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魔法世界の解説者・完全版  作者: ウッド
隻腕の龍戦士編
31/36

2話 「シーナとパックンチョ」

龍都を出発して西の大陸への玄関口の港町フィジーを目指し自力で走る幻夢の3人。


とは言え本当に筋力を使い走っている訳ではない。


地脈の力場を使い地面の上5cmくらいで滑っているのだ。

「地走駆」と言う地龍固有の技だ、原理はリニアモーターと似てると思って欲しい。


現在3人は無理がない時速60kmで走っている。

10時間で600km、50時間で3000kmで港街フィジーに到着の計算だ。

そこから300kmの航海に出て西の大陸入りをする。


しかし山あり谷あり魔物ありで当初のフィジーへの到着予定は7日目だったのだが、正直言って出だしからあまり上手く行って無い。


地龍最速とも言われてる快速エレン号は本気で走れば時速250kmを越えて滑れる。

前に大ハッスルした女神にビームを喰らわせられたエレンは、潜在能力の倍増の超ギフトを得た。

あっ!と言う間に龍戦士になってしまい周囲を驚かせた。


しかし「地走駆」の技量が普通レベルのシーナとガイエスブルクの最高速度は時速120kmくらいしか出せないのでエレンも最高速度は出せない。


そして当然全速力だと滅茶苦茶に疲れるので今くらいの速度が疲労効率の面でも丁度良い。


音も無く土埃もほとんど出ない状態で無表情の動きがない人間が時速60mで進む姿は、「地走駆」を知らん人が見るとホラーそのものだ。


無表情なのは技に集中しているからだ。

なので人目を避けて人がいない道無き道を進むのだが、草木が当たると結構痛い。

早速「イテッ!」とガイエスブルク、小さな立ち木が肩に当たった様だ。


本気で進む気になれば正面に物理防御障壁を張り草木を薙ぎ倒しながら移動も出来るのだが、地龍たる者が大地を荒らして意味無く草木を倒すなどあってはならぬ暴挙だ。

なので草木が深い所は普通に歩く。


「もうすぐドライアドの森だね、止まるよ二人共」と先頭のエレンが後続2人に号令を出す。


「「了解!」」


スウウ・・・とゆっくりと停止する3人。

出発して4日目、移動距離は1200kmと少し予定より遅い。


最初は最短で障害が少ない王都の西に広がる大草原を抜ける予定だったのだが戦時下と言う事もあり草原には各方面軍が集合して平原のあちこちで演習をしてるので避けたのだ。


仕方ないので草原の北ルートに回ったのだが山あいには村や集落が多く「地走駆」があまり効率的に使えず普通に歩いての移動が多かったからだ。


「まあ今更10日程度は遅れても良いだろ?」とガイエスブルク言うと、

「そうですね、慌てないで行きましょう!」とシーナが答える。


めちゃくちゃ呑気な2人に一番最初と一番最後の到着遅延の最初の原因を作ったエレンは「でも今日中には森は抜けたいわ」と何とか2人に発破をかけるが余り効果が無い様子だ。


