71 ショウタ
ショウタ
いつだって、仕事で戦ってきた。
クレーム、ノルマ、圧力、対応。と言う、日々の飛んでくる銃弾。
対立と言う銃弾を受けないように、頭は低く下げる物だ。
頭を下げたくないのなら、どうすればいいか。子供でも分かる。
強くなる事だ。金、肩書、暴力、発信力。を手に入れるのだ。
違うか? 少年誌の愛、友情、努力、勝利とは、かけ離れていとは思わない。
金と言う愛。主人公と言う肩書あってこその友情。努力による力。発信力の文化的勝利。
異世界だってそうだ。いつも戦いだ。
パワハラの女神から始まった、一歩目。いつだって目の前の問題を処理してきた。
復讐だって正当な権利だ。
弱きを助け、強きをくじく。 この世界の人側を導き、魔族も助けた。
この世界の魔族の復讐のおぜん立てだってやったじゃないか。
そう、人も魔族も権利がある。
お互いその権利を行使して争っているだけだろう?
久しぶりに訪れた、このダリアの世界。
夕食の時、領主マプラ様の話に自分の心が傷ついた。
「永遠と思われる争いがついに終わったのです。仮初の平和かもしれません。今は、それを喜びたい」
激しく動揺した。
自分は間違ってない。それだけは、言える。
人と魔、お互いが正義をかけて戦ったはずだ。
魔族と女神ダリアに後は任せ、そして、血を血で洗う様な戦争の道のり。
もちろん、そうなると分かっていた。
現地の人の和平を喜ぶ声に、なんだか心を責められている気がした。
他の道を取る方法や、やりようがあったんじゃないか?
復讐に、星を巻き込む必要があったのだろうか。
憎しみは、視野を狭め、嫉妬は未来を焼くとは、誰が言ったか。
その通りだと思う。
だが、過去の否定は、今を否定することだ。
だって当時は、最善に思えたんだ。仕方ないじゃないか。
最近、小雨様の世界に触れ大切な事を思い出した。
何も答えを出していくのが正しい事じゃない。
転生前を思い出せ。対立を避けてやってきたじゃないか。負けたっていい。
関係性で打ち負かすケースなんて、ここ一番引けない時ぐらいなもんだ。
『共栄』 すばらしいし考え方だと思う。
異世界当時は、そんなゆとりのある考え方が絶対できなかった。
この世界の肩入れをした自分に責任を感じてしまう。
そして、あの弱かった女神の側近の女勇者クロエが、まさか人側をまとめ上げて魔族と和平を結ぶとは。
少し調べましょうか。和平の方向に進むというなら手伝いますよ。
悔しいですけど、ダリアと勇者クロエが、ちゃんと星の為政者をやっているみたいですから。
もしもダリアに会う必要があるなら会わなければ。
クソが。
――
悪魔ゲートの方に足を進める。
悪魔ゲートの解放には大規模な召喚儀式か対価が必要だが、よく開けたよな。
『悪魔がやった事ですから直接、関与してません!』 とか、首謀者達を捕まえたら言いそうだ。
自分も直接関与してないから、ゲートと当事者の未来を無慈悲に閉じてもいいよな?
異世界で貴重な攻城戦イベントを有難う。そして、さようなら。
後方では、金色の波動砲と緑の剣戟がバンバンと空を飛び交っている。
悪魔軍団と戦闘が始まったようだ。
楽しそうですね。
小雨様の接待は、大成功と言った所でしょうか。
小雨様なら、どこでも名君になれそうですよね。神様ソムリエを名乗れるぐらい、色々な神様と一緒にやってきましたが。上に立ってもらいたい神様として、小雨様がぶっちぎりのナンバーワンです。
アヤメ様は、まだまだですね。 勇者の風格は出ておりますが。
そんな勇者アヤメ様は、魔王を一方的に悪と断じて、処してすぐに問題を処理しそうです。
いいですね、尖ってます。昔も自分もそんな風な感じでしたし。
このままいけば、勇者から上位ジョブの現地神まっしぐらです。
ゲート方向に足を進めて不可視の力で悪魔たちをスルーしながら、草原の奥の森林へ向かう。
万が一、悪魔に見破られて戦いになったら即、潰しましょう。
そのまま、特に何もなく現場に着いた。
石作りのサークルに大きい紫のオーブが台座に二つ、大きく渦を作りゲートが開いている。
この星の地下深くに存在する悪魔の国。ゲートを開くと、ここぞとばかりに侵攻してくる種族たちだ。
あらかた、ゲートを開ける時の契約として人への進行を取り付けたと言った所か。
ゲート周辺では、悪魔達が紫のかがり火を焚き、ゲートから物資の運搬など荷受けの様子がみられ、陣営を作り守っている。
さて、どうしたものか。
大きな力を使って、ここの辺り一帯を塵に変えると、即座にダリア関係か魔族の主幹が来て 『もしもし? あっ? ショウタ? ころす』 か 『王の帰還~、玉座へご案内。今度こそ、この世界を統一しましょう』 と ろくでもないストーリーになるのが目に見えてる。
身バレしたくない。
ゆっくり、1体づつ消滅させていくかな? と、考えていた時。
転移の光が前に沸き、隣に黒い魔族の転移の闇が湧いた。
統治側の主幹者が来たのだろう。
そうだろう。ゲートを野放しには、出来ないよな。
とりあえず、気配を消して様子を見てみようか。
黒い髪に黄金を基調とした白の衣装。雰囲気に闇を抱えるような女性勇者。
この世界を去るとき、ダリアの忠誠心が高いからと、気分でこの世界を託した勇者クロエだ。
立派な勇者になっているじゃないか。
わしが、育てた。
自分が、勇者クロエに権力を与えたんだ。そういう事だ。
もう一人は、黒髪の少年を越えた辺りの歳の青年魔族か。
黒髪なんて珍しいな。
「クロエさん。あなたに戦いの時にしか会えないので、僕はどこかで戦いを求めている様になってしまいました。会えてうれしいです。世界の平和とあなたをいつも思っています」
黒髪の魔族がクロエに向かい。愛を語っているのか?
