24 続続小雨様
試練のごっついミスリルゴーレムの登場である。
これ、8周期金属のミスリルじゃないか?? いや、ミスリルだろ??
いや、勝てないって? 魔法耐性の高いミスリルのゴーレム。
これだけのミスリル何十億すると思ってるんだ。
あの転生者の試練だから、絶対アヤメの次元切断効かないだろう?
アヤメが、両腕を交差し、膝を溜め込み、連続で紫剣の剣戟を飛ばす。一瞬にして、7連撃だ。
ゴリィィィィン、と耳をつんざく音が反響しミスリルの表皮で弾かれる。
だろうなぁ。この試練の製作者。いい性格してる。
どっちも転生者が作ったのだろう。
ミスリスゴーレムは、3人の前に立ち口上を始める。
「このアトラクションは、お客様の保証のため、動画で撮影録画シテオリマス。なお、トラブルに関して、責任をオイカネマス。」
えぇ・・・!? もっと試練なら、適した台詞があるんじゃないのか・・・。
動画の伊織が、両手を交差し構える。
「伊織、ポムちゃん。この試練、どうみても、強そうですねぇ~! でも、約束してください。最後まで、諦めないと。私も諦めません。全てのアイテムを駆使し、体の動く限り戦いましょう~! ポムさん、まだ日が浅いけど信じて欲しいですぅ~。私達は! 最後まで! クレバーにあがき、勝ち取ると! 戦い抜き、最後まで足を止めないと!」
フゥフゥ、ハァハァと、興奮によるアヤメの息遣いが、動画ボイスに聞こえる。
「伊織! 突貫です!いつもと変わりません! 私も突貫します。全てを出し切って! ポムちゃん! 伊織の後ろで、妨害と、回復をお願いします! 長期戦になった時、あなたが旗艦ですよぉ! 臆病なぐらいで丁度いい! 前衛は、まかして下さい! 私たちは、もっとも有頂天なダンジョンアイドル! 頂点に輝く才能! 『あやぽんず』ですから!」
「「承知ぃ」致しました。」
加速!剛力!とアヤメが一節を唱える。
鉄壁!剛力!と伊織が唱える。
ポムは、詠唱の構えだ。
こうなったか。
【試練の幕は、切って落とされた。己が命運を問うがいい!!!】
演劇の神の口上だ。 我の好きな台詞の一つである。
神代の体なのだが、我の涙が頬を伝っている。
彼女らが、なぜ神々から愛されるのか。その理由が心で分かる。
定命の魂が、輝いているのだ。
初手に、ミスリルゴーレムが手を前に出し、位相空間から流星を呼び込み範囲攻撃を行っている。
辺りが隕石で絨毯爆撃され、衝撃波が天を突いている。
配信画面が、衝撃波でガタガタと揺れる。
なんだ、コイツ。強さバグってるだろう。製作者、どうなってんだ??
一つでも直撃したら、彼女らは、動けないな。
マユミ、舞と二人をチラリと見る。口にピザを咥えたまま、見入っている。
そうだろう。そうだろう。ピザを食べている場合では無いな。
爆円の中から、伊織が飛び出し、叫び声を上げ突貫した。
肩の武装がひしゃげている。少々食らったか。
伊織の両手持ちの重槍が敵を突く。ギィンと音がなるが、ダメージを与えたとは思えない。
伊織は、そのまま炎の魔石を左手でアイテムボックスから取り出し、使用する。「炎よ」
ゴーレムが、猛火で包まれる。
赤く揺らめくアヤメの画面は、ゴーレムの後ろに回っている。
さぁ!その紫剣の威力、見せてくれ!通じるのか!
