84 ショウタ カーテンコール
ショウタ
ダリアに押されたのは気に入りませんが。
主幹者達に倒されたふりをして無事に旅館に戻ってきました。
いや~、疲れましたよ。過去との決別ってやつは。
魔族幹部達、立派になってましたよね。
自分が統括してた時よりも、よりよい和平の未来を掴んでたのではないでしょうか。
この星の魔王をやめて一般人みたいな者ですから、お節介を焼くのもいかがなものかとは思ってたんですよ。
ですが、この世界から色々と始まって確執もあり、こんな感じで過去を締めるとしましょう。
そもそもです。女神ダリアのすぐキレる激情は、如何なものかと思いますが。
しかし! 主幹者は元凶のダリアと手を組んでよくぞ自分を倒しました。
ミリサリとミリュネー、後勇者クロエさん。良くやってくれました。
地球ご一行の方々も観光気分でよくぞここまでこれたものです。
お見事です。
自分と対峙したアヤメさん、異世界の広さと強さを知って地球で満足できますかね。
息子っぽい存在は、認知しない方向でいきましょう。
何度も言うようですが、ミリュネーとミリサリと合意があったんだって。
魔王をやめるなら、王子様を創っていってくれって言われたの。問題ないはずですよね?
それでも自分が悪い気がしてきますよね。
この気持ちは人間の習性で、遺伝子に組み込まれてますか。
――
旅館に戻ると、従業員の猫さんとポムさんが光る観葉植物が立ち並ぶロビーで出迎えてくれた。
「「お帰りなさいませ~」」
二人のテンションが高い。
なるほど、啓示神と共にいきさつを見ていましたか。
「ご主人、見事だったにゃ~。吾輩感動したにゃ。エントロピーの増大、関係者の交錯する運命により、星の命運を掴んだにゃ。作られた平和の中でも最高の結末にゃ~。ご主人、悪じゃなかったのにゃ~? ちがうにゃ、沢山の 『今』 を消してたにゃ? やっぱ悪にゃ~」
猫さんありがとうございます?
エキストラ出演の地球ご一行と、命の在り方を問うアヤメさんの動きを世界に映したのが良かったですよね。
「自分の迫真の演技いかがでしたか」
「ご主人様、最高です! まさに世界を統べる魔王です! あの者達の作られた仮初の平和。再度、ご主人様が侵攻をする時にはあの者達は生きてはいないでしょう!」
ポムさん、片膝をついて魔王幹部っぽく答えるのやめて頂けます?
もう自分、魔王やめたのですからビジネス的でオッケーですよ。
ポムさんのニュアンスが違う感じがしますが、良いでしょう。
さて、啓示の権能。
終焉ゲート前、アヤメさんの動画配信を担った立役者。
そして、最後のゲートの戦いをダリア次元で映し出すと言う値千金の力。
世界中で見ていた人々から本来存在しない魂の力が派生して、運命エントロピーを越えたと思います。
今で言うと動画広告の力ですね? 広告の力って凄いと思います。
啓示の権能の力って凄いな。
その、存在に似合わずに凄い・・・? 似合っていますね。
啓示の神と言われても納得です。パーカーでダウナー系スタイリッシュ美人。
考えをあらためまして。
お金が無い神様ですが、丁重に扱う事にしましょう。
最強の発信力。一番強敵かもしれません。
まだ啓示神は気づいてないですが、悪意を持って啓示をされた場合、太刀打ちできないかもしれません。
自分の接待が気に入られず、啓示神に低評価されて弊社を評価1とかされたらどうしましょう。
「冒険者達がうるさく、くつろげなかったわね。評価1あげます」
とかイラつく評価を頂いたら、どうしましょうか。逆らえないですね。怖くなってきました。
もしもし、聞こえていますか?