何? できている感じですかね? そういう事? 魔族と和平を勝ち取った、クロエすごいな。
あのうだつの上がらない感じから、異世界で気づきを得て異世界デビューって感じですかね。
異世界に来ると良くあることです。人は、そう変われないと言うのに。
相応の努力があったのでしょう。
「王子くん、私も会えて嬉しいわ。さ、殲滅と戦闘を考えると、10~20分自由時間、あるよね? そこの茂みにいこうね? その様子だと、期待してきたんでしょ? さ、3回はいけるね? お姉さんとの楽しい時間、我慢できるかな~?」
何だ?おい。 悪魔ゲートが出現してんのに少年を茂みに誘うな。
クロエさん? そういう感じ? 逢瀬? 逢引? なんだ・・・? もしもし?
おい、男性が未成年の女性へは、取り締まりが厳しい世界だが?
女性が未成年の男性はいいのか?
男女格差をなくそうと世界が動いているのですから、こういうのはダメでしょうよ。
男女格差を少なくするんだろうが。まずはここからだな。
ロリがだめなら、ショタもだめです。
極力気配を消した、よわよわ光弾を悪魔本陣に打ち込む。
ゲート近くに爆炎が上がり、悪魔達が宙に巻き上がる。
あれ? 力の加減が上手くいきませんね。
悪魔達が、お姉ショタ狩・・・、じゃないな、主幹者達に気づき、襲ってきた。
「「邪魔が入ったのか?! とってもいい所なのに!!」」
はい、脳みそ繁殖力。 時と場合、TPOをわきまえて欲しいですが。
ですが、野暮なおせっかいでしたか。
でも、お互いがいいなら、いいんじゃないか。邪魔して、すみませんね。
はぁ~、青い青春がうらやましい。
行為を邪魔され、怒り狂った勇者クロエが金色に光り輝き、腰の剣を振りぬく。
黒髪の魔族は、手に生成した暗黒の剣を振りぬく。
鋭利な物体と次元の切断、殺意マシマシの断裂が悪魔達を襲う。
一撃で悪魔陣営の半壊。 悪魔スライスが出来上がりました。
さらに、二人は飛び出していき、ゲートとコアの紫のオーブを破壊して殲滅へと立ち回る。
ものの数分で、悪魔陣営は廃墟と化した。
自分は、感知されないほどに気配を消して近くの物陰に隠れて様子を見る事とにした。
「おかしいですね。コアを破壊してもゲートが閉じないなんて」
「ゲートが閉じるまで、向こうの茂みで休憩しようか? あれ~? 期待してた? 赤くなってるね」
もう、ええか。 好きにさせよう。 他者から見ると地獄の雰囲気だな。
見てると、なぜか孤独を感じてしまう。
勇者クロエ、やることをしっかりやってるじゃないか。
異世界デビュー、おめでとうございます。自分は社会人デビューでしたかね。
そして、あなたのデビューはいつですか?
うーむ。ダリアに一度会わなければな。
この様子なら、ダリアの封印した力を返してもいいな。
全力で互いに争う世界の流れから、ここまで良く持って行ったと思う。
しかし、おかしいぞ。
ゲートが閉じない。間違いなくコアは破壊されている。
クロエに抱き着かれ、茂みに連れていかれる黒髪の魔族が慌てたように叫ぶ。
「クロエさん! ゲートを見てください!」
「はいはい、王子くんのゲートを見ればいいのかな? ウヘヘ。 じゃなくて? 何この気配?!」
あ、やばい。
これ 自分のゲート観測結果か?
