3話 「シーナとイノセント」
「それでは用事を済ませて必ず会いに行きますね、アメリアちゃん」
海龍のお祭りに参加して「昼過ぎ」に海龍王アメリアと別れる幻夢一行。
・・・・・・・・・・おい?昼過ぎ・・・だと??
「はい、お待ちしてますね、ユグドラシル様」
そう言ってユグドラシルの頬にキスをする海龍王アメリア。
「クライルスハイムのお姫様にわたくしの加護は効果が薄いと思いますが多少の役にはなりましょう」
「うふふふふ、ありがとうございますアメリアちゃん」
こうして海龍王アメリアから加護を受けたユグドラシル&シーナ。
アメリアは効果が薄いと言っているがとんでもない。
これで地龍王クライルスハイムの直系眷属に加えて天龍王アメデと海龍王アメリアの三龍王の加護に受けた事になる。
この恩恵により「龍使役」と言う三龍種をある程度(制限有り)なら強制支配出来る超絶スキルをゲットする事になる。
使い方次第では龍種を中心にした世界最強クラスの巨大勢力を築く事も夢ではないのだ!
だがしかし・・・
シーナもユグドラシルも自分のステータスやスキルを小まめに確認する習慣が無く、この超絶スキル「龍使役」を発見するのはかなり後にになる。
具体的には1番下の孫が成人した後に・・・
しかも・・・
「あれぇ?ユグドラシル?いつの間にか変なスキルがありますよ?
何でしょうかこれ?「龍使役」ですって?」
《あら?本当ですねぇ、・・・これは龍とお友達になり易くなるスキルですねぇ》
「ほへぇ~、素敵な良いスキルですね~」
こんな感じにスキルを発見したものの、既に前線から引退していて孫や曽孫が可愛いがる事が生き甲斐の天然ボケが極まって来ていたお婆ちゃんな2人は「友達作り」と言う本来の用途とは全然違う使い方をして、このスキルが世界的に開花する事は未来永劫無かったのだった。
まぁ、ずっと無意識で「龍使役」を発動させていたので、これから行く先々で龍の友達がたくさん出来るので無駄にはならないけどね。
「あら?そう言えば・・・」ここで何かを思い出すアメリア。
「?どうしましたアメリアちゃん?」
「今朝方、ピアツェンツアの軍艦が出て行きましたが、ユグドラシル様達は乗らなくても良かったのですか?」
「え?あれ?あれれ?」
「5時に出発です!」とか言っていたシーナが今朝方の4時を過ぎても普通に遊んでいたので17時(午後5時)の出発だと思っていたユグドラシル。
「アレ?出航は「夕方の5時」だったよね?」
ユグドラシルと同じ事を思っていたエレンがガイエスブルクに確認する。
「いや、説明を聞いたのシーナだったから・・・」
丁度、本日の出航の説明をシーナが受けていた時に書類を書いていたガイエスブルクとエレン。
ユグドラシルも契約内容をシーナの代わりに読んでいたので話しを聞き取れていなかった。
「シーナ?起きて下さい、出航は「夕方の5時」ですよね?」
ユグドラシルがシーナに確認する。
ちなみにシーナは「今朝方の6時過ぎまで」遊んでいて今は爆睡中だった。
《うううう~、ふにゃあ?え~と・・・「朝の5時」れふよぉ?》
完全に寝ぼけているシーナが答えるとユグドラシルの顔がドンドン青ざめて行く・・・
「「うわあああああ?!?!こらぁ!!シーナ!!」」
《ひゃああああああああ?!?!》
遅刻なんてレベルでは済まない、やらかしをしでかした幻夢だった・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お前らな・・・・・・・・・」
「「「申し訳ありませんでしたぁ!!!!」」」
フィジーの冒険者ギルドのマスターに頭の角度90°で謝罪する幻夢。
