86 ショウタ
ショウタ
旅館の入り口に立ち、緑色の光を放ち続ける観葉植物の隣に立ちながら思案している。
「リザそろそろ帰らなくていいのか? お前の星はどうしたんだ? 王位不在も良くないだろう?」
龍神リザ。大型終焉を倒すことのできる存在。
龍の色が濃く、肌が薄い緑色で茶色のボサボサぽいロング。
そして強さのパラメーターがバグっている。
リザの次元で終焉に抗いながら戦っていたため、戦いと為政者としての立ち振る舞いしか教育してこなかった。
拾った時は、子供ながらの身を犠牲にしてまで終焉に立ち向かっていく魂の強さがあった。
そこを助けたのが始まりだった。
「この星の寿命まで居るつもりです。 そうでもしないと、一緒に帰ってくれないでしょう? そして、ショウタ様も存じてるでしょう。私の星は、問題ありません。残った2柱の神様が嬉々として人類を導き、星に沸いた終焉を倒してますから」
自分を緑色の目で見つめ、キリッと毅然として答えてくれる。
「そもそもショウタ様。私に子を頂けるのは、いつですか? ショウタ様の子の存在を確認して、詳しく聞きました。 つまり、育てた娘でもありよりのあり!だと言う事ですよね? 育て親でもオッケーと言うことですよね。 まだですか? 私は、いつでもいいです!!」
ほら、話がやばくなってきた。倫理観が仕事していない。
負けたら即終了の次元だったし、上の立場のプレッシャーが凄いんだよな。
その反動の行動がこんな感じ。
プレッシャーからか、わずかなプライベート時間で常に一緒を強要される。どこでも一緒、勘弁して欲しい。
でも、数千年間、封印されていた時にリザに任せていたから何も言えない所がある。
他になんか趣味とか興味を持って欲しい。
「あ、断ってもいいです。もちろんショウタ様と戦って勝ち取りますし。そして、これからずっと一緒ですから」
な? やばいだろ? どんな教育を受けてきたんだ? 台詞に親近感があるから、リザの次元の2柱だな。
感覚が古代バイキングな感じなんだよ。
戦って奪う事と身内大好き人間。
「素敵なお二人にゃ。 もしもその一緒に帰る時期が早まるとしたらにゃ。次元移動の際は、協力させて頂きたいにゃ~」
「ありがとう親切なネコさん」
いつの間にか、隣に沸いた猫さんとギュッと握手をするリザ。
もしもし、猫さん??
いつの間にか沸いた浮遊する猫が、リザと宜しくやっている。
どうしたものか。
あやふやな態度でお茶を濁しつつやっていくしかありませんね。
――
あれから、他次元から泊まりに来てくれるにお客が少し増えた。
旅館中心に動いているアヤメさん、伊織さん。エルフご一行様、主幹者ご一行。地球から神々イベントがあると。いつもの神々が利用してくれている。
今日の宿泊客は、2人だ。
1人がすみ着いているリザ。宿代に全ての対価をくれるそうだが、断った。
愛が重い。
『お疲れ様』 と言って、外に放り出すと武力で世界を統一しそうで外にも出せない。
「不完全な世界だ。私の意思の元に世界は一つになるといい」 と言いかねない。
戦いと自分と一緒にいる他に、何か趣味とか興味無いのか? 嫌われるぞ??
いつでも一緒、どこでも一緒。 一人の時間の大切さとか分からないか?
