75 ショウタと女神
物語の終わりが近い。
ここまでページを開いてくれた貴方様に感謝を。
ショウタ
相変わらずこの世界の夏は暑い。
ぐずついた天気の春が続いて肌寒い日が多いと思えば梅雨となり、すぐに夏が来る。
宮殿の中は魔石による冷房が効く作りに設計しており、気温と湿度の関係性をこの世界の文明に伝えた。
今も壊れることなく冷房は機能しており、肌を流れる風を感じる。
少しだけ陰鬱な気分がスーッと楽になった。
自分は、再びここに戻って来た。
世界文明のランドマーク。女神ダリアの象徴である黄金宮殿だ。
黄金の廊下を歩きながら、最初の異世界転生後を思い出す。
交易路を繋ぎインフラを整備して、各種族の優れた商品を交易するだけ。
それだけで、世界は激しく動いた。
交換こそ国家の糧。文明の最初のスキルツリー。交易こそ文明発展の要である。
大学時代に廃人育成世界文明ゲームでよくやったものだ。
そして、共和制へ進む。内政国家の王道である。
思い返せば、ここの魔王を倒した時。
ここから、全てがおかしくなっていったか。
もう一度、女神ダリアと話をしなければ。
自分は、この星でやりすぎたかもしれない。
でもダリアも地球でやりすぎたよな。
やられたら、やりかえす。外交の基本だ。人間の社会性の根本だと思う。
やりかえせないなら、地面を叩いて悔しがるしかない。
それか、自分より弱い存在に当たり散らす。
世の中の学者もこんな残酷で現実的なストレス解消法の証明を世界に出して報告する必要があったのだろうか? 人間は、自分より弱者をいじめることを証明したよ(ニッコリ) と。
サイコパスすぎんか?
文明レベルがさがるだろうに。救いが無いのは良くない。
現実から目をそらして、ラブアンドピース! と言ってた方が人間的にプラスだと思うのだが。
人生に時間が限られている中で、残酷な真実を知る必要があるのだろうか。
――
小雨様の世界にお邪魔させて頂いて数か月経過した感じだが、このダリアの星で20年程たっている様子だ。
お二人の小雨様とアヤメ様に現場をお任せしたまま宮殿に飛びましたが。
小雨様とアヤメ様の現場は、混沌としているでしょう。
正直、何を言われているか分かったもんじゃありません。
そもそも今更ですね。
ミリュネーとミリサリと、遺伝子を受け取った存在にあわす顔がありません。
自分と女神は、復讐とかアホな事のために星一つ争いに巻き込んだわけですね。
そして見事に現主幹者達が、和平の未来を掴んだ。
自分たちは、何をやっていたんだ。
なぁ? ダリア。お前のせいだぞ。 そうだろ・・・? 全て転生が悪い。
と、言っていても永遠と言い合いを繰り返すだけか。
「だから何? ころす」 って言ってくると思う。
こんなの、やめにしよう。
豪華な扉のダリアの部屋に立ち、ギギッと入っていく。
部屋は、ただ生活感があった。丸いボールとか筋トレの器具が転がっている。
ダリア、何してるんだ。筋トレとかする必要ないだろう。
暇を持て余しすぎだ。
ここには、居ないのか。
食事の会食場に行ってみるか。
部屋を後にし廊下を歩くと、窓からの日差しが黄金の壁に反射して眩しい。
そして自分の足音だけがコツコツと響く。
そのまま会食場を見てみるがダリアは居なかった。
ゆっくりしている時間は無い。 マジに無い。
現場では、息子を作って他の星に逃げた女性の敵のイメージが伝搬している頃だろう。
行為に同意があったとは言え、転生前の感覚で言えば宜しくない。
主幹者全員と地球ご一行で集まったら、ボコボコにされると思う。
力を使うと魔族側に感知をされてしまいそうで、極力控えたい。
そんな事を思っていると会食上の奥の部屋から、叫び声が聞こえた。
昔、ミンチ機をセットしたミンチ部屋からだ。
「ぬがあああああ! 私の世界! 私の星! 私のぉおおお勇者! なぜですか! なぜ、我を崇め寵愛を求めない! 私こそこの星の唯一神で創造主だと言うのにぃいいいい! 憎いぃいいい! この星が、この世界が、この次元が!」
女神ダリアの心からの叫びみたいなのが聞こえてきた。
部屋の奥の扉を開け、昔と変わらない螺旋階段をトントントンと降りる。
そこには、青い髪の女神ダリアがミンチ機にセットされて身動きできない状態で転がっていた。
自分はそっと近づき、女神を見下ろす。
「女神様。お久しぶりです。 転生当時は、その心から憎しみの叫びが聞きたかったと思います。今は、ただ憐れみを感じますね。 自分も憎しみを持ち続け数多の次元を渡っている時、こんな風に思われていたのでしょうか」
ダリアの慟哭がぴたっと止まり、手足を拘束されている状態から首だけを回してこちらを見て来た。
