表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法世界の解説者・完全版  作者: ウッド
隻腕の龍戦士編
34/36

4話 「初陣」

イノセントは部下から手渡された書類を見て「ゴルド軍が南に進軍?」と呟くと考えこむ。

イノセントもヤニック国王ほどでは無いが20倍の「思考加速」スキル持ちだ。


常人ではあり得ない速度で戦況の判断を行い、考えが終わり若い冒険者に、

「軍の司令官に伝えてくれ、敵軍の狙いはここ軍港だ。防御を固めるべきとな」

と正に今シーナ達が居る軍港への来襲を予測する。


「!!!了解しました!」と外に駆け出す若い冒険者。


「と言う訳だシーナ!ガイエスブルク!エレン!初陣だな!

お前達にも存分に働いてもらうぞ」

いよいよ敵が来るぞとイノセントが笑う。


「はい!了解しました!」一気に気合いが入った幻夢の3人。


「あー・・・ところでよ・・・パーティの名前なんぞもう「シーナ組」で良いんじゃないか?「幻夢」ってなんか呼び辛いんだよな」


きっ・・・貴様ぁ!我が夜8時間しか寝ずに一生懸命に考えた名ぉおおお?!


「嫌ですよ?!」なんて事言うんだ!て感じのシーナだった!良くぞ言った偉い!


さて、そんなどうでも良い事はさておき軍港内部が急激に慌ただしくなる。


軍港よりピアツェンツェアの戦艦5隻が緊急出航し沿岸線の警戒にあたる事が決まり水兵が甲板の上のそこらかしこを走り回っている。


そして動力機関に火が入り8隻の戦艦の排煙煙突から白い煙が上がり始める。


「ほへぇ?石炭なのに煙は白いんですね?」

確かに煙突から立ち上っている煙は綺麗な白色で石炭が燃えているとは思えない。


「何でも特殊な魔道具を使って清浄しているらしいぜ?

黒煙だと敵に位置がバレ易いし、風向き次第で煙が巻いて砲の照準合わせにも支障が出るからな」


「色々な物が開発されているんですねぇ」


ちなみにこの時代の軍艦の動力は「石炭水蒸気タービン」なので出航までに最低1時間は掛かる。


即時出航が可能な魔石動力の船も有るには有るが、大型艦の場合は費用対効果が悪い事が判明しているので戦艦には採用されていない。


タービンと言えば、かなり昔のラーデンブルク公国で・・・


「魔石エンジンがダメなら石油ガスタービンのエンジンを作ろうぜぃ」と、とあるグリフォンが軽く言いだして、とあるエルフが不眠不休で本当に石油ガスタービンを作らされた事があったのだが、燃料の補給問題からお蔵入りした事があった。


何で石油に問題が出たかと言うと・・・

地龍達が世界に埋蔵されている化石燃料について調べて見て分かったのだが、この魔法世界は石炭の埋蔵量はとても多く、反対に石油埋蔵量は少ない事が分かっており、龍種が軍事目的での石油採掘を制限している為だった。


ガイエスブルクが言った「特殊な排煙浄化魔道具」と言うのはこの時の石炭ガスタービン開発の時に同時開発された、気体ろ過装置の転用なのだ。


「へー?何でそんな凄い装置が500年も前に出来たんです?」


「えーと?お母さんに聞いた所によると・・・」母リリーの昔話しを思い出すエレン。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「石油がダメなら石炭からガスを作ろうぜぃ」


「だから超難問をポンポンと簡単に言い出すなぁ!大体何でガスにこだわるのよ?

石炭を直接燃やしたらダメなの?」


とあるエルフの言葉にとあるグリフォンは真顔になって、

「石炭を使っての水蒸気タービンの熱効率って知ってる?最新型でも最大36%よ?

それに対して石炭ガスの熱効率は平均でも60%よ?24%も勿体ないじゃん?」


と、「地球は日本の最新技術」を引き合いに出したモンだから。


「この世界じゃまだガスタービンも開発もされてないのに最新型もクソもあるかぁ!

そんなに言うなら毎回私に丸投げしないで発案者のアンタも開発作業を手伝えぇ!!