そうして今3人がいる前に広がるのが大森林「ドライアドの森」だ。


最初にユグドラシルこの世界で作った森で眷属のドライアドが管理している樹竜や岩竜の竜種が跋扈している魔の森で人間が立ち入り事は滅多にない禁足地だ。


人間には危険極まる森だが地龍には通過し易いと思われた、まして今はユグドラシルが同行している。


「ここなら魔物を気にしないで安全に抜けれるから距離が稼げるよ」とエレン。


しかしエレンの考えは正解であり不正解であった、3人が森の中心まで来た時に沢山の竜種が顔を出したのだ。


「キュウゥ」「キュイイ」「クワクワッ」「キューン」「キュイキューン」「クゥー」「クエエエ」


シーナ達を取り囲み歓迎の為に鳴く竜達の大合唱に「困りましたねぇ」と言いながらも嬉しそうなシーナ。

竜達と遊びたくてウズウズしている。


100体を越える樹竜と岩竜に囲まれて懐かれてしまったのだ。

遂に3人の周囲でゴロゴロと竜達が転がり出して「撫でて~撫でて~」の攻撃が始まってしまう。


龍種への進化を目指す彼ら竜達には地龍はスターでありアイドルだ。

コンサート会場で目当ての歌手が客席に登場したら大騒ぎになるのと一緒だ。


そんな彼ら彼女らの思いを無下にするなど地龍の風上にも置けない行為なのでしっかりと要望に応えて竜達を撫でまくる。


「クゥークルル」と鳴く岩竜を撫でながら、

「岩竜って結構可愛い顔してんのな」とガイエスブルク。

「クルル~♪」撫でられて嬉しそうに泣く岩竜。


「今日はここでお泊まりですねぇ」

アリーセの一件以来、樹竜が大好きになったシーナはもうメロメロだ。

擦り寄る樹竜のお返しに首に抱きついている。


「キュイーン!」おねいちゃん好き~と樹竜が鳴く。


「ああダメよ!この子達、癒されるう」

頭をスリスリと擦り付けて甘える竜達に母性本能が刺激されまくりのエレン。

竜達の足止め作戦に見事に首までどっぷりと浸かってしまった3人、今日の旅はここまでだ。


2時間後、そろそろ夕日の時間が近づいて来た頃には竜達も少し落ち着いたのか3人の周囲で思い思いに過ごしている。

シーナ達も落ち着いて食事代わりに地脈から魔力を吸収している。


「ここの地脈の魔力は美味しいですねぇ」


「そうだな魔力の密度が濃いよな」


「御山の魔力とはちょっと違うわね」

と旅先の食事???を楽しんでいる3人だった。


旅飯話しを期待してた人はごめんなさい。

この3人は地龍なので食事しなくても大丈夫な種族なので面倒臭い食事の用意を旅先ではしないだ。


ついでに寝る時はごろ寝で風呂は浄化魔法で一瞬だった。


周囲には綺麗な川もあるのだが、シーナとエレンの水浴びキャッキャで悲鳴の後で裸を見るとかのラッキースケベなどは特に起こらなかった・・・残念!地龍君。


そのまま布団代わりの竜団子の中で爆睡してしまった3人、なんだかんだで長距離の移動でやはり疲れが溜まっていた様子だ。


・・・・もうすぐ夜明けの頃、ユグドラシルは懐かしい気配を感じ目を覚ます。


そうしてゆっくりと起き上がり、「お久しぶりですねドライアド」と何の変哲も無い樹木に声を掛ける。


すると・・・


「はい・・・本当に本当にお久しぶりです・・・ユグドラシル様」


樹木の中から・・・ス・・・と1人の女性が現れる。

ドライアドの森の長、樹精霊王ドライアドのシルヴァーナだ。


スラっとした体型に高い背丈、白い肌に深い緑色の長い髪に薄緑の瞳の美しい女性だ。

やはりどこか同じ樹属性の樹龍のアリーセに似ている。


「ユグドラシル様・・・御復活、心より嬉しく思います」

シルヴァーナの頬に涙が流れそれが地面に落ちて緑色の「ドライアドの水晶」になる。


後にこの「ドライアドの水晶」を巡り、シーナが酷い目に遭って泣きを見る事になる。


ユグドラシルはゆっくりとシルヴァーナの頬に手を添えて、

「うふふふふ、シルヴァーナはあの頃と全然変わりませんね」と微笑む。


「いいえ・・・わたくしももうお婆さんになってしまいましたよ」とシルヴァーナも微笑む。


