エピローグ ショウタ
その洞窟は、誰もが立ち寄らないダンジョンの一つだった。
まばらに生えた木々が絡みつくように辺りを囲み、紫の霧が揺らめき荒廃を思い起こさせる。
言い伝えでは 『邪神が眠る洞窟』 と呼ばれ、誰も立ち入ることを許さない様な冷たい異空間を作り出していた。
私は行く当てもなく、邪神の洞窟の前に佇んでいた。
ダンジョン溢れ。
ダンジョンから突如として、モンスター達が侵攻して来る。
強烈な地響きのリズムで、町や建物を破壊していく。
幸いにもモンスター溢れの前兆があり、村のみんなは避難をして災禍を逃れたが、暮らしていた村が壊滅的な打撃を受けた。
逃げた山から、地響きと共に村が破壊される様をありありと見せつけられたのだ。
燃えている村を見下ろしながら、少女エミはモンスターを討つ力を持っていない自分に無力感を感じていた。
早くして両親を亡くし、一人で生活をしているエミと言う少女。
いつもの活発な笑顔は消え失せ、ショートヘアは耳の少し上で切り揃えられ、髪の色は栗色。もはや髪にツヤは無く、疲れ切っていた。
無力感と悔しさや、これからの生活を頭に思い浮かべる度、体に重りがつけられるようだった。
私はなぜこんな目に合わなければいけないのか。
明日から、どうやって暮らせばいいのか。
洞窟の前の冷たい紫の霧も、禍々しい雰囲気も今の私に寄り添っていた。
滅びをもたらすと言う、邪神。どんな存在なのだろうか?
こんな世界が暗く苦しいのなら、全て滅んでしまえばいいのに。
私は、禁足地である洞窟に一歩.二歩と足を踏み入れた。
村娘の力で、洞窟のモンスターを倒すのは不可能とわかっているのに。
そんな時に誰も居ないハズの洞窟から、声が聞こえた気がした。
聞こえているのでは無い。私の耳の奥に声が送られてくる。
「おや? うそでしょう? 人の気配ですね。 良かったらもう少し奥に来てくれませんか? あなたを最強に仕立て上げてみせましょう。 こっちだよ、そっちじゃないよ、こっちだよ。 ファミコムある世界ですか? このネタ通じてます? もしもし? 聞こえているんでしょう。 お願いしますよ、こっちきてください。 この気配的にお嬢さんですか? 聞こえていますか? 今あなたの脳に直接話しかけています」
モンスターだろうか。
人語を理解する高度なモンスターが稀に居るのは、知っている。
人の姿をした、ドンペルゲンガー。異界から現れる魔族と呼ばれる敵対的な生き物。
ダンジョン深部に居ると言う悪魔。私達、人類に敵対的なモンスターだ。
ダンジョンの恐怖を思い出し、出口に走る。
「ああああああああ! 待ってください! お待ちくださいお嬢様! こっちです。何とかこっちにこれませんか? こっちからそっちに行けないんですよね。 どうしましょうか。 万全を期してなら、1回だけなら物が送れそうです。 只今、経済制裁中で暇なんですよ。 おいで頂けませんか? そうだ! 欲しいものあります? あの、宜しければお声を聞かせて頂ければ、お願いします。 あ、自分悪いモンスターじゃないです」
悪い人って、自分は悪く無いと言います。
罪を犯した人は、自分はやってないと皆いいます。
でも良い人は自分でいい人とは言いません。
神様、どうしてこの世界はこんなにも矛盾と苦しみで溢れているのでしょうか。
「あの、誰ですか? モンスターですか?」
私も、疲れと幻聴でまともじゃないのだろう。
モンスターにモンスターですか? と聞くのは意味が無い。
「おお、コンタクトありがとうございます! えーと、お嬢さん、風船いります? ライク、バルーン? 風船好きですか? えーと、日本語だと 『はぁい、お嬢さん。風船好き?』」
「いえ、いらないです」
これは、悪魔種族だ。
知能のあるモンスターの悪魔種族が人を誘惑すると、村の冒険者達が言っていたのを聞いたことを思い出した。
