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95 おしまい

エミ


私は、紫煙のエミと呼ばれている。

この世界のダンジョンを巡る、世界の最高の冒険者。


ここは世界の最果てと言われる場所。

紫の煙が立ち込め草木は枯れ落ち、黒い石材で作られた祭壇の様な洞窟から、身のすくむような冷気が放たれていた。

この荒廃の様子と裏腹に、私の心は踊っている。


「あの時みたいだ」


長い旅の果て 『邪神の世界に通じる洞窟』 についた。

本当に長い旅だった。


邪神ショウタ様にまた会えるかもしれない。

あの旅館から戻り8年たった。もう少女と言われる時は過ぎている。

時間の流れが違うから、あっちは昨日の事だったかもしれないけど。


お会いしたら、何を話そう。

返しきれない恩についてだろうか、それとも感謝だろうか。

あの時伝える事ができなかった、私が隠していた思いを伝えたい。

邪神ショウタ様に、妻や巫女はいないはずだ。


いつも夢に見る。

少女の時、心から出る勢いのまま 「私を邪神様の巫女にしてください。魂を捧げる事を誓います」 と、伝えられたら私の人生は変わっただろうか。 


無償の愛で私を包み、世界を見させてくれて、力を与えてくれた邪神様。

私に支払う対価無く、それ以上を望む事は釣り合わないと思い、呵責があったままの告白なんてできなかった。


今でも邪神様に手を掴まれた感触を思い出せる。


――


「エミさんいらっしゃいませ~。66F秘密の宿屋へようこそ。貴方様はキャンペーン当選者です」


目の前が暗転し気づくと、豪華と言えばいいだろうか。ランプが眩しい広間に私はいた。


「まさか、地球でダリアと暴れたらダンジョンを一時的に封印されるとは思いませんでした。ここからどこかに行くには、相当のリスクと労力を支払わねばなりません。自分を無力化する方法を色々と考えておられたようですね。地球の神々め。 猫さんポムさん啓示神がダンジョンから出た隙に99Fの門と入り口を封印してくるとは、考えましたね。ダリアも経済制裁にやられている事だろうし、よしとしましょうキャンペーンです」


何を言っているかわからない。馴れ馴れしくうるさい邪神。

首を上げて辺りを見回すと、天井が高く温かみを感じる空間。木のよい香りと磨かれた大理石の荘厳な感触が足元に伝わってくる。

普段の生活では感じられない空間がここにはあった。


これが異界なのだろうか。


「さて、エミさん。ここにご記帳をお願い致します」


邪神の契約書だろうか。

黒髪の男が本を一冊持ってきた。


「あの、邪神様、この記帳で契約したら村と私を助けて頂けるのですか? 私には払える対価がないのです。道中考えましたが、魂の支払いはやっぱり嫌です」


「お若いのにしっかりされていますね。対価ですか、困りましたね。いくらキャンペーン中でも何かを支払わなければなりませんよね。魂以外になると個人の記憶とか愛情とかですかね? いりませんね。確かにあなたの魂は欲しいような気もしますが、そうですね~。まずは、女性に対して失礼かもしれませんか、お風呂入りませんか? その思いつめた気分もよくなりますよ。当店自慢の露天風呂です」