と言うか、事故って一酸化炭素中毒なったらどうすんのよ!」


次々に難問を繰り出して来る時代先取りグリフォンにブチ切れたマッドサイエンティストなエルフ。


結局この石炭ガス開発は「ガス生成時に大量発生する一酸化炭素がマジ危なくてヤベェ、つーか、そんな危ないブツを街中で研究すんじゃねぇ!!」と国から開発停止を言い渡されて中止になった。


「へ~?メチャクチャなグリフォンも世の中には居たモノですねぇ」

エレンからガスタービンの開発経緯を聞いたが、ほへぇ~?と他人事のシーナ。


いや・・・そのメチャクチャなグリフォンが、何を隠そうお前の妹なんだがな・・・


話しを戻して、残りの3隻の戦艦は軍港に留まり敵軍の動きに合わせての即応戦力にすると決まった。


ヴィグル帝国の駐留軍は、帝都から派遣された二個師団25000名強、その内連隊3000名は軍港の守備に残り22000名が向かって来ているゴルド軍の迎撃に向かう。


その他、海外からの協力部隊に幻夢を含む冒険者隊は現在1500名ほどが軍港に残る一部を除き全員が偵察任務にあたる。


軍港南にある小規模城塞に元々配属されていた地元の守備隊2000名はそのまま城塞に残り周辺地域の監視の役割を行う。


それに対するゴルド軍の総兵力は3個師団の生き残り5個連隊17000名と攻め手の割には少ない。



「国から貧乏くじ引かされたな・・・なら積極的に攻めて来ねえか?」

とイノセント思うが17000名の兵力はやはり脅威なので油断は出来ない。


現在の敵軍の先鋒隊の位置は軍港より北25km、3つの街道に展開しながら南下中。

明日には先鋒隊同士が会敵する予定だ。


会敵場所は軍港の北3kmにあるパンツィトワ川だ。両岸にお互いが陣を取る事になるだろう。


「敗戦ムード脱却の為の示威行為に駆り出されたんだろう」

現在のゴルド王国軍は一度も前線に出て来ない国王に不信感や兵站の補給問題も有り士気が低い。


それなのにゴルド国王がゲーム感覚で無茶な口出しをして来るので協力的だった独立領の軍は軒並み撤退しており兵力が足りておらず全面崩壊寸前だ。


なので今回は力押しはして来ないと思われるが、冒険者隊が敵軍に不審な動きがないか偵察監視をする。


万全とは行かないが、会敵予測が早かったのでヴィグル帝国軍はまずまず良い戦闘体制を築けたはずだ。


「今回、シーナ達は後方からの偵察だ。

先ず戦場の雰囲気に慣れろ、渡河しようとする一団がいればガイエスブルクに念話を遅れ。


ガイエスブルクは俺の指示を各隊へ念話で通達をする係だ。

良いか?油断だけはするなよ?」


「「「はい!!」」」


話しを終えた幻夢達は自分達のテントに戻り急いで戦闘準備をする。


シーナは偵察には不向きとして目立ちまくるプレートアームは外して普通の義手に取り換える。


胸の甲冑は外してレザー製の胸当てに変えて武器は背中に中剣、腰に短剣を装備する。


自慢の戦斧は茂みの中の移動に不向きなので置いて行く。


下はスカートから乗馬用の移動に適したズボンに履き変えて丈が膝近くまであるブーツは普通の軍靴に交換だ。


「私の今までの装備って全然、戦場では実用的な格好じゃ無かったんですねぇ・・・」

そだね、シーナはネタ装備感が満載だったモンね。


エレンもシーナ同様に完全に斥候用装備だ、不用な物は一切付けない。

残留するガイエスブルクは戦闘機会が無いと思われるので武器より魔力増強用のアクセサリーを多く装備する。


幻夢達が装備の着用を完了する頃になると外からかなりの重圧と緊張感がテントの中を包む、参戦を決めた日のノリノリ感は無く、全然気分が違う。


「やっぱり本物の戦場なんて実際に来ないと分からないよな・・・

何も考えて無かった2ヶ月前の俺を殴りたい」


自分でも考え付かなかった緊張感にガイエスブルクが苦笑する。


「私もよ・・・ほら」エレンが見せる手は震えている。


