16 続アヤメ配信
ネコさんが、フワフワと浮きながら入ってくる。
隣に浮いていた杖、魔導書と思われるものがスッと消えた。
「お邪魔しますにゃ~」
とにかく、中にどうぞどうぞ~。
色々と、考える前にお家に招き入れる行動が正しいでしょうね。
このネコさん、おそらく、無茶苦茶強いですからねぇ~。
さて、この騒ぎ、どうしましょうか。
うーん、私の配信、メッセ、通話機器はダウンしてます。
「伊織の電話かして貰えますか?」
伊織にもガンガン電話がかかっているが、まだ動いている。
嵐の様に、入ってくる着信をキャンセルしつつ。マユミさんに掛ける。
プルルッルルル
刹那、通話状態になる。
「あー、マユミさんですかぁ。えぇ。今伊織のスマホを借りています~。えっとですねぇ、このネコさん、66Fの知り合いのネコさんです。 はい、そうです。知的生命体で文明を持ち、魔道に特化している感じですか? その通りだと思いますよぉ~。 あぁ、そうですね!近日中、色々ありすぎで、脳がバグってました。そうです、そうです。人類初、ダンジョンから、意思疎通の出来る生命体ですねぇ。 片言の良くわからないモンスターと違って、異世界の住人ですよぉ。つまり、ダンジョンの奥に異世界文明が繋がっている証拠ですよねぇ!」
「それと、うーん、この敵対的、状況良くないです。少し穏便にできませんか? 敵対的生命体じゃないと思います。うーん、そうですそうです。友好的な様子を、サブチャンネルで、どんなものか映しますねぇ。 騒がしい周りを少し抑えて貰えませんか~? はいはい、え! 小雨様と、他の戦闘系の神様も来ている。あーー!いけません、いけません! 神様もこの気配、分かってると思いますが、相当やばいと思いますよぉ。一回映して、敵対的じゃない事を、見てもらいたいです!」
「はいはい、えぇ、はい。承知しました~」
通話をぽちっと切る。
取り合えず、様子を見てくれるようだ。
まずは、お茶の用意をしましょうか。そして、配信準備ですねぇ。
「伊織、サブチャンネルの配信準備してください~」
「!?!? ネコが喋ってるんだぞ?!?! なんで、冷静なんだ?!? ダンジョンが、異世界に繋がっている証明じゃないか!? もっとなんだ?! こう、こう? なんだ?? なんだ?! 凄い、凄い。」
ええ、語呂の表現が凄いですよねぇ。とにかく、配信準備お願いします。
猫さんを、リビングルームに案内し、キッチンでお茶の準備をする。
「ネコさん、苦手なお菓子ってありますかぁ?」
「あ、お構いなくにゃ~。大体、食べれるにゃ。」
即座に、一通りお茶の準備をし、クッキーと一緒に出す。もちろんお茶は、高いやつ。
コトリとお茶を置き、ネコさんの目の前に座る。
「アヤメ殿。急にすまないにゃ~。連休なので、こっちに興味があったから、ご主人に転送で送ってもらったにゃ~。ついでに、クーポンを渡すように言われてきたにゃ~。 何だったかにゃ・・、顧客の客足を途切れさせないためのマーケット戦略・・・だったかにゃ~。そもそも、お客がアヤメ殿しか来てないにゃ~。あ、お茶頂くにゃ。」
お茶が、ふわっと浮かび、口元に移動する。猫さんが肉球? に取り、ずずっとすする。
「・・・・? にゃふ、お茶に旨味があるにゃ・・。うまいにゃ。所で、書物などアヤメ殿のが買ってくれたのかにゃ? 面白かったにゃ~。吾輩の次元との差で、印刷技術が比べ物にならない程進んでるにゃ~。吾輩も、書物を買いたくて来たんにゃけど、この星来るのが初めてで頼るのがアヤメ殿しかおらんかったにゃ~」
ネコさんが、クッキーを浮かし、齧る。シャクシャクと咀嚼音が聞こえるが、ピタッと音が止まる。
そのクッキーは、お茶の横にフワッと置かれる。
お気に召さなかったみたいだ。
ショウタ支配人のご飯から比べたら、そりゃぁ酷ってもんですよぉ。
そして、ドドドドドッと伊織の駆け回る音がし、叫ぶ様に話しかける。
「出来たぞ!!! 未知との知的生命体との配信の準備!!! おおおおお!! 今、私たちが、世界で、一番、目立つ。 目立つ・・? そうだ、目立つんだ!! この配信で!!」
有頂天っていいませんかぁ? 今この世界こそ、私たちが中心で、有頂天!
