表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/95

65 ショウタのお仕事

ショウタ


小雨様と下請けの韋駄天様と一緒に、位相世界へ飛んだ。


神社のお祭りの様な屋台の並びの一角に立っている。

これが旅館のアンテナショップなのだろう。


この店を先日のお客様の制裁神様、啓示神が主としてやると言う事だ。


商品を取り出し並べる。

思い出のお茶、ほろ苦い記憶のコーヒー、性格診断の饅頭だ。


位相世界に入った瞬間から、啓示神が脳内に直接に喋りかけて来ている。

最初は相手をしていたが、途中から構ってモードの 『ねぇ、ショウタ。ねぇショウタ。ねぇ、ショウタ』 に入ってきたので無視していたら、並べた商品を投げ捨て始めた。


「無視するなら、商品ポイポイしましょうね~」


理解が出来ない。なぜ、こんな事を?

これから、売る商品になぜこんな事を。


一瞬、理解できずに固まった。そして、転生前の記憶を思い出した。


口喧嘩が始まると、皿やガラスを割り出すのだ。そうだ、理屈じゃない。

後先を考えず、ただ、人を困らせるだけのために。地面に食器の欠片をばらまくのだ。

先に手を出し、暴力に訴えるのを待っているのだ。


啓示神、凄いな。人前でも感情の打算で動いているのか。

まずは、暴挙をやめさせなければ。


即座に腕をねじりあげ、行動をやめさせる。


「ああああああああ! 痛い痛い! 見たわよね? 小雨神、制裁神、先に暴力を振られたわ!」


しまった、理屈が通じないんだった。即座に手を放す。

そして、ニチャッと制裁神が笑う。


「あらあらあら、暴力で解決しようとは。これは、補填ですわね。ペナルティとして商品補填が必要ですわね・・・」


ちくしょう。生産元のメーカーを叩いて儲けようとするタイプだ。

この客先は、ヤバイ。

出来る限り関わらないように心がけようか。


小雨様に中に入ってもらって、マジよかった。

後は、小雨様の会社に任そう。出来る限り商品相談に乗るから、直接商談は避けるとしよう。

転生前の生き延び方の一つだ。 面倒な客先は、避ける。 日本の卸の文化万歳だ。

今日の応援終わったら、商品だけ卸して後は小雨様の会社に任せましょう。


だが、契約はなされたのだ。やる事は、やりましょうか。


――


「どうぞ~、異界の飲み物です~。あの頃の思い出が蘇りますよ~」


試飲用のお茶をせっせと、屋台通りを通る、神様見たいな魑魅魍魎達に試飲を出していく。


自社商品の紹介。

メーカーの仕事である。店に展開した商品の紹介、生産元の当社の自分がやるのだ。

転生前は、商品を作った事無いし使ったことが無いけど、商品説明をする。

大手になればなるほど、この矛盾と思われる現象が起き、営業がてきとうと言われるゆえんの一つの理由である。


家では家事をしないのに、家事関連の会社で働いている人間の多い事。

そんな人たちが、営業の腕を磨きながら日本の水場を回しているのである。

前向きに言葉を受け取って欲しい。不思議とやっていれば、使ったことが無い商品を売ることができると言う事だ。営業力というやつである。


だが、今出しているのは地産地消の自信を持った商品だ。

生産も販売も自分でやっている。


さぁ! お客様、ご試食下さい。


試食を食べる時の疑いの一口目、そうして見開く目 「あっ! おいしい!」 と、お客様の驚きの感情の反応は、全ての職業、仕事のやりがいに通じる物だと思う。


小雨様、制裁神様、韋駄天様が屋台少し奥の広場のスペースでお茶をしながらこちらを見ている。

啓示神が店頭、自分が客寄せだ。


今日は、商品を知ってもらう事が仕事だ。

商品に自信がある。すぐに買えとは言わないぞ、自分で判断してほしい。

事は単純だ。商品がおいしいかどうか。そして値段のバランスだ。

それが、購入に繋がる。


さぁ、飲んで、食べてくれ。

いらっしゃいませ!


そして、集まる神々。

腰から下が人の足、上半身が魚の妖怪・・・? 目に生気が無いく四つん這いで突撃してくる、化け物・・・? ピカアアアアと、電気系のネズミか。正式名称を呼ぶと消されてしまうな。

ここは、呼び方は全て神様で統一しましょうか。


神様どうぞどうぞ、買ってください、なんてケチな事はいいません!

