素人っぽく鈍く反応していない。モモは既に斬り上げたカタナを振り下ろす動作に入っている。
次の動きのために下肢に力を入れた屍食鬼だったが、モモのカタナの切っ先は既に地面を向いていた。
そして、物理的に運動指令系統を断たれた屍食鬼の体が崩れ落ちた。司令部である頭部も石畳を何度か転がり、勢いがなくなると小さなカーブを描いて止まった。
「ふっ」
息を吐いたモモが複雑な動きでカタナを血払いし、軽快な金属音と同時に納刀する。
「やったか。まだ油断――」
俺がそう言ったとき、突然モモの右後方の土が盛り上がり、何かがモモの右腰あたりに飛来した。
そこにはクロスボウを構えた小型の屍食鬼が居た。そのクロスボウの矢は既に発射されており、弦が細やかに揺れていた。
右腰に右手を添えながら、回転して地面に倒れるモモ。
「モモ! モモ!!」




