82 小雨
小雨
ショウタ殿が魔王の格好をして黒く渦巻くゲートを背景に、この星の主幹者達の到着を待っている。
まもなく、最後の演目が始まるであろう。
ここからの話の方向性は決まっているそうだ。
この辺りで区切りがいいし、皆で地球に帰ってもいいのだが。
ここまで肩入れをした手前、最後まで結末を見ておこうか。
情事のもつれで万が一ショウタ殿を倒せるチャンスがあるかもしれない。
我は、ショウタ殿を倒すのは賛成派だ。
世界相手に立ち回れるのは、危険な存在だと思う。
旅館の異世界ネコ殿は 『猫の皮を被ると言う表現ではきかないにゃ、これこそ人の皮を被った気まぐれ破壊神にゃ』 と、上手い事を言おうとして失敗している感じだ。
だが、なんだかんだ地球ではショウタ殿と上手くやっている。
何よりも上級アイテムと嗜好品の生産者だ。
なんとなく持ちつつ持たれつつでやっていきたいと思うのだ。
そしてショウタ殿を位相世界で引き取りたいのだ。
人の身と言うのもつらくないか?
神のタイムスケールとして、時間間隔を飛ばせば楽になれるぞ。
我も人の感覚でいると辛い事ばかりだ。
神と言う立場が、恋愛という論理的でない青臭い事を許してくれない。
我がときめきを感じるなんて、気の迷いだろうか。
我は、尊敬されなければならぬ。地上で最高な小雨の命である。
我が嫌うタイプのフラッと地上に出て種まきタンポポの様な事をして制裁される様な神では無い。
立場がこんなにも辛いとは。
―
先ほどまで獅子奮迅の働きをしていた、地球ご一行組が終焉ゲート前に到着し、制裁神が疲れた様子で語り掛けて来た。
「小雨さん、疲れました。椅子とお茶とお菓子と、テーブルもいりますわね。攻撃の余波が来ないように鉄壁の巻物・・・、魔道書でしたか。も、お願いしていいかしら。 軽食も出してもらえると嬉しいですわね。そうですね、中華コース系が人気ですわね。あ、ガチな中華ラーメンは結構です」
「「「おお! 小雨神様お願い致します」」」
敬意はある・・・ようだな? 軽食? 飲茶と中華コースは違うぞ?
要求が多く無いか? 今回、皆が良い働きだった。よしとしようか。
だが、特等席でこの先の様子を見たいとは、気持ちは分からんでもない。
我は、バサッと瞬時に休憩セットを取り出す。
我の鉄壁の魔導書とか戦闘アイテムは使い切って無いから、攻撃の余波は各自でこの中華コースを守って欲しい。 向こうでショウタ殿との戦闘の爆風の中食べることになりそうだが・・・。
いやまて、舞とアリエノールに余った魔導書を使ってもらおうか。
まだ持っているだろう。
ほら、どうだ。
有名店の中華バイキングだぞ。
エビチリのエビが大きい。あと、具材のエビとかが大きい。
高級有名店の証だ。エビの大きさで見ると良くわかる。
後、出汁が違う。 基本は、鶏がらの白湯系だと思うが。
基本、油が中心になるから意外にも中華の出汁はあっさり系だ。
胃腸が異世界ゲートに繋がっている者達が、我が出した中華コースに群がる、
「んん~っ! 脳に直接攻撃してくる旅館の食物と違って、地球産の食事もいいですよね~! 凄いおいしいです~! 」
んん? 今の台詞は誰だ?
あの旅館の食事って脳に 『うまい!』 の攻撃してきてたのか。
さて、慌ただしいバイキング形式を横目に主幹者ご一行が来た。
その前に、言いたい事がある。
中華バイキング形式でトッピングのエビだけとる輩は、〇すからな。〇す。
当たり前だろう、直接的な表現だ。 〇す。大事な事だから何度でも言うぞ。
主幹者達を見るに唯一神ダリア殿、勇者クロエ殿、ミリサリ殿、ダリ殿、そしておそらく、魔族系の妖しい格好がミリュネー殿だろう。
魔道タイプの魔族系列は、露出がエロいな。
魔族の露出度は、どこの世界でも共通だったか。
早速、この星の唯一神が黄金の剣を生成し、ショウタ殿に斬りかかり肉薄している。
光の黄金剣と暗黒剣がぶつかり、その火花がゲート前を黄昏色に染める。
「ショウタァアアアア! テメェエエエ、本気で世界を破壊しに来てたなァアアアア! 〇す! ブチ〇す!」
黄金の扉のモチーフである気品の塊の唯一神とは大違いの台詞である。
過激すぎる。〇すとか、品位が足りないと思うのだ。
だが、この星の消滅一歩手前までいってるのだ。気持ちはわかる。
後の女性魔族三人が胸を手で押さえ、オロオロとしている。
ここまで来てどうするか心が決まってないのか。
この星にここまでされたのだ、倒すしかないだろう。
ショウタ殿は、話し合いには乗らない。突き放すつもりだ。
主幹者全員と一緒に戦い追い出されることを望んでいるのだ。
魔族主幹者の育て親と言っていたか。
実際、目の前にすると育ての親であり自分の恋心と袂を分かつのはつらい選択だろうな。
だが、あの男のどこがそんな良いのだろうか。
五目焼きそばを山盛りにして席についているアヤメに聞いてみる。
「なんで、ショウタ殿ってあれでモテるのだ?」
「確かに、私は愛されてモテてますが~! その疑問、愛され好かれ光り輝き有頂天に向けて進み続ける探索者、アヤメがお答えしましょう! ・・・。そのなんでしょうか。小雨様、私に聞きますか? 偶像崇拝的な、愛され祭られる事じゃなくて、恋愛的なモテでの事ですよね? そもそも私、彼氏とかいた事ないんですが~? 私、付き合うなら、顔より立場的に見合った人がいいですもん~」
アヤメの立場に見合う人間とか居ないと思うのだが。
それ、神様かショウタ殿しか居なく無いか?