ガギギギギギイギギッ、ガイギギギッギギッと、異様な音が聞こえる。加速の魔導書を使った、アヤメの連撃の音だろう。
攻撃が早すぎて、視認できない。 だが、火花と同時にミスリルをえぐり取っている。
ゴーレムは、アヤメの方を振り向き、青い腕を振りぬく。アヤメ視点では、腕をバク転で抜ける映像が流れている。
確かに石ゴーレムより速く動くが、アヤメを捉えるのは難しいだろう。
「加速」 伊織が、加速を載せて、重槍で突っ込む。
ズズン!とゴーレムの体位が崩れ、後ろに倒れる。
刹那、画面映るのが、ゴーレムの胴体、足、手関節を切りつけまくる。
アヤメだ。まさに流星群の様な連撃。 金属の悲鳴の様な音が連続して響く。
ミスリルをえぐり取っている。
この紫剣、ミスリルに余裕で打ち勝つとか、凄すぎんか?
ゴーレムが体位を戻そうと立とうとする。伊織が崩しにかかり、ポムの樹木魔法がゴーレムを縛る。数秒にも満たない時間だが、アヤメの激しい加虐連撃が、ゴーレムを襲う。
決まるか・・? と、ピザ食べていた二人を見るが、もう空の四角い箱しかない。
いつ食べたんだ。
「ハハハ! 決まるだろコレ!!」
「おおおおおおー! 決めてくださいよー!!!!」
おい、反撃フラグ立てんな。 と言うか、仲良いな君たち。
案の定、フラグは立った。
ガシャーンとゴーレムのミスリル装甲が切り離され、中から、二回り小さくなったゴーレムが、飛び出す。
不用意に近づいていたアヤメに、ゴーレムの蹴りが突き刺さる。
アヤメの体が、くの字に折曲がり、そのまま壁面に叩きつけられ、激しく跳ね戻る。
叩きつけられた時の音が、グチャゴシャ!と、人が出していい音では、無い。
アヤメの主観画面には、地面と血が映り、ただ手が震えている。ポーションを取り出せる力も無いようだ。
伊織の画面にはアヤメが映り、えぐり取られた脇腹からおびただしい出血、頭から血が垂れ流されている。 ピクピクと動いているが、戦闘不能だ。アヤメは、意識だけは手放してない。
止めを刺しに、ゴーレムが高速で動く。
アヤメの窮地に我の心臓が止まりかける。
動画内に響く、「加速」 の声。
黒ポニテの黒インナースーツの肌着姿の伊織が重槍だけ持ちゴーレムに追いつき、弾き飛ばす。
伊織! お前もアイテムボックスに鎧一式装備を収納し、パージしたのか! 何たる機転!
画面が緑に光る。ポムが回復を始めたか。
おお! お互い信じ切っての行動が間に合ったな!
伊織が、ゴーレムを抑えようとするが、裸当然の伊織。一撃でも直撃を食らえば、即ミンチ肉だろう。
「雷電」 「氷結」、伊織は、即座にアイテムボックスから属性魔石を取り出し、攻撃エネルギーに変える。
そして、配信画面を覆うエネルギーの渦が消える。
ミスリルの魔法耐性により、ほぼダメージは入らないだろうが足止めにはいいだろう。
伊織のポーション枠を考えれば、もうアイテムも残り少ないはずだ。
伊織が重槍を、ゴーレムに投げ込む。即座にロングソードを取り出す。
ゴーレムが、槍を弾きながら突進して伊織に近接する。
右下の伊織画面に、伊織ほどの大きさのゴーレムが目の前に映し出される。
ミスリルが青く不気味に反射し、見ている物を絶望させるには十分な風貌だ。
ゴーレムの高速の攻撃の蹴り、殴りを躱す伊織だが、三発目を剣で受ける。伊織のロングソードが砕ける。 連続した殴りが、躱しきれず伊織の腕がちぎれ飛ぶ。あっけなく伊織の人体の一部が、グチャっと破壊される。
「下がって!!」 大きな声が聞こえ。
樹木による拘束が入るが、一瞬にして、樹木がちぎれ飛ぶ。
「火炎」 「雷電」、 「氷結」 3節ほど、画面内から聞こえ、画面には、属性攻撃の渦が映し出される。
アヤメの復帰だ。
ここから、立て直せるか?!
伊織は、部位欠損だ。戦力としても、この戦いでは厳しいだろう。
どうなるんだ!!?