「ついにショウタの幻影が見えるようになってしまいましたか。 幻影さん良かったらこの拘束を外して頂けません?」
良いでしょう。
ミンチ機にセットされているダリアの拘束ベルトを外す。強力な封印用のベルトだ。
あの時から、何も変わっていないのが驚きだ。
動きに自由を得た女神が手足をコキコキとさせ、ミンチ機から降りる。
「実物を前にすると、理性が吹き飛ぶような激しい憎悪に包まれると思っていましたが。意外と冷静になるものですね。 こんにちは、私の勇者。 そして魔王ショウタ」
自分の前に立ち、その澄んだ瞳で見つめて来る。
相変わらず雰囲気に唯一性が感じられ、独特の不可侵の力をまとっていた。
「こんにちは、女神様。 貴方様の封印した破壊の力を戻しに来ました。さぁ、手を握ってください」
この言葉を聞いた女神ダリアが腕を組み、指先でトントントンと肘を叩き始めた。
「どうしたの? 魔王らしくないじゃない。 どうせまた裏があるんでしょうね。常に建前が前に出て、本音を隠す、最低のカス野郎が」
なんだと。
「この星の支配者だからと何でもしていいと思っていましたか? そもそも、ただ気分に任せてのうのうと暮らしてませんでしたか? 沢山いた勇者は、あなた方を助けてくれましたか? 星の主権を取られた、ゴミ女神がよ」
「ころす!」
あ~、ダメだ。上手くいかない。
感情的になったらダメだ。
「まて、もう一度やり直そう。今の無しだ。 そう、ダリアの力を戻しにきた」
女神は怒りの表情を一度収め、懐疑的な表情になった。
「なぜ? 意味が分からないわ。 破壊の力を戻した瞬間に戦闘になのが分るでしょう。まったく分からないわね。 悔しいが世界は、和平を目指し望んでいる。 それを乱そうとしてるわけ? 結局、戦闘になるに決まってるじゃない。今度は、人と魔と私が貴方と戦うと思うけど。本当に性格が陰湿でクソね。・・・そうか、事態をまとめようとしているのね」
流石だ。舐めてはいけないよな。
この世界の唯一神で、性格が自己中でクソなだけだもんな。
「そういう事ですよ、敗北者の女神様。 やり残した仕事をしに帰って来ました」
「はいはい、そういう事? そうね。世界平和なんて上手くいくわけない。私ですら、憎悪に身を焦がしているし。和平を望んで目指しても上手くいくわけが無いわね。各地で争いが続出。今の状態も一時だけの束の間の平和ってやつね。 そうなると、やるしかないわね。今度はショウタが世界の敵になるって話よね? 調子に乗るな。私の世界だぞ」
女神ダリアが、金の剣をブォンと顕現させて下段に構えを取る。
憎い相手との和平の難しさ。本当に無理すぎる。
日本人を決定づけた最初の一文。 『和を以て貴しとなす』 本当に難しい。
憎い相手と仲良くできる分けが無い。 『和』 の一文が最高に無理難題だ。
仕方が無い、ボコボコにしてハイと言うまでやってやるか。
そもそも自分との実力差を知って、やる気か?
破壊の力も使えないと言うのに健気だな。
ダリアもこの世界も終わりだな。バットエンドだ。
と、アイテムボックスから最強武器を取ろうとした時、一筋の光が心の中に入る。
小雨様とアヤメ様の世界の思い出だ。
この場では、陳腐な事かもしれない。それでも気づいた大事な事だ。
『共栄』 だ。
転生前を思い出せ。平和なんてあるわけがない。人生はいつも争いだ。
そうだ、他人と何て合うわけが無い。自分たちは 『ザ・ワン』 生まれた時から一つの生命体だ。
脅威には一目散に逃げだし、自分より弱い個体を食べて来た存在だ。
地上の生物としてのこの本能は、どうしようも無い事だ。
人は内なる獣を胸に飼い、獣をなだめながらその生涯を過ごす。
だが人は、協力的な生き物だ。
歴史に人として記述される時には、少しだけ社会性を手に入れている。
お互いの 『利』 すなわち、『共栄』 のためには理解が出来る生物だ。
ダリアは神かもしれないが、唯一神と言う立場だ。
理解は出来るはずだ。心の底からの最終通告だ。
「ダリア、最後の通告だ。 取引をしようか」
その言葉を待たずに金の剣が振られる。
自分は力を使い、六角形の時の仕切りがダリアを包む。
少しだけ時間が巻き戻る。
女神は、攻撃前の状態に戻った。
「・・・。なぜ、絶頂から私はこうなったのでしょう。人間と取引するまで落ちぶれたとは、思えないの。 私は全能で最高。この星の唯一神。 創造主であり他の次元を行き来する、魂と終焉を超越せし神」
調子に乗ってたからだよ。
上に行ったら後は、下にいくしかない。格好よく言うと、生者必滅だ。
いいから。はよ、取引に頷いてくれ。
もう時間が無いんだ、自分は力を使ってしまった。
ミリとサリ、ミリュネーが感知したはずだ。数分で当たりをつけ、絶対に捕まえに来る。
自分の息子が居る時点で、理屈は通じるとは思えない。
