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魔法世界の解説者・完全版  作者: ウッド
隻腕の龍戦士編
36/36

6話 「ゴルド王国の滅亡への足音」

地龍を倒したエレンとシーナ。


このまま亡骸を放置するのは、やはり同族として忍び無いので墓穴を掘り埋葬して墓石を建てた。

そして墓石を建立した瞬間に地龍の身体は地脈の一部となり消滅したのが分かった。


「・・・エレンさん・・・この龍は転生出来るのでしょうか?」


「・・・正直厳しいと思うわ。

天命を完う出来ずに地脈に魂まで取り込まれて消滅したから」


「そうですか・・・」

何となく分かっていたが倒した地龍は「魂の研鑽」がされていなかった。

魂を持つ者全てが転生出来る訳で無く、ある程度の業(良くも悪くも)が無ければ転生する事は出来ない。


もしかしたら地龍は何者かにずっと操られていただけなのかも知れない。

そう思ったシーナは・・・


「願わくば、新たなる魂にならん事を、そして次こそ天命を完うせん事を」

墓石の前で手を前で組み、自分が倒した地龍の魂の再構成を願うシーナ。


「・・・・・・」

目を瞑り祈りを捧げるシーナは、どこか神々しく、やはりシーナは女神から産まれた者なんだと思うエレン。


ちなみにシーナが持っていた幻神としての神格は既に失われている。

別段、女神ハルモニアに対する執着心を持っていなかったのでユグドラシルと融合した際に神力を捨て人間の身体と地龍の力を全面的に受け入れた為だ。


『シーナはもう少し、お母様に興味を持ってくれても良いと思います!』

アッサリと母親由来の神格を捨ててしまった娘が冷たくて悲し過ぎる本体女神ハルモニア。


「幻神は存在が曖昧なので嫌です」


『がぁああーーん?!?!』


まぁ、・・・「幻」だもんね。幻神とはぶっちゃけると残り霞女神である。

それに1000年近く放置された挙句に本体女神からの情け容赦の無い『女神ビーム」の巻き添え乱射を食らったらシーナも幻神として存在する事に嫌気が差しても仕方ない。


この様にシーナの魂はリスタート状態なのだ。


地龍への法要??を済ませたシーナは、「じゃあ帰りましょう!」とエレンに笑い掛ける。


「そうねぇ、帰ったら大騒ぎだわ」

はぐれ者だったとは言え地龍討伐を果たした2人には地龍達より審問を受けるのは確実だ。


軍港へ帰ると冒険者達の陣屋の前でシーナとエレンを待っていたガイエスブルク。


2人が入り口の前まで来ると頭をかきながら、「お前大丈夫かよ?」とシーナを心配するガイエスブルク


「・・・地龍君」とシーナがそっとガイエスブルクに抱きつく、

「まあ・・・なんだ・・・お前は良くやったよって、えええええ??!」ギュウウウー!!!

ギュウギュウギュウウウ「おっお前?ちょ?」思い切り締め付けて来るシーナから離れようと踠くガイエスブルク。


「地龍君!好きぃいいいい」「いやお前!メチャクチャ元気じゃねえか?!」

ギュウウウ!ギューーーーーーー!!「ちょっ?締まってる締まってる!!」

「離れたら嫌あああ!!」「やめい!これ以上締めんなあ!背骨が折れる!」「好きぃいい!!」


フッとシーナの動きが止まり悲しそうにガイエスブルクを見る。


「地龍君は私の事が嫌い?」と瞳をうるうるさせるシーナ。


「いやっ?、好きだけどよ・・・それと背骨が折れるのは違うだろ?」

ガイエスブルクの顔は真っ赤だ、照れていると言うよりは生命の危機を迎えて顔が赤くなっていると言うのが正確だろう。


ガイエスブルクを締め殺せそうなんて・・・シーナよ?強く・・・なったのだな。


「本当?!嬉しい!大好きぃいいい!!」「だから!やめーーーい!」シーナは更にガイエスブルクに抱きついた。


「2人とも・・・子供を作るのは成人してからだよ?」と笑顔のエレン。


「子供云々の前に本日2体目の地龍がシーナに討伐されそうだっての!!ぐえええええ?!?!」


現在ガイエスブルクを締め付けている力は7000k.Nだ!地龍の力って凄え?!

