73 小雨
我は小雨の命
願い事は、あるだろうか。
我は神である。願いについて詳しいのだ。
さぁ、願い事を言うがいい。
なんとなく人は三パターンに分かれる。
『世界征服』 とか、無茶を言う輩。
『世界制服が欲しい』 と言う、叶えてあげてもいいかな? と思えるような事を言うタイプ。
『世界が平和になりますように』 と、本人に関してあまり恩恵が無い事を言うタイプ。
でも、無茶を言わないで欲しい。
願いを叶えるための必要な対価(賽銭)が国家予算ぐらい必要だが。
しかしだ。賽銭分は、ご利益があるように頑張るとしようか。
大体願う事は、5円分の世界平和だろう? 悪くない願いなのでは無いか?
人は我の拝殿に祈願成就の願掛けをしに来る。
我は、もう願うまでも無いと思うが。準備と努力を終えて願いに来たのだろう?
最後の一押しの運が欲しいと言うのか。
保管流通ならお任せあれ。運は、ちょっと専門外だぞ。
幸運の女神は、気まぐれでしか微笑まない。意外と偏屈である。
勝利の女神は、勝利への準備と用意周到な人間の背中しか押さない。努力主義者である。
神々の世界も、夢が無いな。世の中そんなものだ。
上手い話なんてある訳が無い。
――
謎の後はお任せしますとの発言後、ショウタ殿が消えた。
そしてショウタ殿が言う、この星の主幹者達が目の間に沸いてきた。
美青年の高貴なキルト服の魔族が一人。
めちゃくちゃ強そうな女暗黒騎士が二人。
服装がとっても女勇者なのが一人。
いきなり我らを取り囲んできた。
ショウタ殿の縁がある次元だけに、血の気が多いな。
話し合いの雰囲気ではないぞ。
取りあえず、冷静に話合わないといけないな。
「まずは、話し合うか。アヤメもそう思うであろう?」
アヤメが宙を見上げた後。我の方を見る。
「小雨様、結果が戦う事になるなら。最初から戦いませんか~?」
なんか、もっと血の気が多いのが隣に居た。驚きである。
アヤメも18歳を超えてるから、いい大人のハズなんだが。
少年誌じゃないんだぞ。戦いで友情が芽生える歳でもあるまい。
確かに戦った方が、話が早いか?
いや、ダメだ。まずは勧告からだ。
いきなり殴り合うとか、お里(地球)の文明レベルが知れるってものだ。
「あー、すまん。冷静にまず、話をしたい。その方らで、この案に賛成の者はいるか?」
ここにいる全員が手を上げてくれた。
ほっと胸をなでおろす。
良かった。話の通じないバーバーリアンでは無いようだ。
それと、我は良い事を思いついた。
面白い意趣返しになりそうだ。
「立ち話では、長くなるのだろう? ショウタ殿が経営している宿屋があるんだ。異世界の扉の向こうだがな。 行ってみないか?」
アヤメがギョッとして我を見て来る。
「小雨様、良い性格してますね~。 行きましょうか! これは、動画配信ですね~」
「「やはり異界から来てましたか! 行きましょう。 ダリくんもいきますよ・・・失礼。王子様もいきましょう」」
「あれ・・・、魔王は、地球っぽい所に飛んだはず? 旅館経営なんてしてるのか~。 異世界帰り無双ってやつだね? は・・・? あの後、私達に世界を任せて、自分は無双? 憎い、憎いわ~」
アヤメがアハハハッと笑う。
「小雨様、さすがに笑ってしまいました~。ショウタさん。異世界帰り無双できてますかね~? まぁ~、どうぞ~。話もありますし、行きましょうか~」
アヤメがスッと戦闘の体制を解いた。
おっ、アヤメも乗り気だな。
さて、行こうか。66Fダンジョンへ。
当然、ショウタ殿もどっかから見ているのであろう?