「フー・・・・・・」シーナは無言で深呼吸を繰り返している。



そして・・・


「各員奮励努力せよ!!出陣!!!」


軍団長の号令で外の22000名の兵士達が一斉に移動を開始する。


隊列を組み各隊毎にゆっくりと歩いているのだが2万人以上の完全装備の兵士が一斉に移動を開始すると地面がビリビリと小刻みに振動で揺れている。


感じる周辺の地脈の波動も今まで感じた事の無い悪い波動を放っている。

人々の怒り、不安、恐怖などを纏った負の波動だ、とても美味しく食べれる物じゃない。


しっかりと飯は現物を食えと言ったイノセントの言葉を思い出す。


「本当に戦争が始まるんですね」とシーナが呟く。


偵察任務とは言え未熟な「隻腕の龍戦士」の初陣が迫っていた。

初めての戦争を前に討伐とは全然違う異様な魔力の雰囲気を感じるシーナだった。


ヴィグル軍の後詰が出発すると今度はピアツェンツア王国から援軍として派遣されていた貴族軍1000名が出陣する。


「およ?陸軍も援軍に来てたんですね?」

ピアツェンツェア王国からは海軍だけの援軍だと思っていたシーナ。


「貴族からの要望が有って急遽編成された軍らしいぜ?」


「へ~?そうなんですねぇ・・・彼らは強いんですか?」


「うーん?感じる魔力からすると・・・個人としては結構強い人が揃っていると思う。

連携が取れているかは分からないけどね」


先の内乱騒動の時の汚名挽回の為に訳あり貴族家の者と従者を中心に編成されているらしく貴族特有の煌びやかさは有るものの悪目立ちはしていない。


編成内容に馬車が多いのは補給物資を守る役目だからだそうな。


「ほへぇ~?貴族の人達が良くそんな地味な任務を引き受けましたね?」

補給物資の護衛は重要任務だが目立たないので貴族は嫌うモノなのだ。


「自分達が「烏合の衆」だって自覚が有るんだろ?」


確かに気位の高い貴族が急拵えで集まっても統率的な行動は期待出来ないだろう。

それを自覚して後方任務に就くあたりは案外、戦術眼でも優秀な者が多いと予想される。


「あーほらシーナ、エレンお姉さん、冒険者隊も出ているよ?遅れると怒られるぜ?」


「あっ、本当ですねぇ、では地龍君、行って参ります!」


間違いなく軍港に潜伏しているだろうスパイ達に出発時間を悟られない様に小隊毎にバラバラに出発を始めている冒険者達。


「気をつけてな2人共」


「はい!」


「行って来るわねガイエスブルク」


地龍らしく見送りに時間など掛けずにアッサリとガイエスブルクを軍港に残して出発するシーナとエレン。


もうちょっと「離れたくない・・・ショボン」「俺もだよ・・・ショボン」とかの熱い仲間を思うやり取りが有っても良いと思う。


少し歩いて予定されていた展開ポイントに到達すると。

「じゃあ予定通りに自分達の偵察ポイントに移動してくれな?地龍の嬢ちゃん方」


「ふえ?!」「ええ?!」シーナとエレンの隊長から声を掛けられて驚く2人。

何故なら彼がハッキリと「地龍の嬢ちゃん方」と言ったからだ。


「何で私達が地龍だって知ってるんですかぁ?!」と言いたかったが既に冒険者隊は広範囲に広がり出していて隊長もポイント目掛けて自分達からドンドンと離れて行くので尋ねる事は出来なかった。


仕方なくシーナもエレンもこの件は保留する事にした。

と言うよりこの場所になると戦場特有の嫌なプレッシャーをハッキリと感じ始めてそれ所では無い。


《よおし・・・偵察隊前進しろ》

シーナ達の直属指揮官が通信魔道具を使い、前線付近に潜伏している冒険者達に前進命令を出す。


ちなみにこの通信魔道具はラーデンブルク公国製の魔道具で小型軽量の優れ者である。


とあるグリフォンが、「スマホ作って金儲けしようぜぃ」とか軽く言い出して、とあるエルフが「だーかーらー!すまほって何なのさ?!とりあえずアンタも手伝えぇ!」と涙目になりながら魔導回路を作り完成させた一品だ。