ささっ、飲んでください、さぁ、ご試食下さい! お代なんていりませんよ。 今日だけですよ。

どうぞどうぞ、異界初の嗜好品です。 食べて頂くだけですから、食べるだけならお代はいりませんよ。 このお店を素通りしたら損ですよ。 そういう試食のイベントですから! 購入は、明日からで構いません。 もちろん今から購入でも構いませんが! 異界の嗜好品、ものの試しに飲んでみませんか?

そこの神様! 忘れた大事な思い出は、ございませんか! 心の奥にしまった思い出や、時の風化によって、思い出せない思いなど、呼び起こせますよ。 後、性格診断も出来ます。 ささ、どうぞどうぞ。


よし、腕は錆びていない。

屋台通りを通る、神様達は足を止めてくれる。


どうだ、見たか。

そこに座っている経営者の神々。自分は、エリート大手達に負けません。


――


お茶を飲んだ神々は、座り込み、嗚咽をもらして涙を流す。

コーヒーを飲んだ神々は、倒れこみ絶叫する。

性格饅頭を食べた虎から 「俺、虎なんだけど、ペガサスってどういう事?」 とクレームが入る。

いや、どういう事だよ。自分が聞きたいわ。


店の周りは、絶叫に包まれる。


「「「あああああああああ!」」」 と、好反応だ。


良い手ごたえだ。


『ショウタ~、仕事が出来る男は、違うわね~』


と、脳内通信が入るが、明日からの販売はお前がやるんだぞ。

分かっていますか。


一通り叫び終わった神々から商品を購入していく。

お茶とコーヒーが飛ぶように売れていく。饅頭の売れ行きは良くない。


啓示神は、言葉少なく無愛想だが商品を捌くぐらいは出来るようだ。

自分が、客だったらクレームを入れるが。

まぁ、上位神と言う事でクレームも入らないだろうが。


ここからだ。まだまだ弊社の商品を沢山の人に知ってもらいましょう。


『疲れた、帰りたい。これ売ってなんか意味あるの?』


また、自分の思考が一瞬止まった。

啓示神、ほんとに自分を人間に引き戻してくれるよな。

神様と労働倫理の違いってのは、どうしても出て来るか。


――


通りから、気配が落ち着いた。

今日は、こんな所だろうか。


打ち上げをしましょうよ。

ここから小雨様、制裁神様と飲み会を取り付け、接待に持ち込みたい所だ。

折角、仕事の関係を持てたのだ。お話をしましょうよ。


仕事の終わりの様子を見たのか、小雨様、制裁神様、韋駄天様がこちらに来た。


「「「お疲れ様、お見事にございました」」」


労いの言葉に、照れてしまう。


「いえいえ、こちらこそありがとうございます。この後、弊社で開店祝いといきませんか?」


制裁神様が、少し悲しそうに


「ありがとう。できたら行きたいわね。それが、前回は世界の危機で特別に行けたのよ。理の権能がここの移動を許さないの」


「韋駄天の様な、ごく平凡な普通の神では無いのだ。 位相世界の管理者、この世界の終わりまで、ここに居る事。それが制裁神の役目」


「もしもし、付喪神? 今わっちの事、ディスった? 権能を守るための牢獄って事でありんす」


『って事。私もいけないし。ショウタ、私の家にきなさいよ』


そうか、でも飲み会に行きたいな。

何万年ぶりにこういう仕事をして、凄い気分がいい。体が活力で漲っている。

もう商売関係なのだ。好意的で飲み会に行きたいと願う神に、便宜を図ろうと思う。


「小雨様、この世界のくびきを緩めるには、かなり力を必要とします。今日の売上の他に出せる対価はありますか?」


小雨様が、バサッと風呂敷陣羽織を翻し、ニィイイイイイッツと笑う。


あ、これが狙いだったのですね。


突如、小雨様と韋駄天様の気配が変る。

世界を包む強欲と思える風呂敷、疾風迅雷飛脚の神がそこには居た。


この場、異常なまでに運命値が上がってます。

これは、凄い。さすが世界の流通を支配する神々だ。


思わず全能の後光を出してしまう。

ですがここで怯む様な方々では、なさそうですね。


「「見事だ、ショウタ殿。そして見事な商品だ。人でなければ、この商品は作れはしないだろう。人が真摯に作ったからこそ神々の心を打つのだ。さて、ショウタ殿。見積もりのできが悪すぎるぞ、どんぶり勘定にも程がある」」


おおっ、神による叱咤。

どういう事でしょうか。いや、確かに見積もりの出来は悪かったですが。

ですが、結果的に大成功です。

見積もりをつつかれるような事は、自分の不遜を買いますが?