「まあ・・・正規の軍人じゃなく自由な冒険者だからな俺達は、しかし社会人として無断で約束を破るのはどうなんだ?」
「「「以後気を付けます!!」」」
年齢に関係なくCランク冒険者は「一人前」と見なされる。
Cランクになると国から様々な優遇を受けられる代わりに国庫に対する納税の義務も発生するからだ。
結構曖昧にして逃げる者もいるが真面目なシーナ達はちゃんと納税している。
社会人の観点から説教するギルドマスターは中々の手練だ。
事実、世界の覇者なはずの龍種の3人はギルドマスターからの説教でガチで凹んでいる。
それから3日後に補給を終えた戦艦に乗り西の大陸へと旅立った幻夢だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ピアチェンツア王国海軍の大型戦艦に乗り3日間、さすがにこのクラスの戦艦に喧嘩を売る者は馬鹿者は現われずに順調に西の大陸の仮設軍港に到着した夢幻だが・・・
「「「・・・・・・・・・」」」
乗って来た戦艦より前に出港した戦艦にドタキャンぶちかまして置いていかれた幻夢・・・
流石にメチャクチャ反省して落ち込んでる3人は無言でトボトボと冒険者達が居る陣屋へと向かう。
冒険者の陣屋に入った瞬間に巨大な気配を感じてハッとする。
シーナ達、幻夢の正面の机に笑みを浮かべた人間の大男が座っている。
「いや、マジで来るのが遅えよ」
男はシーナ達が何者なのか知っているのか楽しそうに笑っている。
「はい!輸送艦に乗り遅れてすみませんでした!」
3人は慌ててお辞儀をして冒険者ギルドの依頼書を提出する。
到着予定が当初より3ヶ月以上も過ぎているがシーナ達は冒険者だ。
自己の裁量で自由行動する者達なので「遅参」に関しては誰にも咎められる事はないのだが、「ヤバっ?!早くしないと!」との衝動に駆られる。
男は書類に目を通してそれを机の上に置き。
「この書類は有効期限切れだな、到着が遅れるなら再度ギルドの判を貰いなさい。
まぁ、俺でも判は押せるが次からは気を付ける様に」と一言。
「はっはい!」その一言でも背筋が伸びる!その背中に汗が落ちる!
それから3人は軽く頭を下げ「「「すみませんでした!!」」」と略式で礼をする。
彼とは厳密言うと上司と部下の関係ではないので略式の礼の方が失礼に当たらないからだ。
シーナ達の応待した男の名前はイノセント・クーガー。
Sランクの冒険者であり王都の冒険者ギルドのマスターだ。
年齢は30代後半で結構年齢はいっているはずだが普通に20歳前後くらいに見えてとても若々しい。
ある理由により実際の肉体年齢は本当に20歳くらいなのだ。
身長は190cmを越えて肩幅はシーナ5人分はある筋骨隆々の巨漢だ。
身体に纒う筋肉もとても分厚い。
穏やかそうに見える気配に全然底が見えない、地龍の3人は初めて見た人間の絶対強者に戦慄した!
エレンは素直に「絶対にこの男には勝てない」と思った・・・
正直に言うと若い龍種のエレンは自分達、龍種が世界最強の種族だと思っていた。
シーナもガイエスブルクそう思っていた、自分達は人間より強いと。
そしてそれは正しい認識だ、「例外を除けば」だが。
しかし前にいる男には自分達では絶対に勝てないと身体的、精神的、魔力的に全ての感覚が最大の警鐘を鳴らしている。
しかしこのイノセントと言う男・・・一体何者だ?!(またすっとぼけ)
「仕事の話しをする前に最優先事項だ。
ゴルド側にも少し厄介な奴等がいると報告が入っている。
いかに地龍の君達でも不覚をとりかねん相手だからな充分に警戒する様にな。
マズイと思ったらすぐに撤退する事だ、いいな!命より大事な物なんてないぞ」
イノセントの言葉に「!!!」シーナ達は直立不動のまま硬直した!