パチンと邪神様が指を鳴らすと、シュポンと音と共に風景が変わる。


視界は湯気に包まれ、どこかぼんやりとした温かみのある光が照らしていた。

タイル張りの床が濡れて光り、浴槽は湯気がもうもうと立ち、雫が落ちるピチャン音が絶え間なく聞こえてくる。

おそらく、大浴場だ。


こんな展開、本で読んだことがある。

人と言う食材を綺麗にして、味付けして食べようとする話だ。


再び耳の奥に声が聞こえる。


「後ろの引き戸が脱衣場です。自由にご利用下さい~。焦燥でお疲れのご様子。 記帳は後でも構いませんから、自由に設備を使ってくださいね~」


邪神様が、普通に優しい。

今日は朝から、モンスター溢れから逃げるために外に出っぱなしで何も食べていないし、土ぼこりだらけの私の姿も褒められたものでは無いだろう。


そういうことだろうか。身体ぐらい綺麗にしておこう。


脱衣場で服を脱ぎ捨て、体をお湯で流し、静かに湯に体を沈める。

温かな水が肌を包む感覚に全身を委ねる。体の芯からゆっくりと解けていくような心地よさに、自然と目を閉じてしまう。


「私、これから、どうなるんだろう」


お湯の中にそんな思いだけが、残った。


――


お風呂から上がり、置いてあった清潔な薄着な服を着て、木造りの脱衣場を後にすると景色が暗転した。


黒を基調とした椅子とテーブルがあり、そこには邪神様と、パンとお肉を焼いたものが鉄板の上にジュウジュウと音を立てて肉の匂いを振りまきながら、置かれていた。


「浴衣、お似合いですよ。エミさん食べながらでいいので、お願いのプランを詰めましょうか。どうぞ、座ってください」


「は、はい。あの・・・、いただきます」


邪神様がゆっくりと頷く。


お肉が焼けている音で、お腹が空いているのを思い出した。

ナイフで肉を切り、ブスッと差し込み、歯でかじると驚く程やわらかく肉汁が飛び出る。

おいしいと思うと同時に涙が出て来た。

邪神様にこれほどまで満たされていいのか。村は今どうなっているのか。

好かない幼馴染たち。圧倒的な破壊により途方に暮れているのは間違いないだろう。


「エミさん、泣かないでください。そのまえに契約をですね。ああ、そういうことですか。時間軸をいじってるのでここから出る時の時差は微々たるものですよ。こういう事は、言わない方がドラマチックですかね。浦島タローみたいにいきなりのドラマチック展開だ。時間詐称は良くないと思います。まずはお食べ下さい。 涙の塩味はおいしものじゃないですよ。さぁ、涙を拭いて」


ハンカチを出して来る。

これが、何万年も生きていると言う邪神様。

生きている年数が違うのだろう。

村の幼馴染のク〇ガキ達とくらべたら、なんと紳士だろうか。


ハンカチを貰い、涙を拭く。

そして私は目の前の食事をガツガツと食べてしまった。

礼儀と品性。自分の足りなさに恥ずかしさを覚える。


「ごちそうさまでした」


「いえいえ、素敵な食べっぷりですね。作った甲斐があるという物です」


邪神様がニッコリと微笑む。


心臓のドキドキが止まらない。

なんていい邪神様。危険な笑顔だ。


「さて、村の救済が願いでしたよね。代案を用意致しました」


願いだ。

支払う対価を決めなければ。


「そうですね、自分の案内の元にエミ王国が突如として村を拠点に立ち上がり、エミさんの支配の元、王政を築こうとする。エミさんに仕える者たちは、科学や技術を独自の魔法と超自然の力を使って世界の体制を抑え込みエミさんの意思の元 『あの! それの対価私の魂と釣り合わないですね?? もっとお安くできませんか? 魂はちょっと抵抗があるので、人生の一部ぐらいの対価の案ってありませんかね? 1年ぐらいの保存食があれば、なんとか村の復興までつなげるというか~』


思わず、話を遮ってしまった。

忘れていた。

相手は、邪神様だった。


「承知しました。さすが、良い魂をお持な事はありますね。 結末の破滅が見たかったのですが。 さて、エミさんの人生の一部ですか、そんな所でしょうか。自分、ただいま封印されていてキャンペーン中ですし、いいですよ。 まぁ、少ししたら弊社が出している嗜好品が地上と位相世界で無くなるでしょうし。 筆頭管理小雨様も神々の不満を止めれないとおもいますので、良いでしょう」