「違う違う、商売に対する評価が低いといっておるのだ! ショウタ殿、お主がこの世界に通用することが分かったであろう。 さて、この位相世界のくびきを緩めて一番得をするのは、誰だ? これ以上の商品を求め、お主の旅館に挑もうとする神と人は、どのぐらい増えると思う?」


「韋駄天グループは、間違いなく挑戦するでありんすね。そもそも世界一の有頂天アイドルを抱えて、宣伝効果が皆無と考えるのは、素人すぎるでありんすよ。今一度、旅館の到達に世界の力をかけると約束しましょうかね。きっと位相世界の神々も、人々や神を到達させて、ショウタ殿の商品が来るのを心待ちにしているでありんす」


運命値の上昇が止まらない。全能の力を凌駕している。

この先、どんな未来でも確定するだろう。


「「ショウタ殿、対価は払わない。ショウタ殿が、くびきを緩めるために対価を払うのだ。もちろん、全力で協力させてもらう。 つまりあれだ、この世界の資産の流出を止めたいのだ」」


自分は、この意味を理解しない、素人では無い。


「ハハハッハハハ! 言葉をお返し致しますよ。あれ、この言葉も突っ込みで計算されてますか? 話を続けますか。 神様達。見積もりが低すぎませんか、位相世界の微々たる売り上げが対価とか最高に笑えます。制裁神様、啓示神・・様。 面白い地上世界ですね、こういう世界が長続きするんでしょうか」


自分の運命エントロピーを超えている。本来存在しない運命が交わることによるストーリー。

全能の力がさらに強くなるのが分る。


「いいでしょう! 協力いたしましょう! 願わくば世界に共栄あらんことを! さて、小雨様、韋駄天様、やりましょうか。この世界の理の変更を」


皆でともに手を握り、願って欲しい。

位相世界と地上世界の理想のルールを。


――


「小雨様、韋駄天様、出力が低すぎます。もしもし? さっきの勢いは、どこいきましたか? ほら、制裁神様と啓示神様が、超期待の目で見てますよ。あ、あれ破壊神様じゃないですか? 超美人さんと一緒にいますね。もしもし? だから出力が低いですって、自分に全部やらす気ですか? 補填頂きますよ。 もしもし?」


「「あああああああああ! 無理ぃいいいい!!!」」


無理と言う言葉はですね、無理と言うから無理なんです。


「「制裁神、あ、破壊神も頼む・・・、来てくれ・・・」」


仕方が無ないので、神々全員で手を握る。


そして位相世界は、光に包まれた。


――


気づくと、地上のダンジョンゲート前に立っていた。

隣には、小雨様、制裁神様、韋駄天様、啓示神が居た。


全員が、自分に礼をしてくる。


「ありがとうございます。そして、これが自由ですか、自由とはなんでしょうか。位相のくびきは、緩みました。これから地上に来る自由をはき違えた輩を諫めるため、きっとこれから仕事が増えるのでしょうね。 あ、悲観はしてませんよ。すごく感謝をしております。さて、異界の飲み屋、もとい旅館。今日は、楽しみましょうか。お世話になりますね」


「さて、行くか。ショウタ殿、くびきが緩み、これから神の干渉が激しくなると思うか? 我は、そうならないと思う。 これからは、我の手のひらで踊ることになるだろう。何をするにも必要になる、資本の大本をなめるなよ」


おーっと、これは邪悪です。

世界が滅ぶまで、変らない絶対のルール。


『ショウタ、位相世界に帰りましょ? あなたの住む場所はここでは無いわよ。定命を相手にするなんて無理でおままごとよ』


おっと、ささるな。


「共栄でありんすか。良い言葉でありんすね。この世界、ここからどうなるでしょうかね」


今なら少し理解できる。

企業理念という物を。


ようこそ、取引先の神々の皆様。

全能の力を持って、おもてなしをさせて頂きます。


これからも宜しくお願い致します。



面白いと思ったら

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