あいつらの性格から、命を賭けて帰還を阻止してくると思う。
そして和平の未来は、終わる。
「ダリア、いいから手を掴んでくれ。 封印を解くぞ」
チッと舌打ちした、感じ悪い女神が手を出してきた。
自分は、女神の手を握り破壊の力の封印を解く。
その力の解放の余波で宮殿周囲に雷雲が立ち込め雷が落ちる。
「触れた事により、考えている事が分ったわ。 本当に最低なクソ野郎。 でも悪くないわね、私が守る事による調和が保たれるこの世界。 でも、覚えてなさい。隙あらば、正規の勇者召喚するからね。それともうトラック転生はこりごり、あんた見たいなのが増えても困るしね」
つづけて女神は、息を吸い込み大声で叫ぶ。
「ファアアアアアアアアアアアアアアアアッツッツキュウウウウウウウウウ、魔王勇者ショウタがここにいるわよおおおお!!!!! 世界の名を上げし者達よ、今ここに集まれ! ぶち殺す!!」
本当に、こいつ嫌いだわ。
もう自分から、会う事もないだろう。
これからの運営が上手くいかなくなったら、お前から来るだろうし。
うるさい女神の叫び声をバックミュージックに 「お前が、おくたばりあそばせ~、クソみたいな肉ミンチ女神がよ! ミンチで済まない様なモンスター召喚してやるからな! クソボケがぁああああ!」 と、キレ散らかして転移でこの場から退出した。
――
小雨様達の気配を探り、マプラ領の城の近くに静かに転移した。
まずは草葉の陰から、小雨様、アヤメ様の様子を見る。
ミリサリ、ミリュネーが居ない事を確認しなければ。
気配を消し、様子をみる。
だが待ってくれ、確認どころでは無い。
増えてる。増えてるわ。なんだこれ?
そこには、ミリサリ、ミリュネー、クロエは居なく
小雨様、アヤメ様と息子と思われる存在と、旅館組ご一行がぞろぞろと城内に入っていく。
人気アニメ『カツオさん』 のエンディングの状態にぴったりである。
ピッピッピと整列して城内に飛び込み、ズドンだ。
え?何? ポムさん何してます? ネコさんはお休みですしね?
何ですか? 全員連れて来たんですか? いやいや? 凄いですね?
異世界プラン、好評すぎませんか。 確かに斜陽とは言え、人気コンテンツですからね。
キャッキャッと会話を楽しみながらご一行が城内に入っていくのを確認した。
先ほどダリアが世界に向けて絶叫で徴収をかけましたから、主要所は居なくなっている動きになっているとは思いますが。
小雨様とアヤメ様の旅館用ブレスレットに向けて、チカチカさせ発信をする。
気づいてくれればいいのだが。
旅館ご一行と話すのは、混沌を生む。
この先の展開の話は、まとめ役の小雨様、アヤメ様だけでいいだろう。
ポムさんも旅館まとめ役ですが、ちょっと違いますね。
何か責任感が無いと言うか、自分が作ったのにどうしてあんな感じなのでしょうか。
もう少しお仕事に対してやる気を見たいものですね。
チカチカ、チカチカ。モールス信号を送る。
小雨様が城門からキョロキョロと辺りを見渡しながら出てきた。
自分は隠れている木の陰から手を振る。
さすが、自分の推しの神様です。
流石に借りが多すぎて、もう小雨様に頭が上がりません。
小雨様が気づいた様子でこっちに来てくれた。
そして、アヤメ様がスチャッと目の前に一瞬で着地した。
そう。目の前に名目上の息子と言える、王子様をカッコよく抱きかかえて。
アヤメ様が王子様をお姫様抱っこで連れてきました。
クロエさんと恋仲なのを分かっていますかね。恋慕はいけませんよ。
って言うか、アヤメさん恋愛に疎そうですよね。 そういう距離感、大丈夫ですかね。ガチ恋距離ってやつでは?
つまり、なんて余計な事をしてくれるんでしょうか。何で連れて来てんだ?
「はい、ダリ王子様~。この黒鉄剣であの男を切ってください。父あたる存在だと思いますが、ヤリ逃げが許されるなら、この断罪行為も許される行為ですよ。さぁ、スパッといきましょう! あなたには、女性の敵を制裁する権利と罵倒する権利がありますよ~!」
既に形成が劣勢からスタートですね。
話し合いは、できるでしょうか。
隣を見ると小雨様が、空間から椅子とテーブルを出してくれている。
これは逃げれない様子。ミリサリ、ミリュネーが来る前に決着をつけないと。
そもそもミリサリミリュネーと合意があった。合意があったんだって。
子供作って帰っていいって。合意があったんだよ。
そもそもですよ、現代がおかしいんです。
一緒にラブホ行ったら合意があったと同じだろうが。なぜ、男性が悪い事になってるんだ?
男女格差をなくすんだろうがよ。どうなってるんだ。今の世界は。
なんて口にしようもんなら、クソ野郎認定されます。
これ勝てるか?
上達を感じます。