はぁ~、育て親の2柱の教育が悪かったんだな。
そして、お泊りになられている啓示神様。
啓示の権能、素晴らしいです。好きなだけ泊って行ってくださって結構です。
超上客です。
この前広告とCMの啓示をお願いしました。
世界の配信を乗っ取って全ての人類に弊社の旅館の広告をしてもらいました。
~生をかけた特等席~
秘密の宿屋では、その方のレベル、装備、スキルを繊細にとらえ、逆説的にもてなします。訪れた時と空間がもたらす最高の瞬間。あなたを日常から解き放ち解脱の境地へ導きます。
ポムさんのピアノ、猫さんのあざとい可愛い系アニマルの演技。
そして、男の子たちが大好きな。 大艦巨砲主義っぽい大剣の紹介。
人の脳内に、弊社の旅館のイメージが啓示された事でしょう。
秒で 「脳内スパムやめろ」 と、小雨様と制裁神様とアリエノールさんがダンジョンに突撃してきて、ご指摘を頂きました。
そして、豪勢に接待したら 「ほどほどならオッケー」 と頂きました。
小雨様が不満そうでしたが、弊社も稼がないといけませんからね。
話題になるなら何でもやります。
でも、新規のお客様は、今だに旅館へ来れてません。
主に弊社の利益は、位相世界アンテナショップと小雨カンパニーへの魔導書の納品です。
やはり多角化経営です、何が起こるか分からない時代です。多角化経営といきましょう。
――
そんな感じの弊社です。
今日もポムさんが黒を基調としたドレスを着てラウンジでピアノを弾いています。
そして、隣で啓示神がずーっと撮影をしております。
【もう最高。世界に発信するわよ~。世界は、この動画を見る義務があるわね~】
このピアノを啓示の権能でステータスカードに強制的に乗せているとか。
ポムさんの撮影が今の啓示神の流行なのでしょう。 ポムさんのマネージャー気分で、あの手この手で盛り上げています。
もまもなく、人の良い破壊神様が 「啓示の乱用やめて欲しいわけ」 と、すぐに来るでしょう。
まぁまぁ、お賽銭や心持と言って、100万も渡せばいいでしょう。浄財の玉ぐし料というやつです。
弊社の宣伝も兼ねているので、見逃して欲しい所です。
ほら、来ました。
受付にフォンフォンフォンと連絡が入る。
旅館ブレスレットを使った連絡だ。
「お世話になっておりますー。舞ですー。ショウタ支配人、いらっしゃいますねー。動画に映ってましたからいますよねー」
おおぅ、小雨カンパニーの弊社の取引担当及び、窓口の舞さんですか。
強敵が来ました。
最近、メキメキと腕を上げている舞さんです。
ここは、自分がいきましょう。
「あ、どうも~、お世話になっております~。どうぞ~。転移しますね~」
シュポンとここに沸いてもらう。
66Fまでご足労頂くも失礼だろう。
お会いした時は、学生気分が残った弱い感じでしたが。
最近、どこか大人びて赤メガネの奥が光っています。
「ショウタさんー、お世話になっておりますー。ポムさんのピアノの衣装素敵ですー! ショウタさんが作ってるんですよねー。 推せます。マジ推せますよー。 販売する時、協力致しますので、お声がけくださいねー!」
大量販売できるものでは無いので、スルーでしょう。
グッズに当たる物です、労力に見合うものでは無いです。価格も高くなります。
ポムさんのファンサービス見たいなものですね。 却下です。
「そうですね、時期をみて考えたいと思います。 まずは、こちらへどうぞ。後、ポムさんの撮影が御終わり次第舞さんにつけますので」
「いえいえー、このままで、いいですー。あ、でも後でポムさんはつけて下さいー」
「そうですか、承知しました。 今日はどうされました?」
舞さんが、クイッと眼鏡を上げて話始める。
「長野でダンジョン溢れの兆候です。弊社に応援、頂きたいのですがー」
願いを叶える66Fの支配人の力としての応援ですか。
ちょっと関係ないですし、取引先とは言え、優位的立場を使った行動ですね。
そういうの、良くないですよ。
「あ、協賛や賛同得られないのでしたら大丈夫ですよー。でも弊社、小雨カンパニーのイベントの誘い断るとか本気ですかー?」
あ、休日のゴルフ接待や、懇親会参加な感じですかね?
休日潰して、転生前にいやと言うほどやりましたよ。
得意先の休日のマラソン大会や清掃応援ボランティアみたいな?