「ですよね。悪魔的手法を身に着けようと、最近学んでるんですが、風船じゃ現代っ子を釣るのは不可能だと思いませんか? スィッチョとか、マネーカード5000分とかリアルな数値じゃないと、なびきもしない、現代のク〇ガキです。悪魔達も、もう少し学んで欲しいですね」
帰って現実と向き合おう。
破壊しつくされた家のがれきと、明日が来ない事を望みながら眠ろう。
悪魔モンスターと喋る事なんて無い。
「あああああああ! 待ってください、行かないで! やりなおしましょう! 欲しいものを一度だけ送りますから! どうすれば奥に来れますか? ここからだと、お嬢さんの気配しか分からないのです。 私はショウタ、人間です。そしてダンジョンで商売をやっている支配人です。 奇跡的に99Fの次元の隙間からそちらに繋がっている様子で、かすかな望みに期待してコンタクトを取らせて頂いております。 お名前を教えてもらっても宜しいですか?」
たしかにモンスターの感じはしない。先ほどと違い、人の感じがする。
頭に直接語り掛けて来るのは、特殊なスキルだろうか。
「エミです。あなたが人間だと言う証拠が欲しい」
そう聞くと、ショウタと呼ばれる何かは静かになる。
「う~ん、人が人である証拠ですか。人は何を持って人とするかと言う、哲学的な質問ですか? 答えられる質問じゃないですよね。 回答があってない様な感じですよね。でも、エミさんが聞くからには、何となく正解の範囲があるということですよね、エミさんは人間の証拠ってなんだと思います?」
えっ、そんな事きかれても困る。
人が人である証拠ってなんだろう。
難しい質問だ。
「共感できる所とかですか」
「ハハハッ、わかりません。でも、共感もいいですよね。ハハハッ」
何か笑われた。
変な質問をした私が悪い気もするけど。
もう帰ろう。
「あの、お邪魔してごめんなさい。でも、何か元気がでました。これからモンスターに破壊された家に戻り、明日からの生活を考えなければならないのです。 帰りますね」
「お待ちください、それは好都合。食料と寝床、生活基盤が必要ですか? 宜しければ、こっちに来て泊まりませんか? 旅館って分かります? 宿屋をダンジョン奥で経営していてるんです。 今、こっちのダンジョンが制裁で封鎖されていて、暇なんですよ。良かったらおいで頂けませんか」
凄いあやしい。
ダンジョンの奥で宿屋を経営するなんて人のやる事じゃない。
今、私に話しかけているのは洞窟に眠る本物の邪神なのだろうか。
そんな事を考えていると、コロンと丸いベルが私の足元に転がる。
「1000回だけ使えるスイッチ、いやベルです。 モンスターなどの対象に向けてチリンとならすと存在を世界から消せます。代償はいりませんよ。今、願いましたよね。感じましたよ。 衣食住がある生活基盤がある場所に行ってみたいと思いましたね。 どうぞ歓迎致します。何かの縁だ。この運命の交錯、エントロピーを期待しております」
存在を消せるアイテムの存在。本当に邪神だった。
でも、ウソは言ってなさそうだ。
私は温かい食事、寝床を想像してしまった。
「自分の所まで道筋案内しますので、どうぞぞうぞ。 ベル鳴らせますよね、モンスターを怖がらずに鳴らすだけです」
話の誘導が凄い上手だ。
邪神のアイテムと分かりながらも思わずベルを手に取ってしまう。
「邪神様、村に来る商人さんの様にお話が上手ですね。そちらにお邪魔していいのでしょうか。それと、邪神様は魂が好物と聞いていますが、私の魂っておいしいのですか?」
「その言葉、嬉しいですね。上手な商人さんですか、照れてしまいます。まてよ、こっちの世界でこんな事言われた事あったか? いや、やつらが強すぎるんだ。流通の祖の腹心が強すぎるせいか。 そうだよ。どうなってやがる。商売のエリートめ。 うん? 何? 自分が邪神? 魂? あ、魂いいですね。でもエミさんの魂って、お高いんでしょう?」
本当に村に来る商人さんにそっくりだ。
あれ? 私の魂、お高い?
