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第52話 パイラが昔の事を語った

  *  *  *


「ほら、シャー、いつまでもこのままって訳には行かないわ」


 抱きついていたシャーロットをそっと離しながらパイラは言った。


 思いっきり泣いてすっきりしたのだろうか、いつものパイラに戻った様だ。


「ええ、そうですわね――」


 一瞬戸惑うシャーロット。


「そうですわね、お姉様」


 シャーロットはパイラを叔母ではなく、今まで通り姉と呼ぶことにした様だ。


「ねぇ、シャー、二十三年前に姿を消した執務長の名前を聞いてる?」

「いいえ、残念ながら……」

「パイザームよ。そして私の育ての親でもあるわ。十年には満たないけれど私を養育してくれたの。そしてその間ずっと、私の両親と兄と姉はインディル王に殺されたとパイザームから教え込まれた。インディル王が放った兵が領土に火を放ち、その時の火傷が私の右半身に残っていると」

「……」

「私の最も古い記憶はね、ぼんやりとしてるけど優しい両親と兄姉との家族の思い出なの。その次に古い記憶は断片的だけど、ろくに睡眠や食事をせずに手を引かれて歩き続けた辛い思い出。その後のはっきりしている記憶は、パイザームがいつの間にか連れてきた年老いた家政婦と十五歳の頃まで暮らしていた記憶。それは人里離れた小さな家から出ることもない、代わり映えしないものだった……。ただ一番古い記憶への(あこが)れと、それを奪った者への憎しみだけは増殖していったわ……」

「そう……」

「それから十五歳になったのをきっかけにと街に出たのよ。その時にバーバラに出会ったの。パイザームは殆ど出かけていて家に戻ってくるのは稀だったし、いつかインディル王の手勢に見つかって殺されるかも知れないと言っていた。そして十三歳の頃からぱったりと姿を現すことが無くなったの。だから復讐のために、何か特技や毒殺の方法などを習得できるかも知れないと思ってバーバラに師事することに決めたわ」


 バーバラは自分のギフト能力を使ってパイラが能力者であると見抜き、魔女になる様に勧誘したってところか……。


「バーバラさんはどんな方なのかしら?」

塵埃(じんあい)の魔女バーバラ。私の魔女としての師匠よ。バーバラの住処に引っ越して、それから魔女を名乗る様になったの」

「えっ! その……、お姉様は本当に魔女でしたの?」

「ええそうよ。シャーも学園で言っていたじゃない、私が元魔女だって」

「……そんな、ごめんなさい! 田舎から出てきたって聞いたからそれを茶化して言ってたのですわ」

「誰にも元魔女だって言っていないからどうしてそれを知っているのかと思っていたのだけれど、適当に言ってたのね」

「ええ、本当にごめんなさい」

「それはもう気にしなくても良いわよ」

「ところでお姉様は魔女狩りの被害にはあわなかったのかしら?」

「シャー、魔女狩りってこの国では数十年前から禁止されているわよ。魔女だろうと魔女でなかろうと私刑は罰せれるわ」

「そうですわね。ところで魔女って何をする人なのかしら?」

「他人には馴染めないけど、生きていく為に人の集まる場所からぎりぎりの距離で暮らしている隠遁者の事よ。特別じゃないわ」


『能力を使う者もたまに居るがな』

『それも一般人に馴染めない理由でもあるんじゃない?』


「お姉様も復讐のために隠れ住んでいたのですね?」

「ええ、そうよ」

「でもお姉様は今、魔法使いでもありますわ」

「ええ、バーバラと暮らしていて魔法の事を知ったわ。私にも魔法が使えることが分かったから魔法を覚える事にしたの。その動機は復讐のためなのだけれど」

「そう……」

「私、何のために生きてきたのかしら……」

「お姉様?」

「……」


 項垂(うなだ)れたままのパイラ。


「今までのお姉様の境遇は気の毒だと思いますけど、お陰で私は今生きてるのですわよ? ですから、お姉様の人生が無駄だって言うなら、私の命も無駄だって事になると思いますの。少なくとも私の命と同じぐらいの価値はあったと思って下さいな」

「うふふ、ずいぶん飛躍した話だけど、ありがとうシャー。確かにあなたを助られた事は、私が生きている意味でもあるわね。まだまだ油断できない状況だけれども」


 両手を上げ大きく伸びをするパイラ。


『そうだ、そして俺も救ってくれ』

『あら、エコーも居たわね』

『ああ、ずっと居るぞ』


 パイラは両手で自分の頬を打ち、「よし」と一言漏らした


「それにお姉様、昔の家族との触れ合いはもう取り戻せないですけど、新しい家族との触れ合いなら今からでも出来ますわ」

「え?」

「良い伴侶を見つけて、さらに沢山の子供を産めば良いのですわ」

「そ、そうね……」

『だとさ』


 返答に困っているパイラに俺は言った。


『相手を見つけるのは面倒だから、人間になったエコーと結婚しようかしら……』

『お、おい!』

『冗談よ。いえ、そうすればあなたを人間に戻すという私のやる気も上がるから、あなたにとっても都合が良いんじゃない?』

『いや、それは……』

「ふふふ」

「あら、お姉様、なんだか楽しそう」


 出会ってから初めてパイラが笑っているのを、俺は複雑な気持ちで感じていた。


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