76 続ショウタ
続 ショウタ
おやおや?
おやおや? また自分の番ですかね? ここは、小雨様の出番だと思うんですが。
小雨様が丸く収めてくれると目論んでいました。
ここから、アヤメ様と小雨様が納得いく回答なんてありませんよ。
無理無理、男性と女性で全く見解が異なるのですから。
合意があったと言っても 「いや無理やりだった。疑問が残る」 と、女性陣の中で言えば状況証拠が揃っていても自分が悪い事になるのでしょう?
ふざけんなよ。
開き直りますよ、いいんですか。
でも、その前に伝えることがあります。
――
「まぁ、座れ」
小雨様がアイテムボックスから、おしゃれなガーデニングな椅子と丸テーブルを出し、木の陰に設置してくれた。
「隠蔽」 と一言唱え。辺りから木々のざわめきが消える。
さらに湯気が上がったティーポットが収納空間から出てきた。
「こっちの世界の茶葉だ。さっき皆で城内に入る前の露店で軒並み買いあさったのだ。ショウタ殿の茶葉には敵わないが、いい香りだろう」
小雨様がティーポットからカップにお茶を注ぎ始める。
これ、心理的プレッシャーの手法ですね。圧力がきております。
甘く見ないでください。 超、効いています。 戦々恐々としていますよ。
「ショウタさん、座りましょうよ。 あまり時間も無いですよね~? 先ほど、ショウタさんを名指しで、『曲者じゃ~! 者どもであえ~!』 って、全世界に啓示で発信されましたよね?」
そうね。
その言い回し、小さいころアヤメさんのおばあちゃんと時代劇を見てましたね?
主人公は、今ではサンバを踊る伊達男と言った所ですか。
「ショウタ殿の娘と自称していたミリサリ殿は 『『ショウタ様ぁあああああ! お帰りなさいませ! 私達の灯! もう、どこにもいかせません!』』 と、意気揚々と探索転移を始め、勇者クロエ殿は 『あ~、ダメだ。ダリア様の所に行かなきゃ。 ダリ君また後でね』 と、転移を始めた。そのため、旅館ご一行はマプラ領で滞在の予定だ」
「そして、こちらがショウタさんの息子の王子ダリ様です~。 ショウタさん? そうですね? 合ってますね?」
ちらりと、ミリュネーの息子さんを見る。
いや~、遺伝的特徴が自分に似てますね。どうしましょうか。
「まず、座ってお茶を飲みますか」
全員が椅子に座り、お茶を飲む。 ズズッとすすると、爽やかな渋みを感じる。
このお茶、自分が勇者時代に魔石栽培を成功させたお茶だ。あまり昔と変わりない。
つまり紅茶だ。嗜好品は時代を超えても大きく味が変わらないな。
この星のレモモンを少し垂らすとすごく合うのですが。
地獄のお茶会が終わったら、教えますか。
ダリと呼ばれていた、ミリュネーの息子さんはジーッとこっちを見ている。
ミリュネーに似ているな。美形だ。キルト服もミリュネーの趣味だろう。
良かったな。美形は現代社会だと恐ろしいほどのアドバンテージだ。
しかし、世代ですかね。
自分の世代は、父親と言っても仕事での家庭的責任を果たすのが正しい時代ですので、家庭を顧みなくても、妻と子のため父が稼ぎのために自身を犠牲にして子を大学まで養う事が正義の時代でしたか。
子供にお金で教育を与え就職の選択肢を広げる事が大事だったんです。それが幸せの目標。
父親のぶきっちょな愛と言う事ですよ。
そんな時代で生まれてますから、父親の愛といってもよくわかんないですよね。
う~ん。
幻滅されない様にリップサービスしてみますか。
「ダリさんと言うのですか。 ミリュネーのお母さんからつけられたのでしょうか。 素敵な名前ですね。 昔、この星で魔王をしていたショウタと言います。 貴方達の事をいつも思いながら、この方達の星で暮らしていました。 あなたのお母様と別れた理由は、世界のイザコザで他の星へ暮らす事となりました。私は、親の責任を放棄したとは思っていません。この世界で貴方が王子として暮らせるような基盤があったはずです」
直後、アヤメさんが。バン! と言う、轟音と共に机を叩き砕く。
