『赤いフードの女の子』【怖さ★★★】
【あなたは知っているでしょうか
生まれ変わって世界が変わっても空気は変わらないことを
あなたは知っているでしょうか
常闇のモノが姿を現す時、空気がひんやりと冷えることを
ほら、今宵もまた足音が聞こえてきたよ……
ひたり、ひたひた……ひたり、ひたひた……
キャァ――――――!!!!】
北へ向かう俺達に赤いフードを被った女の子が話しかけてきた。
「あ、あの……。お願いします!食べられたおばあちゃんを助けてください!!」
女の子は目に涙を浮かべながらフローラに向かって叫ぶ。
白銀の鎧に大きな剣を帯刀しているフローラは剣聖と知らずとも名のある剣士とわかる。
「詳しく話を聞かせてくれ」
フローラは跪き、女の子と同じ目線になると、親身になって話を聞いた。
「突然、魔物が村を襲ったの……。おばあちゃんが食べられちゃったの!でも、おばあちゃん生きてるの!魔物の口からおばあちゃんの声が聞こえたもん!」
赤いフードを被った女の子は流れる涙を指で拭いながら話した。
「なんて、酷い。マスキさん!行きましょう!」
フローラが俺を見る。
「ああ、急いだほうがいいな。たぶん『大噛み』だ。巨漢で、人間を丸のみして、ゆっくりと溶かして食べる魔物だ。お嬢ちゃん、おばあちゃんが食べられたのはいつだ!?」
「昨日の夜……」
「だとしたら、消化が始まるまで遅くてもあと半日の猶予しかない!急ごう!」
俺達は女の子の案内で村へ急いだ。
【崩壊した村 グリム】
「酷い有り様ね……」
フローラが村の惨状に目を覆う。
家は焼け落ち、所々に食い散らかされた人間が放置されていた。
『おぉぉぉぉぉ――!!!!』
魔物の雄叫びが聞こえた。
「あ、あいつだ!おばあちゃん食べちゃった奴!」
赤いフードの女の子は3メートルはある巨漢の魔物を指差す。
「デカイな。だが、あの大きさのお陰で婆さんが助かってる可能性がある!いくぞ!」
俺は捕縛の札を奴の足下へ投げる。
『ぐぉ!?おおお――!!!!』
「よし!動きを止めた!!フローラ!中の婆さんに気をつけながら腹を切ってくれ!難しいが、できるか!?」
「マスキさん、任せてください!」
「お姉ちゃん後ろ!!」
女の子がフローラの後ろを指差すと、2メートルほどの巨漢の『大噛み』が口を大きく開け、フローラを丸のみにした!!
「え!?きゃぁ――!!!!!!!!」
『ごくん!!ぐふふふふぅ――!!』
フローラを丸のみにした大噛みは腹をパンパンと叩きながら満足そうだ。
「お姉ちゃん――!!」
「やばい!離れろ!」
俺は、叫ぶ女の子を抱きかかえて距離を取る。
「お兄ちゃん!お姉ちゃんが!!!!」
「フローラなら大丈夫だ!!それより、近くにいては危ない!!」
『ぐふぅ!?』
ズップゥ!!!!
突如、大噛みの腹から剣が飛び出た!
フローラが中から切ったのだ!
ズバ……ズバババババ――ン!!
『グギヤアアアァァァァァ…………』
次の瞬間、大噛みの腹が切り刻まれて弾け飛ぶ!
「ううう……ふふふ……」
中から服が溶けかかったフローラが出てきた。
「お姉ちゃん!!」
赤いフードの女の子がかけよる。
「うふふふ……私を丸のみにする屈辱……許さんぞ……許さんぞぉぉ『大噛みぃぃぃ』――!!」
ヤバい!フローラがキレている!服が溶け落ち、裸に軽鎧のみの恥ずかしい格好になっても、体を隠そうとしない。だが、女の子の婆さんも心配だ。
「ふ、フローラ、あっちの……女の子の婆さんを飲み込んだ大噛みを……」
「ふふふ……任せてくださいマスキさん、八つ裂きですね!」
いや、そんなことは一言も言ってない!
「ふふふ……ふふふ……」
フラフラと3メートル級の大噛みに近くフローラ。
『ぐぉぉおおおお――!!!!!!!!』
俺の捕縛の札で身動きのとれない大噛みは激昂している。
「ふふふ……お前さん、どうしてそんなに大きなお耳をしているの?」
ズバ――ン!!!!
フローラは大噛みの耳を切り落とした!
『ぐわぁぁ!!!!』
「お前さん……お前さんの鼻はどうしてそんなに大きいの?」
ズバ――ン!!
『ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
次は鼻を切り落とす。大噛みは耳と鼻を切られてうずくまる。
「ふ、フローラ……さん?」
鬼と化したフローラに声をかけるが、彼女の耳には届かない。赤いフードの女の子は俺の足にしがみついてガタガタ震えている。
「え~ん!お姉ちゃん怖い……」
「うふふ……お前さんの足は、どうしてそんなに大きいの?」
ズバ――ン!!ズバ――ン!!
『ぐわぁぁぁぁぁぁ…………』
両足を切られた『大噛み』は余りの激痛に気を失う。
「うふふ……お前さんのお腹は、どうしてそんなに大きいの?」
フローラが剣を天に向け、大きく息を吸ってから叫んだ……。
「私を飲み込むためかぁぁぁぁ――――!!」
ズバババババ――――ン!!
フローラが『大噛み』の腹を切り刻むと、中から婆さんが出てきた。
「う、う~ん……おや?ここは?」
良かった!婆さんの意識はまだある。
俺は急いで婆さんに駆け寄り、回復の札を貼る。
「おばぁちゃん!おばぁちゃん!え~ん!!」
赤いフードの女の子が泣き叫ぶ。
「おやおや、ズキンかい?心配かけてごめんね」
赤いフードの女の子の名前はズキンというらしい。婆さんはズキンを抱きしめた。
「あ、あれ?きゃぁ――!私、なんて格好を!!?」
フローラが正気に戻って、服が溶けていることに気づき、うずくまる。
「フローラ、よくやった。しかし、人を丸のみにする『大噛み』の大量発生か……。魔王が関係しているのか?」
俺は来ていた羽織をフローラに被せながら不穏に淀む空を眺めた――。
<つづく>