アッサリと龍種と見破られた上で自分達より遥かに強い者に「敵にお前達より強い奴がいる」とハッキリと言われたのだ。
ここで自分達の今までの認識がいかに甘すぎたかをようやく痛感した。
地龍王やノイミュンスターが今回こう言った「世界の裏側」の事柄を教えなかったのは実際に強者に会って思い知らないと理解が出来ないからだ。
事前に教えておかしな解釈をすれば命に関わる。
まぁ、その事はイノセントに会えば自ずと分かるだろうと・・・
「それは魔族でしょうか?」エレンが尋ねると、
「そうだ「スペクター」の1人だ。コイツも古参の実力者で強いぞ。
だが奴は、そろそろ引くだろうな、ゴルドとは損得勘定のみ関係だ。
俺も少し突いたが、俺の顔を見るなり戦わずにいきなり逃走されたよ。
問題は龍種だ、「はぐれ者」のな。
コイツ等は自分の意思でゴルド王国に手を貸している。
同じ龍種だからと情けなど掛けるなよ、死ぬぞ、向こうはコッチを殺しに来ているんだからな」
龍種の中にも当然、集団から離れた悪人もいる。
そう言う者は「はぐれ者」と呼ばれる。
「それからSランク冒険者もちらほらと金であちら側で動いている。
これに関しては文句は言えないな、俺達は自由民だからな。
多分ゴルド側の提示した金額の方が高いんだろうな。
だが君達はまだ戦うなよ~絶対に死ぬぞ、遭遇したら一目散に逃げろ」
暗にSランクの人間にもお前達では勝てないと断言されたのだ。
同じSランク冒険者の幻夢ことオーバンから圧力をあまり感じ無かったのは単に彼がめちゃくちゃシーナ達に優しかったからに過ぎない。
本気のスペクターとしてのオーバンを相手にしたらシーナ達は3分も持たずに皆殺しになるだろう。
「精神修行の為に戦場に行く」なんて馬鹿げた自分本意の愚考だろうか。
既に自分達は死地に立っているのだ、訓練どころか生きて帰れる保証なんてどこにも無い。
シーナはこの人間に龍戦士としての心構えを教えられてる気がしている。
「お前達はまだ弱いから無理をするな」と「それを受け入れるのも戦士」だと。
今までは強く優しく守ってくれる存在からの教えだけだったが、今のイノセントの言葉は同じ戦士としての心構えだ。
そこには「ここでは甘えなど一片も許されないー理解が出来なければ死ぬだけだから絶対に覚えろよ」と。
「御教授肝に命じます」とシーナは深々と頭を下げエレンとガイエスブルクもそれに続く。
それを聞き今度こそ本当に穏やかな気配になったイノセントは「やはりヤニックの娘だな」とニヤリと笑う。
「先ず君達の任務だが偵察だ。
偵察は死ぬと何の意味もないぞ、絶対に生き残って情報を持って帰って来い!
それから任務は2人ペアだ3人だと敵に見つかるリスクが上がる。
君達の中の1人は俺の所で情報の精査の任務だ。
人選は君達で決めろと言いたいが見た所ガイエスブルクが転送魔法が得意だな。
君には別の任務がある・・・これは拒否する権利が君達にあるがどうする?」
「その命令に従います」とシーナが即答する。
「よし!決まりだな、今日は休養だ、ゆっくり休んで体制を整えるのも仕事たぞ」
「「「了解しました!」」」
シーナ達が反発もしないでアッサリと人間の指示に従うのは命令に不備を感じないからだ。
余計なプライドなど地龍には無いので命令が正しいならどんな種族の命令でも従う。
「よろしい!君達を歓迎しよう」とイノセントはニヤリと笑う。
こうして運命と言える出会いは終わったのだ。
しかしこの後、シーナに「師匠」としてめっちゃ懐かれて生涯に渡り徹底的に取り憑かれる運命にある事をイノセントはまだ知らない。
シーナのこの「師匠」にめっちゃ懐く性格は、母方の「祖母」の性格を受け継いだからだね。
その後は手配されたテントで装備の点検をしつつ食事をする幻夢のメンバー、その表情は暗い、お通夜状態だ。
イノセントが、
「いいか?地龍でも食える時に「現物」を食って力を貯めとけよ。
敵には地脈を操る奴が居るからな、飯を断たれて直ぐに燃料切れになるぞ」と言われたからだ。
暗にゴルド側についている龍種は地龍でお前達の優位性は無いぞと言われたのだ。
「はあー、あんな人間がいるなんて・・・今だに信じられないぜ」
干し肉をかじりながらガイエスブルクが呟く。
「あの場で感知出来た範囲内でも私の15倍のエネルギーって・・・」
エレンが腕を摩る。
あっ、そうなんすね?イノセントって白銀龍エレンの15倍のパワーが有ったんすね?
やべぇなアイツ・・・
「私達って思い上がり過ぎてたんですねぇ・・・・」
シーナは手に持った干し肉をパクリと食べて「んん?!」と動きが止まる。
「あー最初は干し肉はキツイよな~塩辛いから」とガイエスブルクが笑う。
するとシーナが小刻みに震え出した?
「シーナ?きつかったら無理に食べなくても良いよ」とエレンが水を差し出すと。
「おいっしいーーー♪♪♪♪」とシーナが叫ぶ!おい!どうしたん?!
そうして干し肉を頭の上に掲げて「私こんなおいしい物初めて食べましたぁ!」と大興奮した?!