そして優しく抱擁する2人。


「それでユグドラシル様?聞きたい事は山ほどもありますが・・・そのお姿は?」

黒い髪の色がどうしてもユグドラシルに合わずに気になっていたシルヴァーナ。


「私は今、このシーナと同化しております。

この子のおかげで消滅を免れ、またシルヴァーナと会う事が出来ました」

と目を瞑り胸に手をやるユグドラシル。


「左様でございましたか、新しい命を得たのですね」

言葉数は少なくとも2人の間の絆は1000年経とうとも色褪せる事はなかった。


すると「んんん」とエレンが身じろぐ、もう夜明けが近い様だ。


「わたくし達は朝日が上がるとここを去りますが必ず近い内にまたシルヴァーナに会いに来ますね」

と微笑みながらシルヴァーナの身体から離れるユグドラシル。


「はい、必ずまた・・・」そしてシルヴァーナは樹木の中にゆっくりと消えて行った。


それを見届けてユグドラシルはゆっくりと目を閉じ再び横になる。


少ししてシーナが少し動いて、「うふふふ、良かったですねユグドラシル・・・」と寝言の様にシーナが呟いた。


そうして夜が明けて心地よい新しい朝がやって来た!希望の朝だ!さあ!歩こう!


そんな感じで朝の体操を竜達の前で3人揃ってやる、健康優良児達には朝のラジオ体操は必須のイベントだ。


何で魔法世界にラジオ体操があんねん?!と言うと、とあるグリフォンが世界中に広めたからだ。

竜達も何とか見よう見真似で一緒に体操する姿が笑えるし可愛い。


体操が終わり、シーナが「ふー」と息を整えて竜達に向かって、

「では!私達は出発しますよ!みんな元気に立派な地龍になって下さい!」

と竜達に声を掛けると・・・


「クエエエ」「キュウゥン」「キュイイイ」「ケエエエ」「キューンキュイーン」「クエクエー」「キュワワワ」「クエークエー」と、集まった竜達が「了解しましたあ!!」と一斉に鳴いた。


「じゃあ!またねー!」

と竜達に手を振りながら森を抜けるべく歩きだすチーム夢幻!


目的地まで1500km!まだ半分も来てないぞ、どうすんねん夢幻!


このままだと参戦するべき戦争が終わってしまうぞ夢幻!


多分まだまだ足止めを食らうぞ夢幻!今フラグを立てておいたぞ幻夢!


本当に旅に向いてない連中だ・・・




そんな幻夢にすぐさまフラグと言う名の天罰が下る!


ドバアアアアア!!!「きゃあああ??!!」パックンチョオオオオ!!!


「うおおおお?!シーナ?!」


「キャアア?!シーナ!!」幻夢の3人の悲鳴が荒野に響いた!




正に一瞬!一瞬の出来事だった!




ドライアドの森を抜けた先はドライアドの力が及ばない荒野だが砂漠地帯、「地走駆」で距離を稼ぐ絶好のエリアだ。


「出発ー♪♪♪♪」


竜達と別れて意気揚々とシーナを先頭に走り始めて500m進んだ時だ!

いきなりシーナは魔物に喰われたのだ!


「サンドワーム」こと砂みみずの亜種のめちゃくちゃデカい奴だ!

こいつらが集団で罠を張っていたのだ、森から出て来る獲物を待ち構えていたのだ!


丸飲み・・・


そうシーナは体長10mほどのサンドワームに見事なくらいにパックンチョされたのだ!


この一帯の魔物はサンドワーム、ロックリザード、黒虫、ワイドスコーピオンなどの知性に乏しい魔物が多い、知性が乏しいので龍種だろうが何だろうが動く物なら何でも襲う!


龍種なら危険度の低い・・・と言うか龍種のなので相手の攻撃はほぼ無効化出来る魔物達だが、とにかくウザい、特に紫虫の親戚の黒虫は本当にウザい、何せ仲間が倒れ様ともお構い無しに全滅するまで襲ってくるのだ。


人間が襲われた場合は幸い動きの遅い魔物が多いので馬車を飛ばせば何とか逃げれる。


しかし奴等とて無い知恵を絞り生きる為に頑張っているのだ!その頑張りに地龍が見事にしてやられたのだ!


・・・・・・哀れシーナの旅もここまでだ・・・


そんな事も無く、シーナの身体はサンドワームのパックンチョ程度で特にどうにかなる物でない・・・ないのだがメチャクチャビックリするのだ!