圧力としては大体重量の7倍くらいかな?


「冷静に過重積算してんじゃねえ!!いやごめんなさい!折れる!折れます!

そして何かが口から出そうです!」


「楽しそうな所悪いんだが・・・そろそろ報告いいか?」

そんな3人の後ろには呆れた様子のイノセントが立っていた・・・


「あっはい」一瞬で冷静になったシーナ達は冒険者の陣屋に入って行く。


そうして戦闘の経緯をイノセントに説明が終わると・・・

「ピンポイントでシーナとエレンの所に向かうたぁ、運の無い連中だな」とイノセントは笑う。


イノセントの説明によるとシーナ達の所以外の他の場所にも魔導砲兵士が15ヶ所に渡り砲撃を仕掛けて来たが警戒していたヴィグル軍の部隊に全て撃退されたとの事だった。


シーナ達の所に来た地龍の2体が敵の大本命でこちらの陣内で地龍を暴れさせて混乱させている所をゴルド軍の本隊が戻って来て襲う手はずだった。


「で?シーナ。お前は大丈夫か?」


「大丈夫か?大丈夫で無いか?で言えば大丈夫です。

やっぱり思う所はありますけどその事をいつまでも気にしていては死んじゃいますからね」


「そうか、本当ならこんな同族同士の殺し合いの事態は避ける為に後方偵察任務にしたんだが・・・

向かうがわざわざ来ちまったからな、奴らの自業自得だろうな。


・・・しかし今後も龍種との戦いに俺はお前達を使う気は無い、今回の様な遭遇戦でも起こらない限りな。


次に龍種が来たら俺が戦うからお前達は逃げろ」


つまりイノセントは自分は龍種とも互角以上に戦えると言い切っているのだが、彼は本当に何者なのでしょうか?(すっとぼけ)


「・・・その理由を聞いても良いですか?」とエレン。


「同族殺しを専門にやらせたくないから、と冒険者の先輩としての思いも確かにあるが、1番の理由は龍種が龍種を殺すと勝った方に何かしらの快感を覚えるらしく癖になる見たいだからだ。

今回ゴルドについた龍種の中にもそう言う奴もいるだろうな」


「快感ですか?」殺戮欲求の話しになりエレンが顔を顰める。


「正確には強い相手と戦い、そして生き残る達成感に酔うと言った表現が正しいのかもな?


お前達も自分達より強い俺に稽古をつけて欲しいと、そして勝ちたいと思っているだろ?

その考えを最悪に酷く歪ませた形だ。


当然人間にもそう言う感情はあるんだが龍種、特に地龍にはそれが強く出るらしいな」


「俺なんとなく分かります」

ガイエスブルクには過去に魔族に捕まり使役された苦い経験が有りシーナやエレンより修行に対して熱心に取り組んでいる。


「ガイエスブルクの感情は殺戮欲求とは別物だ。

お前の場合は男としての尊厳だ。そこは大事にしろ。

むしろその尊厳の感情こそが戦闘狂にならなくて済むからな」


「はい!」


「そして今回のシーナが受けた感情は「深い悲しみ」だ。お前は戦闘狂にはならないが心が壊れる可能性がある。

後でエレンとガイエスブルクに散々と甘えておけよ?

ああ、子供作るのは今回の事が終わってからな、任務中にやらかしたら罰金取るからな」


「!!!そんな事しません?!」シーナの顔が赤くなる。


「えー?本当かー?」ニヤリと笑うイノセント


「多分・・・しませんよ?」自分の暴走癖を知ってて完全に否定できないシーナ。


「まあ、今日の所はこんな所だな。

お前達の今日の活躍は大きな評価を受けるだろうから期待しておけ。

本当に良く頑張ってくれた感謝する!お疲れ様!」


「「「はい!」」」


こうして幻夢の初陣は勝利で終わった・・・

シーナにとっては今までの世界観から考え方の根本まで全てを変えられた出来事だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