星5を押してブックマーク押してSMSで拡散して、応援サイトを立ち上げるんですよ。
いいですね? 自分では、やりたくありません。
ロビー奥で啓示神の姿が見える。
ラウンジで配信用のホログラムだろうか、画面がいくつも浮かび上があっている、啓示の権能の活用で異世界とつないでいるのだろう。
そこには、ホログラムに蒼く照らされた啓示神が居た。
まずは、労わなければ。
広告の力を持つ神だ、仲良くやろう。
「啓示神様~、あの~大変お疲れ様です」
『何? 急にかしこまって、怖いわね~。 心を入れ替える性格でもないし、どうしたの?』
その力の凄さに気づいたので丁重に扱おうと思いました。とか、言わない。
何か悔しいし。
「見事な切り抜きの編集能力と、その啓示の権能が凄いなと思いまして。素敵な力です。映像化が啓示の権能の範囲なのですね。この現代社会において、最強の力ですか。そして、その力を乱用しないのに驚きました」
『えっ? 告白か何かかしら? そう、私もショウタがいいな~って思ってたのよね。 それと乱用はしてるわよ。個人的なスパチャとかに使ってるし。ばれたら制裁神に顔の形が変るまで殴られるんだけどね』
乱用してるんかい。でも程度が小さいし、好感が持てる。
会う度に財布からいくらかこっそり抜いていく、地球の時の元カノ達にそっくりだ。
『あっ、ショウタ。これ見てよ。アヤメちゃんの配信なんだけど、ゲートが破壊されてめでたしめでたしでしょ? でも何か入り込んでるんだけど』
周囲に浮いている画面のホログラムを見た。
なんか、龍人が全員に囲まれている。
大剣ビキニアーマーに見覚えがある。
3柱の終焉に世界を襲われて、崩壊寸前まで行った次元の為政者。
『龍神リザ』 だ。
おぉ、リザも変らないな。久しぶりじゃん。
花開いた自分を超える戦闘の才能、研鑽を惜しまずに強さを得た。
その反動か、自分への監禁癖と依存症がある。
リザの世界を救済後、逃げるように次元を出て来た。
尋常じゃない。見えないところで常に一緒に居る、それで喧嘩すると監禁してくる。
めちゃ強いんだよ。戦いも欲を満たすようで、戦いで遊ばれた後、しばらく監禁される。
閉じられた次元を開き、追って来たのか。すげぇ根性だな。
そんな感慨にふけっていると、現地にいる小雨様から啓示神あてに連絡が入る。
【トラブルだ。ショウタ殿。今すぐ来い。この龍人もお主を探しているぞ】
いやいや、小雨様。
声が怖いですよ、納品した機械に致命的な欠陥が出た時の声じゃないですか。
トラブル。今日は帰る事は出来ない感じのトラブルでしょう?
営業に、修理や仕様のトラブルなんて分かりませんて。そして、機械トラブルは、営業のせいじゃないんですよ。分かります? 作ったわけじゃないんですから。仕様なんてわかりません。
勘弁してくださいよ~。現場で解決しませんか?
一応行きますけど、お伺いは、明日の朝一番でいいでしょうか?
そもそも、さっきダリアの星を良い風に持って行ったじゃないですか。
主幹者が感慨にふけっている所に、また戻るのでしょうか?