めんどくさい揉め事から逃げてないでさ、お主が最終的に過去を清算しないといけない事だぞ。
でも確かに。この様子では、会話がどう転ぶか分からないものな。
まずは、落ち着いて話が出来るように間を取り持ってやろうか。
方向は決まった所に、美少年の魔族がこちらに駆けて来て前に立った。
黒髪のキルト衣装か。
美少年に似合いすぎている。この着せられている感、誰の趣味だろうか。
少女漫画で言う、異国の王子。そのまんまじゃないか。
「あっ、あの。 異界に僕のお父様の旅館ですか。 お父様は、そこにいらっしゃるのでしょうか」
「「ダリくん。まず王の名乗りを」」
「あ! 失礼致しました。魔帝国継承者。ショウタ=ミリュ=ダリ です。皇帝をやっております。 後ろの二人が、摂政と宰相のミリとサリです」
女暗黒騎士二人が、前に出て来て胸に手を当て礼をする。
「「ミリです。サリです。王子ダリ様の母上が母帝ミリュネー、父が魔帝ショウタ様です。その紫剣、ショウタ様の意匠ですね。我が国では、聖遺物の価値があります。 さて、ここまで近くに来た手がかり。なんとしても、逃がしたくない。私達は、私達の父にもう一度会いたいのです」」
アヤメが驚く。
我も驚く。まさかのショウタ殿の息子に娘、妻の存在。
「ああ! これ、なんか~、結果を聞かなくても。ショウタさんが悪い様な気がしてきました~。息子、娘と妻を置いて地球で商売を始めた理由ですよね~?! この感じ、相応な別れ話じゃないとつり合いがとれませんよね~!? ゆっくり聞きくとしますか~」
アヤメ、奇遇だな。我もそう思う。
この人たちに礼も品格もある。異世界ギャップはあれど、考え方も大きく相違は無いだろうな。
「あ! 私もご挨拶をしますね。 黒崎クロエと申します。女神様の側近勇者やってまして、転生者で日本人です。 異界門先の地球っぽい所からきてますよね。私と同じ世界ですか?」
確か世界が違ったよな。
挨拶を返そうか。
「我は、小雨の命。異世界の神である。この度異世界の旅でお邪魔させて頂いている。そして、ショウタ殿の出身の世界とは違うみたいだ。」
「アヤメです。小雨様、異世界でアイドルの肩書って無いも当然って感じですか~? 偶像崇拝の呪物的な意味のアイドルですかね~? あ! 異世界冒険者。私、異世界冒険者です」
無理に難しい言葉を使わなくていいと思う。
アヤメは、肩書や社会的ステータスに屈しない人間だと思っていたが。
自身の価値と肩書を考え行動するタイプだったか。したたかだな。
「さて、異界の入り口は向こうだ。ショウタ殿は、いるとは限らないが。 居座れば会えるとは、思うぞ。 まずは行くとするか」
この無茶ぶりで、ショウタ殿が出現するかと思いきや。
来ないな? ふーん、そうか。じゃ、マジにいくとするかな。
「王子様って、ショウタさんに似てますよね~。あ、こういう事って言って良かったですか? ショウタさんって、勇者と魔王をしていたんですよね。どういう事なんですか~」
アヤメ、コミュ力高いな。流石だと思う。
そういう事を聞いていい雰囲気ってよくわかるよな~。
我には、無理だ。
女勇者クロエ殿に 「すまないが、ここの地図あるか? マプラ領の近辺に帰りの門が立っているのだが・・・」 と、聞いているうちに話が始まる。
そういえば、ショウタ殿の昔話聞いたことが無かったな。
我は、過去の詮索はあまり好まない。
我も元付喪神だ。あまり過去にいい話は無い。
「昔々、女神ダリアが初代魔王を倒すために勇者を呼びました。女神ダリアは、力が強すぎて地上で力を振えません。その時に選ばれたのが異世界勇者のショウタ様だったのです。勇者ショウタ様の召喚により世界は発展を遂げ、文化力と富の力で初代魔王軍は孤立しました。 事もあろうか初代魔王は、女神ダリアへ用意していた異空間の扉をショウタ様へ使い、相打ちとなりショウタ様は遠くの次元に飛ばされたのです」
双子のもう一人が続ける。
「幾星霜の次元を超えてショウタ様は、戻ってきました。戻って来た世界は女神ダリアの虚栄に溢れ、女神の享楽で魔族は虐殺されていたのです。ショウタ様は、この世界の変わりように驚き、世界の秩序を取り戻すことを誓ったのです。 我ら 『三天』 今もショウタ様が手を差し出し、魔族を導く瞬間を覚えています。 聖典の最初に書かれた一文目 『虐げられる必要はありませんよ。誰もが文化的で教育を受ける権利があると思います。それが、世界の発展に必要です。 さぁ、生活基盤の安定を図りましょうか。戦いはそれからでもいいでしょう』 その時我ら魔族は、大きな愛と理に包まれたのです」
あれ? 様子がおかしくなってきたぞ。
このまま続けさせて大丈夫か?
