22 小雨様
我は、小雨の命
異世界からのダンジョンと言う通路が開いたため、位相の世界から地上に顕現した神である。
神という力は、人の信心で出来ている。
我の主な能力は、位相収納風呂敷。つまり、アイテムボックスの付与である。
我は、お気に入りのゲームをしている。 『暗黒魂エル伝輪』
かつて栄華を誇った神々達が、己の業や、人々から忘れ去られ階位を落としてしまい。
位相世界を失った世界が舞台のゲームである。
未だ世界を跋扈する、脳内筋肉神、ドラゴン神、異形の神々。まさに理不尽の化身。
人の身でありながら、まだ神性を宿す存在達に、ただの人として試練とに立ち向かうダークファンタジーのゲームだ。
筋肉神に対して、プレイヤーである人の弱さが売りなのだ。昔の我の様だ。なんて健気だろうか。
昔のリアルでも筋肉神どもは、平気で面接や話合いと称して、2発ぐらいで昇天させてきやがるからな。
ほんと、リアルな描写が神泣かせの素晴らしいゲームだ。
なぜ、こんな素晴らしいゲームが作れるのだろうか。我の加護が欲しければいつでも言うといい。
そして我は、10回ほど斧装備筋肉神と戦っている。
強すぎて理不尽じゃないか? まぁ、位相世界でもこんな感じだったけど。
何とか操作し、ぺしぺしと相手の体力を削っていく。
ふぅ。やっと、半分削ったか・・・!
おい、まて、変身するのか? おい、ひどいじゃないか。おい。
我は、慌てて回復ポーションを使う、その硬直に合され敵のパイルドライバーみたいな筋肉モーションが起こる。
ズドン! そして、画面に浮かび上がる、ユー デット の文字。
即死なんだが?! おい、即死なのか! 無駄にモーション凝ってるんじゃねぇええ!
ドゴン。 コントローラーを、ぶん投げる。
あああああああああああああああああああああ!
また、最初からか!! もう人間性ないんだが!?
ふざけやがってぇえええええ、この製作者達は、加虐的な苦しみを糧にするサディストか、何かぁあああ?! 邪神の才能あるぞぉおお!?
はぁ・・はぁ・・・
時刻を見ると7:00。
我は、睡眠を必要としない。神だからな。夜の空いた時間でゲームをしているのだ。
食事の催促と伴に、職場の様子でも見てくるとしよう。
木造の拝殿を超え、大理石の柱のロビーからの緑のビニールマットの廊下を抜け、営業部のダンジョン管理課へ赴く。
扉を空けると、ドラムと化した机を叩く音がする。
バンバンバンバン。ある意味リズムカルである。
「ハハハハ! 営業部、昨日一日何やってたんだぁああ?! 何? 押したのですが加護件数取れませんでした?? ハハハ! 押してダメなら押し倒せぇえええええええええ!!!!押し倒すまで帰ってくんじゃねぇえええええええ!!返事は!?はい? イエス? 喜んでやります?! あ、ごめん。いや、やらなくてもいいぞ。やらなくても。別に、いいぞ。やらなくて。 さて、返答は?」
押し倒すは、比喩表現だよな? 気概の話をしているんだよな。そうだよな。
小雨カンパニーは、コンプライアンスにうるさいからな。
「そして、管理課。何この埼玉ダンジョン報告書。ハハハ! 小学生の作文か?? ぼくは、きょう、ししゃもをたべました?? 何これ? お前の親の顔見てみたんいんだが? ボゲエェエエエエ! 他の拝殿、国に提出する書類だぞ! 始業前までに書き直せええええええ!」
ゴミ箱が蹴り上げられ、書類がフリスビーの様に飛んでいく。まるで、パーティ会場だ。
再び、管理課の扉をソッと締める。
ここよりか幾分かおとなしい、物流、ダンジョン鑑定課へ行こう。
昨日に鑑定渡した、巨万の富を生む極大魔石の鑑定終わってるだろうか。
スタスタと廊下を移動し、鑑定課の扉を空ける。広々としたオフィス。そして、電子機器のケミカルな匂いがする。
鑑定課は、ダンジョンアイテムの取り扱いも兼ねている。
まだ、朝は早い。
職場には、幾人かちらほら居るが、まだ稼働と言うわけでは無いだろう。
舞が珍しく、居ない。
仕方がない。いる人間に声を掛けよう。
課長おはよう。
課長のお勧めの朝食と、後、報告書持ってきてもらえるか。
ふむ、直ちに用意致します。拝殿に、すぐに、只今、お届けいたします。とな。宜しい。
取り合えず、拝殿に戻る。
我の拝殿は、儀式的お目通りの本殿の裏。 プライベート兼、執務室である。
プライベートルームは、マンションの6LDK の広さがある。
執務室の黒漆塗りの桐机に、ダンジョン管理からの報告書が綺麗に整えられ上がっている。
流石、マユミ。仕事が早い。
報告書を読んでいると、朝食と報告書が、ノックと同時に届く。
明太おにぎり、鮭おにぎり、昆布おにぎり、具がはみ出てるやつだ。
そして、豚汁か。
見栄えがいい。星評価が、高そうな所だ。
食は、人間を映し出す。
鑑定、流通課の課長らしいチョイスだろう。
おにぎりを齧り、豚汁をすする。色目が良いニンジンの具を箸で摘み、食べる。
うむうむ。無難で、心落ち着き。中々によい。
そして、鑑定課の報告書を読む。
うむむ? ないじゃん、昨日の極大魔石の鑑定結果が。
この鑑定で営業もダンジョン管理も動くんだから、鑑定結果無いと仕事進まなくないか?
