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妖刀迅譚  作者: 梯広 興
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妖刀迅譚

 「惣兄ぃ!!」


 かねが姿を認めるやいなや、駆け寄る。自らよりもはるかに小さい頭をなでつつ、面倒を一手に任せてしまっていた少女に向き直り、一息つく。

 

 「お待たせ」


 彼女は二日ぶりに顔を突き合わせる家族に安心と歓びを一言に込める。


 「長旅お疲れ様、皆無事に着けたようで良かった」


 彼もまた、心からの安堵を滲ませ言葉を紡ぐ。


 「この人たちのおかげよ。私たちが無理しないようにご配慮してくださって」


 荷車を曳く一団と一行を先導していた燧士に向き直り、一礼。


 「家族をここまで送っていただいてありがとうございました」


 「あ、いやいや、皆長旅だってのに何も文句なく長旅についてきてもらって助かったよ」


 そう言いつつ【第参燧士】 日野一昌は新人燧士を一見すると「やれやれ」と言わんばかりに溜息をつき耳打ちする。


 「・・・やっぱり扱かれてるのな」


 「はい、お陰様で…」


 「全く……あの人は手加減って物を知らんからなぁ…」

 

 「はい……、それとなんですが日野さんは慣れるまでどのくらいかかりましたか…?」


 「うーむ・・・二、三か月ってぐらいじゃないか?」


 「えぇ…そんなにするんですか…」


 「こんなことでへばってたら次の修練は耐えられんぞ?」


 「…!?」


 思わず声にならない叫びが零れそうになるが寸での処で飲み込む。これよりも更に辛い地獄がまだまだ控えているというのか、考えるだけでも眩暈がするが家族の手前、平然という薄皮を目深に被る。


 「まあ、その辛さも成長の証だ。精進するこった!」


 そんな皮も同じことを経験した猛者の前では無意味であったよう、ニヤッと笑うと後ろ手を振り去っていく。


 背を向ける燧士たちに礼を以って送り出し、人数のわりに軽い荷車を曳き一同を先導する。


 家屋が林立する光景など滅多に見ることがなかった一同にはさぞ異質な光景に見えたのだろう。気圧されてか、自然と口数が減っていく。


 南端、朱雀門より歩くこと二十分ほど、門前で立ち止まり指をさす。

 

 「ここが俺たちの新しい家だよ」


 門扉を開き潜り抜けた先はあのような生活を送ってきた者からしたら豪邸以外の何物でもない光景であり、「わぁっ!!」「凄い!!」「広い!!」など皆一様に驚きの声を上げるが年長組は


 「うわぁ…」


 感想を言う間もなくただ嘆息を漏らすふみ、環境の変化に追いつけずフリーズするみよ、太助に至っては目を見開きこちらを見つめて


 「なぁ、惣兄… こんないい所に住まわせてもらっていいのか…?なんか俺たち騙されてる…?」


 などと結構な失礼に当たることまで口走り始める。


 「いや、騙しては無いぞ… 気持ちは分からなくはないけども…、折角のご厚意だ、ありがたく使わせてもらおう」


 玄関先まで荷車を曳き入れ、各々部屋を見渡す。歓喜の声を上げる者、絶句する者など、ほとんどが先程と同じような反応であった。


 荷車から各自荷物を降ろし、整理を始める。あちらでの調度品はほとんど借り物であり、持ち物と言えば各々の私物のみ。十三人分の荷物は荷車一台分に満たないほどであり、特に苦労することなく三つもある箪笥の一つに余裕をもって収まってしまった。


