カール・マルクスと労働とコーヒー
「コーヒー入れてきて。」
「断る。」
「10円。」
「100円。」
「……30円。」
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「なんでアイスコーヒー?私ホットのほうが好きなんだけど。」
「70円の差。」
「温度で70円ですか。そうですか。」
「温めるのにかかる時間が70円。時の価値。」
「今の時間は?」
「ゲームしてるのは楽しいけど。労働は楽しくない。」
「コーヒー淹れるのって労働かな?」
「労働(ろうどう、英: Labor)とは、人間が自然に働きかけて、生活手段や生産手段などをつくり出す活動のこと[1](経済学)。からだを使って働くこと[2]。私はコーヒーを作るために体を使った。」
「脳内コンピュータはうらやましいけど、いちいち注釈まで読むのはどうかと思う。」
「旧式で悪うござんした。」
「別になんでもいいけど……。その手何?」
「30円。」
「知ってる?労働は人間の本質である。カール・マルクスの言葉だよ。」
「労働を通じて人間は自己を実現し、本質的な存在意義を見出すことができるという意味。別に労働の価値と対価は別物。」
「マルクスはいいよね、どう考えても欠陥のある当時の資本主義について馬鹿に教えただけで歴史に残った。」
「彼はその時の社会に見合った行動をとった。当時の状況下で考えついたっていう事実がすごいの。あなたじゃその時代その場所にいても、きっと言えてなかった。あと、マルクスの功績は別にそれだけじゃないし。話しそらしてるし。」
「今に見合った行動って何?」
「それが分かるのが歴史に残る人物ということよ。それはそれとして30円。」
「……サービスに満足しなかったから払いません。」
「今、口座から引き抜いた。ハッキング。」
「30円のためにやることとは思えない。」
「じゃあ、今ここでくれたら戻す。」
「なら、財布取ってきて。」
「断る。」
「10円。」
「100円。」
「11円。」
「刻むな。」