8 ショウタダンジョン中
ショウタ
さて、お客様候補第一号です。逃がしませんよ。
ゴリライオンモンスターが、近づいてきている。 普段、自分に近づいてくることはまず無いのだが。
商談の邪魔になるため、少しイラついて、モンスターを駆除した。
少し力が入り、モンスターを砕いてしまった。
触るだけでモンスターを駆除したら、お客様候補がパニックを起こし、猫さんが超驚いている。
とにかく、お客様候補を怖がらせてしまった。 良くない事だ。
うむむ、なぜだ?なぜ良く無い事だったか?
自分の古い記憶を思い出す。
ラーメン屋で 「ガシャン!! パリン!!」 など、急に騒音が立った時、何事かと驚く。
すぐに 「失礼ィイイイたしましたぁああ~」 という、謝罪を含んだ自信への戒め風の声で全てが解決した。
なおかつ、その行為に、安心感までついてきた。最強の一手である。
そうだ、驚かせてしまったなら。謝らなければ。
「失礼いたしました」
謝罪しつつ、相手がよく分からない内に、女性の方をお店へ誘導する。
自分ながら、営業成績に繋がる素晴らしい行動だと思う。
営業成績と言うものは、職種、業種によって社会は結果主義な所がある。
多少手荒と思えても数字を取り、やらないと行けない時があるのだ。
つまり若者よ、そんな職業がいやだったら、色々と職業選択幅を広げるといいぞ・・・・
そのまま、店の旅館への誘導が成功した。
そして、旅館の前で立ちすくむ、少女を改めて見る。
少女と言う年齢では、なさそうだ。
少女を終えて、大人への階段に足を踏み入れた年齢か。
淡い紫の髪に白の学生服にも見える服と黒を基調としている。ヘアバンドなど小物にも気を使っている。おしゃれさんである。
雰囲気の統一感を見るに、ファッションの基調は自信の現れだろう。
女神ダリアのスキルダンジョン次元の感覚だと、駆け出しを終えて自信がつき 「さぁ!稼ぎます!」 ぐらいに見える。有頂天か。 現場では、一番危ない時期だ。
だが、その装備でよくここまでこれたな、と思う。
立ちすくんでいた少女は、ダンジョンにある旅館風の建物に疑問を持たずに そのまま旅館に入ってくれる。
しめしめ、よしよし、店に入ったな!!!
さぁ!セールストークの時間だ!!
旅館のメリット点説明し、緩急を入れながら会話を続ける。
温泉の美容健康効果。
15Fの店とは比べられない程、冒険アイテムの充実。
レストランも他では食べられない、多次元の物を今は使っている。
部屋だって、地球の頃の高級旅館をイメージ部屋だ。
温かみのある木の素材を使い、大胆にデザインされながら、個人のプライベートの汎用に気を使っている。
少女の反応を伺うため、時折顔を見る。
まったく反応が無い。
自分は、焦る。焦りながら話に気を使い、話を続ける。
再度少女の反応を見る。 不満そうだ、とても不満そうだ。
女性特有の 「私、興味ないんだけど」 の雰囲気を醸し出している。
これ、まずい。あかんやつだ。
まずいまずいまずい。第一号のお客様を逃してなるものか。
機嫌が悪い女性に対しては、食事だ。おいしい、食事を体験させよう!!
この思想は、口に出してはいけない。 真実は、いつも闇の中が良い。
死ぬほど焦り、なんとかレストランへ誘導する。
ああっ!!なぜ?!食いつきが悪いんだ!?
温泉旅館のコンプトがだめだったのか?! 全年齢対応に合わせたつもりなのに!!
値段!!? 値段か??! いや、そもそも 若者に温泉旅館がだめなのか?! いや、そんなことないよね?? 所謂、温泉旅館は、贅沢と優雅の顕現・・・最高だよ。 あああっ!! ちがう!!
思い出せ!!コスパ!タイパ!! コストに対し得る利益! 効率の良い時間消費!
ああぁ!トラックに引かれる前に、若者の市場動向の記事を読んだじゃないか! コンセプトが問題だったか?!!? 旅館だめなのか?!
落ち着け、少女をよく確認だ!! ジョブフローに当てはめろ!