パンツィトワ河川一帯での一戦以降、管轄区にゴルド軍の姿は無く軍港に駐留しているヴィグル軍は再編成を急いでいた。


そんな所に別の戦線で珍しく前線に出て来たゴルド国王が率いた親征本軍がヴィグル帝国皇帝が率いる親征本軍が決戦の末に敗退したとの一報が入った。


報告によると激突した親征本軍同士の決戦は、ゴルド王国軍52000名、ヴィグル帝国軍45000名で平野で大軍同士が展開する正しく天王山の激戦だったとの事だ。


平地での戦いで数の多いゴルド王国軍が絶対的に優勢だったはずが半日でゴルド王国側が壊滅して敗走したらしい。


ゴルド王国側にかなりの死傷者が出たらしく前線での再編成が不能になったゴルド王国軍は早々に王都に撤退したらしい。


親征本軍が引いた事で各戦線でも混乱や停滞が始まりゴルド軍の全面崩壊が始まった様子だ。

ヴィグル帝国軍内でも反転攻勢の機運が高まる。


「なんで数で優っていたゴルド本軍は敗北したのですか?」


今日も今日とてシーナはイノセントに対しての「なんで?なんで?」攻勢を行なっている。

最近は毎日の質問攻撃が恒例行事になりつつある。

面倒見の良いイノセントがきちんと問いに答えてくれるからだ。


分からない事は、分かる人に聞く事を覚えたシーナなのだ。


「1番の理由は味方の寝返りだな、開戦直後にかなりのゴルドの中小貴族家がヴィグル側に寝返り門閥貴族達の陣に襲い掛かったらしい。


そんな事が各戦線のゴルド軍陣営内部で多発してヴィグル軍の本軍がゴルド本軍と接敵した時は既に勝敗は決まってたらしいな」 


「戦況は優勢だったのになんで中小貴族家は寝返ったのですか?」


「戦況が優勢だったの兵力だけだ。

実際にはゴルド国王の偉大なる威光のおかげで中小貴族の士気は最初からガタ落ちしていた。


何せ彼らは今回の戦争に使う資金や物資を強制的に徴収されていたからな」


「ええ?!国が地方自治体の財力をアテにして戦争を始めたって事ですよね?

・・・そんな珍妙な事もあるんですねぇ」


日本の関東に例えると、横浜市とさいたま市と千葉市と前橋市と宇都宮市に強制的に資金の出させて東京でオリンピックを開催します、でも自分達のお膝元である東京は一切お金を出しませんって所かな?

そんな事をすれば関東一円のみならず日本各地域から間違い無く猛烈な反発が来るのは必至だろう。


普通の民主主義国家なら間違い無く政権が飛ぶ暴挙なのだが独裁国家と言うのは得てしてそう言う理不尽な事が現在でも結構起こります、


話しを戻しましょう。


「ゴルド王国の中小貴族は王家と門閥貴族の奴隷な様な物だからな。

ヴィグル帝国からの寝返りの調略の効果も当然あったが、やはり地方領主は自分達の家と領民を守る事を優先した訳だ」


「国は珍妙ですがゴルド王国の地方の領主さんって意外とまともなんですね?」


「お前・・・珍妙って・・・確かにそうだな。

でも政治形態が独裁国家が完全な「悪」でも無いぞ?「トップが優秀なら」って絶対条件が付くがな。

今回の様にトップが救いようの無いアホだったら国がガタガタになるってだけだ。


実際に前ゴルド国王は強権主義者だったが何だかんだ言っても優秀でピアツェンツア王国やヴィグル帝国とも裏では上手く付き合っていたからな。


前ピアツェンツア国王・・・つまりシーナの爺さんな。

亡きカイル国王とも若い頃から友誼を結んで、途絶えていた両国間の貿易を再開して結構ゴルド王国は発展していたんだ。


しかし前ゴルド国王は次の要になる後継者を育て切れなかった。

具体的な失敗は、とてもとても優秀な今の国王を政治的に排除しなかった。


今の国王は5男坊で後継者としては前国王も眼中にも無かったから、せめてとの親心で好き放題にやらせたのが不味かった。


上の兄弟がそれぞれの地方で陣取って権利争いをしている間に首都に残って牙を研いでいたんだ。


門閥貴族にとって都合の良い傀儡を演じて味方を増やして前国王が倒れた時には大半の門閥貴族はアイツの味方になっていたと言う寸法だ」


「今の国王さんが前の国王さんに何かしたんですか?」

要するに暗殺を仕掛けたのか?と言う事だが?


