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10 続アヤメ帰還する

貴方を、クスッと笑わしてみたいものです。


朝食に、不可視な食べ物を出された。脳が危険信号をビンビンと出している。

ここで、朝食を食べないと言う選択肢は無いだろう。


私は、命がおしいです。生きていれさえすれば、いくらでもチャンスは巡ってくるはずです。

そうして、ダンジョンでの数多の危機を乗り越えここに居るのですから。


謎にモザイクがかかるパンや米、謎肉、魚っぽい物質をおそるおそる食べる。


・・・おいしすぎる。


あふれ出る涙が止まらない。食べ物を食べて、泣いたことなんてあっただろうか。


おしんこを食べ、お茶を飲み、子供の頃の記憶を思い出す。


見えるのは、優しいおばあちゃんだった。

田舎の草原、夕日が見える。おばあちゃんと田んぼの様子を見に行った時の事だろう。


「・・・あやめ、いいかい? 男は、度胸。女は、愛嬌と度胸。両方必要になってくる。おじいちゃんは、若い頃、容姿端麗、実家も金持ち、安定職業、何より、性格が良くリーダ的な超優良物件だった。

ライバルも星の数ほどいた、でも私は高嶺の花だとは思わなかったよ。愛嬌を磨き、自分を磨き、相手の好みを知り尽くした。最後は、度胸でおじいちゃんのハートを掴み取った。 あやめ、幸せは勝取らなければ、いけないんだよ。手招いていてもやってきてはくれないんだ。 自分を磨き、鍛え、度胸をつけな!! 幸せは、もぎ取り勝ち取りに行くんだ!! 行動あるのみだよ!!!」


おばあちゃん?!!? 三歳児の私に何いってるの?!!

これが、私の原風景なの?!


・・・あれ、でもおばあちゃん、その通りですねぇ。


食事を終え、席を立ち、厨房にいるショウタさんに声を掛ける。


「ごちそう様でした! あの、お話があります」


ショウタさんが笑顔でこちらを見ている。


刹那、後ろの椅子を引く音がする。


あぁ、ショウタさん、もう後ろにポップしたんですか。 


「分かりました。お座りください。アヤメ様。 ネコさん食後のコーヒーお願いします~。あの豆使って下さい。結構、暴れますから、気を付けて下さいね~」


目の前にショウタさんが座る。

昨日の虚空の気配と違い、神々しさまで感じる明るい気配だ。今は、気配を確認出来る。


ショウタさんは黒髪ストレート。

今日は、昨日と違い落ち着いた感じの、質の良さそうなホテルスーツだ。

顔を見るに、歳は30前後だろうか?

そして笑顔だ、いい笑顔でこちらを見ている。


よし大丈夫だ、話の組み立ては出来ている。

話して見よう、正直に。


「ショウタさん、重複して申し訳ないのですがぁ、私、あやめと言います。 時間軸でいうと、昨日? 一昨日ですかね。日本初、埼玉ダンジョン30Fを踏破したんです。配信者でもありまして、その様子を配信してたんです。ご存じですか?」


「日本初? 30F?? ですか」


ショウタさんの笑顔が少し崩れる。


「そうです。見てください」 


ステータスオープン! アナザーワールドリィィィウオッチャー!! 


私のステータスを出す、他の人に見れるようにしてある。名前と階層、状態、装備を見せる。


「へぇ~、ステータスオープンシステムですか。 66Fここの階層ですか・・・? このダンジョンの踏破、記録が30F? ということですか。」


「はい、そうです。このスマホから、30F踏破の動画が見れると思います。ご覧になりますか・・・?」


「なるほど、分かりました。動画は、大丈夫です。 自分の時代のスマホと大分進化してますね。パカパカ携帯から、スマホに変わる時期だったもので」


「・・・分かりました。 話を続けますね。踏破した後。転移罠を踏み続け、ドラゴンに追われ、逃げるために転移罠を踏みこの階層に着いたところ、猫さんに遭遇しショウタさんに助けて頂いたわけです」


「なるほど、そうでしたか。 失礼な言い方かもしれませんが、アヤメ様が、ここに来るのに少し実力的に、大変そうだとは、思っておりました。」


・・・・なるほど。

さて、本題だ。


「それで、ショウタさん、人間ですよね? どうして、ここに? このダンジョンの66Fに?」


猫さんが、ポップする。 青い透明の膜をフィンフィンフィンと音を立て全身展開していた。


「お待たせしたにゃ。強いコーヒーだったにゃ~。どうぞにゃ~。あ、こくと深みの味の他に、ほろ苦い思い出も蘇るにゃ」


また、思い出系ですか。

飲めなくは無いですがコーヒー得意では無いんですよぉ。


「ありがとうございますぅ」


「ネコさんありがとう。 良い所に来てくれました。 そうそう、今のセリフ冒頭からもう一度お願いします。」


「?? ショウタさん人間ですよね?? どうして、ここにいるんですか?」


「うんうん、そうです。人間です。うんうん」


深く、ショウタさんがうなずく。

男性のホテルスーツって中々におしゃれですねぇ。


「あぁ、異世界転生から戻ってきたんですが。 元の地球と何もかもそっくりなんですけど、ちょっと違うみたいなんですね。長く人間と暮らしてなかったので、ここで商売でもしながら、感覚を取り戻そうと思ってた所です」


