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第109話 シンカが獣を捕殺した

  *  *  *


 深い森の中、焚き火が周囲の木々を照らしていた。揺れる炎が作る影はまるで木が動いている様だった。木の枝で作られた簡素なテーブルには布が被せられており、その上には調理用の道具や根菜が並べられている。フールドがそれらを使い夕飯を作っていた。シンカは焚き火の前に座り短剣の手入れをしていた。


 ラビィが到着するまでのこの数日間、このオウムの俺の体用に木の実や果物をフールドは分けてくれていた。さらに、あまり遠くに離れると魔物や野獣に襲われたときに守れないから近くに居ろとシンカにしつこく言われている。


 美食家で悪食が高じて、自らの足で食材を求め巡り調理するフールドとその護衛役のシンカがこの森に居るのは野鳥のシンルー鳥を捕らえるためらしい。それはとても美味らしい。なので新鮮な生肉をハーブと一緒に細かく切り刻む料理、つまりシンルー鳥のたたきをフールドはとても食べたいらしい。


 危険な森の奥まで来てまで珍しい物を食べたいフールドの気持ちは分からん。


 フールドを護衛しているシンカは、フールドに雇われている訳では無いらしい。自らフールドの元に身を寄せてきて弟子にしてくれと懇願したとのこと。調理師としての弟子ではなく、美食家としての弟子らしい。要は食うだけだ。


 そんな弟子入りをするシンカもシンカだが、それを身元の置いておくフールドもフールドだ。ま、俺の知ったことではないが。


「師匠」


 シンカが手入れをしていたい短剣を腰の鞘に納剣し、弓を左手に持って薮の一点を睨んでいる。右手の指は矢筒から顔を覗かせている矢を挟んで抜き出そうとしていた。


「避難したほうが良いかな?」

「そっとだよ」


 静かに尋ねたフールドに答えながら、シンカは弓に矢を番えた。


 フールドは近くの木にぶら下がっている縄ばしごに近寄り登り始めた。二人は樹上に滞在するための住処を構えているのだ。頭の悪い魔物や野獣程度なら(しの)げるらしい。まぁ、大型で悪質な魔物だと安全とは言えないのだが。


 フールドが大樹の枝に(しつら)えた仮住まいに行き着くと、シンカと同じく樹上から弓を番える。エルフのそれはとても様になっていた。


「おそらく大型の猫科の肉食獣一頭だけです。弓矢だと仕留めきれないので仕掛けます」


 シンカがフールドの方には目も向けず言った。


「じゃあ、右上のトラップだね。頼めるかい?」

「もちろん。足止めは頼みますよ」

「ああ」


 シンカとフールドが静かな声で会話した。二人は互いに信頼しあっている様だ。放っておかれた俺は、そっと飛び上がり近くの枝に移った。


 シンカが今まで狙いを定めていた薮に向けて矢を引き絞るフールド。シンカは的はずれな方向に矢を向けた。その瞬間、薮から獣が出てきた。


 フールドが放った矢が、茶色い毛皮で覆われたその大型獣の額に当たった。ヒョウと言うよりトラに似た体型のその獣は、一瞬動きを止める。ほぼ同時にシンカが空中に向かって矢を放った。


 枝葉が擦れる大きな音とともに獣の大きな体が後ろ足から持ち上がった。その獣の右後ろ足には太いロープがしっかりと締め付けており、獣の体を1メートルほど持ち上げていた。


 その戒めから逃れようともがく獣。ときどき右足を拘束するロープに前足の爪で攻撃するが、括り目辺りは金属で補強されており乾いた金属音がするだけだった。


 シンカはフールドが登った木の根元に立てかけていた槍を手に取り、もがき続けている獣に近づく。そして狙いを定め獣の上半身を一突きした。


 一瞬動きを止める獣。


 シンカは素早く槍を獣の体から抜き、一歩さがった。その獣は左右の前足を二、三度振った後、力が抜け動かなくなった。多量の血がぼとぼとと地面に垂れ、小さな赤い水たまりを作っていった。


「シンカ、怪我は無いかい?」


 するすると優雅に木から地上に降り立ったフールドが言った。


「もちろんですよ」


 槍を構えたままのシンカは獣から目を離さずに応えた。


「その獣は何だ?」


 俺は二人に訪ねた。


「ギーニア虎さ。魔物を除いてこの森の頂点に君臨している獣だね。味はともかく、珍味として重宝されている」

「師匠、どうします?」


 虎が完全に絶命したかどうかを槍で確認しながらシンカが言った。


「そうだね、まずは香草焼きだね。その後はじっくり煮込むしかないだろうね」

「それでも残りませんかね?」


 どうするって調理方法の話かよ!


「燻製肉を作っても良いけど、シンルー鳥が寄ってこなくなっちゃったら嫌だよねぇ。どうしよう。エコーはどれぐらい食べられるかい?」

「俺がそんなに食えるわけ無いだろ」

「だよねぇ」


 虎に襲われたと言うのに、フールドはのんびりと言った。

 

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