「いや、おそらくそれは無いな。

アイツは極度のファザコンだったからな、付きっきりで看病したらしい。

倒れた原因は子供の頃から持っていた持病の肝臓疾患が年齢と共に徐々に悪化して心臓の合併症を引き越したらしいな」


「お父さん思いの人で良かったです」

結構、家族の絆にこだわるシーナは他人の事でも父親殺しの話しは聞きたく無いのだ。


『ならシーナはもっとお母様にも優しくしてくれて良いと思います!』


「きゃ?!」


「ん?どした?」


「いえなんでもありません」


いや、パシリ女神とシーナは同一存在だったから・・・つーか聞いとったの?


「その優しさを兄弟にも向けられたら良かったんだがな・・・


結局、前国王はそのまま亡くなって葬儀が行われる事になって当時公爵だった長男が喪主を務めた・・・

ここでは問題は起きなくて兄弟全員大人しく葬儀に参加して滞りなく葬儀は終わった。

そんで次期国王も王太子だった次男坊に決まって何事も無く即位したんだ」


「あれ?王位を継いだのは長男さんじゃなかったんですね?」


「長男は公妾の子供だったし野心家じゃなかったからな。


葬儀が終わったら早々に公爵領に引きこもって、その後、弟達が起こした後継者騒動には不干渉を貫いた。

今もヴィグル帝国の侯爵になって健在だぜ?」


「ええ?!王族だったのにゴルド王国を見捨てたんですか?!」


「見捨てたと言うより、どんな形になってもゴルド王家の血筋を残そうとしてんじゃないかな?


その事を知った次男坊に謀反の是非と問う詰問状が届いた瞬間に領地領民諸共ヴィグル帝国に寝返った辺りは前国王の存命中からかなり入念に寝返り工作を進めていたんだろうな。


何せ長男坊の領地はヴィグル帝国との国境沿いに有ったからな。

長男坊の謀反を知りゴルド王国首都からの討伐軍が出発した時には既にヴィグル帝国軍が領都に入って防衛線を構築していたんだからな」


「あれ?そう言えば前国王さんって次男坊さんじゃないんですか?」


「今の国王が次男坊が即位した事実はおろか存在すら公式な記録から抹消させたからな。


公式な記録で言うと長男は「謀反により王家の系譜より抹消」、次男は「最初から居なかった」、三男は「病死」、四男は「事故死」って事になっている」


「本当にメチャクチャですねぇ?」


「門閥貴族や貴族院を抑えると歴史の改ざんなんざ簡単に出来るって訳だ。


それにピアツェンツア王国だってゴルド王国の事を偉そうに言えんからなぁ。

シーナだって被害者の1人だろ?」


「それは・・・まあ・・・はい」

ごく最近に貴族達の都合で王家から放逐されたシーナ。

シーナ本人は別に気にしていないが実際にはかなり酷い事をされている。


ちなみにピアツェンツア王国においてのシーナの公式な記録は「地方にて病気の療養中」と言う事になっており、今でもバリバリのお姫様として扱われているのだが、それを知る者は僅かなのだ。