 「惣一郎君、入るよ」


 粗方終わらせたタイミングを見計らったかのように戸津崎家一同が顔を出す。


 「兼房さん!」


 「いやー、皆無事に着けた様でよかったよ」


 「明日、俺たちの方から伺う予定でしたのに…」


 「いやいや、十三人の大所帯で慣れない土地を歩かせるわけにはいかないからね」


 「ご足労いただきありがとうございます。それと先日の食事とか風呂とか何から何まですいません…」


 「全然そこのところは気にしなくて構わないよ、あの熾士殿はずいぶん手厳しいことで名が知れているからね…」


 「あぁ、どうりで…」


 先日の戸津崎家での眼差しを思い出しつつ苦笑する。やはりあれは同情だったようである。


 「何がともあれ、君自身も無事でよかったよ。明日は家族でゆっくり体を休めるといいよ」


 「ありがとうございます!」

 

 後見人殿は目を細めうんうんと頷き外の方に目配せする。


 「あぁ、そうだ。私たちから皆に細やかな贈り物があるんだった、とりあえず門の眼の前までは運んできているけど引き入れだけお願いできないかな?」


 「ありがとうございます、少し見てきますね」


 外に出た面々の眼に飛び込んできたのは、門の外で鎮座している荷車2台。荷台には反物や当面の生活用具が所狭しと並べられている。


 (ささやかじゃねぇ…)


 あまりの豪勢さ、そしてここに来ての数日の至れり尽くせり振りに申し訳なさが振り切り、数週回って渇いた笑いが言葉には出ずとも出てくる。


 一方のドン引き気味のふみはここでの生活の先輩に耳打ちする。


 「ねぇ、本当にこれもらってもいいの…?」


 「・・・一応聞いてみるか」


 屋内に向かうと玄関から出ようとする壮年に恐る恐る問う。


 「本当にあれ貰ってもいいんですか…?」


 「もちろん、十三人だったらこれくらいは必要だよ」


 (ええ…)


 さも当然かのように淡々と語る反物屋の太っ腹さや親切さには苦笑を禁じ得なかった。そんなこんなで苦笑を引っ提げたまま先程のものとは比較にならない程に重い荷車を曳き入れた一同の動きを断つように玄関の奥から声が響く。


 「ふみさん!釜の使い方とか教えるからこっち来て!」


 「はーい!! みよ、行くよ」


 二人は「女傑」の一声を受け部屋を発つ。それを追うように手伝わんと女衆が我先へとパタパタと台所へと足早に向かう。


「それじゃ、我々は荷解きを続けようか」



 包丁の打つ音が軽快に聞こえ、耳にする者の腹の唸りを更に際立たせる。


 その薫りを糧に、男衆は荷物の整理をする。やけに広いこの家には箪笥のみに飽き足らず葛籠などの収納は充実していたことも幸いして十三人分の調度品や衣服を入れても十分以上に事足りた。


 丁度収納を終えたころ、馳走を載せた膳が運び込まれる。本当に久々の馳走に「凄い…!」「おおっ!」とそれぞれ反応が上がる中、全員が席に着く。運ばれてきた馳走に各々舌鼓を打ちつつ、自己紹介や話に花を咲かせあっという間に時間は過ぎていった。


 「じゃあ、そろそろお暇するかな」


 宴も酣になってきたころ、兼房が立ち上がり戸津崎家の面々に目配せする。


 「今日はありがとうございました。この子たちも久々の賑やかな夕飯だったんで楽しめたと思いますす」


 「それは良かった!」


 「また来るからね。明後日からの修練も頑張るんだよ」


 「何から何まで本当にありがとうございます」


 「いやいやこのくらい。何かあったらうちにおいで」



 恩人が去った家の台所では年長四人が食事の片づけを行っていた。なかなか火の消えない竈に少々苦戦気味の惣一郎に横で食器を洗っていたふみがしみじみと語り掛ける。


「いい人たちだったね・・・」「あぁ、なんかの形で返さないとな・・・」


 至れり尽くせりの状況に感謝しつつも、大いなる遠慮の気持ちに苛まれていた二人は心に決めたのであった。



 戸に鎹と鍵を掛け、寝室へと向かう。これまでの家ではつっかえ棒のみという防犯もへったくれもない泥棒大歓迎といった状態だったので夜長の安心は段違いであるうえ、隙間風などの心配もないのは余計な心配をせずに済む。