舞以外に鑑定持ちLV3居るし、外部にも発注できたよね? 課長LV3持ってなかったか?
通信端末を操作し、マユミに掛ける。プルル・・・
ワンコールも無く、マユミが通話に出る。
「マユミ、おはよう。 うむうむ、よいよい。鑑定課から、まだ極大魔石の鑑定が終わってないようだ。お前たちの仕事に影響は、無いか? うむうむ。他の課をまたぐから、統括部長のマユミが出ないとダメだろう。忙しい所すまない。少し見てきてくれるか。うんうん、まぁまぁ、今日中の案件でいいから、夕方までに終われば、段取りが付くだろう」
黒電話の通話を切る。そして、ふと窓の方を見る。
トトト・・・タンタンタン・・・ザァァアアアア。
雨の音だ。少し嵐になるだろう。
ーーー
さて、報告書を読み終わる。本日も、順調である。
今日は、アヤメの配信があったか、告知はどうだったか。
昨日の異世界ネコ訪問。すごい反響だ。
問い合わせや、テレビ動画出演依頼が止まらない。
我の加護与え、なおかつスポンサーをしている、『あやぽんず』
価値は、さらにうなぎ上り。まさに有頂天と言った所だろう。
些細な問題は我が何とかしてやる。前に進むがいい。
昨日のネコを思い出す。
異世界の実力者のネコと思われる。中々に強そうだ。
地元の信心パワーで3柱かかって。追い払うぐらいがやっとだろうか。
ネコの持つ、知識、異界のアイテムや魔石。 誰もが深く知りたいはずだ。
一体ダンジョンの底は、どうなっているのだろうか。
夕方に差し掛かり、アヤメチャンネルにコメントが入る。
どうやら、これから配信するらしい。
夕飯を考えながら、見るとしよう。
会社に、舞は居るだろうか。一緒に見よう。
なぁに、無礼講だ。遠慮は要らない。そしたらば、寿司を取ろうか。クラスは、松、竹、銀河。
銀河クラスもあれば、いいだろう。十分だ。
それと、舞に聞かねばなるまい。出世に興味あるか? と。
ーーー
時刻になり、動画が配信される。
「あやぽんず」は、25Fからの配信の様だ。
朝にアヤメたちダンジョン入ったんだよね? 進む速度、おかしくないか?
思いに耽っていると
トントントントントンと、執務室を叩く音がする。
「失礼しますー」
おっ、舞、来たか。いらっしゃい。
「あれ、早くきてしまいましたかー?」
いや、今日は、舞だけだよ。大丈夫だ。寿司でも食べながら少しお話しましょうか。
それと・・・今日仕事、どうだった?
「アヤメさん達に、アイテム渡したら、すぐに、極大魔石の鑑定の仕事が入りましたねー。あの・・・今週末代休一日くらい取っていいですか・・?」
もちろんだとも、舞。全うな代休は、消化されるべきだ。休むのだ。
「いやー、小雨様なんか素敵ですよねぇ。距離が近いと言うか・・・。神様だからですかぁ?」
我は、素敵で最高である。
それと、昔の我を見てるようで、舞は、いいよな。好感が持てる。
「ありがとうございますー、これから、『あやぽんず』の配信ですもんねー、小雨様見ましたかー?25Fですって。朝1Fで補給アイテム渡したんですよー、早すぎません? 何か前戻ってきたとき、何かスキルか、超合う装備見つけた見たいですが、どうですかねー。一日で行けるものですかねー。あの、鑑定結果の剣と権能見たいな物の効果ですかねー、それとも何かダンジョンの秘密みたいな物を見つけたのでしょうかー?」
少し心開くと、よく喋るタイプだな。ふむ少し話してやろうか。
66Fに異世界転生者と、異世界ネコが店を構えているみたいだ。
そして、アヤメには、舞が鑑定した、剣。そして、神域のスキルが増えているみたいだが。
異世界と交流があったんだ。何かしらスキルを得てもおかしくなかろう。
「そうなんですねー、話すネコさんもびっくりしましたが、66Fの異世界転生者も驚きました・・・。そうですかー・・・、異世界転生あったんですねー・・・・」
舞が、暗い瞳でアイテムボックスから可愛くデコレーションされた魔銃を取り出し、眺めている。
いや、普通は出来ないから。頼むからワンチャンスで転生を狙うなよ?