邪神様の上の存在がいると言う証明。

なんて恐ろしい。


「エミさん。失礼ながら色々足りてない。良い魂だけではやっていけません。村の食料には困らない芋の育成方法と収穫戦闘術と、人間工学とモンスターを倒す術を学びませんか? 少しだけ時間がかかります。こことは時差を作るので、エミさんの星では数時間といった所ですよ。これがエミさんの人生の一部ですね。 そして自分も時間が潰せて助かります」


「あっ、それでお願いします」


と、邪神様の記帳に記入し、返事をした時から体感で数年程、邪神ショウタ様との生活が始まった。

訓練と勉強は厳しかったけど、私は愛で包まれた。


――


目を覚ましたら、村のガレキの中で幼馴染達の声で起き上がる。


「「エミ!起きて大丈夫?」」


「みんな久しぶり、元気だった?」 久しぶりで思わず声がでてしまった。

なんて間抜けた言葉だろうか。


邪神様に 「エミさん、もう一人前です。貴方との時間、楽しかったですよ。 さて、貴方にはやる事があるはず。さぁ、現世に戻って貴方の人生を続けてください。 餞別です。食料の無限増殖する芋の他に受け取って下さい。紫煙の腰のポーチです。紫の煙が貴方を守ってくれるでしょう。 紫煙の対価の魔石の補充を忘れずに」


戻りたくなかった。

だが、契約だ。契約なのだ。

私は、旅館を後に水晶から現世に戻ったのだ。


でも、邪神ショウタ様に私は対価を払っていない。

一緒に過ごした時間が対価? ふざけるな、許せない。

圧倒的に支払いが足りないではないか。


村の時間はほとんど経っていなく、私もあの時と体が変っていない。

邪神様の元、あれだけ成長したと言うのに。全てが許せない。


村に食料の増える芋を渡し、私は邪神様の洞窟に駆けこみモンスターを秒で駆逐して最奥に戻るが、祭壇の水晶の力は無く、もう旅館には戻れなかった。


そう、私の捧げるはずの魂は旅館に囚われたままのだ。


――


そして今、再び可能性を手にしている。


ここは世界の最果てと言われる場所。

長い旅の果て 『邪神の世界に通じる洞窟』 についた。


ワクワクによる、全能感。今私は全能を手にしている。

ここの最奥にいくためなら、疲れや痛みを感じないだろう。

体感時間も刹那で感じられる。


邪悪な洞窟に足を踏み入ると、人の声が聞こえた。


この地にこれる冒険者が、私以外にいるとは。


「ぬぁああああああああああ! この私が2度も、同じ手にやられるとは~! でも、技を見切りました、リザさん、次は勝ちます。貴方を越えますからねぇえええ~!」


「だからと言って、わらわを二度も掴んでいい事にならんのじゃが? もしもし、アヤメ? なぜわらわを掴んだんじゃ? 聞こえないふりしてもダメじゃぞ? 勢いに任せて叫べば許されると思っているのかの?」


人影が子供をギュツと抱いている。


「グアアアアアアア、放すのじゃ! 骨がボキボキ言ってるのじゃよ!? すまぬ! わらわが悪かった! わらわ達は、パーティじゃ。一生宅連のパァアアアティイイイアアアアアアアアアア」


子供を寝かしつけたのだろうか。

人影はゆっくりと眠った子供をおろし、こちらを向いた。


瞬間、戦慄が走る。

この瞬間に、人影から間合いをはかられたのだ。


ここが、もう剣戟の間合いなのか。

私はポーチベルトに手を当て、ロングソードを抜く。


「第一村人でしたか、申し訳ないです~! 剣気に反応してしまいましたか~、間合いを見るのがクセみたいなものでしで~。 ここどこですか~? いや、ますは自己紹介ですかね? 異世界から来ました」


やわらかく話しかけて来るも、戦闘の体制をといていない。

この冒険者、私より強い。


人影は舐めるように私の構えを観察している。


「うん? それショウタさんの意匠ですね。丁寧に作られていますね。へぇ~、異世界転移は波長といいましたか~、関係者の所に飛ばされましたかね? それ、ショウタさんの作成装備ですよね? ショウタさんの作品、私には分るんですよね~」


邪神様の手がかりだ! ついにここまで来たんだ!


