第105話 鎌鼬と千手の技を作った
『ところでパイラ、バーバラにはシャーロットを襲った「真の夜明け衆」の情報も探ってもらう様にしたんだが、カジャの方はどうだ?』
パイラの視野の中で、呪文の解析で開いていた複数の編集窓が閉じられていく様子を見ながら俺は言った。
その同じ視野の中ではシャーロットがティーポットを持って部屋から出ていく様子が見える。呪文の解析後に一息入れるために、紅茶を入れ直すのだ。
『新しい情報は無いわ。ずっと黙秘を続けているみたい』
『そうか……。カジャは学園の外で誘拐するためにシャーロットが外出する情報を一味に漏らした。一度は誘拐に成功したがパイラと一緒に逃げおおせる事ができた。そしてその後、学園に一味を乗り込ませて力任せに誘拐しようとした。それが確実に成功すると見切って動いた様にも思えるな。もし失敗して学園にバレたら動きづらくなるからな』
『ええ』
『楽観的に考えると、今は別の密偵は居ないと思うんだが』
『だとしても、もちろん油断しないわよ。ね、シャー』
「もちろんですわ。おかわりの紅茶も完璧ですわよ?」
ティーポットを携え部屋に入ってきたシャーロットは、肩をすくめて言った。そしてパイラが待つテーブルに向かって歩み寄る。
「それから……」
シャーロットが湯気を上げているティーポットをそっとテーブルに置くと、何かをポケットから取り出しテーブルに並べた。
「新しい護符ですわ」
そこには両腕を広げた人の絵が描かれている面を上にしているコインが二枚と、六文字の聖刻が刻まれている面を上にしているコインが一枚あった。
「ありがとう、シャー」
「お安い御用ですわ。お姉様」
『早速だけど、名前を付けて三人で認識しなきゃね』
『そうだな』
『エコーはもう名前を決めてるの?』
『アリシア、シンシア、ダイアナの次だからな、エレノア、フローラ、ガーベラだな』
「……単純」
俺の命名に、シャーロットがボソリと言った。
覚えやすくするため、俺なりに工夫しているんだ。
『じゃあ、こっちから順番に、エレノア、フローラ、ガーベラね』
パイラが全ての護符の刻印が刻まれた面を上にして、並べながら言った。パイラの視界に編集窓が起動されると、何行か書き込まれている記憶片が表示された。そこにエレノア、フローラ、ガーベラの刻印が追加して書き込まれ、その後に何文字か続いた。
『それは、護符刻印と名前、どこに有るかのメモか?』
アリシアは俺の身代わりとしてこの部屋に設置されている。シンシアはラビィのチョーカーに埋め込まれて、ダイアナはシャルの荷車に隠している。
『そうよ。念のためにね。エコーも早く文字を覚えたら?』
『す、少しずつは覚えているさ。数字は読める様になってるぞ。あと、「穴掘り」って文字も完璧だ』
「役に立たないですわ……」
シャーロットがボソリと言った。
『とりあえず、エレノアを俺のところに転送してくれ。フローラとガーベラは、しばらく魔法の実験にでも使っておいてくれるか?』
『分かったわ。エコーの15センチメートル前に転送で良いわね?』
『ああ』
呪文が書かれている新しい編集窓が開き、幾つかの文字列が置き換わっていく。
『シャー、この呪文の記憶片名を「エレノア転送」にしてそっちに送っておくわ。合図したら起動をよろしくね』
『もちろんですわ。お姉様』
『じゃあ、三人モードを解除するわよ』
三人モードと名付けた、俺とパイラとシャーロットが同時に念話で対話できる状態をパイラは終わらせた。
『はい。これで今から二人っきりね』
『……』
『ところでバーバラ師匠との連絡方法は用意してるの?』
『ああ、ラビィを介して連絡を取れるようにはしている。頻繁には出来ないがな』
『そうなのね。これから私とシャーはお菓子とお茶を楽しむけど、エコーはもう戻るの?』
パイラの感覚を共有して人間らしくお茶を楽しんでみたい気もするが……。
『それとも、私の身体で遊んでいく?』
『お、お前なぁ!』
パイラの身体に憑依すれば、剣聖のギフト能力の一部を振るう事ができる。能力を使えることには抗えない魅力が感じられるのだ。
……もしかしたら全ての能力者は、能力を使いたい衝動に駆られるのかも知れないな。それは後で確認するとして、
『お、お願いします』
『良いわよ。私はシャーの身体に憑依してお菓子を食べてるから……』
それから俺はパイラの身体に憑依して、ソードスティックを存分に振るった。
剣圧で遠くのものを斬る事ができる技を作って鎌鼬と名付けたり、速度の違う威力の弱い鎌鼬を幾つも放ち、前後の物は切らずに狙った物だけを斬る千手と言う技を作ってみたりした。
バーバラに依ると、剣聖の能力で技を作る事が出来る様なのだが、なぜそんな技が成り立つのかは分からない。こっちの世界の人間の運動能力もこっちの世界の摂理も、前の世界と同じ様で違っていた。
理解出来るものと理解できないものが有るのだ。考えても仕方ない……、な。
それよりも、モモにこの技を伝授してやりたい。
俺は、技を体得したときのモモが浮かべる表情を想像しながら思った。
『パイラ、ありがとう。そろそろ帰る』
『エコーに私の身体を楽しんでもらえる様に、筋力を鍛えているんだけど気づいた?』
『ああ、もちろんだ。以前とは動きが違う』
相変わらず胸が邪魔だがな。
『ふふ。気に入ってもらえると嬉しいわ』
『じゃあ、合図したらエレノアを転送してくれ』
俺は、宿屋の部屋に居るオウムの体の感覚に戻り、転送したエレノアを受け止めやすい様にベッドの上に飛び移った。
『こっちは準備ができたぞ。転送してくれ』
『分かったわ。五、四、三、二、一、今!』
転送されたエレノアが目の前に現れると思った瞬間、視界が暗転し、目の前にちゃぶ台が現れた。ちゃぶ台の向こうには見覚えのある青いイブニングドレス着た女が居た。
バッ、バグ女神!?