「ネコさん、すみません。 この国の人々がですねぇ、ネコさんの事を知りたいんですよぉ。実は、ネコさんの様な方と初めての遭遇で、ネコさんが友好的なのか敵対的なのか、知りたがっている見たいです。良かったら、動画で映してもいいですか~?」
「なるほどにゃ~、だから、襲って来てたのかにゃ~」
「あぁ、すみません。すみません。ダンジョンから出てくるモンスターが100% 敵対的なものでして、なんなら、群れで侵攻してくるぐらいでして。それを危惧してこんな感じになってしまったのでしょう~、すみませんですぅ~」
「全然、気にしてないにゃ。 大体の星や次元に行くと、好意的か敵対のどちらか、だから慣れっこにゃ。 アヤメ殿が友好的だから、大丈夫だと思ったにゃ」
ありがとうございますぅ。
でも、敵対的な包囲に慣れるものなんですかねぇ?
「ありがとうございますぅ。そして、メッセージを含めまして、動画の方映してもいいですかぁ?」
「大丈夫にゃよ~。友好的な挨拶をするにゃ~」
よし、伊織!撮影スタート!!!
何とか、この現状を配信に押し込みましょう。
近日中の出来事の多さで脳がバグってましたが、未知との遭遇。異世界文明の証明ですよねぇ。
「緊急配信です~。 皆さま、こんあやめ~。加虐的系乙女配信者のあやぽんずですぅ。少し前に配信を終えたばかりですが~ぁ! いきなり、皆さまに報告があります! 今ご覧いただいている、方たちは、多分関係者の方が多いと思いますが・・、こちら異世界から、こちらに来た、ネコさんです。」
ネコさんが動画配信を見て驚く。
「この動く絵の幻視を見せると言うことは、これは、啓示の属性にゃね。凄いにゃ~。誰もが、啓示が使え、啓示の出しまくりが出来るってことにゃ? 」
「おっと、失礼しましたにゃ。我が名は、ネッコ・シルフィールド・アマンダス・シルガノ。サイゲリウム星、ネコール王国のネッコの血筋の男爵にゃ。ダンジョンでの召喚され、異世界の通路で繋がっているこの次元に送ってもらってきたにゃ~」
コメントが静まっている。
閲覧人数は3万人となっている。配信出来てはいるのだろう。
まずは、このまま配信を続けよう。
「ネコさん、ネコさんの星ですか、異世界次元が気になるのですがどんな所ですか?」
「文明レベルの話にゃね。とにかく魔法に特化してる次元にゃ。魔法と言うものをそれぞれが、使い暮らしているにゃ。精霊や妖精は、永遠の時間をもて遊び、何となくただ毎日を過ごしているにゃ。花が特に枯れることもなく咲き乱れ。原初の魔力がまだ残ってる世界にゃ。女神様の所と、魔界に分かれてる世界にゃ。それぞれが、好きなことをしてくらしてるにゃ。人間たちは、気まぐれな神に大迷惑しているにゃ。暇つぶしで、試練を与えてくる害悪そのものにゃ。小規模の種族社会同士が、コロニーを形成して暮らしている、お互いが疑心暗鬼の相互監視社会の村社会の感じにゃ。 平たく言うと地獄にゃ。寿命が長い弊害なのにゃ」
メルヘン世界だけにメンヘラーばかりと言う事ですか。
「それと君たちの本で見たにゃ。いわゆるドラゴンヌ達が場所に寄っては闊歩してる世界にゃ。上級個体になれば、知能の持ちと原初魔法を使ってくるにゃ。魔石欲しさに良くドラゴンを狩るけど、上級個体は、めちゃくちゃ強いにゃ」
うん、ドラゴンは、強いですね。