僅かしか知らない理由は追々分かって来る。

と言うよりヤニック国王はシーナを王女として復帰させる気が満々だ。

この計画はシーナ自身が瓦解させてしまうのだが・・・


ここに居るイノセントもヤニック国王の計画を知っている者の1人なのだが知らんぷりを決め込んでいるだけなのだ。


「そんな訳で偉大なる国王陛下のおかげでもうゴルド王国の根幹は死に体だ。


ゴルド王国の地方領主達も今の内にヴィグル帝国に自分達を高く売る必要がある。

寝返るには今回の決戦が最も効果的な機会だと思ったんだろうな。


実際に彼らの功績は大きかった。

聡い中小貴族達は最早勝とうが負けようがゴルド王国の未来は無いと気がついていたんだろう」


「それをヴィグル帝国は受け入れるのでしょうか?」


「一応はな受け入るさ。

一旦は爵位と領地はそのまま安堵するだろうな。

あの皇帝はその度量がある、彼らもそれが解っていたから寝返った訳だしな。

しかし戦後も継続して彼らを信頼するかと言えば・・・このままだと信頼しないな」


「戦後にヴィグル皇帝は彼らから領地を剥奪すると?」


「それはそいつの働き次第だな。

戦後も一生懸命にヴィグル帝国に尽くすなら領地は真に安堵され更に加増も期待出来るし爵位も上がる。

あの皇帝陛下はしっかり者だから使える者は最大限に使うだろうな」


「ヴィグル皇帝はゴルド国王と全然違いますねぇ、これでもう戦争は終わりですかねぇ?」

イノセントの説明に満足したのか、「うーん」と、背伸びするシーナ。


「いいや、ゴルド王国が滅びるにはまだまだ血が必要だな。

特にゴルド王国の門閥貴族達と王族連中の大量の血がな。


ヴィグル皇帝は冷酷な人間ではないが、別にお人好しって訳でも無い。


最低でも降伏しなかった王家に連なる15歳以上の成年した者の処刑は絶対にやる。

無論、女も含めてな。


これが1000年続いたヴィグルとゴルドの戦争終結の最低ラインだ。

ゴルド王家も当然それは理解出来てるから今後は死に物狂いで抵抗して来るだろうな」


「・・・ゴルド王国側に付いた魔族と龍種はどうするんでしょうか?」


「魔族はとっくに逃げ出してるだろうな。龍種は良く分からん。

なんであれだけの数の龍種がゴルドに付いたのか動機が良く分からんからな。


コソコソと何かしている様だが直接こちらに明確な敵意を持って向かって来ている龍種は4、5人って所だ」


イノセントはこの時「何かしている龍種」に警戒を怠っていた・・・

その事が文字通り「世界を揺るがす惨状を招く」事になるのだ。


つまりこれから起こる事は全てイノセントが悪い、別に彼に責任は全く無いのだが連帯責任でイノセントが悪いのだ(熱い責任転換)



「これ始まる反転攻勢で冒険者隊と義勇兵隊はどう動くのですか?」


「義勇兵隊は既にヴィグル本軍と合流するべく準備中だ。


冒険者達は一旦ヴィグル帝国との契約を終了して報酬を払って貰って再契約の交渉だ。


つうか既に交渉は始まっている、報酬は明後日に全員に払われる予定だ・・・シーナ達はどうする?」


「契約内容を見ないと何とも言えないです」


「良いぞ慎重になったな」

イノセントはシーナの頭をグシャグシャにする、今日の質問攻撃は終了の様だ。


それからすぐにヴィグル帝国軍は冒険者との契約を終了させて今回の冒険者達の作戦は終了した。


シーナ達が受け取った金額は、延べ23日間で日本円換算で任務手当て175万円と地龍撃退報酬が3千万円、計3175万円相当の金貨だった、ガイエスブルクは転送魔法の使用料で85万円の追加報酬が出た。


通常なら一攫千金な所だが自己の貴金属での総資産が30億円を超えるシーナ達には飛び跳ねて驚く程でもなく微妙な表情になった。


それを察したイノセントからは「なんか別の武器とか魔石にするか?」と言われて、シーナはミスリルの戦斧、エレンは双眼鏡、ガイエスブルクは高品質の魔力増加のアクセサリーを貰い、残りのお金は1番金額的価値が低い双眼鏡だったエレンに渡した。


一連の報酬や後始末を済ませた冒険者はヴィグル軍との再契約の交渉だ。


ヴィグル帝国から提示された依頼内容は「強行偵察員」。

敵陣深く潜入して情報を仕入れる役どころだ。


今度は攻撃側になるヴィグル帝国軍にとって、今最も欲しい要員だ。

報酬も前回の3倍の金額を提示して来て、死亡時の遺族への補償金も高く設定されている。


そしてシーナ達はヴィグル帝国から手持ち可能な小型魔導砲3門と砲弾の支給を条件に了承した。

出発は5日後との事だ。


他の冒険者は妻子のいる者は大半帰国する事になったが全体の8割がそのままヴィグル帝国軍に残留する事になった。


この数字はかなり優秀で通常は半分も残らないそうだ。

誰しもゴルド王国が滅亡する事を察して勝ち馬に乗っかろうとしているのだ。


そして5日後、再編成と訓練を済ませたヴィグル帝国軍。


軍港駐留軍から出撃する人員は重装歩兵2500名、重装槍兵1000名、重装騎兵500名が主力になり、補給部隊2000名と輸送用馬車が1500両これに歩兵と槍兵が便乗する。


