『イルミナティ』【怖さ★★★】
【あなたは知っているでしょうか
生まれ変わって世界が変わっても空気は変わらないことを
あなたは知っているでしょうか
常闇のモノが姿を現す時、空気がひんやりと冷えることを
ほら、今宵もまた足音が聞こえてきたよ……
ひたり、ひたひた……ひたり、ひたひた……
キャァ――――――!!!!】
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
洞窟の奥から男の悲鳴が聞こえる。
「お許しください!お許しくださいムー様!!」
男は這いつくばりながら、ムーと呼ばれた一つ目の覆面を被った何者かにすがる。
「ドウマン、お前が転移させた男が『口裂け様』に接触したそうじゃないか」
「あやつは話せばわかる奴で!!必ずやこちら側に引き入れます故!!」
「信用ならん!『口裂け様』が誕生して21年。もうすぐ我らの宿願が叶うというのに!!」
一つ目覆面の男が右手をドウマンに向けると、右手から黒い靄が現れる。
「そ、それだけは!それだけは――!!」
「残念だよ。アシヤドウマン」
ムーは左手で覆面を取る。
「!!!!?あ、あなた様は……そ、そんな!!」
ムーは呪文を唱え、ドウマンに向けて黒い靄を飛ばした。
「フリーメイソン!!」
「ぐぐががががぁぁぁぁぁ!!!!!」
ドウマンの体が闇に吸い込まれる。
「ぁぁぁぁ………………」
やがて、ドウマンの姿は跡形もなく消えた。
「ムー様、良かったのですか?ドウマンはまだ使えたのでは?」
同じく一つ目の覆面を被った人物が話しかけてくる。今度は女性の声のようだ。
「かまわん。『百鬼夜行』の終着点へ行くぞ。間に合わなくなる……『再三再四奇奇怪怪』への扉に……」
二つの影は闇に紛れるように消え去った。
その頃【英雄の村 ユシャイルーン】
「オギャア!!オギャア!!」
「また生まれた!?お――!!エリッサ!がんばったな!男の子と女の子の双子だ!!」
タンクがエリッサの手を握る。
「そっか……よかった。さすがに初めて死ぬかと思ったよ……」
エリッサは目に涙を浮かべながら生まれてきた我が子を眺める。
「不死身の勇者エリッサも出産には敵わないか!ハッハッハ!」
タンクは大声で笑った。
「ぶ~!本当に大変だったんだからね……パパ」
「お、おう……無事でよかった。愛してるぞ」
パパと呼ばれ、タンクは照れながらもエリッサのがんばりを労った。
勇者が男女の双子を授かった吉報は大陸全土に知れ渡り、人々に希望と活力を生み出した。
【マスキ邸宅】
ガチャガチャ!
「勇者様が……男女の双子を授かったようです!」
バタン!
玄関の扉を閉まるより早く、メイドのコックリさんが珍しく慌てた様子で吉報を伝える。
「まぁ!素敵!」
台所でお皿を洗っていた妻のフローラが手を止めて喜ぶ。
「ガハハ!こりゃめでたい!!どれ、酒を追加しよう」
作戦会議という名目で遊びに来ていた騎士団副団長オヤジーノが空になったコップに酒を注ごうとするが、酒はすでに空だった。
「ありゃ?」
「これは一大事!すぐに酒とおつまみを調達してきます!」
同じく遊びに来ていた俺の部隊の特別隊員トイレット・スリーノック・ハナフォサンが寝転んでいたソファーから立ち上がる。
「その必要はない。宴会は終わりだ。ほら、帰った帰った」
俺は立ち上がり、飲み食いの後始末を始める。
「なんと!残念!」
オヤジーノが両手を頭の上に乗せ、残念がる。
「マスキ部隊長!片付けなら自分が!」
俺より先にテーブルの上の皿をかき集めるハナ。
それにしても、ひとりが好きだった俺が、まさか自宅パーティーをするまでになるとは、二度目の人生、何があるかわからないものだ。
「フローラ、自室に行っている」
「はい!マスキさん!」
俺はフローラに一言告げてから、自室に入った。
カチャ。
「コン!」
自室に入ると、待ってましたと言わんばかりに、白狐のクスノハが俺の体をよじ登り、いつもの定位置(俺の頭の上)でくつろぐ。クスノハは転生前の俺の元嫁だ。
「均衡が崩れたな」
俺はそのまま椅子に座ると、頭の上のクスノハに話しかけた。
「勇者の出産は想像以上に人間どもの希望の光になったようね。光が強くなると、影も濃くなるものよ。気をつけなさい」
クスノハが話す。
やはりか。
俺は少し考え込む。
転生前に俺は怪談話『口裂け女』を観客に話している最中に呪われ、転生した。
もし、転生したこの世界に『呪い』も一緒に連れてきてしまっていたら……。
この世界の『怪異』『都市伝説』『怪談話』『妖怪』、どれも俺のいた世界と酷似している。
魔王と呼ばれるほど力をつけてしまった『口裂け女』。
俺はまた、奴に殺されてしまうのだろうか?
ふにぃ。
「なぁ!?」
考え込む俺に、人の形に化けたクスノハが自慢のおっぱいで俺の顔をはさむ。
「ほれ、元気でたか?考えすぎはよくないぞ」
「クスノハ!俺にはフローラという良妻が!!」
椅子から立ち上がり、クスノハを振り払う。
「なんじゃ、連れないのぉ。バレない浮気は浮気ではないぞ。まぁ、お主が転生前に浮気をしていたら、死んでも呪い殺すがな」
怖い怖い怖い。普通、呪い殺すのは死ぬまでだろ!死んでも呪われるなんて、クスノハが言うと冗談に聞こえない!
「クスクス、相変わらず感がいいのか悪いのかわからぬ男よ。お主も気づいておろう、妙な連中が動いているのを……」
「ああ、晴明から聞いたよ」
転生前に俺の息子だった晴明と話した。
晴明は「イルミナティに気をつけろ」という言葉を俺に伝えた。
いつの時代も秘密結社のひとつやふたつあるものだ。別に不思議ではない。
問題は、何を企んでいるのかだ。
魔物の大軍行進『百鬼夜行』。
勇者の出産。
魔王『口避け女』。
国王 オカルティ・アトランティス・ムー
いくつもの点が、線になる感覚。
ふにぃ。
俺の視界が再びクスノハによって遮られる。
「だ――!!だから!おっぱいで顔を挟むな!!」
「なんじゃ、嬉しいくせに。難しい顔をして探偵気取りをしておるからじゃ。お前さんは怪談師だろ?」
クスノハの言葉に目が覚める。
そうだ、俺はただの怪談師だ。
探偵でも勇者でも英雄でも何でもない。
だったら、俺がやることは決まっている。
大切な人の……笑顔を守る!
「クスノハ、ありがとう。行ってくる!」
俺はクスノハに礼を言って部屋を出る。
「……また死ぬではないぞ」
クスノハの寂しげな言葉が耳に残った。
<つづく>




