72 アヤメ
アヤメ。
今まで生きて来た中で一番凶悪と思われるモンスターが顕現してきました。
山の様に大きな紫の触手がのたうつたび、大地を塵へと変えていきます。
闇に飲まれた星々は、逆行をはじめ。全ての空間が私達を否定して来るのを感じます。
この存在を封印するために星一つを犠牲にしたとしてもおかしくありません。
いえ、おかしいですね。ショウタさんと手を繋がないとこれが出現するって事ですよね。
まぁ~、深く考えても目の前の問題が解決するとは限りませんし。戦う事になりそうですか~?
山脈より大きいタコ型モンスターを倒すのは、大変そうです~!
と、思った所。
ショウタさんが頭を下げてきました。
「この世界に自分が居る事がばれると。確実にこの星の和平が吹き飛びます。終焉の眷属を退けるのを助けて欲しいのです」
もちろんです~! ショウタさん! こんなの出たらさすがのショウタさんでも困りますよね。
私は以前、あなたに助けられました! 66Fの宿と言う利便性でもかなり助けられました!
現在進行形でお世話になっております!
いかに、感性が宇宙感覚で、DVを繰り出す輩でも、たとえ私達の星を敵に回す、エネミー属性だとしても!
助けてもらった事には、変りません。当然、お味方致しますよ~!
最近、一緒に居る機会が多いので分かってきました。気分屋で理屈優先ですもんね。
ショウタさんには、義があると思います。信頼と約束を守る所だけは、信じれます。
もう一ついい所を上げろと言われましても~。わかりません!!
「さぁ! 使ってください! 地球最高の有頂天なダンジョン探索者アヤメを!」
小雨様も応える。
「正直、お主は危険だ。 そう、人間としてダンジョンで暮らすとか無理だってば? 何か間違えるとこの終焉クラスがついてくるんだろ? 世界の敵になるってば。よく考えて欲しい。位相世界で永遠を暮らす終活プランだ。いいか? これが終わったら、よく話し合おうな? 神として永遠を何となく穏やかに暮らすのが、お主の幸せだと思うんだが? さて、ショウタ殿。喜んで手伝おう。お主の存在。全てのアイテムを使ったって惜しくないぞ」
ショウタさんが、トラックにでも当たったかと思えるような衝撃に吹き飛んだ。
片膝を付きうずくまった。
「共闘と共栄。なんてすばらしい理想なのでしょうか。一瞬でこの終焉を消せそうな思いが胸を駆け巡ってますが。いけませんね。今一度、自分の手を握って頂けますか?」
「「承知~」」
吹き飛ばされたショウタさんに近づき、小雨様と一緒にショウタさんの手を握る。
一筋の輝きが私に入ってくる。
これが、全能の一旦ですか~!
理解しました。人は、神の一旦を持っているんですね~。
これが、神様の場合どうなりますかね、小雨様はどうなるのでしょう。
小雨様の方を見る。
力を得た小雨様が、内部から輝きそのまま天に昇って散っていく。
「そうだ、我らは元から宇宙意思・・・、いつでもお前たちを思い、見守っている・・・」
あああああああ! ダメですよ!! ショウタさん。逃がしてはいけませんよ!!
