第21話 ファイラーを発見した
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モモとシャルが焚き火を囲んで何やら話をしている。ファングは狼の姿のままシャルの横に伏せていた。日はとうに落ちており、モモ一行は街道から少し外れた小川の近くで野営をしていた。二十メートル離れて小規模な隊商が野営をしている。
俺はモモに暫くパイラと対話することを告げて、焚き火の近くの倒木に止まっていた。
……さてと、パイラと話をするか。
『パイラ、今良いか?』
『ええ、良いわよ』
『感覚を共有してくれ』
許可は必要ないが、一応な。
『はい、どうぞ』
パイラの視覚を通じて見えるそこは質素なパイラの部屋だった。パイラは机に向かって座ってる様だ。明かり取りのランプが照らし出す机上には一冊の本が広げられて置かれており、その傍らには何冊かの本が積み上げられていた。
『順調か?』
『魔法の課題ね? お陰でこんなこともすぐにできちゃうわ』
パイラの視界の端に半透明の詠唱窓が現れ、緑色の十数個の文字列が現れ淡く発光した。その直後、目の前に伸ばした右手の人差し指の数センチメートル先に小さな炎が現れる。
『他にも、ほら』
今度は掌を上に向けた左手を伸ばす。詠唱窓に緑色の十数個の文字列が現れると、掌の上に直径十センチメートルぐらいの水の玉が現れた。
『ね?』
パイラがそう言うと、詠唱窓が閉じられた。
昼の演習ではみな魔法を呼び出すのに十数秒かかっていた、それを一瞬でやってのけているパイラはとんでもない域に達しているに違いない。
『スクリプト名で呼び出してるんだろ? 幾つぐらい記録したんだ?』
『三十くらいかしら』
あの教官でも暗記しているのは四十って言ってたよな。
『なるほど……。そうするとスクリプト自体を暗記する必要は無くなるが、どんなスクリプト名を記録したか覚えておく必要があるな』
『そうなの、うれしい誤算なんだけれど、スクリプト名を覚えるのがちょっと大変かも知れないわ……』
だろうな……。だが詠唱窓の他に編集窓もあったし、もしかしたら……。
『なぁパイラ。記録したスクリプトを一覧表示したり、スクリプト名を変更したりグループ分けできる機能を持つ窓を起動してみてくれないか? 初めて編集窓を起動した時の様にそんな機能の窓をイメージするんだ』
『エコーは色々と思いつくのね。じゃあ、やってみるわ』
パイラが目を閉じたので視界が暗転した。その暫くの後、視界中に矩形の表示が現れた。そこには左詰めで複数行の文字列が並んでいた。
『……、あら?』
『なぁパイラ? 何て書いてるんだ?』
『えっと、私が覚えたスクリプト名よ』
『なるほどな。じゃあ、そこから一つ選んで編集窓を起動することは出来るか?』
パイラが返事をする前に、編集窓が起動されその中に長いスクリプトが表示された。
『できたわ』
『じゃあ次だ、編集窓を閉じてくれ。今回新しく表示された管理窓をファイラーと呼ぶぞ。そして管理窓に並んでいるスクリプト名をファイルと呼ぶからな。これは俺たち二人の共通の呼び方だと割り切って覚えてくれ』
そっちの方が俺が覚えやすいしな。
『スクリプト名じゃダメなの?』
『スクリプト名は、そのファイルの中身がスクリプトだからそう呼べるんだ。もしかしたら今後、スクリプト以外を記録することもあるかも知れない。何かを記録するものだから記録片とも言える。それをファイルと呼ぶ様にする。あと、ファイルの名前はファイル名な』
『分かったわ』
『じゃあ実験だ。複数の記録片を纏めて入れる箱をイメージしてくれ。ファイルつまり記録片を格納するから記録片庫というイメージだ。それをフォルダと呼ぶ。今表示されている管理窓に新しいフォルダを作ってみるんだ。何か適当な名前を付けてな』
『記録片を入れる記録片庫を作るのね……』
表示されている管理窓に新たな文字列が現れた。よく見ると先頭の文字の形が他の記録片とは異なる様だ。
『できた……』
『あ、そうそう、今作った記録片庫の名前を例えば「炎の精霊魔法」に変えてみてくれ。そして管理窓に表示されている炎の精霊の聖印を使ったスクリプトをいくつかその中に入れる様にイメージしてみてくれ』
記録片庫の文字列の形が変化し、いくつかの記録片が記録片庫の表示から消えた。
『あら、スクリプト名が消えちゃったわ』
『いや、大丈夫だ。次は記録片庫の中を表示する様にイメージしてみてくれ』
すると、今まで数十行表示されていた管理窓の中身が、数行だけの文字列に変わった。
『消えた記録片がそこに在るだろ? それは今さっき作った記録片庫の中身を表示しているんだ。この記録片庫の中にも記録片庫を作れるはずだから後で試してみてくれ』
『ねえ、エコー? これってスクリプト名を記憶しておかなきゃならない問題が解決しちゃってない? この管理窓さえ呼び出せばスクリプト名を忘れても良くなるわ?』
管理窓があるかも知れないと思ったのは、その問題がきっかけだっつうの……。俺が前の世界で当たり前に使ってた機能だからパイラにはそれが連想できないのかも知れないな……。
『まぁ、便利だろ?』
『これって……、図書館の魔導書のスクリプトを全部写して覚えておくことも可能よね……』
あ……。
『かもな……。だが、記録可能な量にも限界があるんじゃないか?』
『そうね。でも、まったく思ってもない状況よ。もしかしてエコーって神様?』
『んなこと有るわけ無いだろ』
もしそうだったら、今頃あのバグ女神に対峙できてるさ。
『ところで話は変わるが、学園の他の学生達とは親交はあるのか?』
『あら? どうして親交を結ぶ必要があるの?』
『え? だってほら、苦楽を共にしたり、学びを共にしたりさ』
『あぁ、だったら私には必要無いわ。むしろ邪魔ね』
『邪魔って……、お前大丈夫なのか?』
『私が必要なのは魔法の知識なの。それは教官から頂けるし図書館にもあるわ。少なくとも学生には無いじゃない。あぁ、苦楽を共にするって言う点は、私なんかよりモモの方が必要としているわよ。気づいてる?』
そう、なのか?
『今日はまた良いことを教えてもらったから、私は大丈夫。そろそろ戻ってモモの相手をしてあげてよ。剣の技を伝授してあげるとか口喧嘩の相手になってあげるとか、ね』
パイラはシャーロット達学生との軋轢は無いと言ってる様だが……。
『……ああ、じゃあ、今日はこのぐらいにしておく。じゃあな』
パイラは大丈夫なのか?