先ほど皆に倒されて、旅館に戻って来たばかりです。
皆様もいい所で帰ってきてくださいよ。 明日でも異世界門まで迎えに行きますから。
【あぁあ? 我を舐めているのか? 今すぐ来い。待っているからな】
営業の魂が脳に語り掛けて来る。
なんか、マジ怒ってる。マジヤバイ。
ここで解決しないと炎上して会社と裁判を兼ね備えたトラブルに発展する。
相手は、小雨様。やりあう事は絶対に避けたい。
地球と異世界の取り持ちなどで、大変にお世話になっている方だ。
納品先であり、地球の企業筆頭。この付き合いが切れるとか考えられない。
企業の信用的にお終いだ。もちろん全力で対応だ。
クレームが少ない客先だから、少し甘く見ていたか。
「ああああああああああああああ!」
周囲のネコさんポムさんがビクッとして、お茶を引っ込めて受付に戻って行く。
これはいけない。
連絡先の啓示神も来てもらわないといけない。
連絡が繋がらなくても客先は、キレる 「あぁ? 何度も電話をしたのに、かけなおさないのか? ぁあ?」 と、過去のトラブルの蓄積経験が体を動かす。
「頼む、啓示神。時間が無い、一緒に来て欲しい。 これが解決したら可能な限りなんでも聞くから、頼む。マジ頼む。いや、お願いします。啓示神様」
「今、何でもって言った? いいわよ~」
【小雨様、すぐにお伺いいたします!!!!】
折角、いい所でダリア次元の話が終わったと言うのに仕方ないな。
トラブルか。ついでに地球ご一行もまとめて連れて行き、地球へ帰ろう。
もうたくさんでしょう。十分な異世界体験です。
大きいサイズの携帯電話、もとい啓示神を脇で抱え、ダッシュで旅館を出る。
そして、99F異世界門前に転移突撃し、リンクの伝説のAダッシュからのシュタタタタタタ、ドン、バタン!タッタッタと夏休みの思い出も真っ青な音を立てて突っ込む。
即座に先ほどの魔王装備を着替え、スーツ姿で小雨様のとこに飛んだ。
シュポンと音と共に、小雨様の目の前に立つち抱えていたき啓示神を降ろす。
連絡が遅いとか、言われなくて良かった。
隣にリザが居て、囲まれている。友好的な感じでは無い。
だが、まずは小雨様にご挨拶だ。
「遅くなって申し訳ありません。小雨様、何かトラブルがありましたでしょうか~?」
リザが自分に気づき 「ああああああああああああああああああああああ!」 と叫ぶが
小雨様がスーッと近づいてきて、冷たい声で話す。
「皆がこの者に害されそうになった。知り合いか? それと、そろそろ地球帰還のために帰還関係でまとめて欲しい」
ああぁ!? リザお前、何してんだ。
そういう事ですか。
打ち上げで帰ろうとしたら、リザに絡まれた感じですか。
よりによって小雨様にトラブルかよ。
「あああああ!? リザお前、何やってんだ? ああ?! おい!」
「わ、私は、わ・・・、ただ、ショウタ様を・・あ・・・あ」
怒っているが、怖がるな。謝るぞ。
かばうから。
でもな、お前の星に戻らないからな。絶対に軟禁されるだろ。
「リザ、来い」
後ずさりをした、リザの手を強引に掴み隣に引き寄せ抱きよせる。
そして謝る。
「小雨様、皆様、大変失礼致しました。 この者はリザ。 戦いが文化の次元で為政者と皇帝をやってます。 文化の違いと言う事で、非礼を許して下さい。 戦いこそがリザの星の存在なので礼が足りなかったですか」
こっそりと、高身長のリザの耳下あたりで囁く。
「リザ、聞け。この方を怒らすな。お前はここでは皇帝ではない。そして、ここでは自分は救世主でも何でもない。ただの旅館の支配人だ。頼むから礼節を持てよ」
腕の中の茶色の髪が自分の頬を撫でる。
「あっ・・・、あ・・・。そうだ。この厳しい愛とぬくもりが欲しくて・・・。私は、数多の次元を渡り、数千年の過酷な旅をしてきたのだ・・・」
この状況で小雨様が、自分の目の奥を少し覗いたか。
そして、リザの方に話しかける。
