51 ショウタ満員御礼
ショウタ
ラウンジで映し出されているアヤメ様の説得風景。
小雨様の顎をアッパーカットで打ち抜いて、詠唱を中断させるアヤメ様が大きく映し出されている。
アヤメ様、やりますね。さすが武闘派です。
転生前に上司に向かってアッパーカットを打って辞めていった同僚を思い出す。
同僚がお仕事を一通り覚えて、上司に 「お前は人に言うけど、どうなんだ? 出来てないよな? なんでお前の給料は高いんだ?」 と言う同僚。
始まりますよ、仁義なき上下バトルの下剋上が。
このアヤメ様の暴行の結末に、ラウンジの全員で浮かび上がる画面を注視している。
「グアッ、ポム。蛮族達を前に怯まず、あの戦略を考え実行する度胸あるか?」
ポムさんに足関節を極められている、伊織さんがうつ伏せで画面を見ている。
「無理ですね。そもそも、アヤメさんが索敵された瞬間に攻撃されてませんでしたか。蛮族でも一瞬様子見すると思いますよ」
ポムさん? お客様に何をしてますか?
「ああ、ショウタさん。 これは、マッサージだ。 見たところ、どのホテルでもあるマッサージのサービスが無いみたいだが、これは一体どういうことですか? マッサージの試作でポムにアドバイスをしている所だ。ここに10万置いておく、マッサージの様子を見守って欲しい」
なるほど。 マッサージ機械ではまだまだ追いつかない所がありますからね。
伊織様は、お金の使い方が上手なようですね。
そして画面では、戦闘が終わった様だ。
ぞろぞろと、アヤメさんの後ろを着いて行く様子が映されている。
しかし、勇者ご一行様。
全員行動がバラバラですね。これでは、アヤメさんに勝てるわけが無い。
自分は、画面を見つつ 『太陽石のゴーレム』 をラウンジから少し離れた吹き抜けの広間で作成している。
古代文明の太陽信仰の象徴、太陽神の石が原料だ。
陽エネルギーの塊みたいなもので、プラスエネルギーがほぼ使い放題の力だ。
そして、光源が無いと使えなくなる。
「アヤメ様の説得が成功した様ですね。 お客様になって頂ければいいのですが」
そして、猫さんが隣に寄ってくる。
「ご主人、何を作っているのかにゃ。 守護ゴーレムなんて旅館に必要ないはずにゃ? と言うのもおかしい話にゃ。 直接な表現でつたえるにゃ。 それをご一行に突撃させる気にゃね。 思考が脳が破壊神にゃ。狂ってるにゃ。試練を課す神と一緒にゃ。 やめるのにゃ、人でありたいなら」
ああ! いつの間に!
試練中毒者の神々と一緒じゃないか!
ああ、やめれない!
この戦闘で、どんな人と神のスペクタルがみられるのかと思ってしまった。
でもね、ネコさんいいですか。
世界滅亡を前にしても、人は金円盤(遊技場)やカジノスロットで一生を過ごす人が多いんですよ。
粗方やり終えるころには、とっくに隕石直撃、魔王侵攻で世界が滅びてます。
ならば、先に滅ぼしてから遊んでも一緒じゃないですかね?
―
そんなやりとりをしていると、フロントコールが鳴る。
『ショウタ、私、まだ部屋から出られないの? 早く、部屋に迎えにきて大浴場連れて行って。あとアヤメちゃんほんとに最高だったわね。神としてやってて、今まででこんな、素敵なイベントなかったわよ。ありがとうね~。それと、ここから帰らないわよ。世界の権能より大切なことがあると思わない? そう、この人との繋がり、なによりも大切だと思うの。後、お金稼ぎたい。私にできる仕事無いの?無いの? 早く、来てよ』
脳に直接伝えてくる、啓示の権能って最強かよ。
イライラ最強だ。 マジにここに呼んだの誰だよ。
「ネコさん、すみません。お部屋にお戻りになった、パーカーの神様のお相手お願いしてもいいでしょうか。 要注意人物です。 何かしたら、出禁にします」
「承知しましたにゃ。でもいいのかにゃ・・・? 高位の神様にゃ。有るべき所に戻さなくていいのかにゃ」
すみません。うかつに代金を受け取ってしまいました。
契約はなされたのです。
こうなってしまったら、仕方のない事なんです。
あの類は、拒絶できないのを盾に色々やってきます。
自分は、詳しいですから。転生前、何度も自宅でこのタイプに自傷されていますから。
マジに依存と言う心の闇、メンヘルモンスターの傾向があります。
「分かったにゃ、行くにゃ」
ほんとありがとうございます。
シュポンとネコさんが飛んで行った。
ーー
さて! お仕事しましょう!