「ポムちゃん、伊織の回復を優先して下さい!」と、大声が聞こえ。
同時に魔石の属性攻撃の渦が消える。
メイン画面には、ゴーレムが映っている。
アヤメは、二つの紫剣を交差させ、ゴーレムと対峙している。
ゴーレムが、拳をを繰り出し殴りかかる、即座に金属音と共に、ゴーレムの腕が跳ね上がる。
アヤメが胴に追撃を加える。ゴーレムが即座に蹴りを出す。ゴーレムの股関節を切りつける。
そのまま、胴に追撃。
まるで、剣の早抜きの試合を、見ているかのような動きだ。
「対人剣術の上級の技か。行動の起りを見て動いているな。ゴーレムの行動を逆手にとって居るんだ。パターンが素直だからな。ゴーレムの大きさと重さが無くなったから可能な事だ。」
マユミ、そういえば世界剣術優勝者だったな。
ゴーレムが、掴みかかる。アヤメがゴーレムの肩に先に手を置き、空中に跳ね上がる。ゴーレムの頭上をとった。
見ている誰もが思った。勝機だ。
「ちりぇああああああああ!!!!!」 アヤメの絶叫。
ギリリリリィンンン!! ゴーレムの頭上から、首、背、脇、関節、の順に急所に不意打ちが入ったのだ。
ゴーレムの、膝が崩れ落ちる。 すぐに、樹木の束縛が入る。
「ナイスですよぉおお~! 止めですぅ!」」
ゴーレムの首に2本の剣で刺し貫く。 ゴーレムが、手を上に挙げる行動を最後に。
動きが止まった。
こ、これは、勝ったのか! 勝ったのだな!!!
そう思ったのが瞬間だったか、数秒だろうか。
アヤメが残心を終え、剣を収める。
おしまいか。もう、もう喜んでいいよな。
ただ画面上には、上に浮かぶ黒い位相空間から、流星が降り落ちてくる様子が映る。
あああああああ!くそゴーレムが最後の技か!!
爆炎と衝撃波の音が、まき散らされ、グラグラと画面が揺れる。
アヤメのメイン画面が激しく動き、回避しているのがわかる。
伊織の画面に動きがない。 大丈夫か・・?
爆炎が去り、固唾を飲み、見守る。 頼む無事であってくれ。
爆風が収まり、伊織が倒れ回復を受けていた方を見る。 腕だけ素肌なインナーの伊織が映る。
ボロボロのポムが、焼け焦げ倒れている。ヤモちゃってるな。
いや、バーベキュー状態だ。これは・・・逝ったか・・・?
伊織が、ポムを抱きかかえる。
「くそッ! 最後の流星を! 無抵抗の私を! ポムがかばってくれたんだ。くそッ!ありったけのポーションをかけよう!」
ジャバジャバポーションをかけている。
動画には、焼け焦げた服の部分から、ポムの素肌の部分がちらちら映るっているが、コンプライアンス的に大丈夫だろうか。そんなことを考えてしまう。
「意識が、無いですねぇぇええ!? 緊急帰還しましょう、伊織、ポムちゃんを抱いて下さい、すぐ下の50Fで帰りますよぉ! ミスリルゴーレム本体だけアイテムボックス行で!」
「急ぐぞ!」
だが、見事だ!! よくぞ50Fの試練を超えた。
いや~、全員待機させて良かった。 さぁ、世界初50F踏破者を迎えに行こう!
金は、いくらかかっても構わん。最高のポーションで、ポムを治療だ。
「皆のもに通達せよ。緊急に 『あやぽんず』 に迎えだ。そして、神々の待機は、解除だ。それぞれ、待機させた手前、後程感謝分を通達だ。このパレード盛大にやるぞ。 迎えに行こうでは無いか。そうだ! マスコミも、バンバン入れようか。記者会見だ」
「「承知いたしました!」」
これ以上の試練の続行は、不可能。
66Fの支配者も、見ていたはずだ。わかるだろう。
次の挑戦で、このパーティはお主の66Fのに、たどり着けるのだろうな。
続きは、下の評価ボタンについております。