ビックリしたシーナがどうなるかと言うと・・・・


「グゥヴヴヴ!!」低い唸り声がサンドワームの中から響いた後に「ガアアアアアアアアアアア!!!!」サンドワームの中から龍の咆哮が上がる!


それと同時に!ドゴオオオン!!!!シーナをパックンチョしたサンドワームが爆発四散した!


「フーフーフー・・・グゥヴヴヴ・・・グルルルルルル」

地龍の威嚇の唸り声と共にモクモクとする煙の中からシーナが姿を現す!


ギロッ!!シーナの父譲りの青い左目の色が真っ赤っかだ!怖い!メッチャ怒ってる!


普段のホヘーンとした表情はどこへやら怒りの顔は正に龍だ!やだ!この子てば怖い!


ちなみにエレンとガイエスブルクは、とばっちり回避の為に800m先の岩の陰に速攻で避難済みだ!怒ったシーナが怖い事を知っているから


「グゥヴヴヴ!!あああ!!地壊!!!」

地獄から響く様な唸り声と共にシーナが地面に手を突いて叫ぶ!


ゴガアアアアアアアアアンンン!!!!

シーナを中心に蜘蛛の巣状に周囲300mに渡り地面が裂け沢山のサンドワームが空中に放り投げられる!


「ガアア!!!」ドン!!!!

咆哮と共にシーナが飛び上がり戦斧で空中のサンドワーム達を片っ端から斬り刻み始めた!だから怖いっての!


バシュン!!ズバン!!ブシュウ!!バシャバシャバシャ!!

柔らかい肉を斬る音とは独特で気持ち良い音では無い。


大量のサンドワームの体液が地面に降り注ぐ!


「いやーーーん!!」めっちゃ離れた所に退避したはずのエレンの所にもサンドワームの体液が降り注いで来てダッシュで逃げるエレン。


「いや~、シーナ怒ってんなぁ」

要領の良いガイエスブルクは岩場の穴に体育座りをして体液の雨を回避している。


ズドン!!空中に放り出されたサンドワームを粗方始末したシーナけたたましい音を立てて着地する。

しかしまだ地中からサンドワームの気配を感知した。


「グルルルルルル・・・地琰!!」

シーナが叫ぶと地割れから炎柱が噴き出す!地琰龍ノイミュンスター直伝の技だ!


ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!


その炎柱がサンドワーム達をドンドンと丸焼きにしていく!

サンドワームがのたうち回る炎柱の中でシーナが「ガアアアアアー!!」と咆える!


地龍の逆鱗・・・


天龍も凄かったが、やはり地龍も凄かった、マジ怖い光景だ!この子ヤダもう。


そして炎柱は30分に渡り猛威を奮い荒地を焼いた。

もし街中なら王都規模の大都市でも半壊するほどのエネルギーが放出されたのだ。


「はう?!?!」ほぼ全てのサンドワームが完全に燃え尽きた頃シーナは正気に戻った。

そして目の前には自分が焼き尽くした荒地が広がっていた・・・


「ああ・・・またやってしまいました・・・」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「本当にビックリしましたよ!怖かったですよ!」シーナは、まだプンプンだ。


「いや・・・俺的にはむしろ・・・その後のお前のほうムグ・・・」

エレンがガイエスブルクの口を塞ぎ「本当に大変だったねぇ」と笑う。


実はシーナが我を忘れて暴れたのはこれで3回目だ。


1回目は盗賊の討伐依頼の時に15人の盗賊に囲まれて背中を切り付けられた時。


その時は死の恐怖を感じたシーナが激昂して魔力暴走を起こして周囲の森約500mが火の海となり50人弱居たはずの盗賊は全員が焼死した。


2回目が1番酷く、シーナを狙った200名強のプロの暗殺者集団に襲われてエレンが毒矢を10本ほど体に受けた時だ。


この時は凄まじく、怒りのあまりにシーナは完全に理性を失い地琰龍ノイミュンスターが止めに入るまで、シーナは162名の暗殺者を悉く滅ぼした。


生き残った者も全員が手足を欠落するなどの満身創痍の酷い惨劇だった。


「「力と精神を制御出来るまで龍都から出さぬ」」


報告を受けた地龍王クライルスハイムからの徹底的な精神修行で完全に理性消失する事は無くなったが、まだまだ龍種として若いシーナは結構簡単に力を制御出来ずに激昂してしまう。