「ショウタさん、ダメです! 何してるんですか! 逃がさないでください! 早く、地上へ固定してください~!!!!」
ショウタさんが大声に気づいて、あたふたと宇宙意思になろうとする小雨様を元に戻していく。
何とか地上に戻った、小雨様。
「これがががが、神の完成形か~。 なんと狂おしい感覚か。 星でせこせこと商売とか、アホらしくなってくるな。 本当の心と魂の自由が存在すると言うのにな」
も~、社会の価値観を嫌がって、脱社会的行動をとるような若者の様な歳じゃないんですから~、地上で神様らしく鎮座して、おとなしく崇め奉られてましょうよ~。
さて、やりますか。
無粋でしょうが、確認はしましょうか。
「ショウタさんがやらない理由があるんですね? タコやっちゃいますね~」
ショウタさんが一歩引き、胸に手を当て礼をしてくる。
「そうですね。平和を望む世界とはかけ離れます。たとえば、この世界の魔王を倒し、女神の力を封印し、魔王となり魔族を復興させ、人魔の滅亡をかけて争わせた存在が終焉を引き連れて帰還した場合、未来はどうなると思いますか? 貴方の想像する未来を答え下さい」
「そういうことですか~」
「いや、アヤメ? 思考の放棄は良くないぞ。 すごいな。マジ狂ってるな。 いや、我も長く存在してるが。こんな頭がおかしい問題が提示されたのは初めてだぞ。 ショウタ殿、無理だって。 位相世界でゆっくりやっていこうよ。 神専用の空間だから、永遠を上手くしのげる時間軸でやれるんだってば。 ショウタ殿に力がありすぎるんだ」
この星の行く末には、申し訳ありません。興味がありませんが~。
この世界が敵になったとしても、私は、ショウタさんの味方しますよ~。
小雨様もそうです。世界が敵になっても味方すると思いますよ。
前に小雨様の前に立った時も、助かって欲しかったからです。
「ありがとうございます。気を付けてください。命がけでないと、あれは倒せません。 終わりはいつも近くにあります。あの触手攻撃、存在を打ち消しますので。 触手で消滅したら、人の記憶と次元のアーカイブから抹消されます。存在がなかった時間軸にされますから」
超ド級の試練がきましたね。
ショウタさん、やっぱり戦いましょうよ??
ネコさんが言っていた 『ご主人を隔離世界に封印したいにゃ~』 の気持ちが、よくわかりますね。
「逃げ帰りますか? 構いませんが・・・。ああ、全能の存在としてやっている事ですから。小雨様には、恩と情と借りがありますし。アヤメ様には・・・・、まぁ。恩と借りと・・・動画沼ですか?? 動画沼とか意外と面白い趣味だなと思いまして・・・」
はいはい、説明長いですし、タコ倒しますよ。
「アヤメ。正直我は、存在消滅が怖い。後ろから最大出力で援護するぞ」
小雨様から、天を埋め尽くすほどの魔導書が出現する。
「この規模の攻撃に名前を付けるとしたらなんだ? 加速鉄壁剛力つよつよ雷火氷地、つよつよ。 『超つよつよ!』 」
人生最大の大型獲物ですよ。
もう少し、エターナルフォース的なかっこいい見切りが欲しいですが。
天から効果を終えた魔導書の塵の雪が降り、粒子の輝きが私を包む。
紫剣ちゃん、いきますか。
私達の観測が。 タコを消すと決まっています。
山と同じ大きさのタコの前に、結果を出力して私は立つ。
そして月と太陽が逆転し、タコの頭に日の光が差す。
この力を持て余すことなく、使いましょうか~。
上下と左右に九字に切る。細切れと言う結果が顕現する。
タコは細切れになるが、絶叫を上げ元に戻る。
紫の触手の攻撃が、50本も来ただろうか。触れれば即塵となるだろう。
私は、瞬間で大陸移動をするような距離を移動し避けつつ大地に着地するが、私の足が消えていた。
バランスを崩し地面を転がり 「え?」 と思わず声を出してしまう。
脳内に声が響く。
「アヤメ様、意識を強く持ってください。体の認識が曖昧ですよ。髪、服、手足、体、臓器、全て貴方です。 そうそう、アルコールが好きで臓器の肝臓が弱点な転生者や転移者って結構いるんですよ。沈黙の臓器は悲鳴を上げてると言うのにですね・・・」
ありがたいお説教までついてきました。
分かりました~!
私の足、さぁ! 行こう!
