64 小雨様のお仕事
すみません。
推敲の時間が多く取れていません。
小雨
朝も早く、我の執務室がノックされる。
「小雨様ぁー!報告書をお持ち致しましたー!」
鑑定物流課の舞が部屋に入ってきた。
もはや、複製体と舞本人の見分けがつかぬ。
複製体のなりすましの存在は、とっても危険だと思うのだ。
なぜなら。
「ご苦労様、ありがとう」
書類を受け取る瞬間に、我の手をスッと握ってくる。
あ、これ複製体の方だな。随分とアグレッシブだ。
分ってよかった。
よかったのか? 思わぬ行動にドキッとしてしまうな。
だが、こんな歳いかぬ、小娘の非礼に強く言えない様な企業神の小雨様だと思うてか?
「うむ、舞。そういうのは、良くない。 セクハラか? いや? 立場的優位を利用してないな? セクハラじゃないのか? これは、なんだ? 部下と上司のオフィスラブ? そんなものは存在せんぞ?? 多分な」
シッシッと舞を部屋から追い出す。
ほら、きっぱりと言ってやったぞ。
そう、我は小雨の命。 アイテムボックスの神である。
――
あのショウタ殿とアンテナショップへの商品の卸の商談後にメンテナンス神、もとい制裁神から連絡が来きた。
『小雨さん、感謝ですわ! あの旅館の商品ですよね? よくぞ取り付けてくれました! すぐに鳥取に来てください。神社にきたら迎えにいきますから』
と、啓示神と制裁神の力を使った連絡が来た。
その啓示の私的な使用って、たしかダメだよな。
自制ってどこいったんだ。
制裁神が、『もう我慢しない!』 って言ってたのは、分るが。こういう事じゃないと思うが。
まぁ、よい取引か。
そういう事にしようか。
上位神は権能の力が強力かつ自動で働くため、位相世界で暮らしている。
この世の理の担当だ。
位相世界の暮らしが優雅とは言え、地上の変化を眺める以外は、同じ毎日を繰り返す。
意外と不労所得者も大変と言う事だ。
変化を求めるため、地上と違法コンタクトをする啓示神、魂3柱管理者の様な異世界転生をさせて、楽しむ様な者も出て来るだろう。
それを、諫めるのが制裁神の仕事なのだが?
もしもし? 我の声は聞こえているか? メンテンナンスどこだ?
上位神達も旅館での非日常の経験に、衝撃が走ったのだろうな。
旅館のおもてなしで、制裁神、破壊神の懐かしい記憶に何がみえたのか分からない。
異界の商品を受け入れるだけの衝撃があったのだろう。
まぁ、よい。恩を売るとするか。
そして、次回の終末の破壊神登場は、穏便に話し合いで解決できそうだ。
―――
そうなのだ。
本日、位相世界案内の約束をショウタ殿と取り付けた。
旅館のアンテナショップ開店か。 面白そうではある。
これからショウタ殿が得るであろう、位相世界の資金を位相世界で使ってもらいたいのだが。
そうでないと、位相世界の資金が目減りする一方だ。フェアな交易では無い。
嗜好品交易だから、仕方ない所はあるが。
何かショウタ殿の欲しそうな対価はあるだろうか。聞いてみないといけない。
ショウタ殿が無茶言ったら、位相世界で叩きのめそう。
位相世界をチップにし、戦えば何とかなる、と思う。
チリリリンと我の執務室に連絡が来る。
取り次ぎは、魔族アリエノールだろう。
「小雨様、ショウタ殿が来られました。案内致しますね。そして、今日は、凄い機嫌良さそうです。そして、超平凡なオーラです」
「あい、分かった。今日のショウタ殿は、メーカー側だと思って扱って非礼は働くなよ。アリエノール、頼むぞ」
魔族は、エリート主義な所があるからな。
下請けには、厳しい。 まぁ、お国柄というやつだろう。
トントントン、「どうぞ~」
片膝を付きながらアリエノールが扉を開けた。
そしてショウタ殿が笑顔で、片膝をついている。
形式礼だ。
「はい、顔を上げよ。 ショウタ殿、今日はありがとう。 アンテナショップの設立の商談上手くいくといいな。 上手くいくように仲介させてもらうよ」
ショウタ殿の後ろに後光が見える。おいおい、いきなり全能の力使うのか?