そう考えると、行くしかないですね。自発的ですからね。
こういうイベントは行かないと圧倒的に差別されますからね。
ク〇がよ。
でも、一番乗りで行かなきゃいけない。これで歓心が買えるなら、安い。めちゃ安い。大手に貸しなんていくらあっても足りない。
「もちろん! 参加させて頂きますよ! 異世界侵攻防衛ボランティア参加させて頂きます。ぜひに! 小雨様に宜しくお伝え願いますー」
「行きましょう! ショウタ様! 貴方と再び戦えることを、ずーーーっと夢見て思ってました。さぁ! ショウタ様に剣を向けた愚かさ、このリザが分からせて見せます。 まずは向こうの王をショウタ様が好きだったミンチにします! 愚か者の星の制圧、私の意思とショウタ様の統治の元、世界は一つになるのです!」
リザうるさい。近いし腕つかむなや。 あっちいけ。
キラキラした目でこっちみるんじゃない。
「ご参加ありがとうございます。リザさんもご参加頂けますかー。 そうなるとアリエノールさんの星もお終いですかー?」
そうなります。
武力支配でリザに勝てる存在なんて考えられません。
平等な統治が行われるでしょう。人々は、リザと言う義務の光の下で、正義と平等に溢れた世界で暮らす事になるでしょう。 酒、たばこ、ギャンブルの禁止、あと過度なネットの使用は、制限され3ギガ以下の制限で暮らす事となります。
自分は、その世界を地獄と定義します。
さて、小雨様関係は優先しなければなりません。
社内連絡です。
「では、皆様。お仕事に行ってきます。 来客の際は宜しくお願い致します~」
「「承知致しました~」」
【ショウタ、CMやった割にお客来ないわよね? 新規0人ってやばくないかしら? でも、いってらっしゃい。 ここでポムちゃんネコちゃんと待ってるから行ってらっしゃい~】
何かいいよな、啓示神。距離感がいいよな。付き合いたい。
個人的には、こういう関係が理想だと思う。不必要にべたべたする必要が無いのがいいよな。
旅館に依存していて、地球の上位神からクレームが入るのは、ささいな問題だと思います。
啓示の権能。地球に大人しく返すと思っているのか。
「ショウタ様! 参りましょう! ショウタ様の意思で世界を満たしましょう!」
リザ。なんだろう。
違うんだよな。違う。もう、全てのリソースを戦いにまわしていたあの時とは違うんだよ。
温度差、分からないかなぁ。
例えるなら、部活で言うエンジョイ勢とガチ勢の違い。
確かに一緒に目標に向かって頑張った。でも、もうその必要は無いんだ。
それぞれの人生があると思わないか?
「さて、舞さんいきますか。 今日このイベント終わったら泊っていきます? 今日は、空いてますのでサービス致しますよ」
「おー、私2人でお邪魔するかもしれませんー。宜しくお願いしますー! ポムさんの指名いいですよね!」
よし、話はまとまった。
枕営業、ハニートラップ。近代史が言っている。
これが最強の一手だと。
そうだろ?
さて、飛びますか。
舞さんの手を取り、シュポンと飛ぶと同時にリザがついてくる。
振り切れない。強すぎる。
3人でダンジョンゲートを一緒に出た。相変わらず、地上の日の光が眩しい。
そのまま覚えがある長野ダンジョンに飛ぶ。
仕方が無い。リザの手を掴み一緒に飛ぶ。
「あっ・・・触れた手の感触に脳が焼かれてしまう。そうだ、覚えている。はるか昔、この様に手を引いてもらった。終わりの世界で唯一感じられた、私の全て」
拗らせてるな。
前回きた長野ダンジョン前が見える山岳についた。
人の気配を探ると、少し後ろの空に覚えがある気配。アヤメさん達と小雨達の気配が感じられた。
「舞さん、この辺の着地でよかったですか?」
「ありがとうございます。相変わらず転移スキルの効果凄いですねー。このレアスキル持ちが増えたら、運搬業界廃業ですよー。 あ、その時は、ショウタさんと圧力かけて買収して封じ込めましょうねー!」
大企業のエリート怖い。
自由を許さない支配の確立。
ババババとヘリの音共に、後方でヘリが着地した様子を感じる。
後ろを振り返り、アヤメさん、伊織さん、小雨様、アリエノールさんとリュウナさんが降りて来た。
「おっ、出迎え感謝する。ううん? ショウタ殿を待ってここに飛んでも良かったか」
「ショウタさん、リザさんも一緒でしたか。やっぱりそうですよね~」