「「なんだってーーーー!!!!」」ハミングするエレンとガイエスブルク。
「なんで今まで誰もこんなに美味しい物を出してくれなかったんでしょうか?
私、これならいくらでも食べれそうです!これからは干し肉を主食にしますよお!」
「「なんだってーーーー???!」」と更にハミング。
そうして美味しそうにモッモッモッと干し肉を食べ出すシーナに・・・
「シーナの味覚って・・・」
「そういや煮物ばっかり食べてたよな」
「味の濃い塩辛いのが好み?」とエレンがしょっぱい顔をすると、
「シーナこれなんてどうだ?」とガイエスブルクがイカの塩辛を差し出す。
「なんかグニグニしてますね?」と不思議そうに塩辛をツンツンした後にパックンチョして、「おいっしぃーー♪♪」と大喜びのシーナ
「「やっぱりかぁ」
と納得するエレンとガイエスブルクだった。
「そう言えば子供の頃からケーキとか余り食べなかったものね」と、幼少期のシーナの行動に超納得したエレンだった。
後に地琰龍ノイミュンスターがこの話しを聞いた時の言葉は・・・
「そうか・・・脳の血管が切れん様に気を付けんとな・・・」と少し寂しそうだった。
何せシーナの為に料理を作りまくって撃沈しまくった理由が「干し肉」だったのだから当然だろう。
それより塩辛い物の食べ過ぎは龍種の身体にも悪い様子だ。
ちなみにシーナは調子に乗って干し肉を食べ過ぎた結果、身体中に汗疹が出来まくって塩辛い物を食べるのを控えるようになったとの事。
さすがに乙女に全身汗疹は相当に堪えた、あれ処置を間違えると水膨れから滲みになるからね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シーナ達が西の大陸に作られた冒険者の陣屋に到着してから10日が経ち、少し心に余裕が出て来た幻夢の3人は普通に人間の底力を認める事が出来ていた。
そりゃまぁ地龍ですからね、細かい事はいつまでも気にしません。
現在この方面のヴィグル帝国軍は予備戦力として部隊再編成と補給や訓練中で仮設軍港に待機中だ。
予備戦力と聞くと普通の人は「主力から外れた能力の低い部隊」と勘違いする人もいるが「次期主力戦力として投入予定」と言う表現の方が正しい。
迫る新たな戦線投入に向けて訓練と士気を高めている。
そうなると冒険者達は暇な訳でシーナは持ち前の人懐っこさを全開してイノセントの元へ押し掛けて教えを乞うている。
解らない事は知ってる人に聞くのが1番なのだ。
「えっ?イノセントさんはヤニック国王様のパーティー仲間だったんですか?!」
イノセントの意外な過去に驚くシーナ。
「そうだ・・・いや、お前な自分の父親に国王や様とかはないだろ?あいつ泣くぞ?」
イノセントは慣れてくると、実に冒険者らしく快活で明るいおじさんだった。
なのでシーナはすぐに懐いた、どこかノイミュンスターにも雰囲気も似ていたからだ。
この事をノイミュンスターに伝えると、
「むっ?!我は奴ほど無鉄砲では無いぞ?」と、少し嫌がった。
そうか・・・イノセントはノイミュンスターと知り合いで若い頃は無鉄砲だったのか(すっとぼけ)
「あー・・・えへへへ、
私はヤニック国王さんとは会った事が無いのです。
なのでお父様と言う感覚が全然ないんですよ」とヘラリと笑うシーナ。
「なにい?アイツと会った事がない?・・・だと??マジで言ってんの?
