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『童謡サーシャ』【怖さ★☆☆】

「ほ~い、それじゃ~今日の怪談を始めるぞぉ~」


(今日はフローラも、ちゃんと来てるな……)


 俺は満員の観客の隅っこに、いつものフードを被った怪しい格好の人物(騎士団団長で剣聖のフロラディーテ(愛称フローラ))を発見する。


「今日はみんなで童謡を歌おうと思う。『童謡サーシャ』は知っているか?」


『知ってる~!!』

 子供達が元気に答える。


「よし!じゃあ、みんなで歌うぞ~!さん、はい!」


 観客席から元気な歌声が聞こえてくる。

 

『サーシャはね サチュコっていうんだ ほんとはね

 だけど ちっちゃいから 自分じぶんのこと サーシャってぶんだよ

 可笑おかしいな サーシャ』


 子供達の楽しそうな歌声が聞こえる。

 フードを被ったフロラディーテも体を左右に揺らしながら歌っているようだ。


「2番~さん、はい!」


『サーシャはね バナナが大好だいすき ほんとだよ

 だけど ちっちゃいから バナナを 半分はんぶんしか べられないの

 可哀相かわいそうねね サーシャ』


「最後~3番~さん、はい!」

 俺は指揮者になったつもりで、手を振る。


『 サーシャがね とおくへっちゃうって ほんとかな

 だけど ちっちゃいから ぼくのこと わすれてしまうだろ

 さびしいな サーシャ』


「よ~し!うまく歌えたな!さて、童謡サーシャの歌に続きがあるのを知っているか?」

 

『知らな~い』

 子供達が答える。フロラディーテも顔を横に振っている。


「では、今から教えよう……」


 俺は指をパチン!と鳴らすとライトニングの魔法が解け、怪談小屋に暗闇が押し寄せ、俺の前に立てられた四本の蝋燭だけが不気味な灯りを灯す。


「実はサーシャはバナナを半分食べたところで喉に詰まらせ死んだという噂があるんだ……。だから3番で遠くに行ってしまうという歌詞が書かれているのさ……」


「ひぃ!!」

 聞き覚えのある声(フロラディーテの声)が聞こえたが、無視して話を進める。


「そして、歌詞の続きはこうだ……」


 『4番』

 サーシャがね おべべ(※幼児用の着物)をおいてった ほんとだよ

 だけどちっちゃいから きっともらいにこないだろ 

 かなしいな サーシャ


 『5番』

 サーシャはね 戦火せんかあしを なくしたよ

 だから おまえの あしを もらいにくんだよ

 今夜こんやだよ サーシャ


「……え」

 静まり返った小屋の中がザワザワし始める。


 『6番』

 サーシャはね、うらんでいるんだホントはね 

 だってされたからみんなとさよなら、くやしいね

 あいつらだ サーシャ


「……お前らか――!!!!!!!!」


『ギャァ――!!!!!!!!!!』

 今日も気持ちいいくらいの叫び声が怪談小屋を揺らした……。


「はい~今日の怪談はお仕舞いだよ~。とっとと帰りなぁ~」


 パチン!

 俺は指を鳴らし灯りをつける。


「僕ね~僕ね~サーシャは死んでるって知ってたよ~!」

「そうか~すごいね~さ~帰ろうね~」

 俺はいつものように子供達を適当にあしらいながら出口へ案内する。怪談話しかできないから、仕方なく聞かせているが、俺は本来、ひとりの時間をこよなく愛す。


 全員、追いやったところで、部屋の隅っこで体操座りをしている怪しいフードを被ったフロラディーテに目をやる。


「どうした?また、腰を抜かしたのか?」


 俺は彼女に手を差しのべながら言う。

 

 しかし、彼女は俺の手をグッ!と握り、立ち上がる。フードを取り、その金色の綺麗な髪が靡くと、フロラディーテは俺の顔をキラキラした目で見つめて、とんでもないことを言った。


「マスキ殿!!今回、庶民の要望で『ギオン騎士団怨霊対策部隊』を創設したのだ!!その部隊長をマスキ殿に頼みたいのだ!!」


「断る!!」

 俺は間髪入れずに断った!


「なんで――!!!!!!」

 予想外の反応だったのか、フローラは泣きながら「なんで――!!!!」と叫んだ!逆にどうして了承すると思ったのか聞きたい!!


「嫌に決まっているだろう!」


「そんな……庶民の推薦もあってマスキ殿に頼もうと……。私は、すでに副部隊長を就任してきたのに……」


「フローラは騎士団の団長でしょ!団長が副部隊長を兼務してどうするの!?」


「だって……だって……グスッ」


 泣いてしまった。フローラはこれでいて、団員の前では厳しい指導で有名で『氷の微笑み』とか『孤高の狼』とか言われているのだから不思議でしょうがない。


「……報酬は月に30万コセンなのに」

 フローラがふいに呟く。


「ちょ、ちょっと待て!?月に30万コセンだって!?俺の稼ぎの軽く3倍はあるぞ!?」


「それだけ、怨霊に苦しめられている庶民が多いと言うことだ。怨霊には魔術師団との関係を疑う輩も出てきているからな」

 魔術師団は王国も認めているれっきとした国防組織なのだが、先に組織されていた騎士団とのいざこざが絶えない。


「……やります」

 たぶん、今、鏡を見たら俺の目は『かね』の文字に見えるだろう。


「本当か!やったぁ――!!」

 フローラは俺の両手を掴み、その場で飛び跳ねながら喜んだ。


 まぁ、悪い気はしなかった――。


 <つづく!>

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