そして、主幹者ご一行から絶叫が響く。
「クロエェエエエエエエ、手伝いなさいぃいいいい! 魔王ショウタを再び他の世界に封印するのですぅううううう!」
いつの間にか、中華バイキングに参加している黒髪の勇者クロエ。
綺麗に皿によそった魚の油通しを食べている。
「ああああああっ! 懐かしい味だね。 圧倒的、油。こんな味だったね~。 はぁ・・・。友好的に異世界との交流をしていたのに。 そもそも昔、ダリア様もこんな風に、破壊を振りまいてたじゃない。 いまさら魔王ショウタがやったからと言って・・・」
愚痴の多い勇者が、渋々と加勢に向かっていった。
「あの~、父を倒しに戦わないのですか? ここで何してるのですか?」
当然の疑問である。
ショウタ殿の息子らしいが、黒髪イケメンのダリ王子だ。
魔族、異世界服、黒髪イケメン。裏表がない綺麗な言葉。
モテる属性のてんこ盛りだ。
イケメン魔族が我の方に来た。
イケメンの証拠に皆の食べる手が一瞬止まり、こっちを見て来た。
「我らの事は、気にしないでくれ。空気だ。後、フォースフィールド(鉄壁の魔導書)は、我が社員、舞とアリエノールが張ってあるから、あっちで暴れてもらって大丈夫だ。 あっちで流されている長編 『かつての宿敵達と、恋人であり父親である存在を倒す物語』 を切り上げて、大丈夫そうだなと思ったらショウタ殿を引き取るので教えて欲しい」
「・・・そうでしたか。僕は母とミリサリの姉さん達は、父を倒せないと思います。どうしても愛してるそうです。 そして、父は強すぎます。・・・僕もこっちに参加していいですか? 」
「もちろんだ。地球の味を食べて欲しい」
我は椅子を空間から取り出し、中華バイキングの席を作る。
王子であり、先ほどまで我が授けた七節剣で獅子奮迅の働きをしていた。
これからこの世界で大切な既知だ。
我は、アリエノールと舞を一瞥する。
ちらっと見ると、分かってくれたようだ。
すぐに、二人で飲み物と食事を持ってきてくれた。
ジャスミン茶と東坡肉(皮付き豚煮込み)をスッと出してきた。
アリエノールと舞のセンスか。意外と攻めるな?
独特な香辛料が使われていている、口に合うだろうか。
香辛料が利いているのは、冷蔵技術が無い時代の昔の臭み取りの名残だ。
熟成と冷蔵技術が発達した現在、香辛料の使い方は本当にあっているのだろうか。
「おいしそうですね、ありがとうございます」
礼儀のある美男子、本当にひねくれ者のショウタ殿に似なくて良かったよな。
隣のアヤメに一声かける。
「アヤメすまぬ、ここを開けてもらっていいか。王子殿に我が社の舞とアリエノールをここに座らせて、紹介したいのだ」
「もちろんです~!」
ビクッと舞とアリエノールの二人が反応する。
その気持ち分るぞ、イケメンの隣は遠慮するよな。
自分自身のプライドが揺らいでしまう。
でも進められたら不可抗力、仕方のない事だろう。
『まぁ~、仕事なのでイケメンの隣で仕方ないです~』 とか思ってるよな。
なんだ、その、イケメンを隣に座らせたときの舞の反応を見たい。
「あっ、あの小雨様、イケメンの男性が苦手ですー? 何を話していいか分かりませんですよー?? 中学時代のコンプレックスを思い出しますー?? 心拍数が跳ね上がり、本当に何を話していいかわかりませんー」
これは大変だ。
何となく舞の人生シアターが分るな。
舞は、大学デビューか。
「小雨様、異世界のエキゾチックなイケメン王族魔族。思わず少食にならざるを得ません」
アリエノールよ、そうか。
魔族は、少食が上品と呼ばれる地球と共通の感覚で安心したよ。
うん? 我の隣でお主めっちゃ食ってたよな??
どういう事だ??
