89 終アヤメ
アヤメ
ショウタさんの光の輪に巻かれてコロコロと転がる魔族達。
「戦闘の意思は無い! 和平だ!」 と伊織に担がれ拘束され、叫ぶ閣下様。
大勢は決しました。
魔族とは過去に色々ありましたが仲良くしましょうか。
上の話は小雨様がしてくれるでしょう。
魔王装備のショウタさんが急いだ様子で私の手を掴む。
「アヤメさん、いきましょう。詳細は後でお話致しますから。小雨様、言質も取れましたしいいでしょうか。 これで何かあったら、私が魔族次元に突っ込んで支配しますから。そうなったら人材のつかみ取りですね、契約重視の種族ですから。つまり鉱山で働く貨車馬ですね。契約させて一生解放しません。そしましたら、後はお願い致します。アヤメさんをお借りします。伊織さんすみません! 小雨様の護衛、お願いします!」
さすが、ショウタさん。労働倫理が中世制度のブラックな感覚です。
あれ? 現代社会の倫理もあまり変わりませんか?
開戦しなくて良かったですね~。
まずは、小雨様にお伺いを立てないといけません。
「小雨様、ショウタさんの方に行っていいですか~?」
「一瞬にして砲艦外交で紛争解決とは。ショウタ殿の支配者経験ありは、伊達じゃないのだな~。 勉強になった。そうだな、アヤメ行ってこい。後は我らの仕事だ。 一応、伊織を借りておくぞ。後の段取りだけ済ませようか」
「「「承知致しました」」」
私は、巫女服のリュウナちゃんの襟を掴み、ショウタさんとダンジョン出口へ向かう。
「はい? アヤメ? わらわを掴んでどうしたんじゃ? わらわもここで紛争解決したいたいんじゃが」
そのセリフを聞いたショウタさんが笑いながらダンジョン出口へ向かう。
「ハハハッ。それは心強い。リュウナさん。外は紛争の格上、破壊世紀末大戦争が解決できますよ。おっと、小雨様には内緒ですよ。 ネコさん、破壊神様、制裁神様が出て来てます。龍神リザが強くて、大変な事になってます」
「だそうだぞ? アヤメ? この人間頭おかしいじゃろ。 いや、人間の扱える範囲の力を超えると誰もがおかしくなるのじゃがな? 全員が超級な力を持ちながら平和で怠惰なメルヘン世界だってあるんじゃぞ? はやり人間は人間なのかの?」
いや~! リュウナちゃん連れて来てよかったですぅ~。
さすが神様、聞きたかった答えを出してくれますよね~。
――
眩しい光、ショウタさんリュウナちゃんと手を繋ぎダンジョン外に出た。
「アヤメさん、ありがとうございます。えーと、小雨様がここに来る前にリザを倒して、崩壊した世界を修復して、砕かれた月、衛星を元に戻して、異世界召喚した破壊の獣達を何事も無かったかのように帰還させないと、この星のオーナー達に超怒られます。確実に取引停止を食らってしまいますので、時間がありません。 ハハッ、どうしましょう」
目の前に映った光景、空は引き裂かれ大地が沸騰し山々は塵となり辺りは魑魅魍魎が跋扈していた。
先ほどダンジョンでみた、地獄絵図が生ぬるく感じる。
「いやいや、ショウタさん?? こんな短時間でよくこんな光景が作れましたよね?? これある意味、才能ですよね? タレントって言うんですか? 何でこうなるんですか? 何でこうなるんですか?」
「ハハッ、照れます。物語は、『人類は絶滅の危機に瀕していた』 から始まる物ですよ。自分の世代だと当たり前でしたよ。 異世界でもそんな感じでした。舞台が世界滅亡、そして無限増殖チートとか。法則無視を連発したら、リザと言う終末も来るってものですよ」
地獄のような光景を背景に照れる魔王。
あ、これダメですね~。
状況を整理しましょう。
「えーと、地球復元役のショウタさんを守り、リザさんを倒せばいいと言う事ですか?」
「さすがアヤメ様。その通りです。全力で援護と協力を惜しみません。自分が戦闘不能になった瞬間、リザに連れ去られてしまいます。世界のお終いです。それは避けなければいけませんから」
そのリザさんの暴れっぷりを見ようと、引き裂かれた空を見ると同時にシュィイインと、制裁神様と破壊神様が隣に沸いた。
2柱はいつもの服装をベースに雅になっていた。
制裁神様は紫の着物に金の龍の刺繍、帯が青い龍をモチーフとして、制裁神様にとても似合っている。
そして、ロン毛の破壊神様の灯篭と独鈷の神器が辺りに浮かび、額に第三の目が煌びやかに装飾されていた。
「ショウタ殿のアップデート装備でも耐えるのが精いっぱいですわね」
「星霜を超えた、はるか昔の装備を復元してもらっても辛いわけ、あの龍人間どうなってるわけ?」
権能持ちの戦闘神様がいらっしゃいました。
これが勝ち確定の流れだといいのですが~。
「お疲れ様です~! 今日は、お味方ですか~!」
「傭兵として戦ってくれると言う事で、装備強化といくらか現金を握らせてですね・・・。あ、小雨様が怒るので内緒でお願いしますよ」
「これでやっと、いつもお世話になっている美の女神ちゃんを旅行に連れて行ってあげれるわけ」
破壊神様、めっちゃいい破壊神様じゃないですか!