おいおい、なにやってんだ?あいつは・・・娘をほったらかして・・・
帰ったら説教せんとな・・・」
シーナとヤニック国王が会った事が無いと知り驚いているイノセント。
イノセントはシーナ放逐の件にはかなり深く関わっており、シーナを抱いて山を登るファニーの護衛をヤニックの侍従のクルーゼと共に密かにしていた。
若い頃から妹の様に可愛いがっていたファニーの窮地を放っておくイノセントでは無い。
地琰龍ノイミュンスターがファニーの前に飛び出した時は結構マジでイノセントとクルーゼは前に飛び出して開戦寸前だったのだ。
しかし地琰龍ノイミュンスターが知性がめちゃくちゃ高く理性的な地龍だと言う事を知っていたので《何か理由があんだろ?》とギリギリ踏みとどまって様子を見ていたのだ。
そして・・・
「お主達が近く居ると分かっておったぞ?」
「あー・・・やっぱし?」
「お久しぶりっす」
王妃ファニーを王都へ送りシーナを抱っこしてスカンデイッチの街に着いた人の姿のノイミュンスターを出迎えたイノセントと相棒のクルーゼ。
クルーゼとノイミュンスターはクルーゼの師匠絡みでかなり昔からの知り合いで、イノセントは武者修行でノイミュンスターにアホ丸出しに突撃をかました事があり旧知の仲だったのだ。
「シーナをどうするんっすか?」
優しくシーナを抱っこして揺らしているノイミュンスターに1番大切な事を尋ねるイノセント。
妙に人間の赤子の扱いに慣れているノイミュンスターを意外そうな顔で見ているクルーゼ。
「うむ!この子は地龍王クライルスハイムの娘子となった。
これからは我が師となりシーナを直接育てて行く」
「はぁ?!どう言う事っすか?!?!」
ノイミュンスターから先程起こった地龍王クライルスハイムとの事を聞き唖然としているイノセントとクルーゼの2人・・・
「ま・・・まぁ、あれだ。
その子が確実に安全になったから良かったじゃねえか?
ヤニックには俺達から伝えておくよ」
放心状態から立ち直ったクルーゼの言葉に・・・
「出来ればお主達にもシーナを見守ってて欲しいのじゃ。
シーナと人との関係も切りたくないのでな?」
「はい!任せて下さいよ!元よりそのつもりっす!」
それ以来イノセントはシーナの事をずっと気に掛けていたのでシーナの事をめっちゃ知っているのだ。
しかしヤニック国王とシーナが会った事が無かったのは知らなかった。
「いえいえ、会いたがっていた国王さんの招待を私がお城に行くのが嫌だったのでぇ・・・・逃げまわちゃったから会う機会が無かったんですねぇ」
そう言いながら笑うシーナを見て「変わった姫さんだな」とイノセントも笑う。
会って3日目にはこんな感じに完全に打ち解けてしまった2人に事情を知らないエレンとガイエスブルクは呆れる。
しかし面倒見の良いイノセントはエレンとガイエスブルクもまとめて稽古を付けてくれるので毎日シーナと一緒にイノセントの元へと押し掛けている。
そして今日もまた・・・
「あうううう・・・ああああ~??」
《きゃあああ?!シーナぁ?!しっかりー?!》
「に・・・人間がこんなに強いなんて・・・」
「おーい?どしたー?地龍が人間相手に情け無いぞー?」
転がる地龍達を煽りまくるイノセント。
「ううううう・・・お願い・・・はや・・・く・・・コロ・・・シテ・・・」
「エレン、冗談言ってねぇで次の組み手行くぞー?はよ立て」
「ううううう・・・最近・・・こんなのばっか・・・」
龍種として強くなったが技量が追いついていないエレンはシクシクと泣く。
こんな感じにイノセントとの修行で毎日地面に転がされる幻夢の3人・・・
イノセントの修行は何と言うか・・・相手に気持ち良く攻撃させて体力を奪って行く、そんな印象だ。
地龍3人の直接攻撃をヒョイヒョイと体術で受け流して、拳が接触した瞬間に魔力を奪って行き、気が付いたら魔力欠乏症で倒れているのだ。
どうやら魔力の回復力を強化する訓練らしい。
イノセントは若い頃から古龍種と戦いまくっていたので幻夢の若僧共の拙い攻撃を捌く事など造作もないのだ。
ちなみにイノセントは「イリス一派」なので体術が得意だ。
「な・・・何で「龍闘気」が吸われちゃうんだよ??」
龍闘気は魔闘法の一種で龍種版の強化魔法だ、効果が高いので消費魔力も魔闘法より大きい。
この魔力バカ食いの龍闘気がドンドン吸われるので地龍と言えど魔力消費量が回復を上回ってしまうのだ。
そして龍闘気は人間には体細胞を破壊する毒性が有るので普通の人間には吸えないのだがイノセントは気にせずにドンドン吸ってしまうのだ。
「そんなモン、吸った龍闘気を即座に魔力に変換し直せば良いだけだろ?」
「そんな滅茶苦茶なぁ・・・イノセントさんは非常識ですよぉ・・・
それよりもイノセントさんの魔力容量どうなっているんです??」
龍種3人から限界まで魔力を吸ってパンクしないイノセントに慄くエレン。
ちなみにイノセントの最大魔力容量はエレンの「8倍以上」有るのでまだまだ全然余裕だ。
「んー?いや・・・この魔力変換術は「リリーさん」に教わった技だぜ?