強く足を意識する。
足が、ホログラムの再生の様に瞬時に治った。
タコを切った感覚で理解しました。
再生の時、力使ってますね~? 再生と攻撃の連携が遅いですよ~。
大声で、後衛に居る小雨様に伝える。
「小雨様! 最大出力で攻撃を! 私を巻き込んで構いませんよ! 伊織だと思って、破壊を撒き散らして下さい!」
「おおぅ!? そう言ってもだな、いくらかかると・・・国家予算いくぞ!? あああああ! 分った! 星と国では、星が優先だな! 行くぞ?! アヤメ、死ぬなよ! 『我、我が風呂敷よ! 最高に雅で詫びさびを押し込めた裏面を見せるがよい!』 」
元付喪神の小雨様の本質。風呂敷の裏面。神の本質が意匠で見えるはずです。
でも私は見ません。小雨様への敬意です。
ありったけを出すとは、心から尊敬します。小雨様。
もしショウタさんが小雨様の裏面を観測したなら、付き合いを考えます。
それほどの事なんですよ。
タコの上へ、布切れの様な大きさで、ひらひらと飛んだ風呂敷がひっくり返る。
空から、観測できない程の魔石と魔導書が、滝の様に。
違います。夜空の数多の星が落ちてきたように降り注いできます。
『我がアイテムよ! 己が使命を尽くし、力となれ!』
数多のアイテムが、光と力に変換されます。アイテムの役割を終え、塵へと帰ってるのでしょう。
宇宙まで伸びる、光と力の波動。
観測者だれもが勝利を確信したはずです。
でも、まだ生きてますよね?
勝利を確信した私達を観測で押し返せますか?
もう終わってます。
瞬時に転移しタコへ肉薄。紫剣で九字を切る。
私は、星と世界を切ったのだ。
タコは細切れになり、存在を保てなくなり消えて行った。
そしてゆっくりと、塵が混じった地面に降りる。
ショウタさんから賞賛が来る。
「お見事です。観測を一度の戦いで掴むとは。さぁ、経験値を受け取って」
私の中に、先ほど感じた神様と同じ力が来る。
なるほど。これが可能性、スキルの源ですか。
「小雨様。お見事です。あまりにも多くアイテムを小雨様に負担をさせてしまいました。補填致します。 小雨様、あなたの望みを一つだけ叶えましょう。 もちろん全てを叶えます。何を望みますか? あ、願いを増やせの望みは、願いが増えた程、願いのクオリティを下げますので、1個集中をお勧めします」
「そうか、使ったアイテムを戻してくれ」
「小雨様?! 今、世界を宇宙を、いや! 数多の異世界次元を手中に収めるチャンスじゃないですか~?! 小雨様には、ビックで居て欲しいですぅ~!」
「アヤメ様、中々に欲張りますね。今の自分、全能です。全てが叶いますよ。小雨様」
小雨様! 欲が無さすぎませんか~?
たしかに無限の力は怖いですが。 今回、対価払ってますよ!!
「小雨様。今回は、願望をを押していい所では~? 私達星を救ったんですよ~! 小雨様。不老不死ですか~? いえ、いらないですね。 最強? 小雨様は、地上にて最強ですね。 うーん? 必要なのは、小雨様の永遠を楽しく過ごせる巫女じゃないですか!? 頼みましょうよ!! 小雨様世代で言う、素敵な彼氏! と食べきれないほどのイチゴ! そして、ギャルパンー! じゃないですか~! 」
「アヤメ。幼少期、少女漫画で育ってないタイプか。いや。過ぎた力なんて、いらぬよ。 毎日、幸せについて考えているぞ。 手に入れてもらった幸せは、幸せか? 思っているうちが幸せでは無いのか? 永遠を過ごすに、今が一番面白かったりするんだよ。人間」
格好良すぎます。
ショウタさんもそう思いますよね~?