「「ショウタ様が大地を叩けば、湯が湧き。飢えをショウタ様の手で満たして頂き。人間との闘いでは、率先してショウタ様が戦って下さったのです。 そして、神聖なお姿を見た魔族達は、崇拝の思いが心の底から沸いたのです。全てを捧げてショウタ様に尽くすことが魔族の使命だと。全ての魔族がショウタ様の寵愛を求め、各種族の能力を生かして大々的に我々は発展していった。そう我々は、魔神皇帝ショウタ様に選ばれたのです」」
入信するまで、解放してくれなさそうだぞ。
アヤメ、地雷踏んだな。
「そして、ある時魔族に別れを告げて、ダリア様のハンバーグを作りにきたんだよね。 結論から言うと、復讐のためにだね。私もハンバーグにされる時に、同じ星の出身と言う事と、ダリア様の手口を聞いたんだ。私も同じでトラック転生だったし。 でも、私はここに感謝している。 ダリ君にも会えたしね。 そしてもう、ショウタさんは 『帰りたい』 と言って帰ろうとするんだけど、時空を渡れないみたいなので、私とダリア様がショウタさんを送った。でも着いた場所、地球じゃないんだよね。 貴方達の星だよね? 私達の地球に救ってくれるような神様は居ないし」
「「・・・ここからがいい所だと言うのに。 そして、ダリ君がミリュネーから生まれた時、争いについて考えた。このまま人族と争ってダリ君が憎しみに身を焦がさずに幸せに生きられるのだろうかと。そう思える私達が、不思議だった。 ほんと可愛い。私達の全てだ。歳が離れているから余計にそう思うのだろうか。そして時が流れ、ダリ君が和平について望んだ時。私達も同意した。 クロエ・・・、付き合いを許した訳じゃないからな」」
「なるほど、ショウタさん。まだ姿現さないんですか~? 自己解決してくださいよ~!」
ほんとだよな。とっとと出てこい。
「まぁ、アヤメ。落ち着いて話し合い、旅館に居座れば根負けして出て来るだろう。行こうか。皆もいいか? まず、ショウタ殿に会えればいいのだろう? 我々の存在もショウタ殿の旅館で説明すればいいだろうか」
「「「その通りです」」」
話は、まとまった。
立ち話より旅館で会議でいいよな。
「では、マプラ領北東辺りまで転移を頼む」
「「「承知致しました~」」」
勇者の転移光が我々を包む。
――
見覚えのある街道に着いた。周辺の木々は深い。
覚えのある草が足を撫でる。この森道の奥から我らは来たはずだ。
「門は、この奥のはずだ」
我は案内をしつつ、後ろを振り返り、ご一行を見ると全員が王子ダリ殿にくっついている。
ダリ殿は嫌な顔一つせず、話を親身に聞き丁寧な受け答えをしていた。
これはモテる。好青年だ。
ショウタ殿に似ないで良かったなと、どこかで思ってしまう。
教育だ。父親の遺伝子に影響されないような、教育が良かったのだろう。
「アヤメ、異世界の門はこの近くだったよな」
「だと思います。視認スキルみたいなのがあれば、他の人も門を感知できるみたいですが~。私もそれで前回、大変な目にあいました」
そうなのか? 門を出た存在しか見れないのではないのか。
初耳だ。 セキュリティ緩いな。
「は~い、異世界門を視認できます。私、異世界転生者だし。それと、王子君どう? この今の世界を作った発端者に会いにいくんだけど。なんて言ったらいいのかな、魔王ショウタ、倫理観があんまりないのよね・・・。私もミンチにされそうになったし。そもそもミンチって発想は・・・、あ、トラック転生か」
「「勇者クロエ、ショウタ様を貶める発言は許さんぞ、いつでも魔族は和平を破棄する」」
「またか、争いはやめよ。 そうですね。お父様ですか・・・、分かりません。会ってみるまで、胸にどんな感情が沸くのか。ただ、会ってみたい。それだけです」