こんな感じに、とあるグリフォンは金儲けの為に色々な遺品を作ったのだった。


指揮官の号令で一斉に各自担当の偵察ポイントに散らばる冒険者者達。

シーナとエレンも目標地点に走り出す。


シーナとエレンの偵察ポイントは両軍が睨み合う川を挟んでヴィグル帝国軍側の茂みの中で戦場の中では比較的完全なエリアだ。


しかし龍種が襲来して地龍として戦闘になった時も考慮して他の組との間隔は広くなる様にイノセントが手配した。


驚く事に周囲の各隊にはシーナ達が地龍だと伝達済みなのだ。


イノセントが戦地において味方同士の重大な隠し事は部隊を全滅に追い込む悪いキッカケになる可能性があるからと盛大にバラしている。


話しを聞き他の冒険者達は思わぬ味方に龍種が参戦に湧き士気が急上昇した。

それを見越してのイノセントの戦術には夢幻も苦笑いだ。


そもそも今回は珍しい事に地龍側から冒険者ギルドにシーナ達の素性の正確な通達があったのも驚きだ。


根拠も自覚も無く人間の実力を見誤る未熟で傲慢なシーナ達を守る為に情報を全てイノセントに開示して彼に判断を任せる。

これが地琰龍ノイミュンスターが今回下した判断だった。


自分達以上に自分達の未熟な実力を分かってくれていた師匠に感謝する夢幻だった。


シーナとエレンが偵察ポイントに到着するや否や敵軍来襲の警鐘が鳴り響きヴィグル軍全軍に戦闘態勢への移行が伝わる。


そしていよいよゴルド王国軍、ヴィグル帝国軍の双方の軍団の先鋒部隊の本格的な布陣の開始だ。


両軍が展開を始めた時間は午後2時、天気は快晴。

森が深いが思ったより見通しは良くお互いに奇襲作戦が取り辛い状況なので数が多いヴィグル帝国軍に有利な状況だ


「こう言う時は前進を遅らせて少しでも状況が改善するまで待機するんだがなぁ・・・よっぽどゴルド国王の圧が強いんだろう」


不利な状況でも構わず突っ込んで来た敵軍に呆れるイノセント。


「ゴルド国王って馬鹿なんですか?」とても辛辣なガイエスブルク。


「馬鹿は馬鹿だが、度し難い馬鹿だ。

とにかく自分が1番目立ってねえと気が済まないタイプのな。


これで能力が有れば良いんだが、甘やかされて育った坊ちゃん王子で正直言って、あらゆる面で秀でた所は無い」

更に輪をかけ辛辣なイノセント。


「何でそんなヤツが国王をやっているんですか?」


「お約束の国王が病に倒れて王位継承問題の末にだ。


当時、体調不良が続いていた前国王の後継者を決めようとしていたんだが、「汚職撲滅」を国策に掲げて多少見どころがあった第一王子を疎ましく思った重臣達が「ダメ王子」な第三王子のアイツを傀儡国王にしようと「凡庸で野心しか無い」第二王子を第一王子にけしかけたんだな。


結果は前国王は病死、暗殺説も有るが病気で弱っていた所に息子達の争いが勃発した心労が祟ったんじゃねえかな?と俺は思っている。


第一王子は第二王子の手の者に暗殺されて第二王子は重臣達の手の者に暗殺されて重臣達は「国を乱した罪」で第三王子に処刑された」


「なんですかそれ?もう滅茶苦茶ですね」


「重臣達は第三王子の溢れんばかりの凶暴性を見誤ったんだな。


国王になったアイツは求心力を得る為に「長年に渡るヴィグル帝国との戦いに我こそが勝利する!」との旗印を掲げて西の大陸の掌握に乗り出した。


前国王が生前に行っていたヴィグル帝国との和平路線を撤廃して突然ヴィグル帝国に攻撃を始めた訳だ」


「それって上手く行ったんですか?」


「最初はそれなりにな?

