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第35話 パイラの体を奪った

 『パイラ!!』


 全く動く様子が無いパイラ。右手は机の上、左手はだらりと下げ、机にうつ伏せている状況がパイラの肌を通して感じられる。視界は真っ暗なままだ。


 ……どうしたんだ?


 するとパイラの左手を通して熱さを感じた。


 熱い? 部屋の中に熱を発するものなんてなかったよな? ん? さっき左手で何か落とした様な――


 ――ランプか!!


 ますます左手が感じる熱さが強くなってきている。


『おい、パイラ! 目を覚ませ!』


 ああ、くそ! 動けよ! 目を開けろよ!


 目を覚ませ!!


 すると突然、すっとパイラの視界が開けた。


『目を覚ましたか!』


 パイラからの返事はない。


 くそっ、熱さと感じている左手を体に引き寄せたいんだが……。


 すると、左手がすっと持ち上がった。


 ん? ……ん?


 俺はパイラの体を立たせ、机から離れさせてみた。


 こいつ……、動くぞ!


 パイラの感覚と体の自由を完全に手に入れた俺は、一旦机から離れ状況を確認した。


 机の左側の床で漏れた油が燃えている。放っておくと火事になりそうだが、油の量は少なく消火は容易そうだ。周囲を見渡したが消火に利用できそうなものはない。俺はとっさにパイラが着ている服を脱がせ燃えている炎を覆った。


 上手く消せそうだ……。


 さっきまで炎で赤く明るくなっていた部屋が暗くなる。しばらくすると目がなれてきて、窓からの星あかりで部屋の様子が見えるようになってきた。火災の危機は乗り切った様だ。


「ふぅ、焦ったぜ」


 パイラの声が静かな部屋の中で聞こえた。


「え?! パイラか!? ……、って俺か……」


 俺はパイラの口を使って喋っていた様だ。パイラの感覚を共有するだけでなく、パイラの体のコントロールも完全に掌握していたという訳か。


 俺は広げた左右の手のひらを自分に向けてみた。右手の薬指と小指から腕の内側にかけて皮膚に火傷の跡が見える。俺は両手の親指から人差し指、中指、薬指、小指と順に握ってみた。そして逆に小指から順に親指を伸ばした。そして首を左右に振って、軽く数回ジャンプしてみる。自分の体の様にパイラの体を自在に動かせた。


 机の上にペーパーナイフを見つけた俺は、それを右手で逆手に握った。机から少し離れて防御体勢で構えてみる。


 ふむ。


 俺は剣聖の能力で今の状況での戦闘力を見極めてみた。


 パイラの体を完全に掌握した俺。右手には頼りないナイフ。

  攻撃 4

  技  8

  速度 7

  防御 4

  回避 8


 鍛えられていないパイラの体を使っているが、モモに対しても引けを取らない。


 ま、剣聖の俺だしな。


 軽くペーパーナイフを振るってみた。静寂が占める部屋の中で、ナイフが空を切る音だけが響いた。しばらくの間、俺は人間の体を自由に動かせることを堪能した。


「ふう。やっぱ良いな、人間の体は……」


 ペーパーナイフを机に戻した俺は、床に広がっているパイラの服を取り上げ、両手で広げて裏表を確認した。燃えてはいないが煤が付いていたり油が染みたりしていた。床を見るとランプが転がっており、床にはまだ少し油が広がっていた。木製の床は焦げていない。油だけが燃えていたのだろう。もう少し放っておいたら木自体が燃え始めていたかも知れない。


 そう考えながら俺はランプを机の上に戻し、パイラの服で床の油を綺麗に拭き取った。どうせ服には油が染み込んでるし煤けてるし、そんな扱いをしても良いだろう。


 部屋は完全に元通りになりそうだ。問題はこの服をどうするかだが……。俺がパイラの体を乗っ取って自由に動かせるってことをパイラに知られない方が良い気もするし。


 しかし、なんで俺がパイラの体を自由に動かせるんだ? 使い魔の契約魔法の影響だとは思うが……。魔法使いは使い魔を使役するとか言ってたよな。パイラは俺の体を使役できるのか? これじゃあ、全く逆――


 ……、そういう事か。


 契約魔法をかけられている最中に、俺が抗った結果がこんな風に影響したとはな……。あの時俺は、俺を捉えようとする奔流を押し返して、逆にその根源を抑え込む様に抗ったのだった。動物を相手にする使い魔の契約魔法の想定を超えた反応だったのかも知れない。そして俺はパイラを使い魔として……。


 そうだそうだ、パイラが着ていた服の処分をどうするかを考えていたんだ。


 パイラが着ていた服……。


 服を右手に握り、両手を腰に当てて考え事をしていた俺は、ふとナイフを振り回していたときの違和感を思い出した。


 不安定な胸の揺れ。


 俺はそっと窓の方に振り向いた。星あかりだけではかなり薄っすらとしか姿鏡として機能しなかったのが幸いだったが、そこには上半身が裸のパイラが映っていた。


「い、いや、これは、その」


 パイラの声で狼狽える俺。


 落ち着け、俺。誰も見てない。


 そして俺はガラスに映っていたパイラの体の異変を再確認した。それを確認するために俯くと、右側の胸の下から腹部にも火傷の跡が見えた。右半身の各所に古い火傷の跡があるパイラの体。


 一体何があったんだ?


 俺はチェストを開け、替えの部屋着を探り出しそれを着る。そしてあたりを見渡し部屋が完全に元に戻っている事を確認した。ランプの位置も机の上にある。汚した服は一旦ベッドの下に押し込んで隠すことにした。ベッドに横たわって違和感が無いことを確認する。


 さて。


 感覚の共有は保持したままパイラの体のコントロールを解放すると、静かな部屋にはパイラのゆっくりとした呼吸だけを感じることができた。


 まだ寝てるな……。


 俺は感覚の共有も解除して、元のオウムの体に戻った。そのとき何故か俺のオウムの体は宿屋の机の上で横たわっていた。


 ……ああ、なるほど。パイラの体の制御を奪うとその間のオウムの体は制御できていないから、まるで意識を失って崩れ落ちた様な結果になるのか。これは、飛んでるときにやったら墜落死するな。それ以外でもマズイことが起こらない訳がない。


 気をつけよう。


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