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第127話 ラビィが頬を抓られた

  *  *  *


 ラビィが操る飛行凧が真っ直ぐにその街に向かっていた。海岸沿いのその街の名前はナタレ、港以外はほぼ円形の外壁で囲まれている。海岸とは反対側の森に、直径2、3キロメートルの円形の窪みがあった。鳥になった俺が初めて空を飛んだ日、その円形の窪みは土の表面が露出していたが、五年以上経ったその地は様々な幼木や下草で覆われていた。


 その円形の窪地は、大きな爆発があった(あと)だ。その中心あたりにバーバラ、パイラ、モモ、ラビィそしてアーケロンが一緒に住んでいたのだ。そして、ラビィとアーケロンがその地を離れ、パイラも魔法学園に入学したためにその地を離れていった。さらにモモを残してバーバラがその地を離れようとした際に、モモが感情のままに能力を発動したため危うくオーガー化するところだったのだ。それをバーバラが阻止したのだ。モモの額に生えてきたオーガーの角が具現化する前に、それを折ることによって。モモがそれを思い出すまで、謎の爆発で記憶と能力の一部を失ったと思っていたのだ。


 ただ、その爆発を誰がどの様に起こしたのかを俺は知らない。


「ラビィ、ナタレに行くならバーバラ達の以前の住処に降りるのはどうだ?」

「え? ナタレには行かないよ」

「何だと?」

「ボク達が行くのは、滷汁(にがり)の術師ミナール、つまり泥沼の人形魔女団(カブン)の総統の住処さ」

「以前、気が進まないって言ってたのはお前がミナールの所から黙って抜け出したからだな?」

「ははは、まぁ、そう言うことだよ」

「だが、もう魔女団(カブン)は抜けたんだろ?」

「抜けたさ。だけど、抜ける前に勝手に飛び出しちゃったからね。その点をミナールは叱ってくる可能性があるのさ」

「それは仕方ないな。しっかり叱られてしまえ」

「ぶぅ。だからさぁ? そのあと濃密にボクを慰めてくれるんだろ? 親父?」

「なんでそうなる?」

「ははは、約束だよ」

「約束してないぞ」

「まぁまぁ、あ、ほら、あの切り株みたいな山が在るだろ? あの平坦な頂上が泥沼の人形魔女団(カブン)の住処だよ」


 地平線近くにラビィの言った通りの切り株の様に頂上が平坦な山が見えた。その周囲は垂直に近い斜面が囲んでおり木々が多い茂っていた。


 その地に近づくにと、切株山の頂上には畑や何軒もの家が見えた。ただし、それは上空から見たからであって、恐らく切り株山の麓からは、そこに小さな村が在ることは確認できそうもなかった。


「ほら、見えただろ? あそこが泥沼の人形魔女団(カブン)の隠れ里、スワンプ村さ」

「まるで森の中の孤島だな」

「だろ? ボクが脱走したくなる気持ちが分かるだろ? って言ってみたけど、それは今見た感想さ。実際、その時の気持ちがどんなのだったのかはちょっと曖昧なんだよね」

「オーガー化を阻止した影響だな」

「それも覚えてないよ」


 以前、ラビィがモモに対して能力を暴走させ、捨て身の攻撃をしてきたのだ。その時ラビィがオーガー化を発症させた。それをパイラの体を借りて俺が阻止したのだが、その角を折った時の影響で記憶が曖昧な様だ。


 記憶だけじゃなく、性格も変化したと思われるが……。


「さぁ、あの村には堂々と能力を使いながら着陸するよ」

「ああ」


 ラビィは飛行凧の高度と速度を徐々に落としながら、スワンプ村の中の一つの小さな家に向かった。地上近くになるといつもの様に凧の下にぶら下がる体勢になって、足の裏のロケットノズルで爆発を起こしながらゆっくりと着陸した。


 俺はミトを背に乗せ自ら羽ばたき、着地後に凧を降ろしたラビィの肩に止まった。


 ラビィのロケットの連続した爆発音に気づいた住人が、目の前の家の扉をゆっくりと開いた。


 そこには背の高い、人の良さそうな老人が立っていた。いつも笑顔を絶やさないかのようで、深く刻まれた目尻のシワからは、善意と知恵がその身の内に刻みこまれている様に思えた。ただし、伸ばした口周りの髭のせいで、その口角は上がっているのかどうかは判別はつかないが……。


「やぁ! ミナールの兄貴! 久しぶり」


 ラビィがにこやかに右手を上げ、ミナールに言った。


「お前さんは誰だ?」

「……え? ボクだよボク、ラビィだよ。五年ぶりだからね」


 苦笑いをしながら応えるラビィ。


「儂の知っているラビィは、そんなに陽気じゃなかったぞ? それに儂に対していつも不貞腐れた口調で喋っていたんだが? お前さん、本当にラビィか?」

「い、嫌だなぁ兄貴、ボクはいつだってボクだよ」

「ふぅむ。面影はラビィそのものだ。よぉくその顔を見せてくれ」


 ミナールがラビィの両頬を包もうと両手を伸ばしてきた。顔を前に出すラビィ。


 と、突然ミナールはラビィの両頬をきつく(つね)った。


(いふぁ)い! 止(うぇ)てくれ! (いふぁ)いっ(ふぇ)ば!」


 ラビィがミナールの両手首を掴んで離そうとするが、意外と力強く頬を(つね)っているミナール。暫くの間、ラビィの苦悶は続いたが、すっとミナールがその手を離した。


「儂の所から勝手に離れた罰だ。……もう良いから入りなさい。お茶でも淹れよう」


 そう言ってミナールは家の中に入っていった。ラビィは俺を肩に乗せたまま、頬を擦りながらミナールの後を追って家に入った。


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