護衛に魔導砲騎兵300名、他通信兵、工兵、衛生兵など700名が随伴する。

以下7000名が軍港を守備していた軍から反転攻勢に参加する。


冒険者隊は700名、予定通りに強行偵察要員。


後はピアツェンツェア義勇兵3000名は途中まで軍港から出発する軍と同行した後にヴィグル本軍と合流後ゴルド王都包囲戦に参加予定だ。


残留軍は18000名は軍港と城塞の守備と援軍の為に予備戦力となる。


軍港に残るヴィグル軍の残存人数からも一連のゴルド軍の作戦は大失敗に終わった事が伺える。


シーナ達はイノセント直属の部隊に配属され帝国軍の中央隊に随伴しての進軍だ。

それに対して「これって私達の安全に配慮してくれたのですか?」少しシーナは不満そうだ。


「いや、しっかりと戦術的に考えた結果だ。

何かあったらお前達が飛び出さんとダメだし、奇襲なら1番狙われる場所だから余り安全なポジションではないな」とか適当な事を言って誤魔化すイノセント。


「なら良いですけど・・・」少し納得してないシーナ。


実際はガッツリとシーナ達の安全をヴィグル帝国は考慮しまくっている。


何せこの配属はヴィグル帝国皇帝からの勅命でもある。

密かにシーナ達の護衛の兵まで配属されている始末なのだ。


安全な後方からの偵察活動のはずだったのがまさかのシーナが龍種との遭遇戦を行ったと言う報告にヴィグル皇帝は一瞬気が遠くなった。


それも当然の反応なのだ。


公表されてはいないがピアツェンツェア王国の第一王女にして地龍王クライルスハイムの姫君だ。

本人が拒否しようが拒否しなかろうかが他国の偉い人達が放っておくはずがないのだ。


シーナが約3か月遅れでフィジーに到着したのも皇帝の胃にストレスダイレクトアタックしてきたのだ。


ちなみにシーナ捜索隊は、1か月到着が遅れの段階で出発してたりする。

しかも5組編成で探索の精鋭ばかりで。

しかし残念ながらシーナ達はその時はまだ龍都に居たのだが。


ずーと、シーナ達の相手をイノセントがしていたのもヴィグル皇帝が父の勇者仲間だったイノセントに頼み込んだからだ。


現在の若きヴィグル皇帝は過去の黙示録戦争時はまだ子供で父皇帝の友であった勇者イノセントに憧れていた。


そして勇者達に憧れて研鑽を続けた勇者の卵だった。


父皇帝が突如引退して(第二次黙示録戦争時に受けた怪我の影響)自らがいきなり皇帝になってしまって勇者の道は諦める事になった。


そして今現在でも影でワッセワッセと盛大に蠢いてる、とある魔王と、とあるエルフからの情報提供のおかげで龍種達の事情などにも精通している。


何だかあからさまな待遇の良さに不審を感じたシーナであったが、まさか裏でこんな大騒ぎになっていたとは思ってもいなかった。


どこかピアツェンツェア国王ヤニックと同様の不幸気質を感じるヴィグル帝国皇帝だが強く生きて下さいね!


「これ!軽くて凄くいい感じです!」とシーナがミスリル戦斧を振る!


シーナは新しいミスリルの戦斧に大興奮だ、それもそのはずだ。


何せソイツはヴィグル帝国が所有している国宝級の一品だ。

密かなヴィグル皇帝からの贈り物だったりする、贈った理由は主に自分の胃の為に・・・

「それを上げるから大人しくしていて下さいお嬢様!お願いします!」との皇帝の声が聞こえて来る様だ。


「これ凄えな」ガイエスブルクもアクセサリーの腕輪の高威力効果に興奮気味だ。


「へー結構良いじゃない」エレンも双眼鏡を覗いてウキウキだ。


ちなみに3品のお値段は日本円に換算して、しめて450000000円也・・・4億5千万円??!!