普段ホヘーンとしてる奴に限って怒るとヤバい代表だ。


自分が沢山の人間を惨殺した事にシーナはかなり落ち込んだが、それは敵との戦いの中での事とノイミュンスターに懇々と諭された。


そして・・・


「龍戦士として生きるのが無理ならば人間の王女として生きるか?

必要ならば戦いの記憶と地龍の力を封じよう」


ノイミュンスターからの提案にシーナはフルフルと首を振る。


「そうか、ならば強くならねばならぬな。

どれ、これからは我もシーナ達の修行に付き合うとしようか」


そうしてトムソン鍛治店の地下に設置されていた「界結界」の中で地琰龍からの徹底修行を受けたシーナとエレンとガイエスブルク。


「あ・・・・あううう・・・・」


《シーナ?しっかりーーー?!》


「し・・・死ぬ・・・」


「お・・・おかーさん・・・」


エレン母のリリー考案の「宇宙空間の間」で毎日毎日、死ぬ目に合った3人。


時空操作をされた空間は外界での1分が1年に引き延ばされる、ファンタジーお得意の短期間でとっても強くなれるお得な修行空間だ。


朝はマイナス80℃、昼はプラス80℃の環境に加えて酸素濃度は50%減、重力3倍増の修行特化の親切設計。


トムソン鍛治店の地下魔法陣からは、前にエレン宅を訪れた時に絶対に入れて貰えなかった龍戦士専用の修行場に直行出来たのだ。


そんな環境下で地琰龍ノイミュンスターと白銀龍リリーと戦わないといけないのだ。

これはしんどいね!


「「はいはいはい!起きた起きた!まだまだ終わってませんよ!」」


「お・・・おかーさん・・・早く・・・ころ・・・して」


「「アホな冗談かましてないで、さっさと立つ立つ!」」


パンパンと手を叩き若人達を叩き起こす龍の姿のリリー。

普段はシーナ達にとても優しいエレン母リリーだが、龍戦士の修行の時は情け容赦は無い。


中途半端な修行は命を失う事に直結するので手は抜けないのだ。

そして小柄な白銀の地龍だがエレン母リリーはメチャクチャ強かった・・・


「「これは暫く我の出番はないのぅ・・・」」

超久々の龍の姿のノイミュンスターもリリーの勢いに少し引き気味だ。


何せリリーは物凄く嬉しいのだ。


産まれた時は身体がとても弱かった娘のエレンが龍戦士を狙えるほどに強靭になってくれたのだ、娘を強くしてくれた女神ハルモニアの信者となったリリー。


これは徹底的に鍛えてやらねば母親とは言えぬ!

それって違うんじゃね?とも思うが地龍とはそう言うモノなので仕方ない。


「お・・・おとー・・・さん」


「「お父さんは南の大陸に出張中です!エレンが強くなったら、お父さんも喜ぶので立ちなさい!」」


「意味が・・・違うと・・・思うよ?・・・おかーさん」


「「問答無用!いっきますよぉエレンちゃん!」」ヒュウウウウウ!!!!


母の口元に魔力が集まり「ふええ?!」ガバッと起き上がり龍化するエレン。


「「ほら!起きれるでしょ?!やる気の問題です!」」

子を叱る母だがその折檻は死ぬどころか消し炭になる威力だ!


バチューーーン!!ドカーン!バコーーーンドオオオオオン!!


リリーのドラゴンブレスが乱れ飛ぶ!

リリーのドラゴンブレスは威力は低いが連射タイプでドンドン撃ち出してくるのだ!