「さすがにプレッシャーを感じます。異界の帝王がお二人と、地球最高戦力のお二人。説得より小雨様に魔族の星の助命嘆願をした方が効率的だと思うのですが。これも仕方が無い事ですか」
「わらわ、ここで何するんじゃ? 冗談とかでなくてな? このメンツにわらわ必要か?? ちょっかいをかけてくる星を制圧しに行くんじゃろ? 雨降らすぐらいしか、やる事ないのじゃが? たしかに、これから乗り込んで業火で燃え盛る城や町を鎮火させるのに必要かもしれんが? 必要じゃろか?」
「さて、舞。こっちに来るんだ。専属の舞からリュウナに教えて欲しい事が沢山あるからな」
ヘリからご一行がぞろぞろと出てきました。
小雨様がダンジョン方向へ指さした。
「ここから見えるか、長野ダンジョンの民間人は全員退避している。 ときおり哨戒する魔族が門から出て来て様子を伺っている様だ。とうぜん侵略者のモンスターとして迎え撃つのだが。 まぁ・・・、そのアリエノールに最後に説得の選択をさせてやりたくてな。私情が入っていてすまない。助けて欲しい」
その心意気に皆が膝を付く。
思わず自分も膝を付いてしまう。
「「「仰せのままに」」」
そして、リザが立ち上がり。
「お任せください」 と言ったか。
リザがダンジョン方向に手を振りぬく。
その手に持つのは、終焉をも斬る無骨な大剣。
ダンジョン前に圧倒的なサイクロンが巻き起こり、周囲を吹き飛ばす。
大地が割れ、天から破砕の大剣が大量に突き刺さり、塵へと変える。
哨戒に出ていた魔族二人が切り刻まれながら、地面に張り付けられた。
ダンジョンゲートと、哨戒の魔族を残して全てが吹き飛び塵となった。
「最初から圧力をかけて、出鼻を折る。これでショウタ様との力の差が分かったでしょう。降伏の意を伝えるのも容易い」
リザから支配者のオーラが出ている。
これは良くない。
アヤメさん達が目を細め、舞さんが目に手を当てアチャーのポーズ。リュウナさんが帰る支度をしてヘリに乗り込んでいる。
なにより、小雨様が不満顔だ。
まず話し合いだって言ってただろうが。
ボコボコにしてから、恐怖と威圧で話し合いか??
これでは、ダンジョンから出せない。
この星と相性が悪すぎる。
「リザ、お前。帰れ」
お前、地球に向いてないよ。
男は、村の生まれで誠実な男で体格に恵まれていた。
戦士のクラスとして生まれて、師を得て、そして一緒に育った親友、幼馴染と生まれ持った戦士としての才能を開花させ、村の英雄として暮らしていた。
ある時、成人の義で、神からの啓示を受けれる様になった。
「お主には、神に好かれる才能と力がある」
朝8時から始まる、アニメシリーズの魔法少女達のアゲポヨ~とか、ペカチュウとか、「この書類に家、貯金、財産、全てを記入し得てください。ここから、あなたのファイヤー生活が始まります」 とか叫び出す、隣に存在する謎アニマルが唐突に隣に居て啓示が入る事となった。
少年から青年に。
その青年はメキメキと腕を上げ、参戦した戦でスキルと啓示により手柄を上げていった。
その才能を認められ、帝国の将軍となる。
謀略渦巻く宮廷内で、戦いしか知らぬ青年。
神の啓示により、幾多の危機を乗り越える。
そして、青年は英雄になった。
また、戦が始まる。
帝国領に隣接する、貿易関係で仲が深い王国が他国へ着いたのだ。
稀代の英雄として帝国の指揮を執る青年。
その王国は、自分の故郷。
帝国が侵攻する王国の将軍と文官が親友と幼馴染だった。
青年は、悩む。
運命は止まることなく開戦となった。
親、兄弟、親戚の姿を敵の布陣時に見つける。
向こうの将となっていた。
このまま侵攻を開始して、自分は正しいのか。
英雄の戦士は悩む。
そして、いつも自分を救ってくれた啓示が来る。
「いや、お主。これだけ戦果を稼いでおいて将軍となり英雄の立場を享受しておいて、戦わんのか?? わらわドン引きじゃ。お主何様じゃ? お主の職業戦士じゃないのか? 祖国に刃を向けるのがお前だけだと思っておるのか? 悩む理由が分からんのじゃが?? 卑怯じゃないかの? 卑怯が喜ばれるのも分るがの。逃げるが勝ちかもしれんが。今一度お主が、お主であるのは何がそうさせているのか、考えて欲しいのじゃ」
世界最初に記述された小説を、現代風に直したあらすじかもしれない。
真なる王道と言うのも、変らないと思う。