紫髪と白い学生服風の少女:
推定:20手前である。職業が冒険者。 美的感覚は、優れている。ダンジョンにファッション性を持ち、中級者程度の66Fまでこれた。 小物のお金の掛け方に金銭的に余裕があるのが見れるが、装備の剣は鉄の棒に等しい。だが少女のスキルに由来するものと推定される。
よし!!ネコさん!! 君の次元だとこの年代なに食べてた??
お食事、刺身でいい? 船盛りかな? ガレオン船ぐらいに乗っけて出せば喜ぶよね。 ネコさん刺身、好きだよね? 何? 生ものは、王宮の食事では好まれない場合がある? そうだっだ!! 初手刺身は、だめかもしれない!! さすがネコさん。
そば!『おそば』がいいな! 無難で高級とも取れるそば、で行こう。すぐにアイテムボックスから、出し配膳する。
待たせても印象は、良くならないだろう。
普段作っておいているので、時間凍結のかかったアイテムボックスに入れている。
仕込みと料理は、好きなので気持ちを込めて作っている。
ネコさんが、そばをフワフワと念動力で、持っていく。
厨房から、カウンター越しに少女の反応を見る。
ああぁ! もうすでに、少女の目の生気が完全に無くなっている。
あああっ!! そば、そばだめ?!
パスタ!?! 女性はパスタ?!?!
世界基準の女性のデートでは、パスタ。転生前の記憶を思い出す。
あああっ!!こんなセリフ、口に出してはいけない。
少女の全身が小刻みに揺れている、震える箸からそばを、おつゆにつけ、口へ運んだ。
自分は、その反応をハラハラしながら見る。
ハラハラ?!だと?! なぜ今、自分の心の動きに気付くんだ!
この全能の力を持つ、自分がハラハラしてると言うのか?!
「・・・あ、おいしい」
心が、感情が、心臓がドクッと動いた。
黒い瞳のその少女が、立ち上がり、こちらを向く。カウンター越しに少女と目が合う。
「あの! !ご主人さん、これ凄いおいしいです! あの、すみませんでした!! ごめんなさい!私、勘違いをして! モンスターの巣とかと勘違いして!!」
!?
「ご主人さん、人間だったんですね!」
今の自分が、かけて欲しい一番の言葉だった。
言葉が、不変の精神耐性を持つ自分胸を貫く。
だが、不覚にも笑ってしまった。 今までの思い出が蘇る。
地球の時も、働きづづけ。
そして地球に帰るために知恵を絞り働き続け、次元だって救って見せた。
いつも頑張って、働いていた。なぜ、ここの星きて焦って働いているんだ。
そうだ。もう、十分じゃないか。力だってある。もう時間に追われ成果を出す必要ももうないんだ。
自分が、人としてやっていければいいじゃないか。
あぁ。人との気持ちの繋がりが一番楽しかったか、あの地球の頃は。
クソの様なパワハラ、カスハラ、人間関係があった。だが結果を出してれば人権はある。
その中で仕事の客先、営業先、理解がある上司。その中でも、好きな働き方は、あった。
もう、時間は無限にある。自分の好きな働き方で行こうか。もう、焦ることはないんだ。
今しがたのセリフ、人間だったんですか?? 言葉をリフレインする。そして笑える。
そうですね、人間です。
人間ですよ。そう生きたいと思ってます。 この長い異世界の旅は、大分人間性を削られたが。
ゆっくり馴染んで時を過ごそうか。
少しこの星の見え方が変わったな。
さて、旅館好きだしな。このまま、ゆっくり、ひっそりとお客でも集めますか。
ああ、大変、失礼致しました。自分、この秘密の宿屋、支配人 ショウタと言います。
今日は、泊ってください。お金なんかいりませんよ。
貴方様の値千金のアドバイスが、自分の胸を満たしました。
温泉旅館、いいものですよ。 休んで行ってください。貸し切りです。
何、助けてくれてありがとうございます? いえいえ、助けられたのはこちらの方です。
お名前を聞いても宜しいですか?
アヤメ様。 素晴らしいお名前ですね。
では、改めまして。
アヤメ様。
ようこそおいで頂きました。
秘密の宿屋は、アヤメ様の来訪を・・・心より歓迎致します。