次の遭遇戦は、必ず打ち取りますがぁ。
「えーとですねぇ、実は、埼玉66Fで動画を切った後、ネコさんに助けてもらったんですよぉ、それと、うーん、ネコさんのご主人について詳細をまだ話すなと言われてるんですよねぇ」
「この話を飛ばします。 度々になりますが、どうしてここに来たんですかぁ?」
「この星の書物に感動したにゃ~。ほんとにゃ。植物学の本の活版技術もすごかったにゃ。でも、『長靴を排他的なネコ』 が、かっこよすぎにゃぁ・・。 長い人生の中でこんな感動した本に出会ったことないにゃ~。 それで、書物が欲しくてにゃ。休みを利用して、アヤメ殿を頼ってここにきたにゃ~。 この国の通貨も、システムもよくわからないにゃ。 お金が欲しいにゃ。魔石は、本が買えるぐらいあると思うにゃ。 ドロップアイテムもあるんにゃけど、これでは、弱すぎてお金になるか分からないにゃ~。」
なるほど、そういう事ですか。 小雨カンパニーに換金してもらいましょう。
「アヤメ殿に損は、させないにゃ。後でお礼もするにゃ。魔石、アイテム、見繕ってくれないかにゃ~」
「構いませんよ~。ネコさんには、恩がありますから~。見せてくださいますかぁ~」
「出してもかまないかにゃ。一番あのダンジョンで深い所の魔石からだすにゃ。大きいんだけど、あのぐらいのモンスターじゃ、魔石色があんまりよくないにゃ。 異世界の門を超えないとダメっぽいにゃぁ。」
ネコさんの、なで肩の脇から、アイテムボックスが開き
極大の魔石がテーブルの上に1個乗り、白のカーペットの上に極大の魔石が2、3個出る。
「魔法のレジストが皆無のモンスターだから、ただ大きいだけの魔石にゃ。色がぜんぜんよくないにゃー。」
「うおおおおお!大きい、でかい! なんてビックな魔石なんだ!」 伊織も驚く。
うーん、大きさが大きすぎますねぇ。こんなの 見たことないですよぉ。
魔石自体に、特殊装備、錬金など、需要ありすぎます。
そもそも、これ一個で都市部の1年分の魔力エネルギーになりませんかぁ??
「うーん、これ・・、まだあります?」
「これなら、300くらいあるにゃ。」
ふむふむ、なるほど?
「ドロップも少しみていいですかぁ?一番最奥のドロップでお願いします」
「了解にゃ。魔力も低い、遊びみたいなアイテムにゃけども・・」
浮き続け、地面に触れない謎の布切れ。 なんか、エクスカリバーと名前がつきそうな剣。そして、謎の輝きを出し続けるポーション。
このネコさん、素材の権化ですね。
一度、配信止めて、お話した方がいいですねぇ。
「あー、すいません。動画の皆さま、ちょっ、ちょっと配信。止めます。伊織、停止してください~」
そして、ネコさんに話しかける。
「ネコさん、承知しました。ここのダンジョン管理のトップを呼びますね~」
「助かるにゃ~」
伊織のスマホで、再びマユミさんに電話を掛ける。
「マユミさん見てましたか? そうです。 はい、秒で着くんですか? さすがマユミさん。話が早くて助かります。 はい、はい」
カンカンカンカン、ドアのノックが聞こえる。
私の家のオートロックは、機能していないのでしょうか?? もう、ドア前にいるんですか?
ピンポーンが聞こえませんがぁ? このマンション防犯設備が優れてるから買ったんですけど?