「まぁ、紹介しようか我が社の主幹者だ。宜しく頼む」
二人をチラッと見た王子殿がキラッとか輝く笑顔で挨拶をしてくる。
「舞さん、アリエノールさんですか宜しくお願い致します」
あっ、その距離はダメだ。
我は詳しいのだ、ガチ恋距離と言うやつだろう。
我も日々勉強しているのだ。
「「ぐはっ」」
と、謎の発音を飛ばし隣に座る。
なるほど、舞はそういう反応を取るのか。
イケメンへの距離感はあると言う事だな。
うれしい発見だ。
――
終焉ゲートの方で、物語が進んでいる。
旅館ご一行のエルフ二人は、何か泣きながらショウタ殿の結末を見ている。
確かに、出来レースだ。
ここには、愛を憎悪と・・・、後何だ?何かあるか?
愛と憎悪の物語がある。
ようやく主幹者全員でショウタ殿を押している。
その中でミリダリ、ミリュネー殿は、泣きながら戦っている。
「王子殿、これを見て参戦とか考えないのか?」
「あの~、これって仕組まれてますね? この件で父は憎いですが、理解できてます」
何か、あっさりしたところがショウタ殿に似ている、血は争えないのか。
分かりやすく言うと、遺伝子の事なのでどうにもならないか。
遺伝子改変まで、後1000年ぐらい先じゃないと科学的にどうにもならんな。
そして、ソワソワした制裁神がこっちにきた。
「小雨さん、参戦しません? 今なら勝てる可能性がありません?」
無理だぞ、出来レースだってば。話聞いてたか?
あ、肉体系筆頭だったな。 話で納得するタイプじゃなかったな。
「制裁神頼む、お主をここで失いたくないのだ。好きな食べたいものを出してやるから、演目終了まで見てて欲しい」
制裁神がガッツポーズをして席に戻って行った。
「山のようなパリパリ春巻き」 と一言残して。
これがゴネ得な位相世界管理筆頭、制裁神の神龍である。
ご使用価格は、経費とトントンである。
さぁ、終わりが近い。
ショウタ殿が、主幹者一行の力に押されている。
剣戟やら魔法やら、ゲート前は激しく破壊に包まれている。
「ググググ、やりますね。・・・そして昔から変わってないな。お前たちは良くやっています。昔を思い出します。実はバラバラで自分に面倒をかけたくないから一緒に動くミリサリ。 そして瀟洒を演じていた激情を内に秘めるミリュネーか、ククク。 だが、ぬるすぎます。遊んでいるのか? ならばここで終しまいだ」
急にショウタ殿の気配が膨れ上がる。
んんん? ショウタ殿負けるんだよな? 退散する前の口上だよな??
演技だよな? 演技だな? 悪役がはまりすぎて、区別できんな。
「本気で〇ろせぇえええええ! 魔族ぅうう! 遊んでいるのですか! 殺意が足りてない! 〇せ! ブチ〇せ! ショウタを〇ろして首だけ飾れれば満足でしょう! 〇ろせぇえええええ!」
本当に、唯一神に何があったんだ。
殺意が激しすぎるだろう。
主幹者達も渋々と言った所か。
光り輝く暗黒の力を出し、ショウタ殿をゲートに押し付ける。
これで終わりか。
ショウタ殿が薄くなり消えながら、最後の口上を述べる。
「グググ 自分がやられるとは・・・、しかしわかるのだ。 またこの星を襲う異形の存在を」
【大根役者よね】
フフッ。啓示神、脳内に語るのをやめてくれ。たしかに最後の締めが大根役者すぎる。
今、中華食べてる連中が笑って噴き出したぞ。汚いぞ。
これでやっと終わったか。
地球ご一行に話しかける。
「そしたら、我々は帰るぞ。 後は旅館で話そうか。ショウタ殿に貸しだ」
「「「「承知~」」」」
と、我々も切り上げ帰宅の準備をする。
明日でも来れば、異世界取引の段取りが組めるだろう。
そして終焉ゲートがパリンとガラスの様に砕け破壊された。
しばしの静寂。
その中から異形の者でも無く、龍人がトコトコと出てきた。
なんだろうか。誰だろうか。大型の異形は出ないまま世界は守られ、終わったはずだが。
ショウタ殿が言っていた大型の異形では無く、龍成分が濃い龍人だ。
その龍人は、宙に浮かぶ星々を優に超える気配を持っていた。
へたに動いたら、塵となる。それだけの力の差を感じた。
その龍人から、発せられる魂と存在に語り掛ける声が体の芯に響く。
「お前達、動くな。聞きたいことがある。 あの方の特性を辿り、なんとかここまで来たのだ。正直に話して欲しい。 『あ、敵対はしてもらって結構です。その権利があります』 と、口上はこれでいいか。 さぁ、黒髪で最高で神。人であり愛の化身。やわらかく強く。天であり地である、世界であり個であるショウタ様、ああ、そうだ。気配がある。ああ・・・、ついにたどり着いたのだ・・・! 私はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ん? やばいな。 マジにやばいな?
これ、ショウタ殿の倍は強いぞ。
そうだな、精神状態も倍ヤバそうだ。
ショウタ殿戻ってきて欲しい。我ら、星ごと消されてしまうかもしれん。
啓示神、ショウタ殿に連絡頼むぞ
今週土曜が更新できません。
日曜で勘弁してください。