バシュウ!!ドゴーーーンン!!ゴゴオオーーンン!!シュバァーーーンン!!!


「「いやああああああああああ?!?!おかーーさーーーん?!?!待ってーー!!」」


何だかんだ言ってリリーの娘なので、何となく母の攻撃を先読み出来るエレンは多重防御障壁を展開してリリーのドラゴンブレスをこれまた何とか防いでいる。


「「この程度、もっと楽に防ぎなさい!」」


「「ふあい」」

シーナとガイエスブルクはしっかりとエレンの後ろに隠れていて無事だった・・・


こんな感じに龍戦士の洗礼を受けまくった幻夢の3人。

地龍王クライルスハイムは、まだ子供のシーナ達に気を使ってとても優しい修行をしてくれていたんだと骨の髄まで教え込まれた。


「「シーナも人間を殺したくらいで落ち込んでる暇なんて龍戦士には無いわよ!」」


「ふあい!!」


「落ち込んでいるくらいなら戦え!」の精神のリリーは、この後も死なない程度に3人を痛め付ける。

そんなリリーお母さんの特別レッスンは80分(結界内では80年)に及んでのだった。


「あうううう・・・・」


「あ・・・・あああああ」


「おね・・・がい・・・早く・・・ころ・・・して」


死屍累々の3人に向かい更なる容赦のない言葉が掛けられる。


「「お主達・・・次は我の出番だが・・・もう止めておくか?」」

さすがに3人が哀れになり修行終了を提案するノイミュンスターだったが3人も地龍の端くれ簡単にはへこたれない。


「「れんれんらいひょうふれす(全然大丈夫です)」」


「「ははってほおい(掛かって来い)」」


「ほのへいほれはへはへん(この程度で負けません)」


何だかんだ言って地龍なシーナ達は気持ちでは負けないのだ!

気合いのみで地琰龍ノイミュンスターからの修行を引き続き受けたのだった・・・


脳筋修行のリリーとは違い、ノイミュンスターの修行は理と効率を重視した修行だ。

一見楽に見えるがとんでもない!実戦訓練が終わってからの座学はマジでキツい。


「「これ、シーナよ、ズルをするでない。

ユグドラシル様を表に出して深層精神世界で寝るでないぞ?」」


「あ・・・バレてましたか?

でも私も何か役に立ちたいのでこのままお願いしますね?ノイミュンスター」


「狡いわシーナ!自分だけ寝て!」


「良いよなぁ、魂が二つ有るのって・・・」


2人の中でユグドラシルは魔法の担当らしく授業は任せて爆睡しているシーナ。

決してズルをしている訳ではない!


「「ふむ・・・それは上手くやれるのか?」」


「ちょっと訓練が必要ですけど多分やれます」


「「ならば良し」」


今まで「創世」しかしてこなかったユグドラシルに戦闘魔法は新鮮で面白い。

今は上級魔法は取得済み、極大魔法の勉強をしている。

ユグドラシルも意外に脳筋だったのだ。


シーナが身体を動かしてユグドラシルが魔法を発動させる戦い方を模索している2人なのだ。

これもファンタジーのお約束だね!