人としてやるんじゃなかったのか。
「あああああああ! すいません。申し訳ございません! 言葉に嬉しすぎてスイッチが入ってしまいました。 今日は、人として! よろしくお願いします! お世話になります~。 あ、これうちの手土産です。銀河霊薬・・・・、じゃなくて! 純オリハルコン・・・、じゃなくて・・・、弊社の新商品、ラーメンセットです」
我の顔をちらちらと反応見ながら、何かを出して来る。
『お湯を入れると100倍に膨らむ、ラーメンセット』
あ~、誇張表示じゃないんだろうな~。本当に膨らむんだろうな~。
誇張表示であってほしいな~。
これは、気づかいをありがとう。
「小雨様、すみません。やっぱりやばいですね。胃を掴むすべを分かっています。人間の贈り物に期待をしてしまう」
アリエノール、前の世界は、官僚に贈り物だらけだったのか? 不正は、歪みを生み出すぞ。
そして基準は、胃袋なのか? だが、気持ちは分からんでもない。
できたら、我も旅館で食事を取りたいし。
さて、その前に事前商談だ。
トントントンと、ショウタ殿の担当の舞が部屋に入ってくる。
「失礼しますー! ショウタさんお世話になってますー。 位相世界に商品を卸すそうですねー。 あ、確認ですが、弊社が間に入っていいんですか? この件、ショウタさんが直卸でも良さそうな気がしますが」
舞が聞いているのは、直接取引か仲介を通して商品を卸すか。と言う事だ。
この国では、問屋を通す事が多い。 販売経路のアウトソーシング(外部委託だ)
簡単に言うと、直接取引より儲けは減るが、仲卸を通した方が色々と楽だ。
商品の取り扱いの責任も製作者と仲買で軽減できる。
「ええ、おかげざまで旅館をご利用する方が増えまして、人手が少々不足している状況です。仲介して頂けたらと思っております」
「えー? アヤメさん以外に、お客様ですか? 人間やめてますよねー? あ、そのお客様人間じゃない感じですね? 武器補正無しで66F到達とか無理ですよー?」
あ、ごめん、舞そこまでだ。
「おっと! ショウタ殿、商品サンプルを舞に渡して欲しい。 位相世界に商談いってくるから、後の処理をお願いする。舞、アリエノールよいな?」
「「承知致しました~」」
「ショウタ殿、そしたら転移で島根まで頼む。地図で言うとこの辺だな」
日本地図を懐から出し、場所を指す。
「承知しました」
と、シュポンと転移でゴン太の藁神社へ着く。
そこには、祭りの様な服装の韋駄天が待ち構えて居た。
「小雨っち、お疲れ様でありんす~。そして、世界異変の首謀者殿こんにちは。 わっちが、加速と配達の由緒ある神の韋駄天様です。以前、位相世界に迷い込んだ時、顔は見てるとは思うでありんすが」
ズィッと前に出て来て、ショウタ殿の前に立ち圧力をかけてきた。
言いたいことはあると思うが、「超加速の魔導書」 の卸元だぞ。
独占商品の関係だ。もう少し友好的に出来ないか。
「韋駄天、もう少し友好的にしないのか? まぁ、思う所はあると思うが、気持ちと商売をある程度切り離さないと務まらないだろ。 ショウタ殿は、上級魔道書の独占商品を扱っている所じゃないか」
ショウタ殿が顎に手を当て、そして口を開く。
「あ、と言う事は、小雨様から韋駄天様に商品が降りてるんですね。 立場で言うと・・・、2次下請け、二次卸・・・ですか。フッ・・・」
「小雨っち、今コイツ、鼻で笑ったでありんす。 凄い感じ悪いんですが?」
もう、商売関係者なんだから喧嘩するなよ。
好き嫌いで商売なんて出来ないぞ。
そして、神社の奥に進み、位相世界に飛ぶ。
3者で、手を繋ぎ星の海をかき分け位相世界に着いた。
出た先には、紫の着物の制裁神、頭にアンテナの啓示神が立っていた。
制裁神が、こちらに気づき駆けつけてくる。啓示神は、ピクリともしない。
これからアンテナショップは啓示神に店頭を任す事になるのだが。
コミュニケーションとか大丈夫なのか?