「あっ、失礼しました~。カップを握るのに力がはいってしまいました。私に、家庭環境へ口を挟む筋合いが無いのですが、正直に伝えるのが一番だと思いますよ~」
めっちゃ、口を挟んでますよね。小娘が。
正直になんて言うわけがないだろう。
誰も傷つかない様なウソを付いて何が悪い。
「あの、お母様は心の底から愛していた。今も愛している。と言っていました。会いに来ないと思うから、この言葉を伝えて欲しいと」
大ダメージだ。さすがに、胸に刺さるわ。
うわぁ~。でもこの星に自分が居たら、絶対上手くいかないんだよ。
無理。ダリアとの関係修繕は無理だってば。
縁を切って、他の星に居た方がいいに決まっている。
さっきの女神のキレた啓示聞いただろう。
無理なものは、無理なのよ。仲良くなる努力すればするほど大事になるケース。
無理な事は、世の中にあるんだってば。
合わない物は、合わないの。 向こうに合わせようとする義理もねぇ。
静かにしていた小雨様が、お茶を飲み終え口を開く。
「ショウタ殿。その力と知恵があるのになぜ、この世界を平和に導かないのだ? いや、すまない。お主の味方でありたいのだ。 お主なら出来るはずだ」
この世界での平和ねぇ・・・。 自分は、訝しむ。
小雨様の世界とは違うんですよ。
小雨様の地球、実力主義でも結構バランスがいい世界なんですよね。
小雨様以外の神様達は、ロクでもない感じですけど。
「この星では、平和は難しいと思います。基礎文明の作りが違いますし、傲慢な唯一神が作った世界ですから」
この星の方向は決まっている。先ほど、ダリアと決めて来た。
王子ダリに向かい話しかける。
「所で、ダリさん。あなたは人側と仲良くなることを望みますか? 和平のために人と魔の反乱分子の処分がメインとするなら、和平とはかけはなれると思います。無駄な血が流れすぎます。自分の役目終わってますって。この星の人達でなんとかしませんか? 自分達の星ですよ。自分は魔族も人も女神の横暴から救った。これ以上何を求める必要があると言うんですか」
「ショウタさん。人族と魔族側の組織を作り、世界の枷と呼べるような争いをさせて、もう無関係とおっしゃりますか~? それと、子供も作ってしまってますね~。 責任の塊ですよ~。ショウタさん、行きましょう。 ミリさんサリさんがお待ちです~。ショウタさんに会いたがってます」
「ミリサリとお母さまも会いたがっております。そうです。お父様、いきましょう。そこに人と魔の平和があると思います」
ああああああああああああ 詰んだかぁ~?
何とか、自由を得る方法はないかな? この世界には、居られないんだって。
毎日ダリアと顔合わせて、罵り合って喧嘩する未来が見える。 地獄かよ。
「今更、主幹者へ顔出せないし。この星にも自分が居る事は良くない。 あと、この世界を愛してはいない。そもそもダリアの世界だ。 あまりにも見ていられたかったので、義務と責務でミリサリミリュネーを始め、魔族を助けた。 自分が差し伸べた手を3人は、手を掴んだ。助ける力があるのに、助けを求める手を振り払うなんてできませんよ。 もちろん情はありましたよ。 そう、組織の見本とならなければいけないからな。そうだ、3人を頑張って育て教育したと思う。 自分とは違い、立派な主幹者じゃなかったですか? ダリア陣営に負けない3人だ」
これを聞いた物静かな小雨様が、カチャリと口に付けていたカップを置いた。
「あまり宜しい回答とは、言えないが・・・。こんな所か。ダリ殿、約束の真実だ。良いか?」
「ありがとうございます。ますます、小雨様とアヤメ様を帰したくなくなりました」
「告白ですか~? 気を持たせる様な発言は、いけませんよ~。ご一行に黒髪ロングの女の子がいたでしょう。二股の体現者です。絶対ダメです。一筋がいいと思いますよ~。 そして。はい、ショウタさんありがとうございました。 お互いの話し合いの場を取り持ちましたよ」
あ~、そういう事ですか。
この取り持ちへの意趣返しですか。まんまとやられました。
いつか仕返しするので、覚えておいてくださいね。