ラウンジのソファーにうつ伏せに馬乗りされて、顔を引き上げられながら体を反らされている伊織さんに話しかける。
「伊織様。お食事は、アヤメ様が来てからで宜しいでしょうか。先に大浴場に行かれてみては? いいものですよ~。 大理石でマーライオンみたいなクリーチャーがコポコポしてます。お湯に自信があります。試してみませんか? さて、ポムさん。伊織さんのご案内お願いしますね」
パン! と伊織さんがポムさんのマッサージの拘束を筋力で外す。
「ショウタさん、お気遣いありがとうございます!! あぁ、そうだ! 食事に、追加で色々つけることはできるのでしょうか? この旅館の食事のいい所を見たい。おすすめをこれから来る全員に、惜しみなく出してもらいたいのですが。 できますか? お金なら100万で出来る範囲でいいです、口コミで絶対この旅館広がりますよ。こう見えても物凄い発信力があるんです」
伊織さんがマッサージを振りほどき、ソファーに足を組んで座りなおしている。
札束を取り出し、扇ぎ始めた。まさに、成金の振る舞いだ。
お若いのに、遊び慣れていますね。
ふむ、伊織さん。貴方は上客候補ですかね?
さて、何を追加して皆さんに喜んでもらいましょうか。
氷の彫像を宴会場の中央に置くとして、特産としてのバズり間違いない物と言えば、なんでしょうか。
「あ、あぁ・・・、伊織さん。そう言う強さはずるくないですか。 お金、何と言う強さですか。 伊織さん、私を追い詰めるのは楽しいですか? どうして・・・」
「さぁ、ポム、来るんだ。人は、貨幣制度の奴隷で最強の力だ。 あ、ショウタさんここに200万置いておきますね。本日の追加料金、よろしくお願いします」
ニチャッと笑う、伊織さん。
あれ? 伊織さん、かなりモラルゲージがカオスに近いですね。
邪悪です。邪悪さを感じ取れます。
でも、お金に善悪はありませんからね。基本、お金は善です。
貨幣制度で飛躍的に人間社会が成長を遂げましたからね。
しかし、食事に期待をされてしまうと気合が入りますね。
見せてあげましょう。 究極のラーメンを!!
食事の時に追加で伊織さんからと言って、皆様に出しましょう。
そして、ポムさんは伊織さんの手を引き、旅館の案内へ付いて行った。
伊織さんは、満足そうだ。
そして、ポムさんは渋々と言った感じですか、これは明日の指摘事項ですね。
接客の態度が悪い旅館は、評判にかかわりますから。
ーー
さて、完成した太陽石のゴーレムを外の水車の隣に立たせて置きましょう。
旅館のオブジェクトに彫像が欲しかった所です。 可愛い太古の神の形です。
いざと言う時、アトラクションとして突撃できます。
1京6億度の陽電子レーザーが発射でき、熱によって空間をブラックホール状態の重力地場を形成し、超熱荷電による、分子と電子の超振動で全てを塵に分解。 空間の超重力により時空間移動も出来ません。
さぁ、そろそろ来ます!
風情ある可愛いゴーレムとともに、お客様を入り口でお出迎えしましょう!
話し声が聞こえてくる、ご一行の到達だろう。
「小雨さん、もう足が限界です。ポーションだして頂けないでしょうか? 安物はダメですわよ。高レベルのポーションがいいですね。後、食べ物も出して欲しいわね。ごめん、おにぎりもっと作ってくればよかったわね」
「小雨様、休憩にしませんか。 アイテムボックスを少し解放して頂いて、中華といきませんか。 油分こそ、活力の源です。 小雨様のアイテムボックスの時の経過を防ぐ効果、最高です。国へ持ち帰りたいものだ」
「あ、小雨殿。旅館ついたら、マユミと二人で少し外しますので。宜しく頼み申します」
「アヤメ、舞。なぜ上に立つ神は暴力的なのかわるだろう。 理屈で縛れるのなら、いくらでも縛る。でもそうじゃないな。そうじゃない。理屈が通じない輩の多い事。 分ってくれるか?」
「「超分かりますー」」
と、聞き耳をしていると、こんな様な会話が聞こえてきた。
全てのまとめ方は、恐怖と暴力がお勧めです。
自分は、それで次元2つまとめて見せましたよ。
「あれ何? 俺っちが恐怖してるわけ。 太陽神の像が見えるんだけど? あれに全員消し炭にされる未来が何個かあるわけ。どうなってるわけ?」
勇者ご一行が、ザクザクザクと進軍してきて、旅館の手前で止まった。
ご一行が、自分と太陽ゴーレムを交互に見ている。
アヤメさんが、スタスタと数歩前に出てくる。
「しょ、ショウタさん~。お待たせ致しました。 お客様候補ですぅ~。 あー、その旅館にそぐわないエキゾチックな彫像どうしました~? 前来た時なかったですよね~。あの、罪を見透かされていると言うか、業を裁かれるというか~、その爛々と光る大きな目に畏怖と戦慄を覚えます~!」
畏怖と戦慄ですか??