紫煙のポーチを起動すると、私の周りに紫の霧がたゆたう。

私に対する悪意を持つ攻撃は、私に当たることなく流れるのだ。

もちろん魔石がエネルギー源だ。


邪神ショウタ様の手がかり何が何でも聞き出したい。

そして、大変恐れ多い邪神様のその名前。呼び捨てが気に入らない。


「剣気ですか。もしかしてリザさんタイプですか~。ショウタさんモテすぎです。ショウタさんのどこがいいんですかね~? リュウナちゃん起きてください~! 敵意ですよ~、戦闘です~」


と、殺意を感じ、私は後ろに飛ぶ。

馬鹿な、斬りかかったら即座にカウンターで斬られていた。


「一応、最後の通告です。話し合いしませんか? でも、楽しそうです~。 その鉄くずの剣で斬りかかればいいでしょう。 本人の性能が良くても獲物が悪すぎます。 いや~、やっぱり斬りかかってください。 私の紫剣を見せたいです! 知っていますか? ショウタさんの作品は、育つんですよ? 育つ傾向が早いんです~」


「アヤメ、闘気出しすぎじゃよ。煽りすぎじゃ。狂気も感じるぞよ。 その方、落ち着くのじゃ。わらわは旅館の協力者。関係者じゃよ。 そのポーチ本人しか基本使えんのじゃろ?  どこで旅館に到達したのじゃ? わらわ達が知らぬとは思えぬ・・・? あ、3か月の空白期間じゃよ、アヤメ。あの男が何もしない訳がないじゃろ。経済制裁は、むしろ悪手だったのじゃ。わらわ達の監視を盗んで何かしていたのじゃよ。 何かあったのじゃ」


アヤメと呼ばれた少女は、顎に手を当て思案した後、懐かしさを覚える意匠の剣をしまった。


「あ~、そう言う感じですか~。 そして、ショウタさんから脳内に連絡きましたね~」


私にも邪神様から心に連絡が来た。

これを求める長い旅だった。

もう、会いたくて会いたくて、聞きたかった言葉だ。


「エミさん、お久しぶりです。立派になりましたね。 このまま現地の方のご案内でお二方を最奥に案内できます? 大切なお客様なんです。もちろんエミさんも大切なお客様です。さて、エミさん。リピートの再訪お待ちしておりましたよ。ようこそ66F、秘密の宿屋へ。 あっ、エミさん、リピートですよね? 前見たいに、最初に逃げたりしませんよね? 待ってください、エミさんの好きな風船つけますから! エミさん、風船を部屋にかざるの好きだったじゃないですか」


邪神様!

涙がぽろぽろと頬を伝うたびに、体は小さく痙攣し、喜びが波のように体を駆け巡る。

そのたびに、痛みと喜びが一緒に胸を締めつけた。


私、絶対に邪神様の一番になりたい。

絶対にだ。



思うに、いつも同じ貴方様にご覧頂いてていたと思います。

このような文章にお付き合い頂いてありがとうございました。


こう、書いていると初期の方、ひでぇ作りだなと思い返してます。

もう一度、最初からリニューアルすれば少し閲覧数は伸びるかもしれませんが。


全体的に何となく楽しんで頂いたでしょうか、それともイラついたでしょうか。

自分なりに書き方と言うのを掴めてきたので、次に行こうと思います。


ありがとうございました。

引き続き楽しんで頂ければと思います。


次の作品ももっと熟考して、プロットとキャラ設定を作らないといけないかなと思うのですが

わざわざ時間をおいて、貴方様を放すのがおしいと思いまして、このペースで投稿していきます。


また明日お会いできればと思います。


そうだ、星と評価を最後のご祝儀としてお願い致します。

推し方は、ここまで来ていただいた方。もう分かりますよね。


新作は、こちら


https://syosetu.com/usernoveldatamanage/top/ncode/2535599/noveldataid/24705069/


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