ノイミュンスターの修行は座学が入ったので長くなり150分(150年)に及んだ。

実質的に230年間も結界に籠って修行したのでシーナの人殺しをした苦悩も薄れて行ったのだ。


そんなシーナは今では人を殺したくは無いが必要な時は躊躇わないと考えている。


龍戦士とはそう言う者だからだ、それが出来ないならピアツェンツェアの城へ行き王女になるべきだ。


今回の遠征も精神修養の意味合いが強い、つまり戦いに慣れる為である。

ちなみに激昂時と通常時ではどちらのシーナが強いかと言うと、通常時の方が圧倒的に強い。


激昂時は魔力も龍力の使いもめちゃくちゃでアイドリング状態からアクセル全開で無理矢理ギアを入れて急発進する様な感じの使い方だ。


簡単に激昂してしまうシーナは龍戦士とはまだまだ認められていない、怒りを力に変えて冷酷に敵を殲滅するのが龍戦士だからだ。


その事を理解しているシーナは簡単に激昂してしまった事を内心酷く落ち込んでる。

妙にプンプンしているのはそれを隠す為だ。


今回も無理な龍力の使用で身体もあちこちにダメージがありかなり痛い、天龍王アメデの治癒の加護が無ければ暫くは動け無かった事だろう。


激昂するとは自傷する意味でも有り、何一つ良い事は無いのだ。

シーナは反省しきりだった。


気を取り直してその日は400kmほど距離を稼ぎ終了した、港街フィジーまで後3日で到着する予定だ。


「さて・・・今日の寝床は・・・」キョロキョロと周囲を見渡すエレン。

地龍なので別にそこら辺でごろ寝でも構わないが文化人なので極力寝床にはこだわっている。


「あっ、あそこなんてどうですか?」


辺りに良い岩場が無かったので小山に10mほどの洞窟をサクッと掘って潜り込む。


洞窟と言っても内壁はコンクリート程度には固めたトンネルと言って言いだろう。

入り口には防御壁を張り魔物の侵入を防ぐ。


ようやく落ち着いた3人は食事代わりで地脈の魔力を吸い上げる。


「さすがに荒地だから魔力が少ないし美味くないなぁ」

この地域の魔力はガイエスブルクのお気に召さなかった様子だ。


「そうですねぇ、いっそ黒虫でも狩って食べます?」


「狩るのは良いけど全員料理下手じゃん?」


「あはははは、そうでしたねぇ」


食事をほとんどしない3人は料理が下手っぴなのだ、せいぜい焼くくらいしか出来ない。

ちなみに過酷な地域に住む黒虫は紫虫と比べても強く、身が引き締まっていて美味しいらしい。

市場だと3割ほど高く取り引きされている。


それから地下水脈を見つけて水浴びをする。

今日はシーナのおかげでサンドワームの体液を浴びまくって気持ち悪いので洗浄魔法だけでは気分的に嫌なのだ。


これは・・・遂にガイエスブルクにとってやっと訪れたラッキースケベが?!

と思ったら3人で仲良く水浴びしていた、なんでやねん!


良く考えたらシーナもガイエスブルクも子供なので(ガイエスブルクは地龍換算で10歳前後)まだ異性に対するスケベな感情は全然無い・・・なんでぇつまらん。


キャッキャッと水を掛け合い遊ぶ女子2人に対してガイエスブルクはじっくりと浸かるタイプなので大人しく首まで浸かって水を堪能している・・・行水している老人かな?


水浴びが終わると明日の行動予定の打ち合わせをする。


「んー?3日じゃキツいかな~・・・」


「エレン姉さん、一旦海岸線に出たら?」


「それなら遠回りになりませんか?」


「地図だと砂浜が広がっているだろ?このまま北西に進むより障害物が無いからスピードを上げれると思うんだ」


「なるほど!急がば回れ!ですね」


「急がば回れ?変な言葉使いだけど的を得ているなそれ?