この方が、なぜ破壊の権能を持っているんでしょうか?
「リュウナもきましたか。私と一緒に、リザの大気の衣を剥がしますよ。あとリュウナ、見てくださいこの帯と着物。わびさびの塊、何と言う美的感覚。贅沢とはなんて恐ろしいのかしら・・・。光る物を体に付けた瞬間から幸福感が脳に直接きて、本能に抗えないのです」
秩序を保つ権能持ちが買収されています! そして、凄い気品あふれて似合っています。
ショウタさんの作成する装備、センスが良すぎます。絶対欲しくなりますもん!
66F支配人、なんて邪悪なのでしょう。
遠くを見ると青のレーザービームが夜の繁華街のネオン様に射出されている。
ネコさんだろう。
「一度、猫さんを呼びましょう。 陣形を決めて、一気に叩きますよ」
シュポンと言う音と共に辺りに杖と魔導書を展開しているネコさんが沸いた。
「にゃっ、助かったにゃ。 しかしご主人、この世界の後始末。どう責任とるつもりにゃ?」
「ネコさん。リザが悪いですよね。地球で暴れたリザが悪いですよね。自分に責任ないです」
始まりが、リザさんとの情事のもつれですよね。
ショウタさんが悪いと思います。
もちろん、女性としての直感ですけども~。
ゴゴゴゴゴゴオオオッツと世界を裂くような音と同時に、龍人形態のリザさんが空に浮かんでいる。
リザさんの口上が始まりますでしょうか。
「全力の戦闘も良いものですね。昔を思い出します。私の中でいつも光る最高の思い出。ショウタ様、いえ、お父様。 お父様、帰りましょう。 私の星の2柱も待っています。今は納得できなくても1000年も一緒に居れば、何となく私の世界も良いと思えますよ。 ええ、帰ったら、従順に頷くまで外に出しませんけども。 あっ、もちろん戦う権利はありますよ。お父様、いつでもどうぞ」
うわ、娘さんお父さんにそっくりですね~。
あんまり性格良くなさそうです~。
「リザ。ようやく自分は、戦いから解放されて自由を得たんだよ。いい加減に独り立ちしてくれ。 お前を育て、神々を解放し次元を救った。為政者の仕事は残ったかもしれないが、あの2柱も居る。ここからは、お前達の責務だろうが。もう自分は関係ないだろうが」
言い方がへたくそすぎます。
こんな言い方されたら誰だって怒りますよ~。
「ショウタさん、女心がわかりませんか~? もう少し丸く言うだけで、未来は変わると思いますよ~」
説明すれば分る方なので伝わると思います。
ショウタさんは、気づきを得たのか再度口上を始める。
「リザ、すまん。もう一度やりなおしだ。こうしてお前がたまに会いに来てくれるなら、お前を娘として抱きしめる事だって厭わない。愛しているぞ、リザ。どこに出しても為政者としてやっていける自慢の娘だ。お前を倒す存在とかちょっと想像が出来ない。 だが、自分を連れて行こうとするなら話は変わる。いい加減独り立ちしろよ。リザ」
ずっと良い、口上ですよね~。 それともずっと良い煽りですか?