長くゲートを見すぎたか。もしかして終焉の眷属が入り込んだか?
直後、ゲートの穴から紫の触手が飛び出てゲートと空間を破砕する。
パギャアアアアンと、星が出していい音では無い。
次元間を砕いて、中型の終焉が無理やり入ってきやがった。
「終焉の眷属!? なんでぇええええ?! もう魔王は、居ないハズなのに!! あ、ちがうのよ、王子くん。あなたの・・・、そうね、あなたと結婚する時に全て話すわね。 これ~は、ダメね。 ダリア様の力を借りなきゃね。 王子くんも、『三天』 に報告して、ああ、お母さまへの報告が嫌なら 双子の 『2天』 に状況報告お願いね」
「なぜ今、真実を話してくれないのですか? クロエさんをこんなにも愛していると言うのに・・・」
「じゅるじゅるああああああ! 脳と体に響く、異世界万歳! それどころではないでしょ? これを処理して、本拠地の報告会で会いましょう! 少しの間、またね~!」
クロエが光に包まれ消え、魔族が首を振りながら転移した。
青春と性欲が憎い。そう思いませんか?
そして、嫌な予感がするな。黒髪の魔族がなんか見覚えがあると言うか。
ここの主幹者のミリュネーと自分の遺伝子を受け取った生命体に見えるが。
う~ん。認知しなければ、問題無いな?
人は、生まれながらにして 『ザ・ワン』 一つの生命体だ。
親がどうかとか関係ないんだよ。そうなると男性の責任があるというのも、おかしな話ですね?
この思想最高かよ。
子供の遺伝子調査をすると国が崩壊するという事で、しない事は先進国では良くあることです。
しかし、参りました。
中型の終焉眷属、本気で相手しなければなりませんね。
ダリアもクロエも、魔族最高幹部の二人とミリュネーも来る可能性があります。
自分の事を隠し通すのが厳しくないですか。
過去が這い出て、襲ってくる。
ジョンジョンの物語の気持ちがわかりますよ。
全力で戦うと絶対に身バレしますよね。
これは、小雨様、アヤメ様に協力してもらう必要があります。
助けて欲しい。
――
マプラ領主の城下町に戻った。
祝勝の歓声にあふれ、小雨様とアヤメ様の話題で持ち切りだ。
告知用の高台で、小雨様が演説をしている。
「民の鋼の精神! そして、対峙した兵の勇壮! 領主マプラ殿の賢明! 勝利とは、全員が確固たる意志を持つことだ! 勝利とは、自分よりも大きく! 己が必要とされていて!努力する意義のある明るい未来を創造する意識のこと。本当の勝利を生むのは願いと目的だ。今日の勝利を願わなかったものはいないだろう! さぁ! 我らの統治者マプラ殿を盛大に讃えて欲しい! 我らは、その勝利に手を貸したに過ぎない!」
おぉう? 小雨様。 私より、統治者向いてませんか?
自分、統治者経験者なんですが、小雨様と役者が違いますかね。
地を揺るがす大歓声も良いですが。
それどこでは、ありません。
小雨様と、アヤメ様、マプラ様が立っている高台に歩いていく。
もう間もなく、中型の終焉が顕現します。
協力して頂きたいのですが。
アヤメ様と小雨様が、自分に気づく。
そして、同時に世界が終わりに包まれた。
星々は逆行し、空間はひび割れて数多の星の光が消え、耳が痛くなるような静寂と時のさざ波が支配する。
月の代わりにタコのな頭が顕現し、紫な超巨大な触手が大地を打ちつけ空間を塵と変える。
法則無効、スキル魔法無効。
あれに届くのは、存在値と観測力。後は、運命値のみ。
相対する資格が無いものは、時が止まったように静止した。
相対する者の運命値が高く無いと時が機能しないとか、強すぎますよね。
「すいません。顕現させてしまいました」
自分は、頭を下げる。
自分に気づいたアヤメさんが、即座に反応してきた。
「いや、ショウタさん。 なんでしょう。裏ボス超えて、これデバックルームのモンスターですよね?」
「まて、アヤメ。デバックルームとか良く知っているな。アヤメのお父さん、ゲーム関係者だな? 中々に出てこない単語だぞ。 まてまてまて、何? あのタコ? 星と同じ力を持ってるんだが?」
・・・・。
「すみません。助けて頂きたいのですが」
アヤメさんが、ニィッと笑う。
「もちろんです。ショウタさん。 力を貸します。 さぁ、私の全力を出せるように上手く使ってくださいね~」
小雨様も静かに笑う。
「もちろんだ。ショウタ殿。我は、何をすればいい。 お主の頼みだ。我の全てのアイテムを使っても惜しくないぞ」
激しく、胸を打つセリフが返って来た。
そうか、そうなのか。そういう事だったのか。
小雨様の世界が考える、共栄とは。
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