目が狐目で笑っている可愛い彫像のハズですが・・・・。
隣を見ると、光を出しながら目を見開いている。そして、目がスーッと閉じていった。
だめですよ、お客様候補は裁きの対象じゃないですよ。
たとえ、いくら業が大きすぎても。
「大丈夫そうですね。 さて、貴方達はお客様ですか?」
太陽石ゴーレムの目が再度輝く。
洞窟の天井に正義の太陽が燦々と輝き、焼け付くような光が降り注ぎ始めた。
是非の確認は、しないといけません。
自分と戦い、啓示神を取り戻す。と言う選択肢はいつもあります。
そうじゃないとフェアじゃない。
腹立たしい事ですが啓示神様はお客様ですから。
そう、一日だけな。
「「「やばい、やばすぎる」」」
「お判り頂けましたかぁ~! さぁ大人しく皆様、軍門に下りましょう~!」
ズサッ、ズサッとすり足でマユミさんが、前に出て来る。
「アヤメ。下がっていろ。この交渉は、小雨カンパニーの最後の仕事としてやらせてもらう。 ハハハ! 何、失敗しても死ぬときは、皆一緒だ。寂しくないな!」
ですね。
ここは、マユミさんが来ますか。
自分も気を引き締めないと。
彼女は、まさに炎虎ですから。
「ショウタさん、お世話になっております。この度、引継ぎで伺わせて頂きました。 小雨カンパニーから、寿退社となります。所謂ところ、結婚して退社する事になりました。 今後とも担当の舞を引き続きよろしくお願い致します」
マユミさんがスッと足を引き、スマートな礼をする。
おぉう、体が!
転生前の社畜の条件反射で、お辞儀につられてしまう。
どうもお世話になっております。
「あ~! そうでしたか、おめでとうございます! それで本日は、引継ぎのほかに用事があるご様子で、要件を聞きましょうか」
隣の太陽像の手が8本に増え、全ての手に宝珠が乗る。
回答次第で、消し炭の準備だ。
「・・・・。この人数で泊まった場合、キャパは、大丈夫なのでしょうか? それと、団体割。団体割はありますか? 団体でもサービスの質は、落ちることはないですよね? 我々も、直接交渉の前に一度、お客になり旅館を拝見といきたいのですが」
侍の甲冑を着た神が、マユミさんの横に付き手をからめて握る。
マユミさんの後ろには、龍に守られた虎のビジョンが浮き出てきた。
あっ、これ勝てないかもしれません。 援護が欲しい。弊社の方、誰か居るかな。
ネコさん~、は接客中。ポムさんも案内中。
啓示神は、多分ネコさんとここを見てるだろう。
そもそも団体来たこと無いから、プラン組んでない。
キャパはオーバー気味、そしてサービスの低下は免れない。
あ~。だめかもしれん。
「ショウタさんー。 お客様のお出迎えが一人ですかー? 旅館、回ってますかー。 想定してなかったとか、素人発言はやめてくださいねー。 支配人ですよねー。サービス業なら何とかするものですよねー?」
おい、鹿ぁああああああ!? 鹿の幻影が角で小突いてきやがる!?
「さて、ショウタ殿。この前のモーテルは、素晴らしかったな。今日は、ここを紹介したくて友人たちを連れてきた。 本題に入る前に1泊したいのだが。 この前の様にサービスに期待している。本日は宜しく頼むぞ」
はいはい、負けました、負けました。
仰せのままに、小雨様。
「承知致しました! お客様としてお迎え致します! ようこそ66F秘密の宿屋へ、勇者一行様を心よりお迎えさせて頂きます!」
ネコさん、ポムさん。強制転移でお出迎えの準備です!
個人客を切り上げて、こちらへ来てください! イマージェンシー!緊急です!
支配人権限でシュポンと転移で全員を呼ぶ。
「ポム、諦めろ。 意地を張ったってもう無意味だ。分かるだろ。ポムは売られたんだ。仕方が無い、仕方が無いんだ。きっとこれからも仕方が無いの連続だ。 なっ? 仕方が無いんだ。私にも、もちろんあるさ。そう、上にはアヤメが居る。どうしょうも無いことだし、私は一番になれない。努力の範囲でどうにもならない。仕方が無いんだ。ほらポム、素直になるんだ。もういいだろう?」
伊織さんがポムさんの手首を掴んで壁に押し付けている状態でついてきた。
「にゃんちゃん、かわいいわよね~」
ネコさんを抱っこした状態で、啓示神もついてきた。
アニマルセラピーが上手く行きましたね。
啓示神をガン見している、着物美人と金髪ロン毛お兄さんの表情が般若となった。
激しい殺意が渦を巻く。
伊織さんとポムさんを見た、アヤメさんと舞さんが刃物と銃を構えた。
そして嫉妬が、未来を焼く。
自分の全能の力が語りかけてくる。
全ての総力をもって旅館運営に努めなければ、この職場の未来は無いようだ。
こんな世の中なのに、なぜ小説を読むのか。