そのせいで、北の大陸で異世界転生物が禁書になったんだから。
輪廻の法則は、動かんぞ。多分な。
あ、いや。昔から上位神のあいつら、仕事してるか分らん所あるからな。
異世界転生ありえるんだよな。
位相の上位神は、隠してるのだろう。
100年に1度ぐらいの頻度で起こっている様子だが・・・。
「そうですかー・・・あっ、配信始まるみたいですよ。小雨様。コメントしてみては。」
いや、おとなしく見て居よう。
あぁ、寿司とか飲み物、後欲しいもの有れば、好きにやっていいぞ。無礼講で構わんよ。大浴場も好きに使っていいからな。
所で、舞。出世に興味ある?
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所で、舞出世に興味ある?
「少し前まで、出世に興味無かったのですがー、今はありますねー。自分で仕事選んで、やっていきたいです。今だと、色々やる事が多すぎてー」
ふっむ、良い返事だ。マユミも昔は、似たようなことを言っていた。
出世欲がある人間は、信用できる。
アヤメの配信が始まる。『あやぽんず』の開幕からの異世界説明。掴みはバッチリだ。
右下の小窓には、伊織視点が映し出されている。
伊織の小窓には、アヤメばっかり映し出されているが、これでよくモンスターと戦っていると思う。本当に才能に恵まれている。
そして、スパスパと切り捨て、アヤメたちが謎剣から剣戟を飛ばして進んでいく。
「私が鑑定したあの剣強すぎませんかー? 次元切断とか、相当イカれてますよねー。でも、アヤメさんの配信こんな感じじゃないですよね。視聴者が敵に肉薄し、切り付けている様な、臨場感が売りですよねー。あっ、このままじゃ、動画的にダメな事に、気付きましたよ。そうですー。チートですよね。良くないですー。虐待の方は、他動画で間に合ってますからねー。 もっと接近して、回避の妙と敵を切り刻んでくださいよー。役目でしょ」
うわ、二人だとめっちゃ喋るな舞よ。
嫌いじゃないって言うか、なんか好きな部類だ。
「敵を切り刻みだしましたねー。でも、この紫の剣つよすぎませんかー?モンスターの皮膚を全部抵抗なく素通りしてますよ。3万で買ったって、ウソですよねー」
大きい画面に映し出される、『あやぽんず』
伊織が突貫し、アヤメが、加速しながらモンスターの後ろを取り、切り刻む。
後ろに気を取られると、伊織の重槍で敵を突くき、押し込む。そして、アヤメが踊るように回避をし、再度押し込む。
これだけで、モンスターは、ドロップに変わる。まさに、加虐的配信者。
アヤメの主観での、影が踊るような配信は、見てる方の臨場感が凄い。
「30Fにあっと言う間に来ましたねー。アイテム使って無くないですー? 伊織さんの炎の魔石を使って、モンスターが燃えている所、ポーションを頭から被って炎を切り裂いて突貫が無かったですねー。安全な戦闘って感じですー」
舞は、解説をしながら、本マグロ、トロ、赤貝、ウニ、ウニ、ウニ。ハマチ、ウニ。赤貝。を掃除機の様に寿司を吸い込んでいく。
おいいおい、ウニ無くなってしまうだろう。
いくら銀河特上でも6人前ぐらいしか無いからな。
もうウニ1個しかないじゃないか。ガリで口直ししなさいよ。
巻物もっと食べて、ほら。 あ、ウニ食べたな。
2人でこれは、多すぎると思ったのだが。
おいい、次は、赤貝枯らす気か。ウニと赤貝は、最後に、食べたい神なんだが。そもそも無礼講と言ったが、単品枯らすとは、思わんぞ。 あ、二貫取り? 何してるのだ、舞よ。赤貝、無くなったじゃないか。廻る廻る寿司の2貫と勘違いしとりゃせんか?
米の色を見てみろ、どうみても廻らない寿司だろう。分かってくれ。そして、ホタテも2貫ずつ取るのか・・・。
そんな思いも、ありながら、アヤメが30Fのボスを倒した。
もはや、虐殺動画だな?? 血を吹き出し倒れるが、気力をふり絞り震えながら立ち上がろうとする巨大火ネズミ。 そのネズミの頑張る思いも空しく、アイテムドロップに変わる。
そして、大型の黒い丸の寿司受けの中を見る。・・・舞よ、我に、巻物を食えと??