 「おまたせ、鍵の確認済ませてきたよ」


 「ありがとう、みんな疲れたでしょう。ゆっくり休みましょう」


 皆が蒲団に入ったことを見とめ、灯を落とし、白蓑に身を潜らせる。全員が一枚ずつ蒲団を敷いてもまだまだ余裕のある空間は昨日と比べても格段に居心地が良い。


 「おやすみー」


 「おやすみなさい…」


 程なくしていくつかの寝息が聞こえる。敏感な年頃の者もばかり、初めての土地で不安がって寝付けないか、ちゃんと眠れるだろうかという懸念はあったが杞憂であったようだ。安堵、旅の疲れもあってか心地よい寝息を立てる皆に続いて微睡に意識を委ねる。




 日が天辺に向かう頃、街の一角では巻藁の打つ音が響き渡る。惣一郎改め、『霊迅衆 第四燧士』戸津崎惣一郎は黙々と木刀を巻藁に振り下ろす。打ち据えられた藁が少しばかり沈み込むことがうまく打ち込めた証左。


 今回は上手く入ったが手元が少しでも狂えば力が上手く伝わらず撥ね返される。この塩梅が兎にも角にも難しく、巧いこと巻藁に得物が沈み込むのは未だ一割ほど。打っては姿勢の確認という工程を延々と続ける。


 果ての無い作業の中でも変わることなく滴る額の汗を拭う。


 熾士曰く、この修練の目的は正しい姿勢で打ち込むことで剣戟の威力を高め、それらに用いる体力を大きく減らすこと、激しい戦闘を敢行する刀士にはこのような地道な努力という基に成り立っていると。


 沈んだ巻き藁を整えていると少し高い所から声がかかる。


 「お疲れ様、一息どう?」


 得物を台に置き、声の方向に向き直る。盆に二つの湯飲みを載せた少女が縁側に座って微笑みを浮かべる。


 「おっ、びっくりした。いつから見てたんだ?」


 「うーん、少し前から。はい、どうぞ」


 「おお、ありがとう」


 縁側に腰かけ、湯気が立つ湯呑を受け取る。


 「そういえば、これからどうやって生活する?ここでは給金が出るからこれまでみたいに働き詰めする必要はないけども… しばらくゆっくりしてみたらどうかな?」


 火傷せぬように熱い茶を啜りながら隣に腰掛けたふみに問いかける。


 「昨日は皆疲れて寝ちゃって言えなかったんだけど、昨日奥様と話してね、お店のお手伝いさせてもらえないかって。はじめは申し訳ないからって断られたけど何もしないのも申し訳ないからって無理言ってお願いしちゃった」


 (いつの間に…)


 「でも大丈夫よ、迷惑かかけないように努めるし。そのあたりは弁えているわ」


 「でも、やっぱり君には迷惑かけ続けたししばらくゆっくり休んだら……」


 隣に腰掛けた少女はこちらに向き直ったかと思えば、額を軽く小突く。


 「いてっ」


 「迷惑なんて…思ってもないし、それはお互い様!でしょう?」


 「それに皆働いてるのに私だけ休んでいるのは気が休まらないわよ、惣が頑張っているんだもの私も頑張らないとね」


 「…そうか、ありがとう。ふみが決めたなら任せるよ。そういえば手習いも明日からだっけ?」


 この街では寺町の僧侶が持ち回りで各地区の子供たちを集めて読み書きや算板そろばんをはじめとした教養を教えているという。


 最近、元仕事先でも算板が出回ってきてはいたが、手習いに用いるとはまだあまり聞かない。この街が様々な面で他より進んでいることをつくづく実感させられる。


 「ええ、でもあの子達は昼ご飯食べたら行くって言ってたわよ、みよと太助は最初のうちは挨拶も兼ねて付き添いに行くって。」


 「あいつらの事は太助とみよに任せとけば大丈夫か、それにしても手習いに算板かー ここのはだいぶ進んでるんだな」


 「ね、折角なんだし後で惣も行って来たら?計算出来ないって言ってなかったっけ?」


 唐突に飛ばされたキラーパスに思わず咳き込む。そこを突かれるとは思いもしなかった。


 残念なことに惣一郎は学がない。村では読み書きを教えてはいたが、その頃最先端であった算板を用いた計算はやっていなかった。それ故に辛うじて読み書きができる等、本当に最低限の教養しか持ち合わせていない。