「分かった、お互い行き違いと言うのもあっただろう。 我も立場があるのだ、この様な形で敵対的になってしまってすまない。友好的で来てくれればこのようにならなかったものの。すまぬ。やり直さないか。 我は小雨の命。この先の扉の先の管理者筆頭の神である。宜しく頼む」
腕の中に居るリザの空気がスッと静止した水の雰囲気になる。
リザ。戦いの頂点に君臨する絶対王者だ。為政者の立場として振る舞えるはずだ。
「大変失礼した。何と言っていいものだろうか。私は、リザ。ショウタ様の娘です。・・・ショウタ様を探し迎えにきました。予想はしておりましたが、こっちでの暮らしがあるみたいですね。 話し合いたい。この度、言葉が足りなくて、本当に申し訳なかった」
よし、良さそうだな。
自分は、リザを離し、周りにいる主幹者に話しかけようと思うが。
っと、その前に啓示神だ。
「啓示神様、配信の接続は切っておいて頂けたらと・・・。ここからは、カーテンコール。アフターストーリです。お願いします」
『はーい』
あ~、後で何を要求されるんだろうか。
ほんとうに便利な権能だよな。
啓示の力、見誤ってたわ。
この状況に呆然としている、主幹者達に再び話しかける。
「ミリサリ、ミリュネー。久しぶりじゃないか。 立派になってて驚いたよ。 まだ、ミリサリの双子設定やってる感じ? ミリュネーも相変わらず美人じゃないか。 そうそうちょうど、近い次元のこの地球の星で旅館を経営しててさ、寄ってみた感じなんだよ。今度良かったら来てみない? 暇を見て来て欲しいんだ。この星もようやく前に進みそうじゃないか。見事な手腕だった」
「ショウタさん、その感じ大根役者すぎませんか~?! その設定如何な物ですかね~」
アヤメさん。いい所なんです。急に突っ込みやめてくださいよ。
うん? 大根役者?? 誰が?? さっき旅館で演技派と言われましたよ。
「「ショウタ様ァアアアアアアア!」」
ミリサリ、ミリュネーが抱き着いてきた。
ようやく感動の再開ですか。
自分の都合で魔王をやめたと言うのに、まだ思ってくれているのか。
そして、この様子を見た、ご一行がほんのりと笑ってますね。
この侵攻で結構人が〇でるんですよ。サイコパスですか?
でも、その笑いの許しで少し気持ちが救われました。
ありがとうございます。
「ダリア、そしたらご一行と帰るわ。 流石にもう会う事もないだろう。お前も会いたくないよな。 そしたら、これで手打ちだ。達者でな」
女神が中指を二本立てて来た。ダブルピースじゃないよな。
クソがよ。イライラする。
そして、最後の確認だ。
「で、この星治していく? 全ての時を戻し、記憶を残して侵攻前に戻れるけども。今なら全員で祈れば簡単に出来る。リザもいるし何でもできますよ」
「余計なお世話よ、霊薬だけ置いてって」
自分も中指を二つ立てる。
お前が喜ぶことは、極力したくない。
だめだ、世界が良くなったと言うのにまた喧嘩だよ。
マジ、ここには居られない。
「ミリサリ、ミリュネー、クロエさん。この星の方向は旅館で相談しましょうか。暇を見て来て下さい」
そして自分は、一つ皆の前で礼をする。
「さぁ~て、異世界冒険譚。ご参加ありがとうございました。 異世界体験コースのご利用をまた心よりおまちしております~。帰りましょう」
「この後、旅館で打ち上げしましょうよ~」
「そうだな、ショウタ殿。 今回は、韋駄天と料金半々で割って頼むぞ。 そうだ、ここの皆にも勧めたらどうだ? あ~、相性がどうしても悪いのは遠慮してもらってだな・・・。いや、唯一神を誘わないと失礼か。呼ぶぞ。 お主も商売だろう。気持ちで仕事をするはいかんだろう。諦めろ」
まぁ、そうなりますか。どうにかなるでしょう。
すぐ、ダリアと息子っぽい存在を出禁にしましょう。
何か悪事を働いて欲しいですね。
イマイチと思った時、来週に送るか。
熟考を重ねるか。