サラッと話す、異世界転生の実在証明。

掘り下げてお聞きしたい部分だらけだが、話を進める。


「私、それ超絶信じます。全て信じます」


「ハハッ、ありがとうございます」


「いえ、こちらそこ助けて頂いてありがとうございます。 あの、まず、ここの料金を、お支払いさせてください。 あの、私が受けた、これだけのサービス、無料では、いけないと思います。 POYPOY(ポイポイ=電子魔力決済マネー)、つかえますか?手持ちだとあまりなくて・・・、魔石ならお支払い出来そうですが・・。」


「ハハハハハハ!!! ええ、そうですね。アヤメ様とは、とても気分よく、取引が出来そうです。正直オーバーチャージ(優位立地による過剰料金)でボロ儲けしようと思ってたのですが。 アヤメ様相手では、度外視ですね。対価と言うものを、お若いながら気付いてらっしゃるようだ」


笑い方が怖く感じてきました。 ネコさんの方を見る。

ショウタさんの横に、笑顔でたたずんでいる。


なるほど、なぜ動物の笑顔が怖く感じるのか分かりました。

感情の読み取りに対する、整合性の不安がそうさせているのですね。


「あぁ、せっかくのコーヒーが冷めてしまいます。コーヒーをどうぞ。あっ、若い方ってあまりコーヒーがお好きでな・・」


「いただきます!」 


コーヒーを飲む。・・・・思い出が蘇る。

あれは、おじいちゃん、台風が来る前、田んぼの様子を見に行った時だ。


「デキ婚だったんじゃ。そうじゃ、あやめ。わしは、ばあさんにはめられたんじゃ・・・、大丈夫だっていうからやったんじゃ。わしは、ハメられたんじゃ・・・。」


わあああああああああああああ!!!! ほろ苦い記憶だぁああ!!!

子供ながらに、「どうして、おばあちゃんと結婚したの?」 って聞いた時の思い出だぁああああ!!! しょうもない思い出だぁああああ!!


やっぱり、コーヒーは、苦手ですねぇ!?


「本日は3万・・の現地通貨でいかがでしょうか。電子マネー? には、対応してないんですよ。それと、少しおせっかいを焼かせて下さい。売店にいきましょうか。その料金に全てが含まれておりますよ 安心してください。売店にいきましょうか」


アイテムボックスから私のパンダ柄の財布を見る。ちょうど3万入っていた。

そして、売店に連れて行く気がありすぎですね。売店、二度言いましたよねぇ。


刹那、景色が昨日紹介された、アイテム売店に移り変わる。修学旅行を思い出すと、お土産屋さんがあるところだ・・・。 

売店の隅の木刀コーナーから、ショウタさんが、木刀とはまったく異なる剣を取り出す。


「失礼ながら、先ほど見せさせて頂いた、そのスキルと装備では、正直66Fでは、きついでしょう。

こちらをどうぞ・・。 あやめ様にぴったりだと思いますよ。」


渡されたのは二本の短剣だ、黒鉄の短剣に形が似ている。

白黒の市松模様の柄の部分、刀身の色が淡い紫だ・・・。おしゃれかわいい。

剣を握ってみる。


アレ?剣の重みを感じない。


「アヤメ様用です。物理特性に切れ味が左右されない剣ですね。魔法ぐらいだったら簡単に切れますよ。魔力で剣風斬が打てますので、振って慣れてみてください」


ここへ来て、理解出来る説明だ!!宇宙的説明じゃないなんて!!

いや、これめちゃ強くないですかぁ?!


そして、最後のお願いだ。


「何から何までありがとうございます。お代をお渡し致します」


決意を持って、ショウタさんを見つめ話しかける。


「そして最後にお願いがあるんですが」


最悪、断られた時。なんとか、色々考えましょうかぁ。もう、宿屋に泊る現金ないですよぉ。

なんでもしますから! と縋れば、雇ってもらえますかねぇ。


「私を、地上へ運んで頂けませんか?」


「あ、はい。最初から送迎をするつもりでしたよ? 私も、少し店をネコさんに任せて、久しぶりに地上に出て、本とか買ったりして、勉強をしないといけませんから。」


ショウタさんが、こちらをしっかりと見つめる。


「そして、私からもお願いがありまして、地上に出るとき手を繋いで頂けますか。」


「はい、なんでもしますよぉ!!!」


私、帰れるんだ!!


「では、チェックアウトと言うことで。準備は宜しいですか?」


「お願いします!! 荷物は、全部アイテムボックスに入ってます。」


「ネコさん少しの間、お願い致します~食事は、厨房の戸棚に入ってますから。食べ過ぎないで下さいね~」 


「はい、にゃ~」


刹那・・目の前の風景が変わる。


入口だ!!ダンジョンの入口に転移したんだ!!! 洞窟ゾーンのあの入口だ!!


「さて、出るまえに。アヤメ様。この度はご利用ありがとうございます。ささやかな記念品にございます。お守りみたいな物です。どうぞ・・・、手首に装備してみてください。」


青いブレスレットだ、謎に手首にフィットする。

なんか凄い。それよりも早く地上に出たいと言う気持ちが体を急かす。


「またのご利用を・・・心よりお待ちしております。・・・すみません、手を繋いで頂けますか」


あ、はい・・・。 私は、この手を繋ぐ行為に疑問を感じていたが。 

そもそも命の世話になりましたし。生きて返してくれると言うことで、まずは繋ぎましょうか。手を。


そして一緒に地上にでた。


だけど、後悔している。

荒人神を地上に出しては、いけなかった。

この人を外に出してはいけなかったのだ。


もし気が向きまして下の星を押して頂けたら幸いです。

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