お値段的にも皇帝の胃にダイレクトアタックをかました様子だ。

胃に堪えて机に突っ伏す皇帝を見てイノセントは思い切り大爆笑していた。


本当に悪い兄貴分である。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




こうしてゴルド王国攻略軍の出撃の日が来た。


シーナがいる軍港から出発した部隊は特に襲撃を受ける事無く無事に反攻軍の主力がいる戦線に合流出来た。


ブザンソン丘陵攻撃の為に集結した混成軍団は3万人と大所帯になったので名将ガエル将軍が再編成している最中だ。


後にガエル軍と呼ばれてブザンソン丘陵攻撃の主力軍団になる。


司令官のガエル将軍はヴィグル帝国の5大侯爵の1人で今回の戦争でも数多くの武勲を重ねている名将だ。


ついでにシーナ達の事も皇帝から優遇を嘆願されている。


再編成後シーナ達が随伴して来た軍は第一旅団として編入されブザンソン丘陵の西に配備されて包囲網に加わった。


敵は何故か陣地を固め一向に打って出る気配はないのでシーナ達、冒険者達には休息の命令が出て皆がホッと一息ついていた。


そんな時にブザンソン丘陵に強行偵察出た部隊が帰還して来てシーナ達に救護を依頼して来たのだ。


「随分と怪我人が多いね」兵士の腕に包帯を巻いているエレンの顔が曇る。


2000人ほどの隊だが半数の者が負傷している。

だが幸い死者は少なかったらしい。


聞けばゴルド王国軍はブザンソン丘陵にかなりの要塞を築いて徹底抗戦しているとの事だ。


要塞は堅固で攻撃隊の指揮官は被害拡大前に撤退を命令したらしい。

予想される守備兵の数は8500名ほどだが練度が高く、確実に複数人攻撃して来るらしく第一防衛線の突破も厳しいとの事。


「今までとは違う敵だな」ガイエスブルクも負傷兵に包帯を巻きながら呟く。


「ああ・・・連中かなりしぶとい。

敵の塹壕沿いに更に柵まで作って俺たちが近づくと槍で突いて来やがる。


ハッキリとは見えなかったが塹壕は八角に掘られてで隙が少ないし部隊間の連携も強い、俺達は威力偵察が目的だったからすぐ引いたが、全軍での力押しだとヤバいな。

奴等はバリスタや魔導砲は明らかに温存している」 


ガイエスブルクが手当てをしている若い重装歩兵が前線の状況を教えてくれた。


「水とか食糧とかは持ってそうなの?」

別の重装歩兵の男性を手当てしているエレンが聞く、兵糧攻めとかは有効ではないか?との質問だ。


「多分たんまりと備蓄してるだろうな、あの要塞は数ヶ月前から用意していた物だ。

えらく作りがしっかりとしている、見えない地下施設も有るだろう、し井戸もしっかり掘ってるだろうな、水断ちや兵糧攻めは難しいだろうな」


「下手すれば隠れて屯田もしてるなあれは」

屯田、戦地での兵糧耕作である、ブザンソン丘陵地帯は元々が穀倉地帯なので屯田は容易に可能だ。


「敵将はゴルド王国の敗北を予感して準備していたって事でしょうか?」

兵士の顔についた血糊を濡らした布で拭いているシーナが訊ねる。


「丘陵守備隊長はジャコブ将軍だ。

かなり前から、いや開戦前から予期していただろうな、ゴルド王家3代に仕えた老練な名将だ。


この戦争の結末を予想していただろうな・・・

今の国王には嫌われてこんな辺境の守備を押し付けられちまったけどな」


「名将なのに嫌われるんですか?!」兵士の言葉に驚くシーナ。


「ははは、嬢ちゃんは若いな・・・名将だからこそだよ。

ゴルドの国王は自分より優秀な人間が側にいるのを嫌うんだよ自分の自尊心が傷つくからな」


「えー?そんなんじゃ国として成立しないじゃないですか?」


「だから今、ゴルドはこんな事になってるだろ?」と兵士は笑う。


「違いないな」と別の兵士も笑う。


人間の自尊心とやらが全く理解できないシーナであった。

地龍の自尊心は己れの中に向ける物で他人に向ける物ではないからだ。

そんな自分の自尊心だけで国を傾かせるゴルド国王に激しい嫌悪感を抱くシーナだった。


ガエル将軍から退却して来た強行偵察部隊をそのままシーナ達の所属する旅団に編入して引き続き負傷者の治療と休養をする様にと命じられた。


さりげなく精鋭兵をシーナ達の側にそっと配置するガエル侯爵であった。

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