いざとなれば海岸線に沿って海の上も走れるしさ」


「地走駆って海の上も走れるんですか?!」


「ああ、そうかシーナは海に行った事無かったな、水深2m程度なら何とかなるんだぜ、それ以上になるとメチャクチャ魔力を消費するけどな」


「ほえ~?そうだったんですかぁ」


「OK、計算して見ても半日短縮出来るわね。

じゃあ明日は西に転進して海岸線に出るで決まりね?」


「了解!」


「了解しました!」


打ち合わせが終わると寝るまで自由時間になる。

エレンの趣味は裁縫で今はシーナの新しい服を作っている。


シーナは何喰わない顔で読者をしているが実の所、身体がギシギシしてていて結構キツいのだ。


「どうシーナ?まだ痛いんでしょ?大丈夫?」エレンがシーナの隣りに座る。


ちなみに健康優良児のガイエスブルクは既に爆睡中だ。


「バレてました?」えへへと苦笑いをするシーナ


「そりゃあね、シーナが赤ちゃんの時から見て来たからね」


そう言いながらエレンはシーナの頭を自分の膝に持って行き膝枕をしつつ頭を撫でる。


「いてて、えへへへ、私の赤ちゃんの時ってどんな感じだったんですか?」


「凄く大人しい子でかえって心配したよ、夜泣きとかも殆ど無かったねぇ。

心配で私が話し掛けると笑ったのよ、そしてこうやって頭を撫でるとすぐ寝ちゃうの」


そう言いながらシーナの頭を優しく撫で続ける、するとシーナを目が少しづつ閉じていく・・・エレンが治癒の魔法をシーナに流しているから痛みが無くなり一気に眠くなったのだ。


「今日はごめんなさい・・・エレンお姉ちゃん・・・」寝言の様にエレンに謝るシーナ


「いいよ、私が守って上げるからね」そう言ってエレンはシーナの頭を撫で続ける


こうして旅の夜が更けて行くのだった・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あっ!!!町が見えましたよ!」シーナが遠くに見えた町を指差す。


幻夢の3人は海岸線の砂浜沿いに北上していた。

砂浜には障害物が少ないので「地走駆」のスピードが上げられるからだ。


現在は平均時速80km程のかなりのハイスピードだ。

とにかく早く到着する為に疲労は度外視している。


シーナがサンドワームにパックンチョされてからは特に問題なく進み、3日後に本当にようやく港町フィジーの近郊にたどり着いた幻夢一行だった。


実に最初の予定日から82日遅れの到着であった。

この連中には予定通りの旅は無理だと言う事が判明した。


その後、問題無く検問を通過してフィジー市街地に到着した幻夢一行は、さすがに罪悪感があったのか、とにかく急いで先ずは冒険者ギルドへ行った。


受付で到着報告をすると受付の男性に呼ばれたギルドマスターが部屋から出て来た。


「おおっ!無事だったのか!良かったなあ。

そろそろ君達の捜索班を結成しようか?と話しをしてた所だったよ」

幻夢が到着して安心した様子のギルドマスター。


「「「すみませんでしたぁ!!!」」」平謝りの幻夢だった。


本当にもう時間が無いのかそれからすぐにギルドマスター直々に今回の依頼内容の話しが始まった。


「リーダーの幻夢殿が参戦出来ないのは残念だが、Cランクの君達3人が来てくれたのは心強いよろしく頼むよ」


一般人がCランクと聞くとあまり強い冒険者に聞こえないかも知れないが現場サイドでは違う。

建設現場に例えると腕が良いベテランの職人3人が来たと同じ事なので監督的には大喜びだ。


「現在の状況は戦線がかなり南寄りに移動してるな。

反攻に出たゴルド軍をヴィグル軍が後退しながら受け流してるって訳だな。


ゴルド軍の補給線が伸び切って攻勢限界点を待って反撃開始だ。

こちらの補給線は海岸線をわが国の艦隊が抑えているから問題ない。

現在はヴィグル軍にかなり余裕があるから冒険者への依頼は偵察と物資輸送に限られているな。

戦闘に参加するかどうかは、こちらから参戦意向を示せば受理されるがどうする?」


話しを聞いてシーナは考える・・・

あのパックンチョ激昂事件がなければ迷わず参戦してたと思うが自分の未熟さを思い知った後だ。


先ず戦争の雰囲気を感じ事が先決だ。


そう考えたシーナは、「とりあえず偵察任務につき様子を見ます!」と答える。


「了解だ、わが国の戦艦が冒険者を向こうに送ってくれる手筈だ。

次の出発は明後日の朝5時だ、寝坊するなよ・・・でも安心したよ、無謀な暴走しない君達が来て」

既に無謀な若い冒険者の暴走により数名の戦死者が出ている模様だ。


「はい!よろしくお願いします!」

と返事をしたシーナは、冒険者の戦死者多数の話しを聞いて再度反省して気を引き締めるのだった。

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