例の如く北の魔族の支援や東方地方の独立領の連中も当初はゴルド側に付いたからな」


「ずっと不思議に思っていたんですが、東方の独立領は何でこぞってゴルド王国側に付いたんですか?」


「そりゃ単純に金の話しだな。

王座に座ったアイツは、最初の頃は気前良く盛大に独立領に金をばら撒いたもんだから独立領の領主達は戦争でもゴルド側に付いたらもっと儲けれると思ったんだろう。


しかし流れが変わったのは俺達、ピアツェンツア王国がヴィグル帝国側に参戦した時からだ。


つーかガイエスブルク・・・何で、そんな事も知らんの?」


今までのイノセントの話しは冒険者なら誰でも知っている事だ。


「うぐ!!すみません、その頃は龍都に籠っていまして・・・

ピアツェンツア王国艦隊が海戦で勝利した話しは聞きましたが、他の人間の事柄に地龍は興味が無く話題にすら上がらなくて」


「おーい?参戦するなら最低限の情報収集は怠るなよ?」


「すみません」


「まあ良い、その艦隊が海戦で勝利したピアツェンツア王国艦隊は中央大陸からゴルド王国への航路を封鎖してゴルド王国への食糧や武器の輸出を遮断した。


元々食糧自給率が低く食糧を中央大陸から輸入に頼っていたゴルド王国は一気に窮地に追い込まれて独立領の連中も「これはヤバい」って早々に兵士を引き上げたんだ」


「兵士を勝手に引き上げてしまってゴルド国王から制裁を受けないんですか?」


「そりゃ当然受けるだろうな。

ただまぁ、「ゴルド王国が勝利すれば」の話しだがな。

それにゴルド王国から攻撃を受けそうなら「今度はヴィグル帝国に付く」から簡単には東方の独立領郡は攻略されんだろう」


「・・・・・・何だか面倒臭い話しですね?」


「西の大陸のこの構図は年季入っているぜ?

何せ2000年近く続いているからな、独立領の連中も慣れたモンなのさ」


この西の大陸の構図とやらは「龍騎士イリス」で現在、話しが進行していますので気になる人は読んで見て下さい(熱い宣伝)


イノセントとガイエスブルクが話しをしている頃には布陣の終えたヴィグル帝国軍22000名とゴルド王国軍17000名はパンツィトワ川の両岸で対峙していた。


シーナとエレンはヴィグル帝国陣地西の川辺の茂みの中で息を潜めている。


敵陣にかなり接近する主力の偵察隊と比べると危険度は遥かに低いが突然の遭遇戦もあり得るので警戒は必要だ。


今回の戦闘はゴルド王国軍の示威行為の意味合いが強く全面的な戦闘には、なり辛いとの予想だが魔族やはぐれ龍種の横槍が入れば激戦になる可能性もある。


そうなると渡河を監視をしている冒険者隊は撤退して良い契約なので報酬金は高くは無い。


「緊張してる?シーナ」とシーナが少し心配そうなエレン。


心配してるエレンを安心させようと「そりゃしてますよぉ」と戯けて見せるシーナ。

実際は緊張してガチガチだ、これで前線に出てたらかなり危険だったろう。


「あっ始まった!」とエレンが叫びシーナが視線をそちらに向けると、エレンの声とほぼ同時に1kmほど先の両軍のバリスタ隊が撃ち合いを始めた。


前衛の盾を持った数名の兵士が倒れたのを龍眼で視認した。


「しっかりと矢の動きを見て!

バリスタは面制圧用の兵器だから必ず曲線を描いて上から来る!

矢が下方を向くと加速するからね!」

エレンがバリスタの矢の挙動を説明をする。


「はい!」


お互いにバリスタで15分ほど撃ち合うと今度は味方の剣士隊と敵側の槍隊が河の浅瀬で激突する!


ワアアアアアアアア!!ウオオオオオオオオーーー!!!!

鬨の声と共にキィン!キキィーン!!と武器同士がぶつかる金属音が戦場に鳴り響く!



「三列隊形の槍隊は一列と二列は突いてくるので無く上から叩いて来るのが基本!