喧騒をやめさせ、父を思い胸を押さえながら俯く美青年。
王子様と言う言葉がピッタリだろう。
「傷心の美青年、これは、刺さる人は刺さりますね。小雨様、後ろ見てください。母性本能のオーラが視認できるほど揺らめいてますよ~」
アヤメが隣で歩きながら、耳元で伝えて来る。
そして、我には後ろを見る気は無い。
そういうのは、個人の範疇だと思う。
森を抜け、まばらな木々が見える。
門のある草原に着いのだ。
ここらに異世界の門があるはずだが。
その前に、ショウタ殿に語り掛けるとしようか。
「いい加減、諦めて出てきたらどうだ? 旅館で取り持ちぐらいするぞ?」
返事は無く、風の音しか聞こえなかった。
しかし、草原の先を見ると人影がある。そして、異世界の門の影も視認できる。
なるほどな、出口で先回りしていたのか。
そうだよな。旅館に居座られると、吊るしあげが始まるかもしれんな。
旅館に泊まっているのは、全員女性だ。ショウタ殿の味方は、ネコ殿しかいないだろう。
この顛末を話して、無事でいられるわけが無い。
帰りたいからと言って、親としての責任、次元への責任を果たさず他の星に転移。
叩かれるに決まっているだろう。
アヤメに、異世界門の所に見えた人影の合図を送る。
「なるほど~。さすがにここが限界ですよね。小雨様、出来るだけショウタさんの肩を持つ方向にしませんか? 旅館で話し合いが始まったら、ショウタさん、ボコボコにされますよ。正直、最低です~」
「おぉ、アヤメそうだな。任せておくといい。ショウタ殿の味方になるとするか」
そういう方向にもって行くか。
異世界版の昼ドラマスタートだ。旅館では、泥棒ネコの発言が飛び交うだろうな。リアルなネコも居たか。もうどうなるか分からんよな。
仕方ない、ショウタ殿の肩を持つとしようか。
だが近づくとその人影は違い、ショウタ殿ではなかった。
異世界門の所には、蒼髪で古代ローマの服と言えばいいか、ドーガ服の女神が居た。
次元の門の飾るモチーフの女神だ。
凄い神の気配だ。これが、この世界の唯一神か。
女神はニッコリと微笑み、話しかけてきた。
「こんにちは、異世界の神と人間さん。 そして、この門はさようなら」
「「「ダリア」」 様!」」
女神がいきなり金の剣を顕現させて、門をスバアアアンと切り裂いた。
門は一瞬で細切れになり破壊され、金細工が辺りに散らばった。
「そう、異世界のショウタの知人ですよね。 それだけでも万死に値する。18年待った復讐のチャンス。絶対無駄にしないわねぇええええええ! ころすうぅううううう!」
神気で髪を逆立て、般若の形相の女神が襲い掛かって来た。
アヤメの感性って信用できるんだな。戦った方が早かったか。
アヤメが視認した次元だ。そうに決まっている。
話し合いが通じないんだが。
身内に学者がいる。
本を読むのが仕事である。基本ずーっと家に居て、本とテレビ、新聞を読んでいる。
ジャンルは世代による好みそうなものを見で、学術書、小説、歴史書、多岐に渡り読んでいる。
つねに家で悶々と読んでいるため、とてもリベラルな思想を持っているとは思えない。
そんな男に聞いた。
「SF(未来科学系創作)でこれだけは、読んでおいた方がいい物ある?」 と。
意外な答えが返ってきた。
夏目漱石の吾輩は猫である。 だな。
それ未来科学創作だった? いや、未来科学かも。 でもジャンル違うよね?
「吾輩は猫である。なんて愚かな人間どもよ」 確かに、未来科学の創作か。
もう脳内で高度な学ありきの話しかしないんだよな。
医者と学者は、アスペルが八割と言われているが。そんな感じだ。
仕方がない、話が通じない。
SFで3つぐらい読んでおいた方がいいと思うのを上げて欲しい。
つづく。