と、ショウタさんを見ると
胸に手を当てて、膝をついている。
「承知致しました。 使用アイテムを戻しましょう。 しかし、自分の気が収まらない。自分は、小雨様に何かしたいと思っている。 さて」
「貸しにしてくれ。お主のへの貸しで十分だ」
共栄、意味が分からない古い言葉と思ってましたが。
格好いいですね~。
「「小雨様、心からの共栄を」」
小雨様、どうして男神じゃないんですか? 男神だったら、恋してますね。
巫女になりたいんですが。今度、神様性変換薬でもショウタさんにお願いしましょうか。
――
そして、ショウタさんが、いきなり取り繕った笑顔に変わる。
付き合い長いですから、その笑顔分かりますよ。
もう遠回しじゃなくて、素直に伝えてもらえませんか?
「小雨様、アヤメ様お見事にございます! 見事な討伐。10秒後に、人統治者と、魔族統治者がきますので全てお二人がやった事でお願いします。そうですよね? お二人がやりましたよね? はい、じゃ気配消して無になります。後、よろしくお願いします~」
ショウタさんがフッと消えた。
あの黒髪リーマン、何いってるんでしょうか~?
小雨様いなかったら、帰ってますね。
まぁ~、理由があるのでしょうが~。
どうしましょうか。ここは、小雨様に・・・。いや、違いますね。
ウソは、歪を生みますし。
正直めんどくさいので、もう正直に話しましょうよ。
「小雨様、私は正直にあった事を話します」
「そうだな、ウソついてばれた場合。戦闘になりそうだよな」
そして、シュワワーンとボボワワーンと転移の光が沸いてきた。
魔族の美少年・・?
どちらかと言うと、美青年が一人と、暗黒騎士の様な双子のヤバそうな魔族が隣に2名。
そして、黄金と白を基調とした服装の黒髪の女性が出現してきた。
美青年の魔族達が辺りをキョロキョロとし、私達に言葉をかけてくる。
「残存する力を見るからに、お二人がやったのですか?」
そして、魔族二人から言葉が続けられる。
「「勇者クロエ。また女神ダリアは、お前に任せてこないのですか?」」
「あ~、いえ~。どちかといえばやる気マックスになってるね~。 終焉の眷属が来たので、あの男が来ている可能性があるそうだけど・・・。 黄金宮殿で、戦闘準備してるね。いきなりダリア様の雰囲気が変わり、復讐の権化となってるわ~」
「ふん、復讐とは、お門違いもいい所です」
「そもそも、女神ダリアが始めた戦いだぞ。 我々の主神・・・」
「やめよ」
美青年が取り持つと、ガヤガヤが収まった。
「王子くんナイス~。そして、このお二人が倒したって事でいいのよね」
勇者クロエと呼ばれていた、黒髪セミロングの女性が、こっちに興味を持ったようだ。
「「さて、あのお方と関係性が高いはずだ。終焉の眷属なんてあのお方関係でないと、湧かないはずだからだ。 一緒に来てもらいたい。 何が何でも来てもらわないといけないのだ」]
「だめだ。手荒な事は、やめよ」
「「王子様、貴方のお父様の事です。ついに足取りを掴むチャンスなのですよ? ご帰還は、我々の悲願なのです。 そう、あの方は、勇者クロエにまた来ると伝えたと。 そして、私達もまたあの方に会いたいのです・・・。 私達を育ててくれた、師であり父でありますから」」
「お二人を魔族側には、渡せないよね~。でも、黄金宮殿も似たような状況になるね。 復讐の鬼がいるしね。 どうしようか」
情報量がやばすぎます。
小雨様、これ捌けますか?
戦闘になった場合、全員は相手出来なさそうですよ。
そして、ショウタさんの息子さん!?
ショウタさん結婚してたんですね。でも、バツ1って風格はありましたか。
「ああ、ショウタ殿なら逃げたぞ。 自分が、居るとこの星の和平が壊れると言ってな。そうだ、今のまとまりの無さの様にな」
「「「!! 詳しく聞こうか。 正直に話して欲しい。 知りたくて肉体と心が弾けそうだ」」」
ええ~、小雨様。
その出会い方で、戦闘にならずにいけそうですか~?
『その出会いは、最悪だった』 ってのが許されるのは、レディコミだけですよ~。