意外と、舞、食べるんだな。
「あ、超強ボスが、生にしがみ付く瞬間、何か琴線に響きましたー。」
・・・わかるぞ。
ああ・・・、舞、巻物も食べるのか・・・。まだ食うか・・?
和牛ステーキぐらいなら、注文ボタン押すぞ。我、まだ腹減ってるし。
アヤメ達は、31Fでレベル上げ、すなわち、階位を上げると言っていた。
ここで、モンスターを倒しながら荒稼ぎをするのだろう。罠対策の魔道具や、ダンジョン産のアイテムを持ってきている事だろう。
動画が、青く光る。
アヤメの目の前にネコがポップする。
そして、驚いた反動でステーキの注文を、ポチッと頼んでしまった。
動画のネコの隣には、人間とは思えない造形美が佇んでいる。
だが、美しすぎる。人では無いな。
ようするに、ネコが迎えに来たようだ。
「迎えにきたようですねー、アニマル猫。 お前の極大魔石のせいで、私達がどんな目にあったか、分かりますかー?マユミ統括が、カチコミにきた見たいなんですよー。マユミ統括の元ダンジョン実力者の気迫。美人スマイルなのに、最高に恐怖を感じますもん。心臓の脈動と手の震えが止まらないですもんねー。 課長なんて、マユミ統括の嵐が過ぎ去ったら、過呼吸起こしてたみたいですねー」
やはり、そうなったか。
でも、仕事は仕事で、優先してやってもらわないと。
お給料はお渡ししてますよね。ここのお給料は、平均3倍以上に高いですよね。待遇も悪くないと思います。突発的な仕事が出てくるので、このようにしています。分かっていただいてますか。働いてもらわないと。
しかし、急に展開が怪しくなってくる。
ネコが話すには、大人しく66Fに来ないと。あの66Fの異世界転生者が何をしでかすか、分からんと来たもんだ。
動画がこのあたりで途切れる。
これは、嫌な予感がする。 出撃の準備しないとだな。最悪だな。
あの剣の製作者だろ? 位相の神のシステム書き換えるぐらいだから。相当強いだろうな。
あ~、ネコより、強いんだよな。66F転生者がネコ使役してるんだったな。ちょっと勝てなくないか~?
舞、すまん。
神としての仕事入るかも。マユミに連絡するわ。緊急懸案だな。社員出勤。全員、待機だ。
先ほどまで、モグモグしていた舞の口が止まる。
と、同時に通信が入る。マユミだろう。通話に出る。
「ああ、うん、出撃待機だ。 ネコの主人がどんなもんか分らんが。 ネコより強いだろう。いつもの3柱じゃ足りないな。前間に合わなかった、あいつら2柱も呼ぶしかない。 転生者がどんなもんか未知数だ。一応あの剣の製作者と思われる。 おそらく、転生者も全力で作ったハズだ。なら、あのぐらいなら、総力戦で何とかなりそうだ。 次元切断ぐらいじゃ、我々の存在が消えるわけでも無いしな。 一応国に報告上げて、付き合いのない中小拝殿の神にも協力願おうか。仕方ない」
通話を切る。
舞は、目を閉じている。おぉ、寝れるときに仮眠を取っているのか。舞も戦士として、日々成長しているのだな。時期、出世させよう。
そして注文した、和牛ステーキが、シュポンと音がしテーブルに届く。まだ、湯気を纏っている。
しかし、流石にこの状況でステーキは、胃に入らんな・・・。
同時に、トントントン 扉を叩く音だ。
マユミ、もう手配と準備終わらしたのか。凄すぎるな。
入れ入れ。
「失礼します。マユミここに。 手配を終わらせました。各神々、拝殿集合と言うことで、話はつきました。 そして、戦闘なく待機で済めば、万々歳ですが。ハハハ!」
近代軍事錬金装備と、刀を装備した、マユミが入ってくる。
「おぉ・・、失礼。舞が寝ていますか。中々にやるようになってきましたね。舞は見込みがあります。」
そうだな。 所で、ステーキ2枚あるけど、マユミ食べる?
「頂きます。食べれるときに食べなければ。」
そのままの武装した姿で、机に座る。
小指を立てながら、ナイフでステーキを上品に切り分け、口に運ぶ。ふむ、優雅だな。
飲み物は、あるもの好きに飲んでくれ。
とりあえずは、待機だ。
投稿と編集、そして執筆。
迫りくる投稿時間と、評価ポイントの無慈悲な現実が作者を襲う。