――
私は、ベルを握りしめ邪神様の方に進んでみる事にした。
この邪神様を信用してみる事にしたのだ。
洞窟の奥は薄暗く、湿った空気が漂っていた。
私は足音を殺し、手に持ったベルをしっかりと握りしめながら、奥へと進む。
壁に映る微かな光は、苔が発している。
モンスターの低いうなり声が聞こえ、闇の中から鋭い視線が自分を狙っているように感じた。
そんな雰囲気をかき消すかの様に
「はい、そこでチリンと鳴らしてください」
チリンとならした瞬間にうなり声も消えた。
「また、チリンと鳴らしてください」
チリンと音色と共に、また不穏な気配が消えた。
うん、邪神様のアイテムが強すぎる。
この世の物じゃない。
そして、私、すぐ信用しすぎだ。
村の生活で分かったじゃないか、信用しても女友達なんてすぐに裏切るって。
イケメンやいい男を捕まえるために、すぐに女友達は出し抜いてくる。
村のいい男の数に限りがあるから、裏切るのが当たり前とは言え、私はお人よしなのだろう。
「あの? 邪神様。このベル強すぎませんか? 使用に対価が無いとか本当でしょうか。 いえ、あのこの質問も無意味ですか。 無いですって言っても。もうなんかどうにも」
「落ち着いて下さい。次が来ますよ。さぁ、もう少しで深部です。頑張ってください」
もはや、意味が分からない。
こうなってしまった私に抗うすべはない。
その声に従ったまま、洞窟内を進み大きな部屋に出ると、邪悪な相貌な獅子の様な顔の巨大なモンスターが鎮座していた。
邪悪な相貌に思わず息が止まる。
「はい、息を吸って吐いて~、そして腕を伸ばしチリンと鳴らします」
その誘導に 『チリン』 と、鳴らしてしまう。
「グュゴオオオオ・・・」
と、凶悪なモンスターが縦に潰れてそのまま、ゆがみに吸い込まれる。
このモンスターを軽々消せる邪神のアイテム。
この声は、言い伝え通りの邪神でまちがいない。
「ナイス! ナイス胆力。 エミさんいける口じゃないですか~。ここの土壇場でいきなり、私にはできませんとか言う人もいるんですよね~。かなりイライラしますよね。いいからはよ行け、とか思いませんか? 相手を見て怖がるとか、レベル低いと思ってしまいますよ~。エミさん冒険の才能ありますよね」
邪神が何か凄い馴れ馴れしい。イラッとする。
さっきあったばかりだと言うのに、距離が近すぎる。
でも、呼び捨てされないだけましだろうか。
そのまま広間の奥に行くと巨大な石の祭壇があり、その上には暗黒色の水晶が浮かんでいた。
水晶の中には、瞳がうっすらと見え、わずかに光を放っている。
私は、思わず息をのむ。
「あっ、驚かせてしまいましたか。もしかして近すぎました? 球体の水晶だからのぞき込むと巨大な瞳に見えますよね。まさかこんなにも素敵な女性だったとは。エミさんようこそ来てくださいました」
瞳と思った水晶は、黒髪の男を映し出す。
この男が邪神なのだろう。
「あの~、邪神様。お願いの対価ってどのくらいお支払いを取られるのでしょうか」
黒髪の邪神様が、ニンマリと笑い喜びの様子が写し出されている。
この私のお願いも、邪神様の手中の上なのか。
「村がモンスターに生活基盤を徹底的に破壊され、私達は明日から生活できません。明日からどうしたらいいのでしょうか。 邪神様に私に出せる対価を考えたのですが、私はもう何もなく体と魂しか持っておりません。出来ましたら助けて頂きたいのですが、どうしたらいいでしょうか」
「なるほど、悪魔種族が無垢の魂を欲しがる理由がわかりました。美しいものですね。どんなものより美しい。渇望する輝きといった所ですか。 はい、良いですよ。助けます。まず、相対時間いじっておくのでこっちにきませんか? 自分からそっちに行けないんですよ。 手を伸ばしてくれますか? 掴みますから」
軽い。返事が軽い。
思っていたのと違う。
こう、もっと 『我を解き放て』 とか、『魂の代わりに世界の半分をお前にやろうとか』 欲望と破壊の力を魂と天秤にかけてくると思ったのに。
「エミさん、水晶に手を伸ばして下さい。 あの~、ここまで来て期待させて、やっぱりやめるとか人のする事じゃないと思いますよ。 やっぱり風船いりますか? はぁい、エミさん。風船好きかい? それより村を復興できるほどの資材と食料と自営装置がほしいですよね? ですね? 早く、手を伸ばして下さい」
そんなに風船を渡したいの? なんなのだろう。
風船邪神様、人間にそっくりだ。
そして、勧誘上手だ。
私は、水晶を見つめながら手を伸ばす。
これから起る未知なる出来事を想像し、胸のドキドキが止まらない。
子供の頃に描いた、夢物語が始まるのだろうか。
それとも、救いの無い悲劇だろうか。
この出会いは、きっと未来を大きく変える。
最近怖くて、閲覧数を見れなかった。
すげえよ、終わりに向けて話を書くと怖いんだよ。
回が進むごとに怖かった。
あまりそういうのを意識せず書いてるはずなのに。
「この人、同じ物を書かずに新しく書いたら面白いものが書けそうだよな」 とか思った事ないですか?
そうなんだよ。でも怖い、次に行くのが怖いんだ。
何の怖さだったか、考えると
貴方様に飽きられる事。 また、貴方様の興味が違う所に行くんじゃないかと。
人生でも良くある事だ。
バラバラフェステバルの空島から見ていない。こっちー亀を知っていても全巻集めてないし。
むしろ全巻購入している人の方が珍しい。
名探偵もまだ子供で、ザザザザえさんも今だ黒電話。
いい加減、スマートフォンを食事中にいじり怒られたり、イッソーノ、スマブラしようぜが聞こえないとおかしい。
でもなぜ、新しくしないか分るでしょう。
一度終わらせると、人が離れるからだ。
企業でもないのに怖いのだ。不思議な物だ。