 村の中でも聡明で知られていたふみに誂われると少し何とも言えない気持ちになる。


 「・・・俺もう十九だぞ…ってか、そんなこと言うならふみが教えてくれよ!」


 「ふふふ、機会があったらね」


 他愛もないやり取り笑いあう。近頃は子供たちの親代わりでこのような年相応の意味のこもってない会話もなかなかに久しい。子供たちは二刻前に散策に出ている。お使いも頼んでいたのでそろそろ帰ってくる頃合いだろうか。

 「・・・」「・・・」


 「なんか不思議な感じだね…」


 「こんなに静かなのは何時ぶりだったかな…」


 静寂が秋晴れの庭をじんわりと充たしていき、直に始まる冬支度を告げる涼風が火照った頬に心地よく染みわたる。


 そんな沈黙を割り開くかのように門扉の開かれる音とともにドタバタと元気な足音が近づいてくる。


 「「「ただいまー!!」」」


 幾つもの元気な声が重なる。声色からして余程目新しい物や風景があったのだろうか。


 「お遣い、お疲れ様。」


 「惣兄、ふみ姉!この街すげえよ!!」


 縁側に一同が集い、包みを手渡しつつ太助が眼を爛々と輝かせて前のめる。周りよりも少しばかり大人びた彼の滅多に見ることのないその姿に年相応のあどけなさの面影を感じ頬が綻ぶ。


 そこからは口々にどこに何があった、こんな物があったなどの発見の報告会となった。


 「さて、もうひと頑張りやりますか」


 話に区切りがついたころ、そんな無垢さに英気をもらった燧士は台の得物を掴み、再び巻藁に向かい立つ。


 「がんばれー、惣兄!」


 ()()が見守ってくれている中、勢いよく木刀を振り下ろす。


 小気味いい音が木霊し、秋空を仄かに揺らす。ここ最近、少しひんやりとしてきた秋風は今日はなんだか心地よく感じた。




 重たい瞼を持ち上げる。久々の()()()()休息日を終えた今、またこの前と同じ修羅の道へと立ち還る。


 未だ重い瞼を擦りながら顔を洗いに行く。朝日が顔を覗かせたばかりの空気は肌にひんやりとした感覚を与え、半覚醒の思考回路に目覚めと引き締めをもたらしてくれた。


 戸を滑らせるとどうやら先客がいたようだ。竈に向かい合う影に声をかける。


 「おはよう、ふみ。早いな」


 「あら、おはよう」


 「まだ寒いだろ、ゆっくり寝ててもいいのに」


 「いやよ、あなたが朝早くから頑張るというのに寝ているわけにもいかないわ」


 「凄い助かるよ、ありがとう」

 

 そこまですることもないのに、相も変わらず尽くしてくれている賢女に内心で平伏する。

 

 「少し待っててね、今朝ごはん持ってくるから」


 居間に向かう背中を送り、水筒や手拭いなどの道具一式を忘れ物が無いように確認しながら風呂敷に包む。


 支度が済んだ頃合いを見計らったかの様に汁飯が手渡される。昨日のうちにある程度準備は済ませていたのだろう、相変わらずの用意の良さに感謝しつつ朝餉を掻きこむ。ものの数十秒で空になった椀を預け、杖に挿した風呂敷を担ぐ。どこか飛脚にも見えるような風体にふみはふふっと微笑んだ。