「なんと言ったらいいのか。ここはありがとうございます。ですか。でも今後仕返ししますね」
さて。この星の最後の仕事をまとめますか。
自分は、席を立ちあがる。
「先ほどダリアとこの星の方向性を決める、最後の話し合いをしてきました。そうです。この世界に、和平なぞ存在しません。現に世界に争いの火種で溢れているでしょう」
こちらも最後の質問です。
「さて、ダリさん。小雨様、アヤメ様。 3日後ぐらいにですね。この世界に大規模な侵攻が大々的に行われます。ゲートを開き小型から中型の終焉を呼び込みますし、ダンジョンからも侵略的次元とゲートも繋げます。大々的に破壊を呼び込みます。 神、魔、人、地下の悪魔を使い抗ってやっと撃退できると思います。 撃破すれば、宇宙エントロピーを得られるので、この世界は発展していくでしょう。 協力できないと、この世界は終わります。女神ダリアと主幹者の腕に期待します」
「「「???!!」」」
「世界スケール、アジェンダーを作るんです。小雨様の世界と一緒ですよ。 外からの脅威が無いと、まとまらないと言う事です。憎しみも苦痛も悲みも、全て目まえの命を賭した忙しさに比べたら後回しにするものです。そして、生への喜びと和解。和平となるでしょう。 もちろん戦いと死と苦痛を乗り越えた先になりますが」
瞬時に小雨様とアヤメ様が目をつぶり、耳をふさぎ机にうつぶせる。
もしもし、聞かないふりしてもダメですよ。 ここまで肩入れしたのでしょう。話ぐらい聞けや。
旅館ご一行も滞在中に、この終末戦争に巻き込まれると思いますよ。
お二方、映画で見た事ありませんか?
エイリアンが進行してきて、地球総力戦で侵略エイリアンに戦うやつです。
人々は、協力して戦うんですが。 最後は、農家お父さんの特攻での勝利です。
えーと、なんなんでしょう。何を見せられたのでしょうか。
愛と気合さえあれば何とかなると言う事ですよね。
この星も一緒ですよ。どこも一緒だと思います。
そして、ダリさんが、黒い剣を顕現させてきた。
ダリさん。それでいい。普通の反応だ。
「これで世界は、一つにまとまるでしょう。このプランは交戦派の粛清より、ずーっと血が流れます。それでも、より良い方法にみえますか? ダリさん。私は、このままで意にそぐわないもの達を粛清していってもいい気がしますが・・・」
そして、問う。
「答えろ。神、魔族、人間。この場に居て、次元の行く末を聞いた事の責務だ」
気に入る答えじゃなきゃ、ダリさんの記憶を完全に消去する。
自分にあった事も分からないだろう。永遠に。
アヤメさんが、机から顔を上げてアハハッと笑う。
ここで、笑うか。 メンタルどうなってるんだよ。
「ショウタさん、よく分かりません。 より詳しい、ミリュネーさんの所とミリダリさんの所にいきましょうか」
フフッとダリさんも笑う。
「そうですね、お母さまの所に行きましょうか。 よく話し合いませんか?」
ぐああああああああああああああ!!!
アヤメさん、さっきから人の急所を突くのうまいなぁ~?
ザ・冒険者の人間性って感じだ。冒険者は、性格が破綻している人がおおいですからね。
だが、話し合いの時、少し逃げ道を用意してやんないと開き直るか暴れるぞ。
まだ、若いな。
さてと。ここから、逃げよう。
「と言う事で、この星をお任せ致します! ご武運を!!」
さて、侵攻フェーズです。
ゲートを視認して、小型終焉を呼び寄せましょうか。
自分は、世界の最果てに転移する。
「王子ダリ殿、ここからが大変だぞ。 ショウタ殿のモンスター、全力で抗わないと星半壊するからな。 何かの比喩じゃない。 マジやばい。 マジやばいんだって。 語呂が少ないんじゃない。 あやつの試練は、人類最高の戦力でやっとだった。 多分神と主幹者パワーに対抗する力で設定してくると思う。 そうだな・・・、お主に我の獲物の剣を渡そう。遠慮はいらない、もらって欲しい。よかったら、この星と友好を結べたらと思うのだが。どうだ?」
と、心に残る言葉を置き去りにして。