突いて来るのは三列目だよ!」


「はい!」シーナは真剣に戦いを観察している。


「それでシーナはどっちが優勢に見える?」


「んー??・・・・・・・互角?ですかね?両方とも無理してない気がします」


「正確、敵の示威行為の戦闘だからね、相手からのパフォーマンスなのに、わざわざ命を掛ける奴は少ないわ」


「少ない?中には無茶をする人もいるのですか?」


「いるよ、敵が消極的な今なら武功を上げるチャンスだからね・・・ほら」


シーナが最前線を見るとギラギラした目立つ甲冑を付けた兵士が隊前列から飛び出して敵の前列に斬りかかった!


「ええーーー?!馬鹿ですか?!」シーナが叫ぶ!


「いや、アイツが腕が立つなら良い作戦だよ」


すると飛び込んだ兵士を中心にして半円を描いて敵の陣形が崩れ出したのが分かる。


これマジでビックチャンス!!!とばかりに後方で剣士隊の後ろで待機していたヴィグル側の槍隊が一斉にゴルド側の槍隊に突き掛かる!


その突き掛かった一角から今度はゴルド側の先鋒全体の陣形に乱れが生じてゴルド側の前衛隊が押し込まれ始めた。


「ふわー、あの人凄いですねぇ」


「戦場は一つの乱れが致命傷になる時があるからね。

それは私達、龍種にも言える事だからシーナもそこは充分に気をつけてね」


「はい!」


その後、3時間ほど戦闘は続き、ヴィグル軍が初期の優勢を保ちつつ防御的に戦った。


数に劣り早々に攻勢限界点を超えてしまいヴィグル軍前衛の突破を果たせなかった攻勢側のゴルド軍は退却を開始して、ヴィグル軍も渡河までして追撃する気は無い様子で両軍は離れて行く。


「あれ?勝ちました?」


「そうね、私達は守勢だからね、これで勝ちよ」


シーナが思い描いていた戦争とは違う感じだったらしい。

と言うのも、見た所ゴルド王国軍の被害が1割程度で死者も少なく思ったからだ。


シーナがエレンにそれを伝えると、

「負傷者の搬送に2人は取られるでしょ?それで3人が戦場から離脱になる。

攻勢側で10人中の3人の戦線離脱は「攻め手として勝ちの消滅」になるのよ」


「ほえ~?そうなのですねぇ・・・

・・・・・・・・・え?!なら何でゴルド王国は攻めて来たんですか?

これって最初から勝ち目が無かった?!」


「そうねぇ・・・何を考えてたのかしら?」


頭の中が「????」なシーナとエレンだった。


終始守備的に戦ったヴィグル帝国側の兵士は敵を討ち取るよりも怪我を負わせる事に主眼を置いて戦っていたのだ。

上層部からの圧が無いヴィグル軍の臨機応変な完全勝利と言って良いだろう。


敵が引き茂みで監視する意味が無くなったシーナとエレンは残存部隊がいないか偵察してガイエスブルクに「異常なし!」と通達してから前線から離れた。


安全地帯まで後退した2人は軍港までの道をテフテフと歩きながら。


「どう?初めての戦場は怖かった?」


「んー?遠くから見てただけだから大丈夫ですよー。

観戦しているだけで実感は戦っている実感が湧かなかったです」


いや普通なら観戦だけでもビビリ倒すモノなのだが、シーナの根性が座っているだけである。


すると前からギラギラした甲冑を付けた兵士が歩いて来た。

例の突撃した兵士だ、ガシャガシャと鎧の音を立てながら兵士は真っ直ぐシーナ達の前まで来て止まった。


「いや・・・何をしているんですか?マッテオさん??」

呆れた表情のシーナが半目で兵士に声をかける。


「あはははは、やはりバレますよね」

突撃兵士がフルフェイスの兜を取ると良く知ってる顔が出てきた。

同じ幻夢パーティーの1人、マッテオだった。


マッテオは笑顔のまま軽く溜息をつき・・・

「いやぁ、オーバン殿から近くシーナ殿達が到着するとの連絡があり待っていましたが3ヶ月以上も全く音沙汰が無いので凄い心配しましたよ」

そうマッテオが言うと、


「「すみませんでしたぁ!!」」とシーナとエレンが同時に頭を下げたのだった。


「え?え、ええ?いや・・・私は問題ないので大丈夫ですよ」

これまでの旅路で咄嗟に謝る癖が身についたシーナとエレンにドン引きするマッテオ。


何はともあれ、思わぬ幻夢のメンバーとの再会は嬉しい物だった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「それで?マッテオさんはどうしてここに?」