適材適所とは、とても思えんが。
まぁ、商品が良ければ客は来るか。 後、こやつらに何か非日常の労働をさせねば。
「はい~、小雨さんお疲れ様です~。 ショウタさんも先日はお世話になりましたね? なりました? マッチポンプの気がしますが、お世話になりました。 お茶と嗜好品が忘れられず、こっちでも出して欲しいと思いまして、この度はよろしくお願いしますね」
おお。制裁神。
上位神筆頭してるじゃないか。ちゃんと人間を見下さずにやれるんだな。
まぁ、旅館のラーメン関係で一時的に封印されていたし。力の差を感じてもらっただろう。
隣を見ると、ショウタ殿が頭を押さえている。
啓示神の電波啓示を直接受けているのだろうか。
この男にも弱点見たいなのは、あるのだな。
「小雨っち、そのお茶、コーヒー、甘未の嗜好品を見てもいいでありんすか。制裁神、破壊神がべた推しする理由が分かりません」
韋駄天が聞いてくるが。
そうだな、試飲、試食は必要だよな。
「ショウタ殿、試飲いいか?」
「いや~、小雨様が言うなら仕方ないですが。なんていうかですね・・・、その、下請けの方にはちょっと、あの~、わきまえて欲しいというか~。あのわかりますよね。あの~。 まぁ、大本営の小雨様が言うなら、仕方ありませんか、どうぞ」
と、渋々した様子で懐から湯気が上がっている、お茶、コーヒー、饅頭が乗っているお盆が出てきた。
「小雨っち、この男、凄い感じ悪く無いでありんすか?? やるか? おっ?」
うむ、感じ悪いな。
アリエノールに、仲卸と下請けに圧力は良くないと、ショウタ殿言ってなかったか。
自分が逆にその立場になると、弱みを知っている分強く出るタイプだな。
まぁ、クソな性格なのは、知っているが。
だが、利益に貪欲で契約は守るタイプだ。商売人としては、信用できる。
啓示神以外、韋駄天は、お茶。制裁神はコーヒー、啓示神は、ショウタ殿の裾を取った。
おお、啓示神。
その反応、やるな。そのままゴールしていいぞ。
ショウタ殿に位相世界で暮らしてもらって、ここに封印したい。
制裁神が、震えている。
「また、これを飲める事になるなんて・・・、い、いきますよ・・・、ゴクッ・・・」
うるさそうだ。
「あ、あああ、あ、なぜ、私を残していってしまったのでしょう・・・。なぜ! 方位神達! なぜ! ああああああああああ! 私一人でこの世界を見れるわけがないでしょう! 復活しなさいよ! あああああ! あっああ・・・・」
地面にうつ伏せに倒れこみ、泣き叫び出した。
韋駄天の方を見る。
「小雨っちと、一緒に商売してた時の思い出が、頭に浮かんだでありんす・・・。これは、凄いでありんすね」
韋駄天、そうか。
我もだ。
「小雨様においては、全てサンプルで大量に会社の方に送りますから。私財を肥やして頂ければと思います」
ショウタ殿、そういうの、今ダメだってば。
会社のトップなら、模範を求められている所があるんだってば。
アリエノールに強く言わねば。絶対、理由を付けて受け取るタイプだろ。
そのまま、位相世界の中心、お祭りの屋台場に着く。
その一角に、屋台風のお店がアンテナショップだ。
その説明をし、ショウタ殿が店に商品を並べ始める
今回の商売のシステム的には、我が社でショウタ殿から買い取り、後は我が社のアンテナショップの棚に補充しに行く。
物流と商流を我が社で担うのだ。ショウタ殿は、旅館に居て商品を出すだけで良い。
そして、ショウタ殿が屋台に並べた商品を、啓示神がポイポイと投げていく。
マジにいかれている。 何してるんだ?
「私の気持ちを踏みにじるなら、こんな商品ポイポイするわね」
啓示神がいきなり喋ったのが、これだ。まったく、意味が伝わらない。
何か、啓示でショウタ殿とやりとりをしてたのだろうが。
コミュニ―ケーションと言葉が足りなすぎる。
ショウタ殿が一瞬固まっている。
すぐにショウタ殿が、啓示神の腕を捩じ上げ、暴挙を止めているが。
いつもの、ショウタ殿の脅迫的なキレが無い。
「自分の思考を一瞬でも止めるとは、さすが啓示神様」
「ああああああ! 殴られる! 助けてぇえええ! 小雨神! ショウタが最初に暴力をふるう瞬間を、みたわね! はい! ショウタが悪い!」
パッとショウタ殿が手を放す。
ニチャッと勝ち誇った顔を啓示神がしたのが見えた。
「あらあら、いきなり店主の啓示神の手を捩じ上げるとは・・・、これは商品に色を付けて頂かないと、補填請求やむなしですね・・・」
もう制裁神、半狂乱から立ち直ったのか。 気分の浮き沈みが激しいな。
今の世界になってから、ずっと鬱っぽかったしな。
おいおいおい、製造元のメーカーをあんまりいじめるなよ。
何かあったときの協賛が渋くなるぞ・・・。
「まぁ、販売応援の程、ショウタ殿頼む。 商売人なら分るよな。少し試飲試食のサポートを頼みたいのだ、啓示神がこのように、客商売に不慣れでな」
「不慣れと言うレベルでしょうかね。これは、新人教育よりヤバイ。引きこもりの社会復帰の手助けですか、小雨様、聞いてませ・・・、聞いてましたね。 自分の見積もりが甘かった。契約か・・・ちくしょう」
最後にぼそっと何かを言ったがスルーだ。
契約は、すでに交わされたのだ。
販売応援の程、宜しく頼む。