つーか、エレンはリリーさんに教わってねえのかよ?」
「うううう・・・やっぱり、お母さんが絡んでたのね・・・
やっぱり非常識ですよぉ・・・イノセントさんは人間じゃ無いですよぉ」
実際に戦って見てイノセントの技には母リリーの動きを随所に感じて「まさか」と思っていたエレン。
「俺は人間だっちゅーに、ひと聞きが悪いなぁ。
リリーさんから「弟子よ!娘のエレンを鍛えとくれい!」って頼まれてるからな、戦場に出る前にリリーさんに代わって鍛え直してやるよ」
実際に勇者のイノセントが生命体として人間だと言うのは少し微妙な感じかな?
勇者は「人間の肉体を持った半魔法生命体」なので。
「ううう・・・お母さんの・・・バカァ・・・」
「同じパーティーだったヤニック国王さんもイノセントさんと同じくらい強いんですか?」
「んー?そうだな・・・俺が前衛の戦士でヤニックが後方の魔導士だった。
強さのベクトルが違うから何とも言えんな。
ただ、お前の親父さんは魔導士としてはマジでヤバかったな」
そう言うイノセントは懐かしそうに目を細める。
「ほへー?!魔導士!龍種には魔導士がいないので凄く興味あります!」
イノセントの言葉に反応して好奇心旺盛なシーナがガバッと起き上がる。
龍種に魔導士が居ないのでは無く、正確に言うと「龍種に魔導は必要が無い」が正解だ。
龍種は完全な魔法生命体なので魔法などは息をするのと同じく自然に使えるからだ。
そもそも魔導とは魔法生命体でない存在が魔導回路の組み合わせで魔法生命体と同様の色々な魔法事象を起こす技術だ。
そしてその魔導回路は多ければ多いだけ威力も上がるのだが当然魔力の消費も多く回路を描く難易度も上がる。
ヤニック国王は人間離れした魔力と「超思考加速」通常の200倍の速度で魔導回路を構築して最高難易度の魔法陣を効率よく描くことが出来たので「極大魔法20連同時発動」などの離れ技をやってのけた。
極大魔法はかつてアスティ公爵領の城塞を消し飛ばした天舞龍リールのドラゴンブレスと同威力なのでそのブレスが20連同時発射されたと思うとその凄まじさが解る。
しかしその代償としてヤニック国王の体内に有った魔導回路の96%が焼き切れてしまい、現在では二度と極大魔法を放つ事は出来なくなっている。
かつての「黙示録戦争」で人類が魔族に勝利する決定打になった事でその犠牲は報われたのだが。
イノセントはその「黙示録戦争」で生き残った58名の勇者の1人で最終決戦で前魔王に直接トドメを刺した人物でもある。
「凄い話しでした」「黙示録戦争」の話しを聞き終えて呆然としてるシーナ。
軽く自分の父親の活躍を知り目がキラキラしている。
「今の話しが世間にほとんど伝わってないのは何故なんでしょう?」
龍種のエレンでも「黙示録戦争」の事を今初めて知り、自分達に伝わっていない事が不思議そうだ。
「うーん・・・龍種は基本的に「黙示録戦争へ不参戦」が原則とあったから三龍王に意図的に情報を隠されたんじゃねえかな?多分、リリーさんも知らねぇんじゃね?」
三龍王が「黙示録戦争」を隠蔽している理由を知るイノセントだがシーナ達に教えるのはまだ早いとボカして答える。
ちなみにエレンの母リリーは過去に2度起こった黙示録戦争に観戦武官としてガッツリと関わっている。
《それにまだ黙示録戦争は完全に終結してねえからな・・・》
直近で起こった黙示録戦争は人間、魔族の「双方被害甚太につき敗北」と言う相打ちに終わり、現在は回復待ちの状況なのだ。
なので若いシーナ達が下手に真相を知り「参戦します!」とか言い出されると面倒だ。
特にシーナは参戦したがる予感がしているイノセント。
「俺らって本当の井の中の蛙だったんだな・・・」
世界の実力者達の力の一端を間近に体感してガイエスブルクは溜息を吐く。
「でも天の青空を知れば良いってやつだな?知らないなら知れば良い、これからな」
そうニカッと笑うイノセント。
そんな話しをしていると「マスター!!ヴィグル軍より緊急の情報収集の依頼が入りました!!」と言いながら若い冒険者が訓練所に飛び込んで来たのだった。