戦場から離れ軍港から500m先と小高い丘の上にある冒険者隊の連絡所に到着して帰還した報告を終え、任務完了したシーナ達は連絡所の休憩中でマッテオから経緯の説明を受ける。


マッテオ曰く、

「アスティ公爵家の名誉挽回の為に義勇兵として同盟国のヴィグル軍に参戦しています」との事だった。


現在は男爵家へ降爵しているアスティ男爵家だが、長男グイードの子供には公爵家を継げる余地がある。


アスティ男爵家の家長のグイードは内務省の文官として頑張って働いており、次男のオスカルは宰相のエヴァリストの元で書記官として働いている。


「兄達ばかりに働いてもらっては私も面目がないですからね」と笑うマッテオ。


ピアツェンツェア王国はヴィグル帝国へ艦隊の援軍は派遣しているが、被害が大きくなる可能性がある陸軍の派兵には地方領主の貴族達を中心に消極的だった。


それは自領の民に被害が出るからだ、そこで国が義勇兵隊を組織したのだと言う。


「強制力の無い義勇兵隊なら参加希望の家だけで組織出来ますからね。

やはり前回の事件で社会的に窮地になってる家の子息の参戦は多いですね」

と説明を続けるマッテオ


正規軍ではないが国が主導の義勇兵隊に参加すると王家の覚えもめでたくなる。


アスティ公爵家での事件で信用を落とした各家には名誉挽回のチャンスなのだ。

200を超える家門がこぞって参戦したとの事だ。


「なので手柄競争率が高いので、なるべく目立つ格好と言う訳でこの姿です」

目立つ為だけの特注品ですよ、と笑うマッテオ。


「はへー?なるほど、そう言う事だったんですねぇ~」


「ところでお二人は偵察隊なんですね?私は実戦部隊に志願すると思いましたよ?」


「「うぐっ」」エレンとシーナはマッテオの言葉に心のダメージを受けた!


笑顔でのマッテオの指摘に言葉に詰まるエレンとシーナ。

「うう~」と渋々と経緯の説明を始めると、

「そうですか・・・なるほど」とマッテオは一気に渋い顔になった。

正直マッテオも自分の力を過信していた所があったからだ。


「マッテオさんはこのまま義勇兵隊で参加を続けるのですか?」

今度はエレンがマッテオに聞く。出来れば幻夢パーティーとして同行して欲しいのだ。


「そうですね、今回は家が関係してますから、私も本来なら夢幻の一員として参加したいのですが我儘は言えませんね」


エレンの質問と意図を理解して苦笑いのマッテオ


「いえ!良いんですよぉ!とにかく家の方が大事ですよぉ」

シーナも残念そうだか、「貴族はお家が優先!」なのです。


それから外から観戦してて「ゴルド軍は外から見る分に何かやけにアッサリと引いた様に見えました」との感想もマッテオに伝えるとマッテオは少し考え込み、


「今回のシーナ殿達の感想は義勇兵隊にも伝えておきます。

私も含めて慢心にはかなりの警戒が必要ですからね。


ただ話しを聞き今回のゴルドの負け戦は何かのブラフな予感がして来ました。

今回の攻勢は囮で近いうちに本命の攻撃がありそうです」


マッテオは「思考加速」での分析結果をシーナ達に伝えるとマッテオは「ちょっと急いで義勇兵隊の陣地に戻ります!」と言って急ぎ足で駆けていった。


シーナとエレンも敵軍の再来襲が心配になりガイエスブルクに思念で連絡を取り「敵の本命の攻撃の可能性有り」との警戒を伝えた。


それを聞いたイノセントからは「十分にありそうだ、お前達まだ行けるよな?」と返信があり、そのまま川沿いの偵察を命令された。


そしてこのマッテオの懸念は3時間後に大当たりする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