お父さんに戻って欲しくて、リザさん来たのですね。
難しい話ですよね。一度別れたお父さんと、一緒に住むって言うのは想像できません。
たしかに、ショウタさんが戻る気が無かったら成立しませんよね~。
「・・・、ショウタ様。分かりました。 じゃあ、一回一緒に戻ってくれます? 2柱も貴方にお会いしたくて待ってます」
「いやだ。 すまない、信用しきれない。2柱が大人しく自分を戻すとは思えない。 絶対に軟禁するだろ。断る」
ここで頷けないですか。
未来が読めます。
さて、やりますか。
「そうですか、連れて行きますね。折角ですから、悔いが残らないように皆様も全力でどうぞ」
大気が叫びを上げ、空と星、そして世界がリザさんに従う様な感覚を受ける。
とんでもない威圧感だ。
ショウタさんがこちらを見て慌てて話す。
「来ますよ! 皆様お願い致します! 手を繋いでください。 最大限に力を引き上げます!」
逃がさないようにリュウナちゃんの手と猫さんの肉球を握る。
「わらわ、内輪もめに駆り出されたのかの? ピギッ!」
「おやおや、リュウナ、言うようになりましたね。許しませんよ」
制裁神様がリュウナちゃんの喉を触ったかと思うと大人しくなった。
そのままリュウナちゃんの手を握る。
握った手は、輪となり全員の光が回る。
全能の光が私達の中を巡り、そして全員が光り輝く。
「そしたら、突っ込みますよ~。援護お願いします~」
「承知したにゃ~」
「わらわの力で、大気の衣を剥ぐから龍人の力で飛べなくするのじゃ。ネコ殿わらわを守って欲しいのじゃ。頼むぞよ」
リザさんがズン! と沸騰した大地に着地した。
いきなり勝機がきた。
こんな簡単に世界は救えてしまっては、リュウナちゃんの教育に悪いと思います。
なんだか、許せません。
リュウナちゃん、もしかして凄い神様でしたか?
考える時間がもったいない。
この瞬間を見逃せないし、間合いに入ろう。
前に立つと言う観測を出力する。
リザさんがまともに構えたら間合いに入れない、2手目で胴体が泣き別れとなる未来が見えた。
構える前に紫の尾を引く紫剣の一撃を入れるが大剣で火花を散らし防がれる。
後ろから、ショウタさんの応援の声が聞こえた。
「おお! お見事です! そのまま時間を稼いでください! 元気なリザに会えて嬉しかったよ。 出直してきてくれ~。少し早いお別れの挨拶だゾ。この世界で破壊行為は禁止だからな。次は暴れるなよ。 これが、お前も知っている魔王流異世界の扉だ」
煽りながら、立体的に魔法陣が大展開され大魔法の準備をするショウタさん。
そして、なぜ勝っても無いのに煽るのでしょうか。
制裁神様が瞬時に飛び込み、山を断つ蹴りが大地を疾走しリザさんに迫るが片手でパン! と、払われる。
「ここで素直に帰れますか! 飛ばされたとしても次は2柱も引き連れてきますからね! 今度こそこの世界は、私達の支配の元暮らすことになるでしょう! この世界は不完全だ!」
すぐに破壊神様の星を貫くレーザービームとネコさんのレーザーが射出された。
即座に、間合いを離れる。
「いっけぇえええええ」
とリュウナちゃんも何か応援してくれる。
星を貫くエネルギーは大剣で防がれ、力が拡散され激しい光の粒が世界を包む。
そしてリザさんの後ろに穴が開き、レーザー事押し込まれた。
「ハハハッ、愛しているぞ~リザ。 ハハハッ。だが、父の方が強かったみたいだな! 父さんは偉大なんだ、分かるか? そして一人の力の限界をまだ気づかんのか。元気でな」
「絶対連れて帰りますからねぇええええええ・・・・・ぇ」
と、リザさんが空間の穴に吸い込まれていった。
次は、攫われると思いますよ。煽ってよかったんですかね?
そして、穴からお返しとばかりに出て来た多数の金の鎖が、私を掴もうとしてきた。
蹴り飛び距離を取り、鎖を紫剣で切りつける。
剣で払っても斬れない。
触手の様に蠢く鎖が、私をギュッと縛る。
全力でも振りほどくことも出来ず、縛られ引き込まれ、穴が迫って来た。
「「「うおおおお!? アヤメさん踏ん張って!!」」」
全員が私を連れていかれないように、皆が足を掴み、鎖を攻撃してくれている。
ダメだ、抵抗できなさそうだ。
もう空間の穴が目の前だ。どんな力でも鎖が切れない。
穴に吸い込まれる瞬間、ふと思う。
「一人では寂しい」
と。
ごめんね。リュウナちゃん。
後で謝るし、何でもする。
「ごめんね、一緒に行こう?」
私の手がリュウナちゃんの手を掴んだ。