「お世話になっております~。小雨カンパニーの統括部長をしております、アユミと申します~。ネコ様。この度は、ダンジョン管理の者がご迷惑を掛けてしまい申し訳ありませんでした!」
そして、マユミさんが言葉を繋ぐ。
「いやいや、ハハハ! 何せ、異世界の訪問者に慣れておりませんでして、対応に礼を書いてしまいました。 宜しければ、謝罪を含めまして、お顔をお出しできればと思いまして・・、宜しいでしょうか?」
ネコさんの方をちらりと見る。
「開けていいですか?」
「大丈夫にゃ~」
ドアをかちゃりと開く。
オレンジ色の髪で自由な纏まりがあるショートヘアー、スタイリッシュなウーマンスーツ、ワイシャツの襟が若干立っている。バリッとかっこいい。完璧なる女性上司の化身、マユミさんである。
即、ネコさんの前にスススッとすり足で進む。
「ネコさん、この度は失礼致しました・・・。 まさか世界初の、訪問者がこんな素敵な方だったとは。そして、ネコ様をモンスターと見間違えた、とは、ほんと甚だしい。すみません。管理の方に強く言っておきますので」
「大丈夫にゃ~、慣れっこにゃ~」
「おお!ハハハハ!お心遣い感謝します。こちら・・、ご挨拶の『芋まんじゅう』でございます。宜しければご賞味下さい」
スッと、高級そうなお菓子の包装が前に出て来る。
「さて、それでですね!今、そちらにある 魔石とアイテムをお売りいただけると言うことで!! ・・・現金をあまり用意できませんでして! アイテムと魔石 まずは3千万で下取り、させて頂いてもいいですか?? その後、必ず、即追加払いを致しますので。弊社にお売りいただきたい!
何分、査定に時間がかかるものでして、手付金としてまず、3千万!お渡し致します。 そして、魔石100個ほども買取り致したいのですが、普段はどちらにいらっしゃいますか。必ず、現金でお支払いいたします!!」
マユミさんの後ろに、オーラが見える。
ダンジョン探検者特有の覚悟を決めた時に出る、魔力の色ですねぇ。
魔石1個少なくても、1億はするでしょう。都市の魔力一つ補えますよぉ。
ネコさんがこちらを見て聞いてくる。
「うーん、アヤメ殿。この方は、知り合いで、アヤメ殿は、信用しているのかにゃ?」
「私は、信用してますよ!!いえ、信用の塊です。信用で動いている方です」
「したら、任せるにゃ。 残りや、未定の現金は、今度来た時でもいいにゃ。 まずは、本を買って帰りたいにゃ」
「ありがとうございます! 本屋はお決まりですか? すぐそこにありますよ、 今、手配しますね!全部持って帰られますよね? 今、部下に向かわせますので!!!」
はっと気付き、思い出す。
「あ!マユミさん!情報商材だけ、除いてくださいね! 世界が滅ぶ可能性があります!!!」
「!? ハハハ! そうか、そういう可能性もあるのか・・・。ネコ様、こちらへ アイテム取引と同時に本屋に向かいましょう!ああ、ダンジョン管理のトップである、小雨様もご挨拶があります。移動中にご挨拶とお話を出来ましたら、お願い致します!!」
うーん、ネコさんを引き継ぐと致しましょうか。
ネコさんの事、よろしくお願い致しますねぇ。
ネコさんが、話す。
「マユミ世話になったにゃ~。今度ダンジョン来た時、ご主人から貰ったブレスレット付けて来てくれにゃ。 迎えにいくにゃ~」
え、鑑定結果が壊れてる、汚レスレットつけなきゃいけないんですかぁ~!?
ネコさんが、この部屋をマユミさんと後にする。
まぁ、一先ずこの騒動は落ち着いたのだろうか。
しかし、この私、アヤメ。有頂天を目指し走り続けた時から、「平穏」など人生から切り捨てて置いてきたつもりでしたが。
平穏。なんと素晴らしい響きでしょうか。
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