 ふみを除く一同は真新しい木綿の蓑に包まれ、心地の良い寝息を立てている。


 「じゃ、行って来るよ」


 夢心地の十人を起こさぬように戸を開ける。


 「いってらっしゃい、気を付けてね」「ああ、ふみも気を付けて」


 「美味しいもの作って待ってるから」


 「楽しみにしてるよ」


 惣一郎のものよりも幾分か小さい手を振り見送る少女に手を振り返し、その脚を力強く踏み出した。





 永遠にも等しい程ひた走り、駆けずり回ること三週間、やはり加減を知ることのない熾士のみならず合流してきた燧士達による愛のある指導(洗礼)を受け、ようやっと地べたに延びる惨めな蛙になることなく走れるようになってきた。


 しかし、諸先輩方には程遠い。寧ろなまじ走れるようになってきたからか何千里にも思えるような差が眼前にただ聳え立つのみ・・・


 溢れんばかりの焦燥感が滝のように頬を伝うなか、滾々と流れ出る冷水に寄り添う木に凭れ天を仰ぐ影二つ。


 「…やっぱり師匠たち速すぎないか…?」


 「あぁ…。何周差付けられたんだろ…?」


 「淤辺よ、その話は止してくれ…」


 頭が痛くなりそうなことをぬけぬけと抜かしつつも隣で美味そうに水を呑む男こそ、第五燧士淤辺矩秀淤辺矩秀(おりべのりひで)


 惣一郎に遅れること六日、出羽国から遥々やって来た元商人。子供の頃、妖に襲われた折に熾士に助けてもらって以降、彼等への憧れを胸に己が技を磨き、満を持して霊迅衆への仲間入りを果たした経歴を持つという。そして、偶々出羽国へと出向いた尚久の脚に縋り付いて懇願してきた剛の者でもある。


 「惣一郎、ほれっ」


 「おっ、ありがとさん」


 投げ渡された竹筒を受け取り、滾々と流れ出る湧き水を並々と注ぎ入れる。


 稲穂が姿を消し、切株になったとはいえ昼に向かう頃合いでは未だに仄かな暑さを感じる。


 「にしてもキッツいな…」


 「ホントに俺たちあの人たち追いつけるのかな…?」


 「まー、やるしかねーよなぁ…」


 二人して苦笑する。対面から約二週間、社交的な商人とどちらかと言えば血の気の薄い流浪人、境遇も性格も色々と対極にいるはずの両者ではあるが修羅の道を共に征く者故かやけに気が合う。


 「惣一郎さんよぉ…先輩とはいえ、立場が近いアンタがいて良かったよ…」


 (面と向かっていって来るかね、普通……)


 ・・・こいつは歯が空くようなことをこうも簡単に言ってのける。


 竹筒の中身を一気に飲み干し、猫の如く大きく伸びている声の主に返す。


 「俺もだよ それに数日しか違わないんだから先輩後輩関係もクソもないやい」


 「それもそうか、まあ、兎にも角にも一人だけだったら心折れてたかもしれないなぁ…」


 「先輩方とも馴染むのもまだしばらく掛かるだろうからなー」


 (嘘つけ… 人誑しめ…)


 コイツは持って産まれた人を和ませる独特の雰囲気と商いで培われた付き合いと気の良さを以て速攻で他者とも打ち解け、何気なしに輪の中に滑り込む天才でもある。そんなことをのうのうと嘯く根明に対し、少しばかりの嫉妬を覚えつつ竹筒の水を一気に煽る。


 身体を休ませつつ「今日の夕飯をどうするか」だの「鹿の何処が美味か」だのと、他愛のない話をしているなか、少し離れた場所にいた面々が立ち上がり四者四様に()()()への準備を整えるのが見えた。隣で座っている同胞に手を向ける。


 「さて休憩も終いだ、行くぞ」


 「はいはい…っしょ、もうひと頑張りいきますか!」


 むんずと握られた手を一思いに引上げ、未だに重い脚を無理くり進める。



 二人揃って、叩かれ、飛ばされボロ雑巾にされながら毎日毎日死ぬ気で食らい付き、漸く走り地獄にも辛くも身体が慣れてきたのは二月後のことであった。

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